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7 修行するさくらたち

 高校の授業が終わった放課後、倒木が並ぶ雷鳴轟之(らいめいとどろきの)神社の裏庭では、さくらとまふゆ、來華とナツがそれぞれペアになり、制服姿のままで突き、蹴り、打ち、投げ、極めの体術の稽古をしていた。

 神主姿のもみじが腕組をして立ち、四人の稽古の様子を鋭い目つきで見つめていた。

『さくらたちが何かと闘うことになった場合、制服姿で闘う可能性が高い。やっぱ、できるだけ実戦に近い服装で稽古した方がいいよな。実戦の中では服を掴まれることもあるから、自分が着ている服の感覚を身につけた方がいい。

 稽古の内容にしても、今は型稽古よりも実戦に近い練習が必要だ。何かと戦う可能性は常にあるからな』


 もみじは、まふゆと攻防を続けるさくらの動きを注視した。

 さくらは、まふゆの激しい連続突きを軽やかなステップで変幻自在にかわし、隙を見て鋭い突きと蹴りをまふゆに放っていた。

『さくらはすげぇな……。弓道以外に武術の経験がないってーのに、持ち前の運動神経だけで、長年稽古してきたまふゆと対等に渡り合ってるぜ。しかも、一突き、一蹴りに、とんでもねぇ殺気がこもってやがる』


 さくらは目に殺気を漲らせて、突きや蹴りを繰り出していた。

『クロリリィさんと鏡ちゃん、絶対に許さないんだからあああああっ!』

 さくらは目の前のクロリリィと鏡太朗の幻影に向かって、ありったけの殺気を込めた突きを放った。

『ちょ、ちょっとーっ!』

 まふゆは、さくらの強烈な一撃を紙一重で必死にかわし、冷汗を流した。

『さ、さくら? な、何なのーっ? この激烈な殺気を込めた一撃はーっ? あ、あたし、稽古中にさくらに殺されるかもーっ!』

 まふゆはさくらとの体術の稽古に、死を予感していた。


 もみじは、次に來華の動きに目を向けた。

 來華は、ナツの華麗な連続蹴りを素早いフットワークとボディワークを使って紙一重でかわすと、ナツに向けて強烈な連続突きや連続蹴りを放っていた。

『ライちゃんはもっとすげぇぞ! 持って生まれた戦闘の勘と、今までの実戦経験の賜物だと思うが、武術の稽古なんてしたことねぇのに、長年修行してきたナツを圧倒してやがる! ライちゃんの突きと蹴り……、寸止めじゃなかったらナツは今頃倒れてるな。

 さくらは変幻自在の柔の動きで、攻撃の瞬間だけ鋼になる。ライちゃんは攻撃も防御も直線的で、常に激しい剛の動き。この二人、好対照な闘い方じゃねぇか!

 二人とも、ヴァンパイアの一件の後で体術の稽古をしたいって言い出したが、やる気も才能もすげぇな!』


 さくらは、まふゆの突きと打ちの連続攻撃を斜め後ろに下がってかわすと、殺気がこもった目でもみじを睨んだ。

「ちょっと、おねーちゃん!」

「ん? どうした、さくら?」

 もみじは、不思議そうにさくらを見つめた。

「相手の息の根を止める殺し技ってないの?」

 もみじは、さくらの全身から燃え上がる殺気を感じた。

「さくら……、おめぇ、今日学校で何があった……?」



 町中に建つ大きな四階建ての総合病院の病室では、百目鬼(どうめき)が眠っていた。個室のベッドの上で眠るその寝顔は、日中の狂乱ぶりが嘘のように穏やかだった。


 二十代前半の若い女性看護師が、百目鬼(どうめき)の病室のドアを音を立てずにそっと閉めて廊下に出ると、四十歳前後の看護師が心配そうな表情ですぐそばに立っていた。

「主任? どうしたんですか?」

 若い看護師が、もう一人の看護師に不思議そうに訊いた。

「この患者のことが心配になったのよ。患者はどうしてる?」

「え? 心配って……? まだ眠り続けていますが……」

「この患者って、今朝、意識不明で道で倒れていて、救急車でうちの病院に搬入されたけど、現時点ではひどい衰弱状態以外に体に異常は見当たらなくて、意識がないままずっと眠り続けているでしょ?

