73話 異界の不具合
昼頃。住宅街の見た目をした異空間から異界へと移動中のこと。
カゲマルはこのゼウシリーアで起きていた転移魔法の不具合の正体を全員に打ち明けた。
「大穴の向こう、異界で突如として大量発生した人工妖精……この人工妖精こそが、空間転移魔法を阻害する障害だったんだよ」
「人工妖精……えっ!? あれが!?」
「あり得るな。ヴィオは異空間の向こうで、とんでもない数の人工妖精を相手したと言っていた」
カゲマルから語られたまさかの正体にカイは驚き、フィオは静かに納得する。
「人工妖精は異界でもっと増えてるらしい。僕らは薬の為に……空間転移魔法の不具合を解消する為に、異界で蠢く人工妖精を全て始末する作戦を立てたんだ」
「作戦……」
カゲマルの話に、カイ達は静かに耳を傾ける。
「まず僕らは、異界の奥深くにいる妖精を異空間付近まで誘き寄せることにした」
「異界は際限なく広い。そんな異界から人工妖精のみ、このゼウシリーア付近に誘き寄せたのか」
フィオの発言にカゲマルは無言のまま頷く。
「でも異界はとても広い場所で……すごく時間がかかった。それでも異空間付近に早めに到達した妖精が少なからず居たから、裏で仕留めて回った」
「そんなことしてたんですか……でも、人工でも妖精は……」
「そう、妖精ほどじゃないけど人工妖精もすごく強いね」
妖精の強さはこの場にいるほぼ全員が体感していた。
カイ、マモル、オオガシラはかつて戦った杖の妖精を思い出し、神妙な面持ちになる。
「でも妖精は、能力と魔法を掛け合わせた力に弱い。だから僕らは次に、妖精に勝てる強い能力使いを探して回ったんだ」
「それでカゲマルさん達は、オレ達の前に現れたんですね……」
「能力使い試験に参加して、めぼしい能力使いを探したりしたんだよ」
「わざわざそんなことまで……」
カゲマルの話にマモルは、書店で能力使い試験の本を取り合った時のことを思い出す。
「新人にまで声を……でも、わざわざ新しい人を探すより、ベテランの能力使いに声を掛けた方が……」
「カイ、それは無理だと思う」
「えっ? 何でだ?」
「実は前に、そこそこ遠く離れた星に妖精が発生したということで、それなりに強い魔法使いや能力使いは軒並みゼウシリーアの外に出ていたんだ」
「そうだったのか!?」
あまりニュースを見る習慣がないカイは、知らない情報に驚く。
「だが帰還する前に転移魔法に不具合が生じ、帰れなくなった。その影響でゼウシリーアの治安もだいぶ悪くなっていたんだ」
「……あっ!」
治安の話を耳にした途端、カイはマモルと出会った時のこと、不良が魔法道具を手に戦っていた時の出来事を思い出した。
「まさか……! 不良が蔓延っていたのも、不良の魔法道具をあまり取り締まれてなかったのも……!」
「そうだ。危険な妖精が野放しになっていたのもこれが原因だ」
「そういうことだったのか……!」
カイは全ての合点がいったのか、声を大にして驚く。
「……でも、そうならそうと最初から説明してくれたら……! オレ達はルキ達とわざわざ対立することも無かったのに……!」
相手の大体の事情を理解したカイは、カゲマルに対して悔しそうに呟く。
「時間が無かったからね。短期間で力をつけてもらうには、不規則に相手をつついた方がいいと結論付けたんだ」
「まあ確かに。馴れ合うよりは正体不明の敵として立ちはだかった方が気は引き締まるだろうな」
「フィオさんの言う通りです。いつ来るか分からない相手といつでも戦えるよう、必死に修行するだろうからって……」
「普通の奴はそうだろう。だが、コイツらに限ってはそれは間違いだったかもな」
「えっ?」
カゲマルの述べる作戦に、フィオは首を縦に振りつつ反論する。
「カゲマル、お前も何となく分かったんじゃないか? カイ、マモル、オオガシラは超のつくほどのお人好しだってことに」
「カイとマモルは納得だが、俺は違うぞ」
「……まあ、それは何となく分かってたよ。だいぶ人がいいなって……」
「おい! 違うと言ってるだろ!」
「オオガシラ、落ち着け」
声を大にして否定するオオガシラをマモルが宥める。
