76話 理想と現実
闇に包まれた世界は次第に騒音で溢れかえる。騒がしい音に意識は次第に覚醒していき、ルキは重い瞼をゆっくり持ち上げた。
視界に飛び込んできたのは、悍ましい空の色。
その空を囲うように植物が伸びており、ルキの周りには植物の壁で覆われていることが分かった。
(……夢、見てたのか)
マモル達と別れ、そのまま異界に飛び込んだルキは単身で戦い続けていた。
しかしマモルから受けた傷もあり、次第に劣勢に追い込まれ、そこに人工妖精の激しい一撃を受けたルキはそのまま気絶。
ルキは僅かな時間気絶し、その間に過去の記憶を走馬灯のごとく思い出していたようだ。
(随分と懐かしい夢を見たな……)
満身創痍で未だ覚醒し切っていないルキは、目の前の植物の壁を眺めながらぼんやりと考える。
(あの時のオレは……ヴィオさんも、周りの大人を信じ切ることが出来なかった……いや、違うな……)
ルキは自身のボロボロになった片手を見つめる。
(自分の力を過信しすぎていたんだろうな……)
異常なまでの身体強化を扱える能力に加え、妖精から植物を操る能力まで与えられた幼いルキは、その気になれば世界すらどうにかできると過信していた。
自身の実力を見誤った結果、ルキはヴィオの助けをその手で振り解いてしまったのだ。
(オレ達3人揃えば、何でもできるって……あの時のオレ、ホントにバカだったな)
ルキはヴィオの手を取らず、友人と共に暮らす方を選択した。
厳しい生活にはなるだろうと予想していたので、多少の厳しい生活は我慢できた。
しかしそれよりも、トラペゾ社の捜索力の方が厄介だった。
幾ら身分を隠して暮らそうが、僅かな手掛かりで呆気なく発見された。
ようやく生活が安定してきたかと思ったらトラペゾの関係者に発見され、泣く泣く棲家を手放し逃走した。
星を転々とする生活を続けていたある日、とある森の奥深くで隠居している老人に拾われ、ルキ達の生活は驚くほど平和になった。
だが、その老人は後にヴィオの知り合いだったことが判明。
(そこで、外で酷い目に遭わなかったのは、ヴィオさんが陰で助けてくれていたからだったということも知った……)
結局ルキは、陰でずっとヴィオに助けられていた。
(……オレから手放したのに、ヴィオさんは見捨てずに見守り続けてくれていた……!)
ヴィオだけは、心からルキを心配してくれていた。
(オレ、本当に馬鹿だ。あの時、3人でヴィオさんの元に行けば良かったんだ……なのにオレは……)
大人を信じられないからとヴィオを遠ざけ、ヴォルフとカゲマルを危険に晒してしまった。
(ヴォルフも、カゲマルも……オレの我儘に巻き込んだ……)
(自由になった後もそうだ。オレの行きたい星に飛んだら、そこで重い病気に感染して……だから……)
せめて少しでも早く薬が届くよう、この異界にひしめく多くの人工妖精を倒し、転移魔法の不具合を改善させる。
それが、ルキの考える友への罪滅ぼしだった。
(ずっと、オレの我儘で振り回したから……最後くらいは、オレを助け出してくれたヴォルフとカゲマルを助けたい……!)
しかし、ルキの全身はボロボロ。もはやまともに戦える状態ではなく、指一本すら動かすことができない。
(……やっぱ、1人で戦うのは……ツライな……)
まともに動けない中、前方を覆う緑色の壁に大きな手が割り込み、壁をこじ開けて巨大な人工妖精が姿を現した。
『ギヒヒ……!』
大きな人工妖精はルキを真上から見下ろしながら意地悪く笑う。
開けられた壁の隙間から他の人工妖精達が次々と入り込んでいく。
迫る人工妖精を眺めることしかできないルキは、何とか力を振り絞り口を開いた。
「ヴォルフ、カゲマル……ごめん……」
目に涙が滲むルキに、人工妖精は容赦なく襲いかかった。
人工妖精の鋭い爪がルキに触れる寸前、周囲にいた人工妖精は突如として横に真っ二つになった。
「……?」
何が起こったのか理解しようとするルキの前に、背の高い人物が姿を現した。
ルキがよく知る人物だった。
「ヴィオ、リシア……様……?」
ルキの目の前に、ヴィオリシアが立っていた。
「約束しただろ、必ず迎えに来ると」
ヴィオは振り返らず、前方を見据えたまま宝石の剣を構え、言葉を続ける。
「ルキ、今までよく頑張った、後は私に任せろ」
「ヴィオさん……」
ヴィオの背中を見て安心したのか、ルキはその場で目を閉じ、そのまま意識を手放した。




