7 復縁
「ただいま…」
智花は子供をあやしながら、チラッと光雄の方を見た。
そこには真っ青となっていた光雄の顔があった。
「どうしたの?調子が悪いの?」
このところ夫婦らしい会話も無かったにも関わらず、心配をしてしまう位の蒼白さであった。
「いや、大丈夫。翼と碧葉が寝たら、話がある。今日は寝ないで欲しい。」
この様なお願いは、過去にも何度かあった。その度に智花の寝落ちという(狸寝入りの場合もあった。)結末になったのが常だったが、昨晩の件、そして今目にしている夫の表情から、寝てはいけない事が智花にも判った。
数時間の後、夫婦はテーブルを挟み話を始めた。
光雄は昨晩の電話の件は一切話さず、今日起きた会社での出来事を私感を入れずに報告した。
そして、きっと重大な選択の場面だったのに、電流が走らなかった事、それに従って自分の正しいと思った回答をすべきと考え、社長からの理不尽な要求を蹴った事を話した。
ふと智花の方に目をやると、ポロポロと涙を流しているのがわかった。
光雄はこれから待ち受ける困難を改めて予想すると、心が痛くなる。きっと智花もこれからの辛い事を想像して泣いているのだろうと思った。
寝室でスヤスヤと眠っている二人の姉妹の行く末に何かがあってはならない。
そこまで考えた末に、帰りの電車で考えた、次の言葉を告げようとしていた。
と、同時に智花も今まで自分の思い違いを悔いて、口を開こうとしていた。
「で、」「ねえ」
同時に最愛の相手に語りかけた。
「悪い、しゃべりすぎちゃったね。今度は智花の番だ。」
光雄は、こちらで考えている最悪の提案をする前に、智花の言いたい事を聞いてみてからでもといいと思い、ボールを智花に渡した。
「……私……勘違いしていた。
本社に異動する時に、あなたに吐いた言葉、あなたがそれでも大きな力に負けずに、歯を喰いしばっていてくれたんだね。……それなのに、それなのに……愛人契約だなんてずっと勘違いしていた。
私は光雄君を傷つけていた。なんて事を……」
それ以上の秘め事を話す度胸は智花には無かった。
しかし、テーブルの反対側から光雄が智花の隣の席に座り、優しく語りかけた。
「久しぶりだね。ねえ、から光雄クンって言ってくれたの。」
特段意識したわけでは無い。何で名前を呼んだのかも智花には判らなかった。
でも…今までの光雄クンとの離れた距離感が、付き合い始めてツーカーになる前の距離感まで、戻ってしまったのかもしれない。
光雄はそっと智花を抱きしめ、唇を寄せた。
ここがダイニングでも構わない。
二人はお互いを意識しながら、お互いを欲した。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
智花は何度も呟いた。それは勘違いに対しての贖罪だけではなかったが、光雄はそれを知る由もなかった。
「僕は最後の最後まで踏みとどまる。それでもどうしようもなくなったら、その時は僕を助けて……。」




