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86話 再び戻ってきた日常

 冥界で大量発生した人工妖精を全て排除し、地上に戻ろうとしたその時。


 やたら大きな荷物を背負った、脚の速い人型の接近を確認した。


「イーッヒッヒッヒッヒ!!」


 妙な笑い声で冥界を駆ける謎の人物は、見た目は人工妖精と瓜二つだった。


 彼はカイ達のいる方角を目掛けて一目散に駆けてくる。


「まだ妖精が居た!」


「待ってください!」


「ゔぇっ!?」


 ヴィオは即座にカイの首根っこを力強く掴んで引き止め、カイは苦しそうな声を上げた。


「あの方は人工妖精ではございません!」


「そ、そう……なん、ですか……」


「あの、ヴィオさん……そろそろカイを離してあげてください」


「あっ、ごめんなさい!」


 マモルに指摘され、ヴィオは慌ててカイから手を離す。

 カイはなんとか息を整え、付近を通り抜けて走り去っていく人工妖精をじっと眺める。


「えっと……確かに見た目は違うように見えますが……」


「あの人ですよ。人工妖精を作った元凶は」


「ええっ!?」


 ヴィオから放たれた想定外の回答にカイは大声を上げて驚く。


「あの方はとても好奇心旺盛でして……様々な発明をしては、よく周囲に迷惑をかけて回っていて……」


「悪い人じゃないですか!」


「なら捕縛した方が良かったのでは?」


「マモルさん、大丈夫です。彼は確かに迷惑ですが、人に大きな迷惑をかけるのは良しとしない方なので」


 ヴィオは首を横に振って2人を宥める。


「あの方のことです。恐らくですが、人工妖精が転移魔法に悪影響を与えたことを悟った彼は、人工妖精を取り除きに此処までやって来たのでしょう」


「そうか、転移魔法が使えないからわざわざ走って……とんでもない人だ」


 呆然とするマモルに対し、ヴィオはさらに言葉を続ける。


「……あの彼のことです。もしかすると、妙な病が蔓延しそうなことも察知し、薬を抱えて遥々遠くから此処まで走って来た可能性もありますね」


「薬!」


「人工妖精が取り除かれ、冥界も元通りになりました。恐らくこれで、ゼウシリーアに蔓延した病は取り除かれることでしょう」


「良かった……!」


 1番危惧していた病の蔓延が解消されると理解したカイは一安心し、胸を撫で下ろした。


「後は地上に帰るだけです」


 ヴィオはそう言うと、力を込めて地面を踏みつけた。


「わあっ! すごい!」


「馬車……か?」


 一瞬にして地面から結晶の馬車が発生した。キラキラと輝く馬車に、宝石の輝きを放つ馬……ではなく、ゴーレム。

 宝石製のゴツいゴーレムはやる気一杯と言わんばかりに両腕を回している。


「皆さんお疲れのようですし、走って帰るのも大変でしょう? この馬車に乗っていきませんか?」


「「「ありがとうございます!」」」


「ヴィオ様、ありがとうございます。ぜひ、ご厚意に甘えさせていただきます」


 全員で礼を述べると、全員で大きな馬車の中に乗り込んだ。


 全員が乗り込んだところで、ゴーレムは馬車を掴んで全力で走り出した。

 馬車は浮いているらしく、冥界の荒地だろうが馬車の中は快適だった。


「凄い……!」


 カイは目を輝かせながら、物凄い速度で流れていく景色を眺める。


「あのっ、ヴィオさん!」


 カイは景色から目を離し、隣に座るヴィオに顔を向ける。


「オレもいつかこんなすごい馬車作ってみたいです!」


「努力を惜しまないシロヤマさんならいつかきっと、馬車も作れますよ」


「ありがとうございますっ!」


 ヴィオに褒められ、カイはより一層声を張り上げて声を出す。


「……」


「? シロヤマさん、どうしました?」


「……あのっ、ヴィオさん!」


 カイは意を決し、改めて話を切り出す。


「オレ、ヴィオさんのこと……恥ずかしながら、まだよく知らないんです」


 必死に話しかけてくるカイを、ヴィオは優しい瞳で見つめる。


「あのっ! ヴィオさんをよりもっと信頼するためにも……! ヴィオさんのこともよく知っていきたいんです!」


「!」


「すごくおこがましいことを言ってるのは百も承知です!」


 カイは更に言葉に熱を込める。


「オレも結構、今のことを知らないですし……! なので、一緒に現代を学びつつ、ヴィオさんと仲良くなっていけたらと……!」


「勿論ですっ!」


 ヴィオは満面の笑みでカイの両手を取る。


「わたくしもまだまだ至らない点はございます! わたくし、現代のことは勿論もっと学びたいのですが……」


 ヴィオは少し照れがあるのか、ためらいながらも言葉を続ける。


「お友達になったシロヤマさんやハルカワさんのことも、もっともっと知りたいのです!」


「ヴィオさん……!」


「なので! これからもずっと、わたくしと仲良くしてくださると嬉しいです!」


「勿論です!」


 カイは力一杯頷き、ヴィオの手を力強く握り返す。


「ヴィオさん! これからも、もっと遊びましょう! 楽しい思い出、作っていきましょう!」


「勿論です! それに……そのお願い、近いうちに叶うと思います!」


「えっ!?」


 ヴィオの意味深な言葉にカイは驚く。


「それって……」


