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とあるハイヤー乗務員の運命  作者: 三笠 大和
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3 最初の転職

それは突然過ぎる出来事だった。

渋滞で停止していた光雄の運転するバイク運搬用の2トントラックに、ノーブレーキで10トンダンプが突っ込んできたのだ。

その瞬間はバックミラー越しの光雄の目に、まるでスローモーションの様に映った。

来る!

この時光雄は大きな間違いを犯した。

一般的に追突された際は、静止物に架かる力は後方へのGである。

しかしながら、とっさに取った対衝撃姿勢はハンドルを抱える様な体勢であった。

バン!

大音響と共に光雄の頭が座席のヘッドレストに叩きつけられる。

次の瞬間、ブレーキの緩んだ2トントラックは前方のクラウンに激しく突っ込み、そのクラウンは更に前方のセレナに突っ込んで多重衝突の連鎖は終了した。

『おい、大丈夫か?』

『誰か救急車を呼べ!』

至る所で怒号が飛び交う。

光雄は激しく頭を打ち付けたのと、前方のクラウンに突っ込んだ際に潰れたキャビンに挟まれた脚の激痛で既に意識を失っていた。


ダンプの運転手が、手を滑らせて缶コーヒーを落とし、それに気を取られているうちにブレーキが間に合わず追突。光雄の2トントラックはキャビンと荷台の間で[へ]の字に曲がり、その前のクラウンの夫婦…と思われたカップルはムチウチで済んだものの、不倫がばれて修羅場に突入。セレナは大した事はなかったが、新車でおろしたてでアヤが付いたとかで揉めにもめたらしい。

なんとも後味の悪い事故であった。まあ、そもそも後味の悪くない事故なんかは無いが。

それは光雄にとっても遺恨の残る結末であった。


脳震盪、頸椎捻挫、頸椎ヘルニア、両足挫傷。それが光雄にくだされた診断結果であった。

バイク販売店の店長であった光雄にとって深刻だったのが頸椎ヘルニアによる痺れであった。

普段はなんともないのであるが、バイクを後退させる時に首を後方に向けるとビリビリっと来るのである。

本社が愛知県にある為、本部管理職になるわけにもいかず、身体的理由にて退職する事になってしまった。13年間勤めた仕事を外的要因で去る事になってしまった。

落ち込む光雄に対して、智花が優しく語りかける。

「ねえ、こんな時だからこそ私に応援させてよ。明るいだけが取り柄の…」

そこで智花は黙り込んでしまう。

「なに?何を言いたかったの?明るいだけがって?」

怪訝そうに光雄は尋ねる。

しばらくの沈黙の後、考え込んだ智花ははずかしそうに答えた。

「ダメ!今更名前を呼べない!」

「はぁー?そんな事?」

「とにかく一人じゃないんだから、一緒に歩んで行くって約束したでしょ?」

光雄は名前を呼んでもらえなかったことに少しだけ落胆しながらも、側に付いて居てくれる智花を心の底から愛しく思い、抱き締めた。


それから数日後、光雄は面接を受けていた。

今迄の接客を活かせる事と、大きい金額を動かせるという事で、不動産の販売代理店を選ぼうとしていた。

面接は上手くいき、更に数日後に内定の書類が宅配便にて届いた。

「やったじゃない!私が選んだ人だもんね。会社からも選ばれるひとだよね!」

智花は興奮しながら光雄に抱きついた。

光雄はその智花の仕草に照れながらも、確かな手応えを感じていた。

「いや、言ってる意味がわかんないッスよ、智花さん?」


内定書を二人で見ていると、『当社にご入社をして頂けるのであれば、9月15日迄にご連絡をお願い致します。』との記載があった。

「あれ?今日って何日だったっけ?」

「16日…これってまずくない?」

二人の顔面がみるみるうちに青ざめていく。

智花が何かに気づき、口を開く。

「この宅配便の伝票の発送日付自体が15日だよ。きっと何かの間違いだよ。すぐに連絡した方がいいんじゃない?」

その時光雄の右脚と右肩に電気の様なモノが走る。

まただ。この感覚。いつだったっけ?でも確かにあった。

電気が走ったとしても今迄何もあった訳では無い。でもなんだろう?

違和感を感じつつも、光雄はその会社に電話をした。


結論からいうと、会社の手違いでミスプリントだった事が判り、光雄はその会社に入社の意思がある事を伝えた。


その夜、光雄は智花を抱きながらも、電流の事が気になっていた。

事故の後遺症?

いや、違う。事故の前にもこんな事があった。

何時だった?思い出せず、光雄は何かイライラしている様子だった。

「なーに考えてたの?せっかくの内定でしょ?私だけを見ていて。私だけを感じていて。」

智花が光雄をじっと見つめながら、囁く。

流石に15年も一緒にいると異変に気づくんだな。この人に隠し事は出来ないや。

光雄はそう思い、身体をつなげたまま、右肩と右脚の違和感について話し始めた。

「何かの拍子に右肩と右脚に電流が走る様な違和感が襲って来るんだ。最初は…智花に告白した時だっけ。次に結婚式の直前。最後は今日。会社に電話をする時かな。」

智花はしばらく考え込んだ末、口を開いた。

「それって人生の中で転機になる時じゃないかな?緊張するとお腹が緩くなるじゃない?」

「それって一般論?」

「そうじゃなくて…」

「誰の事?」

「意地悪…」

「この期に及んでまだ名前を呼ばないつもりか!」

光雄はニヤニヤしながら楽しそうに智花を楽しんでいた。

そうか、ターニングポイントか。

それなら説明がつく。

夜は更けて行った。


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