85話 みんなの信頼
冥界にて。星の転移魔法を阻害していた人工妖精を排除し、元凶の人工妖精はヴィオの手により沈黙した。
『ごめんなさい……』
「皆さんにしっかり謝罪ができましたね! いい子です!」
『ひぃい……!』
王子のような優しい笑みを浮かべるヴィオは、謝罪を述べた妖精の頭を優しく撫でる。
しかし妖精は触れられる度にビクリと身体を揺らし、ビクビクと小刻みに震えている。
「さて、謝罪は済んだことですし……妖精さん?」
『はっ、はいぃ!』
ヴィオに優しく微笑まれた妖精は全力で返事をすると、一瞬にしてその場から姿を消した。
妖精が消えた後、ヴィオの前に1枚のカードが落下した。
「カード……?」
「このカードは妖精さんの本体です」
ヴィオは地面に落ちたカードを拾い上げ、ポケットに収納する。
「さてと……フィオさん」
「おう」
ヴィオがフィオに声を掛ける。フィオはすぐに察したのか、ひとつ頷くと瞬間移動でその場から消え、ルキの隣に姿を現した。
「ルキ」
「……お手柔らかにお願いします」
「おう」
フィオはルキを担ぐと、瞬間移動を使用してその場から姿を消した。
「そういえばルキ、大怪我してたな……」
「謎の病気にも感染もしてたからな」
「そうだった!」
身体が消える病のことを思い出したカイは目を丸くして驚く。
「忘れてた……! なのにオレ、ルキにお世話になりっぱなしだった……! ルキがいなかったらまともに戦えてなかったし……」
「カイ、後でルキにお礼を言いに行かないとな」
「うん……」
マモルはカイの肩に手を置き、カイは静かに頷く。その光景をヴィオは優しい笑みで見守る。
「……あの妖精、すごく早かったな」
「そうだな」
ここでカイは妖精との戦いを思い返し、呟く。マモルはその呟きに肯定しながら頷く。
「俺は、あの妖精の動きは目で追えなかった」
「オレも……」
カイは妖精との対峙が怖かったのか、今になって震えだした。
「あの妖精、目に見えない速度で走ってて……オレ、下手したら頭を……ヴィオさんが居なかったら、今頃オレは……」
「あら、シロヤマさんは気付かなかったのね」
「えっ?」
声を落として呟くカイに、シロガネが声を掛ける。
「シロヤマさんがそんな心配しなくとも、妖精は此処に来る前にお陀仏になっていたもの」
「えっ? どういうこと……?」
「シロヤマさん、見てください」
ヴィオに指摘され、カイとマモルはルキの指差した先をじっと見つめる。
「……あれ? なんか光ってる?」
「線のようなものがあるな」
「それは銀の糸」
「糸?」
「そうよ。私、妖精と対峙した時にこの銀の糸を出して、私達の周囲をドーム状に囲んで張り巡らせていたの」
「えっ!? そんなことしてたのか!?」
「そういえばあの時のシロガネさん、ずっと無言だったな……」
シロガネの出した細い銀糸にカイは驚き、マモルは妖精との出来事を思い返す。
「まさか、コレを作ることに集中してたのか?」
「ええ。シロヤマさんがお話してくれていたお陰で、随分といいものが完成して満足してたの」
「そうだったのか……!」
「凄いな……」
細かい網目の銀糸に、カイとマモルは目を丸くして驚く。
「ええ、確かにこれならあの妖精を捉えるには充分です」
ヴィオは糸に触れながら満足そうに頷く。
「わたくしが来なくとも、あの妖精は銀糸に捉えられ、この糸によりバラバラにされていたでしょうね」
「シロガネさん、強いんだな……」
「当然。そんな生半可な覚悟で此処に来てないもの」
「凄いな……」
目立った傷のないシロガネはさも当然と言わんばかりにそう言い放ち、マモルはシロガネの実力に思わず口を溢す。
「それに、私が居なくともルキさんとオオガシラさんが何とかしてくれたわ」
「オオガシラ?」
「ルキは分かるけど……オオガシラは此処に居ないぞ?」
「ええ。此処には居ないけれど、近くにはいるわ」
マモルの疑問にシロガネは頷くと、地面を軽く踏みつけた。
「うぉおおおっ!?」
「うわっ」
銀の植物と共に、地面から何者かが雄叫びと共に姿を現した。
「おい! 何をする!」
「オオガシラ!?」
地面から現れたのはオオガシラだった。
「オオガシラ! なんで地面に!?」
「地面に潜る行為は潜伏以外に無いだろ!」
「そうなのか……?」