「ふふふ……その日が来てからのお楽しみです!」


「……?」



 こうして冥界のひと騒動が終わり、数十日が経過した。



 ゼウシリーアで起こっていた転移魔法陣によるトラブルは解決し、各地で再び輸入品が出回るようになった。


 ゼウシリーア内で奇妙な病が発生したものの、輸入された薬により病はあっという間に星から消え去った。


 ルキ一同も無事に薬を獲得し、今は元気になったとフィオから聞いた。


 そんなある日の朝……


「無事に解決して良かった〜!」


「だな」


 いつものように通学路を歩き、学園に登校するカイとマモル。マモルはいつもの眼鏡姿でカイの隣を歩いている。


「これでまた外を遊び回れるな! マモルがホウキの免許取ったから、もっと遠くにも気軽に行けるし!」


「試しに海越えてみるか?」


「免許取って間もない海越えは流石にやりすぎだと思う!」


 いつものように会話をする2人。そんな2人の背後に静かに忍び寄る1人の人影が。


「なあマモル、海越えじゃなくて山を越えて海を見に……」



「おはようございまーすっ!」



「うわっ!?」


 唐突に挨拶をされ、カイは背後から抱きしめられた。

 抱きしめられたカイの目に、同じ制服を着た腕が映る。


「誰!? 誰!?」


「ふふふ……誰でしょう?」


「分からない! マモル、ヒント出して!」


 カイは大慌てでマモルに助けを求める。


 マモルはその状況を冷静に眺め、冷静に言い放った。


「ヒント・メイド」


「それ答えじゃん! えっ!? 本当にフィオさんなの!?」


「大間違いです。わたくしの全身を見れているハルカワさんなら間違えようが無いのでは?」


「あっ! その言葉遣いは……! ヴィオさん!?」


「正解でーす!」


「マジ!?」


 腕から解放され、カイは大慌てで背後を向いた。


「……マジ?」


「大マジです!」


 ヴィオの全身を見たカイは目を大きく見開く。



 なんとヴィオは、カイやマモルと同じ制服を身につけていた。



「えっ!? 何で!?」


「ふふふ……! お2人と同じ制服を着用すると言ったら、もう答えはひとつしかないでしょう?」


 ヴィオは楽しそうに言葉を続ける。



「オホンッ! わたくし、本日からお2人と同じ学園に通うことになりました!」



「えっ……」


「ええーっ!?」


 ヴィオの宣言に、マモルとカイは今日1番の驚きを見せた。


「えっ!? 何で!?」


「何でまた急に……」


「現代をもっとよく学ぶためです! それと……失敗を繰り返さない為にも、絶対に現代の知識は必要だと思いまして……」


「失敗?」


「はい」


 ヴィオは言いづらそうにしながらも、学園に通う理由を語り始めた。

 

「わたくしは今回、大きなミスをしてしまいました……」


「ヴィオさん、何か間違えたんですか……?」


「はい。わたくし、麦茶とお酒を間違えてしまいまして……」


「お酒……?」


 制服を着た、幼い見た目のヴィオから出た単語にカイは不思議そうに呟く。


「現代のことを知らなかったが為に、不覚をとってしまい……なので、もっと現代を知る為には学園が1番だと思い至ったのです」


「ヴィオさん、麦茶と酒の違いは学園では学べません」


「そこは別で学びます!」


 マモルの指摘に、ヴィオは学生のように手を上げながら元気よく返事をする。


「あと……本当は、お2人とは別の学園にするつもりでした」


「そんな! 何でですか!?」


「ヴィオさん、我々のことがあまりお好きでない?」


「お2人ともお優しいのですね……」


 2人の指摘にヴィオは嬉しそうに返事をする。


「そもそもわたくし達は、現代を教えてもらい、見返りに特訓をする仲でしょう?」


「はい」


「それでいて、学園でまでご一緒するのは流石に、と思いまして……」


「そんなことないですよ!」


「シロヤマさん、ありがとうございます」


 ヴィオはカイの力強い言葉にお礼をする。


「……わたくし、シロヤマさんのあの言葉を冥界で聞いて、とても嬉しかったんです。同時に、わたくしにも同じ考えが浮かびました」


 ここでヴィオはカイとマモルの顔を見つめる。


「わたくしも、シロヤマさんとハルカワさんとももっと仲を深めたい……と」


「ヴィオさん……!」


「なので、思い切って同じ学園に入学することにしました!」


「やったー!」


「ありがとうございます」


「お2人のお優しい反応、痛み入ります」


 ヴィオが同じ学園に来ると聞いたカイとマモルは各々で喜びを表現していた。

 その様子にヴィオは照れつつも反応を返す。


「では、折角ですし3人並んで学園に行きましょう」


「ヴィオさん! 次からは一緒に行きましょうよ!」


「ありがとうございます! これから、どうぞよろしくお願いします!」


「こちらこそ!」


 3人は改めて挨拶をし合い、お互いに笑い合った。


 ゼウシリーアは今日も平和だ。

 一区切りついたので、とりあえずここで終わりとさせていただきます。


 新しい小説「大精霊の街づくり」の連載を始めました。大精霊の主人公が異世界を楽しく暮らす話です。

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