「カゲマル。コイツらはな、人の命が掛かってるとなると、自分のこと以上に頑張れる奴らなんだよ。むしろ私が止めないと頑張りすぎて危険なほどだ」
フィオはカイ達に視線を向ける。素直に褒められたカイとマモルはどこか照れくさそうに、オオガシラはそっぽを向いてフィオから視線を逸らす。
「まあマモルやカイ達の他にもちょっかいかけてた奴らはいたから特別扱いできなかった所はあっただろう。だが、次からは正直に助けを求めてこいよ」
「……そうします」
「それがいい。変に拗れるよりは……」
フィオがさらに言葉を続けようとしたその時。近くからガラスのような何かが割れる音が響いた。
「あっ! この音って……!」
「人工妖精が向こうから来たみたい……!」
その場にいた全員が身構える中、前方の道から大量の人工妖精が姿を現した。
『ゲゲゲ!』
『ギャッギャッ!』
「相変わらず元気な奴らだよ……! でも、奴らが割った空間からすぐ異界に向かえるよ! 皆んな、力を貸して!」
「はいっ!」
「勿論です」
カゲマルの助けを求める声にカイとマモルは言葉を返すと、目の前の人工妖精目掛けて駆け出した。
「はあっ!」
マモルは両腕に力を込め、能力が向上した輝く炎の弾丸を幾つも放った。
『ギャーッ!?』
炎弾は回転しながら飛んでいき、人工妖精の身体を幾つも貫いていく。
貫かれた妖精は悲鳴を上げながら姿を消していく。
「それーっ!」
カイは両手からバックラーを創り出し、氷の力を込めた打撃を容赦なく妖精にぶつけていく。
殴られ吹き飛んだ妖精は別の妖精の群れとぶつかり、味方を巻き込んで氷漬けになった。
「カイでかした! はあっ!」
いっぺんに凍った妖精に、マモルは炎弾を投げつけた。
妖精を覆う氷の結晶に炎弾が衝突すると、炎弾は氷に含まれる魔力も燃やしてさらに炎上。
凄まじい炎で氷の中の妖精も、周囲にいた妖精もまとめて焼き払った。
「おらあぁぁあっ!」
『ギャーッ!?』
オオガシラはその身一つで敵陣へと飛び込み、逞しい両腕で妖精を次々と葬り去っていく。
「カイッ! 借りるぞ!」
カイが凍らせた妖精を軽々と担ぎ上げ、勢いよく振り回して大勢の妖精を一網打尽にしていく。
「やっぱり、僕らが見込んだ通りだった……!」
「実に素晴らしい活躍だな」
カゲマルは素早い身のこなしで妖精を引っ掻いて回る。
フィオは手に持ったデッキブラシを振り回し、鮮やかなデッキブラシ捌きで妖精群を簡単に捌いていく。
「ほっ!」
フィオはオオガシラ同様に敵地に潜り込み、妖精群のど真ん中でデッキブラシを勢いよく振り回した。
デッキブラシに触れた妖精はその場で消える。しばらくすると、遠くにいた妖精群の遥か上空から大量の妖精が降り注いできた。
「うわあっ!? 妖精の雨……!?」
「妖精を敵地の上空に瞬間移動させたのか……!」
フィオの戦いぶりにカイとマモルは恐れ慄く。
程なくして。この場にいる者達の目覚ましい活躍により、妖精の群れはあらかた片付いたようだ。
「よし、この辺の妖精は大体片付けたな」
「残りは全部俺に任せて。それと……」
カゲマルはマモルに携帯を手渡した。
「この携帯に表示されていふ矢印の先にルキがいるよ。お願い、これを頼りにルキを探し出して!」
「分かりました。全力を尽くします」
「カゲマルさん! ルキは絶対に探し出して見せます!」
「マモルくん、カイくん、ありがとう……」
「よし、この場ならカゲマルでも大丈夫だろう。カゲマル、危なくなったらこの場からすぐ退散しろ、いいな」
「分かったよ」
「よし……では、行くぞ!」
カゲマルの返事に耳を傾けた後、フィオはいつにもなく勇ましい掛け声を上げ、カイ達を率いて割れた空間の向こうへと飛び込んだ。
「頑張ってねー!」
全員が異界の奥へと突入したのを見届けたカゲマルは、異界に向かってボソリと一言呟く。
「……散々迷惑をかけてごめんね」
後悔の滲む視線を異界に向けるカゲマルに、周りの残党はじりじりとにじり寄っていく。
「俺も頑張らないと」
カゲマルは気合を入れ直すと、残りの妖精を始末する為にその場から駆け出したのだった。




