84話 人工妖精の素
「コイツは冥界で大量発生していた人工妖精の素だ」
「妖精の素!?」
妖精をあらかた片付けたカイ達の元に、冥界で大量の人工妖精を発生させて迷惑をかけていた元凶の妖精が姿を現した。
「まさか、アイツが冥界で人工妖精をあんなに増やしてたのか!?」
『だとしたら何?』
若い男性の姿をした妖精の素はカイの言葉に反応する。
『僕はただ、仲間を増やしていただけだよ。なのに、事情も知らずに勝手に潰して回って……』
「妖精」
ぼやく妖精にルキは口を挟む。
「お前は何のために冥界で妖精を増やしてたんだ」
『増やしたいから増やした。その方が楽しいでしょ? 何でわざわざそんなこと聞くの?』
「……コイツはもう駄目だな。全員でコイツを倒すぞ」
「言われなくても」
ルキの言葉に合意したのか、その場にいた全員は妖精に向かって力を構えた。
『アハハ! そんな簡単にやられると思った?』
カイ達が力を構える様を見た妖精は大笑い。しかしすぐに笑うのをやめ、真顔で目の前のカイ達を睨みつけた。
『……こっちもイライラしてたんだよ。折角増やした仲間をことごとく潰されてさ』
「ごめん!」
妖精が周囲の魔力を集め始めた中、カイは身構えたまま謝罪を始めた。
「冥界に大量発生した妖精のせいで転移魔法が発動しなかったんだ。そのせいで必要な薬が届かなくて……!」
『僕には関係ない話じゃん』
カイの謝罪に妖精は表情ひとつ変えず、冷たく言い放つ。
『もう頭来た。お前達を潰してグチャグチャにしてひとまとめにしてやる。1番最初は白頭のお前だよ』
妖精はカイ達に悪態をつき、構えの姿勢を取る。
「カイ、気をつけろ。この妖精は巨大化した妖精より強いからな」
「分かった、気をつける」
『何を気をつけるつもり?』
ルキとカイのやり取りに妖精はイラつく。
『決めた。1番先にそこの白頭のお前の頭を取ってやる。そしてそこの黄色頭と頭を取り替えてやる』
悍ましい発言を口にした妖精は、カイに狙いを定め、その場で深く腰を落とした。
『……フフッ。これで君とは最後になるだろうから、最後に一言だけ喋っていいよ』
妖精は相手を軽く見てるのか、鼻で笑いながらカイに語りかける。
『白頭、何か言いたいことある?』
「……最後になんかならない」
『生意気ッ!』
カイの返事が気に入らなかったのか、妖精は声を荒げて更に深く腰を落とすと、一瞬にしてその場から姿を消した。
大地を蹴った音なのか、少し遅れて地面からボコッと音がした。
「妖精さーん」
妖精が姿を消したその瞬間。その場の空気に合わない、能天気な口調で妖精を呼ぶ声が響いた。
『!』
声がしたのと同時に、妖精は再び姿を現した。
妖精は頭を掴まれており、妖精の背後に誰かいるようだ。
『……誰?』
想定外の事態に妖精の声に動揺の色が混じる。
「名乗るほどでもございませんよ」
そんな声に、妖精の頭を掴んだ人物は朗らかな返事をすると、妖精の背後からひょいと姿を現した。
妖精の背後から現れたのはヴィオだった。
「ヴィオさん!?」
唐突に現れたヴィオにカイは驚く。
一方ヴィオは、王子様のような優しい笑みを浮かべたまま、頭を掴んでいる妖精に声をかける。
「妖精さん、わたくしとも遊んでくれませんか?」
『るさいっ!』
頭を掴まれた妖精は、頭をそのままにして凄まじいスピードで胴体を回し、ヴィオに裏拳を仕掛ける。
しかしヴィオは即座に妖精から離れて距離を取り、妖精の裏拳を躱した。
ヴィオが離れたことにより、妖精はヴィオの手から解放される。
「……?」
この妖精とヴィオのやり取りは一瞬の出来事だった。この2人が何をしていたのかを目視できる人間はそう多くはいないだろう。
「何だ!?」
「今、何が……」
一瞬の出来事をまともに目視できなかったカイとマモルは驚きの声を上げる。
『……』
そんな驚くカイを見た妖精は、眉間に皺を寄せ、口角を異様なまでに吊り上げた。
「させませんっ!」
妖精がカイをロックオンしたのを察したヴィオはすぐさま反応し、妖精が動くより先にヴィオが動いた。
ヴィオと妖精は一瞬にしてカイ達の前から姿を消した。
「消えた……」
「まるで瞬間移動だな……」
ヴィオと妖精が消え、カイとマモルは呆然とする。
そんな中、ルキはとある方角にある山に視線を向け、静かに口を開いた。
「あの2人、遠くの山まで飛んでったな……」
「ルキには見えたのか!?」
「オレには異常強化があるからな。動体視力も強化できるんだよ」
「そうか……ルキは凄いな……」
カイは何も出来ず、呆然としながら遠くの山を見つめる。
「ヴィオさん、オレを妖精から助ける為に此処から離れたんだ……ヴィオさん大丈夫かな……」
「おいカイお前、何を言ってやがる……!」
「えっ」
ヴィオを心配するカイの言葉を聞いたルキは途端に鬼の形相に変わり、隣のカイを睨みつけた。
