77話 冥界の魔力
永遠とも思えるほど広い、荒地同然の異界の中を走り続け、カイ達はついに人工妖精が密集する空間へと到着した。
カイ達の向かう遥か前方には、悍ましい数の人工妖精が蠢いているのが見えた。
「すごい数だ……!」
「カイ、口を開いている余裕はないぞ」
妖精メイドのフィオは手に持ったデッキブラシを構え直す。
「さて、掃除を始めるとするか」
フィオが構えたところで、フィオのの魔力に反応したのか、遠くで蠢いていた人工妖精は一斉に動き出した。
「私がこの大群を引きつける。お前達は隙を見てルキの元へ急げ」
「分かりました!」
カイ達が返事をして頷くと、それを見たフィオは瞬間移動によりその場から瞬時に姿を消した。
それと同時に、人工妖精の大群は一斉に進行方向を変えた。
(フィオさんが妖精を引きつけている今のうちに……!)
カイは携帯に表示されているポイントを確認すると、マモル、オオガシラと共に全速力で駆け出した。
「うおっ!?」
「なんか速い!?」
身体強化を施しながら駆けるカイ達は、普段より遥かに速度が出ていた。
通常ではあり得ない速度に3人は驚く。
「冥界に来てからやけに身体が軽い!」
「なんか力が有り余ってる感じがする……!」
もはや自動車以上の走力に、オオガシラとカイは目を丸くして驚く。
「そうだ、確か異界は魔力で溢れているんだったな……」
「そうなのかマモル!?」
「前に本で見たことがある。魔力で溢れる異界には、大量の針山が生えていたり、常に炎が燃え上がる現場があるそうだ」
「まるで地獄だ……」
マモルの説明にカイが驚き反応を見せる中、カイが所持していたカゲマルの携帯電話から軽い電子音が鳴り響いた。
「あっ! 電話が……!」
「カイ、電話に出てくれ。周りは俺とオオガシラでどうにかする」
「分かった! ありがとう!」
頼もしい言葉を投げかけるマモルに、カイは感謝の言葉を述べながら急いで通話ボタンを押した。
「もしもし! ルキか!?」
『あっ! その喋り方はシロヤマ・カイさんですね!』
「えっ?」
『わたくしです! ヴィオさんです!』
「ヴィオさん!?」
電話の向こうから聞こえてきたヴィオらしき声にカイは驚きの声を上げる。
『フィオさんから話を伺い、急いで冥界へと向かったのです! そして無事にルキさんを保護しました!』
「いつの間に……! あの、ありがとうございます!」
(フィオさん、ヴィオさんとは会えてたんだ……!)
『ルキさんは無事です! 皆様は転移魔法の改善のためにも、妖精の殲滅に専念してください!』
「はいっ!」
『無理は禁物ですよ! では!』
ヴィオの言葉を最後に通話は終わり、カイは手にしていた携帯をポケットに入れた。
「マモル、オオガシラ! ルキは無事だって!」
「それは良かった」
カイの報告にマモルは目に見えて安心する。
「カイ、ヴィオさんは他に何か言ってなかったか!?」
「妖精の殲滅に専念しろって言ってた!」
「分かった!」
「よし……!」
ルキの無事を確認できた3人は安堵し、改めて気合いを入れ直した。
(人工妖精を多く倒して、少しでも早く惑星をつなぐ転移魔法の不具合を解消して……ルキ達の病気を治す薬を取り寄せるんだ!)
気持ちを新たにしたカイは能力を発動させ、両手から氷のバックラーを生み出した。
「とにかく全力で人工妖精を始末しよう! 魔力で溢れかえる空間も利用して、少しでも多くの人工妖精を倒すんだ!」
「周りの魔力を利用……自分の魔力でもないものを扱えるのか?」
魔法への理解が浅いオオガシラは、カイの発言に疑問を投げかける。
「出来る! っていうか、さっきからオレ達ずっと周りの魔力使って普段以上に走ってるみたいだしな!」
「既に魔力を利用してるということか……? 分からんな。カイ、詳しく説明しろ」
「分かった! じゃあまずは、周りの魔力を感じ取って、それを扱う感じで……」
「……」
「マモル、後は任せた!」
オオガシラの反応から、自分の言葉ではまともに説明できないと理解したカイは、すぐさまマモルにバトンタッチした。
「……オオガシラ、魔力を使う感覚は分かるか?」
「分かる」
「なら、魔力を手に込めてみてほしい。すると、自分の周りの魔力も感知出来るはずだ」
オオガシラはマモルに言われた通りに手に魔力を込め始めた。
しかし、人工妖精で溢れかえる現場でそんな悠長な真似をしている暇はない。
『ギギギーッ!』
魔力を込めるオオガシラに、遠くにいた人工妖精が反応。
右手を見つめるオオガシラを目掛けて凄まじいスピードで駆け、数人の群れで襲いかかってきた。
「うわっ!?」
「速っ……!」
想像以上に素早い人工妖精に驚くカイとマモル。
「甘いっ!」
しかしオオガシラは素早い相手にすぐさま反応し、魔力を込めた右手で相手をまとめて殴りつけた。
とんでもない威力で殴られた妖精達は胴体の一部を消し飛ばされ、飛び掛かってきた姿勢のまま呆気なく消滅した。
「よし、何となく分かった。マモル、礼を言うぞ」
「どういたしまして……」
喧嘩慣れしているオオガシラにとって、多少の奇襲もどうってことはなかったらしい。
「流石はオオガシラ! マモル、オレ達も黙ってられないな!」
「だが、俺達はこんな状況で戦ったことはない。どう魔力を扱えばいいか……」
「だよな……」
異界の魔力の扱い方をあまり心得ていないカイとマモルは困惑する。
「……ん?」
そんな中。カイは遠くで群がる人工妖精の群れへと視線を向け、そこでとんでもない光景を目の当たりにした。
「えっ!? 何だあれ!?」
「どうしたカイ」
「あれ! なんか地面から生えてる!」
カイが指し示した先。人工妖精でひしめく土地から、銀色の何かが突如として出現した。
「あれは……針?」
「とんでもない数の針山だ……」
地面から飛び出したのは、おびただしい数の針山。
針の山は人工妖精の群れを串刺しにし、銀色の波のように揺らめいて人工妖精を飲み込んでしまった。
「人工妖精が針山に呑み込まれていく……」
「あんなものに呑まれたらひとたまりもないだろうな……あれは冥界の自然現象か?」
「いや、針山が動くなんて知らない……それより、あの針山の上を何か移動してないか?」
「あっホントだ! なんか物凄い速さで駆け抜けてる!」
波のように揺らめく銀色の海を滑る、ひとつの人影を3人は注視する。
「冥界の魔力のお陰か、何となく見えてきた……」
「あれは……女性?」
銀色の長い髪をなびかせる、涼しい顔をした美しい令嬢
「あれってまさか……シロガネさん!?」