「あるだろ。探せば他にも色々あるだろ」
突然現れたオオガシラにカイは困惑し、マモルは冷静に指摘する。
「オオガシラは何で地面にいたんだ?」
「……俺は、妖精を粗方片付けた後は地面に潜り、地面を掘り進んでお前達の下に移動していた」
「何でだ?」
「何かあった時に奇襲するためだ。冥界は荒れていて何も無いから、地面に潜るしか選択肢はなかった」
マモルの質問にオオガシラは淡々と答える。
「でも……そもそも、魔力があるからってそんなことが出来るのか……? 地面を移動するって……」
「現にこうして地面から現れたんだ」
「ああ、えっと……そうだな……」
カイは理解することを諦めた。
「でも、地面からあの妖精を奇襲できたのかな……?」
「出来るわ、あのオオガシラさんだもの」
シロガネはオオガシラを見つめる。
「それに、私の糸による捕縛が失敗しても、オオガシラさんは妖精の奇襲に成功してたもの」
「そうなのか?」
「聞こえなかった? 妖精が私達目の前から消えた後、地面から物音がしたでしょ?」
「そういえば……」
シロガネの言葉に、カイとマモルは地面から聞こえた音を思い返す。
「確かあれ、けっこう近くで聞こえたよな……」
「あの時、シロヤマさんの足元の地面からオオガシラさんの手が伸びてたの。タイミングは完璧だったわ」
「!」
「妖精があのまま真っ直ぐ進んでいたとしても、オオガシラさんの奇襲で妖精は捕えられていたの」
「……」
カイは気付いていなかったことがショックだったのか、表情を暗くして口を閉ざした。
「カイ、大丈夫か」
「……シロガネさん、オオガシラを信じてたんだな」
シロガネとオオガシラを、カイは悲しそうな瞳で見つめる。
「……オレ、皆んなのこと全然信頼できてなかった」
「カイ……」
力なく視線を落とすカイに、マモルは言葉が出ないのか困惑の色を見せる。
「どけ」
そんな中、銀の植物から解放されたオオガシラはマモルを押しのけてカイの前に立った。
「カイ」
オオガシラの声掛けに、カイは僅かに顔を上げる。
「俺を信頼できないのは、まだ俺のことをよく知らないからだろう。ならば信頼できないのも無理はない」
「オオガシラ……」
「……もし俺を信頼したいのなら、俺自身のことを徹底的に教えてやる」
「……!」
オオガシラの言葉に、カイは僅かに表情を和らげる。
「だからお前も、お前自身のことを教えろ。お互いをよく知らなければ、信頼は生まれないからな」
「うん……確かに、そうだよな……!」
「私もいいかしら」
オオガシラの言葉に励まされていたところに、シロガネも挙手して参加する。
「私も貴方のことを知ってみたい。人のために頑張れる優しい貴方のことは、私も信頼してみたいの」
「シロガネさん……!」
「俺も同じだ」
シロガネが言い終えたところで、最後にマモルも入り込んできた。
「2人に便乗するような流れで気まずいが……俺も、カイのことは今以上に信頼してみたい」
「マモル!」
マモルの言葉に、カイはより一層表情を明るくした。
「マモルのことはオレもっと信頼したい!」
「俺もだ。だから……これからも、俺と仲良くしてくれると助かる」
「仲良くする! 友達以上に、もっともっと仲良くする!」
「カイ、ありがとう」
カイの元気溢れる言葉にマモルは優しく微笑みながら礼を述べた。
「そうだよな……オレ、信頼するためにも、信頼されるためにも、もっとみんなと仲良くしたい!」
カイは改めて3人に向かい合う。
「オオガシラ、シロガネさん、マモル、ありがとう!」
2人の言葉に励まされたカイは完全に元気を取り戻したようだ。
元気な笑みを浮かべ、元気いっぱいの声で3人に礼を述べる。
その光景をヴィオは微笑みながら眺め、静かにサングラスを装着した。
「さてと……皆さん、そろそろ地上に戻りましょうか」
「ヴィオさん、そのサングラスどうしたんですか?」
「此処はとても眩しくて……」
「そんなに明るくないですよ」
「……おや?」
この場から離れようとしたヴィオは何かに気づいたらしい。掛けていたサングラスを外し、とある方角を向く。
やたら大きな荷物を背負った、脚の速い人型の接近を確認した。
「イーッヒッヒッヒッヒ!!」
妙な笑い声で冥界を駆ける謎の人物は、見た目は人工妖精と瓜二つだった。