「テメェこの野郎……! ヴィオさんを馬鹿にするのも大概にしろよ……!」
「いや、馬鹿にはしてない! ただ心配してるだけで……!」
「ヴィオさんは心配されるような人間じゃねぇよ!! お前はヴィオさんの弟子になってんだろ!? 今まで何を見てやがった!?」
「ごめんなさい!」
「ルキ、その辺にしておけ」
ルキに凄まれ怯えるカイ。そんな2人に割って入るように、1人のメイドが唐突に姿を現した。
「あ、フィオさん」
「よっ」
フィオは気の抜ける挨拶をすると、付近にいたルキに顔を向けた。
「ルキ、久しぶりだな」
「……フィオさん」
フィオに挨拶され、ルキは気まずそうに返事を溢す。
「こっちは片付けた。後はヴィオが全部片付けるだろう」
「フィオさんも無事だったんですね! 良かった……!」
「ほぉ。カイ、私がそう簡単にくたばると思ったのか?」
「あっ、いえ! そうじゃなくて……!」
「カイ、私の弟子にもなってるのなら分かるだろ。お前は普段から私の何を見てたんだ」
「ごめんなさい!!」
ルキと似たような詰め方をされ、カイはすぐさま謝罪をした。
「……まあ、心配する気持ちも分かる。だが、もう少し信頼してくれてもいいんだぞ」
「フィオさんの言う通りだ。オレが言えたことじゃないが……カイ、お前はもっと他人を信用しろ」
「ご、ごめん……」
フィオとルキの指摘に、カイはいつになく表情を暗くして返事をする。
「……えっと、皆んなでこんなに固まってたら技を出しづらいよな。ちょっと間隔を空けて……」
「止まれ」
その場から歩き出そうとしたカイをルキが止める。
「お前、気付いてなかったんだな。とにかく、今は此処で……」
ガシャーン!!
ルキが指示をしようとしたその矢先。山の向こう側から何かが割れるような音が響いた。
「あっ! 結晶が……!」
「あの一瞬で……」
山は一瞬にして結晶で覆われ、奥にはとんでもない大きさの結晶が発生した。
かと思ったら、結晶から無数のレーザーが瞬く間に飛び出した。
無数の白いレーザーは外へと放出され、山に生える結晶群を破壊し尽くし、冥界を明るく照らし出す。
「とんでもないな……」
「ヴィオさん、一体どんな技を使ってるんだ……」
「……少なくとも、怒ってるのは確かだな」
「ヴィオさん怒ってるんですか!?」
「ヴィオさんに怒りの感情はあるのですね」
「当然だろ」
今までまともに怒ったヴィオを見たことがなかったカイとマモルは驚き、マモルの感想にルキが一言指摘する。
「フィオさん、何でヴィオさんが怒ってるって分かったんですか?」
「……ヴィオは1対1なら、あんな派手な技を使わなくともすぐに決着をつけられる」
フィオは目の前で目まぐるしく風景が変わる山を見つめる。
「だが今のアイツは、あえて相手を生かした上で大技を連発している。相手を逃げられない状況にして、わざと脅してるんだ」
「……転移魔法を使えなくして、みんなに迷惑掛けたからあんなに?」
「それもあるだろうが……やっぱり1番は、妖精がお前達に狙いを定めて危害を加えようとしたからだろうな」
フィオは山から目を離してカイとマモルを見つめる。
「特に、カイとマモルはヴィオにとって弟子だしな」
「ヴィオさん……」
「そうそう。ルキも大事な存在で、シロガネも共に戦ってくれた大切な仲間だ。みんなが大事だからヴィオは……」
「オラァアッ!!」
フィオの話を遮るかのように、山の向こうからやたら野太い、威勢のいい大声が響いた。
「何だ今の声……」
「……これで勝負はついただろうな」
「えっ?」
フィオがボソリと呟いた次の瞬間。カイ達の前にヴィオと妖精が再び姿を現した。
「お待たせしました!」
「えっ……」
「あの……それって……」
2人の登場にカイ達は困惑する。
「ちょっと向こうで妖精さんとお話してきました!」
「えっと……どんなお話を……?」
「色々です!」
カイ達が困惑するのも無理はない。
何故なら、満面の笑みを浮かべたヴィオの隣には、全身ボロボロでもはやまともに動けそうもない妖精の姿があったからだ。
「ああ、それ妖精か。ヴィオに言われるまでそれが妖精だと分からなかったぞ」
「フィオさん、それは流石に妖精さんに失礼ですよ!」
フィオの言葉にカイが苦言を述べる。
「あれはどこからどう見ても妖精そのものじゃないですか!」
「果たしてこれはどっちが失礼かな?」
「そうそう! 話し合いの結果、妖精さんはもう悪さをしないそうですよ!」
ヴィオはフィオの言葉に返事をせず、妖精に目を向ける。
「ですよね、妖精さん。もう悪さはしませんね?」
『ご、ごめん……なさい……』
「妖精が謝ってる……」
「ヴィオさん何したんですか……?」
何はともあれ、とりあえず事件の元凶は鎮圧できたようだ。