 でも、さっき知り合いから、大勢の人が今朝目撃した不審者の話を聞いたんだけど、この患者と特徴が似ていて、目撃された場所と倒れていた場所も近いし、時間も一致するの。

 その不審者は、常軌を逸した表情で、狂ったように笑いながら町を走り回っていたとか、ツルハシを引きずりながら正気とは思えない笑いを浮かべて歩いていたらしいの。

 その話を聞いたら、あなたのことが心配になってね」

 二人は不安な表情を浮かべて、百目鬼(どうめき)が眠る病室のドアを見つめると、足早にその場を後にした。



 雷鳴轟之(らいめいとどろきの)神社の裏庭に面した縁側では、河童(かわわらわ)が裏庭に向かって座り、両手で持ったペットボトルを真剣な目で睨み続けていた。

 やがて、河童(かわわらわ)はホッと一息つくと、手にしている二リットルのペットボトルに喜びの目を向け、歓喜の声を上げた。

「成功だきゃあああああっ! もみじさん、成功しただきゃあああああああっ!」

 裏庭に立って、さくらたちの体術の稽古の様子を真剣な表情で見ていたもみじは、河童(かわわらわ)が喜んではしゃぐ様子を目にすると破顔した。

「ついにやったか! 河童(かわわらわ)、二週間よく頑張ったな!」

 もみじは河童(かわわらわ)に労いの言葉をかけながら、縁側にいる河童(かわわらわ)の許へ嬉しそうに駆け寄った。


 河童(かわわらわ)が得意顔でもみじに差し出したペットボトルは、キャップが外されており、その底には小さな水滴が一粒が入っていた。

 もみじは河童(かわわらわ)からペットボトルを右手で受け取ると、河童(かわわらわ)の横に置かれている未開封のペットボトルの水を左手で持ち上げた。

「おおっ! おめぇ、すげーぞ! 本当に成し遂げやがった! おめぇが圧縮した水と、こっちの未開封の水、量がこんなに違うのに、重さが同じだぜ! おめぇ、水をコントロールして、二万分の一まで圧縮することに成功しやがったな!」

 河童(かわわらわ)は、期待いっぱいのワクワクした顔でもみじを見つめた。

「オラ、昨日は水を固体にように固めることに成功しただきゃ! これでやっとオラだけの特別な武器がつくれるだきゃ?」

 もみじは満面の笑みを河童(かわわらわ)に向けた。

「ああ、竹竿を使って、その武器の扱い方の稽古も順調だしな。おめぇに秘められた能力のことを聞いた時、あたしの頭に閃いたおめぇだけの特別な武器が、これでやっとつくれるぜ! でも、その前に、みんなに闘い方のアドバイスだ」 



 雷鳴轟之(らいめいとどろきの)神社の縁側の奥にある和室に、さくら、來華、河童(かわわらわ)、まふゆ、ナツが並んで正座しており、さくらたちと向かい合って、もみじが胡座をかいて座っていた。


 もみじが真剣な表情で、さくらたちに語りかけた。

「おめぇたちに、闘いにおける重要な秘訣を一つ教えてやる」

 さくらたちは、身を乗り出してもみじの言葉に集中した。

「強い敵と闘って制するためには、高速で回転する扇風機の羽根を指一本で止める技術が必要となる」


 さくらたちは呆気にとられた表情を見せた。

「おねーちゃん、そんなの無理だよ! もし、できるとしても、試して失敗したら大怪我しちゃう!」

 もみじは自信に満ちた笑顔で答えた。

「ああ、危ねぇから、ぜってーに試すなよ。ぜってーだぞ!

 だがな、あたしにはそれができるんだ。今から、その絶技を見せてやる」


 もみじはそう言うと、立ち上がり、和室の隅に置いてあった扇風機のスイッチを押して、風力を最強に設定すると、その前に胡座をかいて座った。

 扇風機からは、もみじの顔に向かって強烈な風が送られ、もみじの長い金髪が強風になびいた。


 もみじはさくらたちの方を向くと、派手なネイルを付けた右手の小指を立てて、さくらたちにそれを見せつけ、得意気にニヤリと笑った。

「も、もみじさん! よりによって、小指一本でーっ?」

 まふゆが驚愕して心の声を漏らし、その場にいる誰もが緊張してもみじを注視した。


「さあ、よく見てろよ」

 もみじの右手の小指が、荒々しい風を送り続ける扇風機に向かって伸びた。

 もみじの挙動を注視するさくらたちの緊張は、頂点に達した。

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