72話 3人の目的
程なくして。治療のお陰ですっかり回復したカイ達は、冥界に向かう為に屋敷を後にした。
「これから向かう冥界は人工妖精だらけだ。全員準備はいいな?」
「「はい!」」 「おう!」
「今現在、現世と異界との距離は縮まっているそうだ。いつ異界への道が開くか分からん、道中も絶対に油断するな」
「「はい!」」 「おう!」
フィオの言葉にカイ、マモル、オオガシラは元気よく返事をしていく。
フィオがあらかた言い終えたところで今度はカゲマルが口を開く。
「僕らがいつも使っていた装置で特別な異空間に入って、さらに別の装置を起動させながら安全に異界に進むよ」
「道具だらけだな」
「どれも高価な装置で、効果はちゃんとあるよ。でも、特別な装置を作動させながら移動するから歩みは遅くなるよ、ごめんね」
カゲマルはそう説明をすると悲しそうに謝罪をする。
「カゲマル」
そんなカゲマルの説明を聞いたカイは、手を上げながら口を挟んだ。
「異界への道のりはだいぶややこしいみたいだけど……後で他の仲間と合流できるのか?」
「後から来る人は、別の妖精が連れてくそうだから安心してね。じゃあ行くよ」
一通り話を終えると、カゲマルを先導にカイ達は冥界への移動を開始した。
閑静な住宅地を歩き続けていると、世界は次第に様子を変えていく。空から太陽が消え、景色に違和感が生まれてくる。
「冥界への道が近付いたとはいえ、走れないのがもどかしいなぁ……あ、今のうちに僕らのことについて説明しないとね」
歩みを進めるカゲマルは、言いづらそうにしながらもゆっくり語り始めた。
「ルキは……えっと、色々あって自由になったルキは、前々から行きたい星があるって言って、僕とヴォルフと一緒に3人で母星を出たんだ」
「私達はルキの実家のことはもう知ってるぞ。トラペゾ社の後継者がルキから別のやつに移ったから、ルキは自由になったんだよな」
「あ、えっと、うん」
フィオに指摘されカゲマルは僅かに動揺しながらも頷く。
「ルキと一緒に、前々から行きたかった星を回ったんだ。片田舎で自然豊かな地球に行って、そこからゼウシリーアに飛んで……僕らはとにかく遊んで回った」
「僕らの暮らしてる星にはない珍しい技術で溢れていて、何もかもが僕らにとって真新しくて……すごく楽しかったよ」
「でも、ある時……僕らは突然、謎の病気に感染したんだ」
先程まで僅かに楽しそうに話していたカゲマルは、ここで表情を暗くする。
「妖精でありながら、人間の体を持つ人しか罹らない奇妙な病気。感染すると、日を追うごとに弱っていって……いや、弱るのはまだいい方だね」
「まだいい方だと……? 弱った結果、あんな血を吐くようになったというのか!?」
カゲマルの説明にオオガシラは大声で怒鳴るように叫ぶ。
「いや、血を吐いたのは別件だよ」
そんなオオガシラの怒声に、カゲマルは自分のペースを保ちながら言葉を返す。
「弱った身体で働き過ぎたから……僕ら、異空間で身体に負担ばかりかけてたからさ……」
「弱った身体で無茶するなんて……」
「無茶しないといけなかったんだよ。だって……」
カゲマルは自身の手を見つめながら話を続ける。
「この病に感染した人は、さらに日が経つと……徐々に姿が消え始めるんだ」
「!?」
「これ、証拠だよ」
驚くカイ達にカゲマルは視線を向け、自身の手に被せていた手袋を外して大袈裟にかざして見せる。
「ああっ!? そんな……!」
「手の向こう側が……! 透けて見える……!?」
カゲマルの手の先が透けていた。この光景にカイ達は驚き目を見張る。
「俺は特に重症でさ……これに感染して重症化すると、日を追うごとに半透明になって身体が透けていって、力も感覚もなくなっていって、最後は……」
静かに項垂れるカゲマルに、周りは病に感染した者の最後を何となく察する。
「幸い、この星にはこの病の進行を遅れさせる薬はあったからね……今日まで何とか生きてこれたよ」
「薬……もしかして、能力を向上させていたあの薬のことですか?」
「そうそう。あの薬は、体内にある妖精の力を倍増させてくれるんだ。それで病の進行を遅れさせてたんだよ」
「……」
カイは悲しそうな目をカゲマルに向ける。
「それにしても、とんでもない病だ……カゲマルさん、何でそんな恐ろしい病気に……」
「リーシュだ」
カゲマルの話に疑問を口にするマモルに、フィオが口を挟んで答える。
「どうやらアイツ、前に妖精の星に支援しに向かっていたらしい。どうやらそこで病を患い、そのまま地球に持ち帰ってしまったらしい」
「リーシュが持ち帰った……あれ?」
ここでマモルはひとつの疑問を持つ。
「リーシュがその病気に感染したということは……リーシュは、人間の身体を持つ妖精……?」
「そうだ。アイツは妖精でありながら人間の身体も持っているんだ」
「妖精にしてはやけに重かったのはそういうことか……」
オオガシラはリーシュを抱え上げた時のことを思い返し、1人で納得する。
「まあそういうことだ。で、そのリーシュはその病に感染してると気付かず、風に乗ってあちこち飛び回ったらしい……」
「えっ!? それって……!」
フィオの発言に、カイは驚き目を見開く。
「まさか、ゼウシリーア中に病が……!? もしかして、これから半透明になる病の患者が増えてくかもしれないってことですか!?」
「そうなるな……」
「そんな……!?」
想像以上の大事に、カイは開いた口が塞がらない様子だ。
「カイくん安心して。妖精の星に妖精病の治療薬はあるよ。薬さえあれば、病は完全に消え去るんだ」
「良かった……じゃあ、ヴィオさんに頼んですぐに薬を取り寄せて……!」
「無理だ、カイ」
カイの提案にマモルは首を横に振る。
「何でだ? まさか薬が高価すぎて取り寄せられないのか?」
「それ以前の問題だ! お前、今朝コンビニでのやり取りをもう忘れたのか!?」
カイの疑問に今度はオオガシラが大声で答える。
「惑星を繋ぐ転移魔法が使用不可となり、惑星外からの輸入品が軒並み停止している不具合が前々からあっただろ!」
「あっ!」
「そう、それ。そもそもこの病自体が珍しい病気で……このゼウシリーアにその薬を置いてないんだ」
「くそっ! 不具合すら無ければ……!」
カイは拳を握り締め、悔しそうに項垂れる。
「……僕ら以上に悔しそうだね。カイくん、もしも他所の惑星とやり取りできない不具合を取り除けるとしたら……君ならどうする?」
「すぐに不具合を取り除きに行きます!」
「だよね。僕もそうする」
カイの真っ直ぐな返答にカゲマルは深く頷いた。
「僕らはね、その原因を前々から知っていて、不具合を取り除く為にずっと行動してたんだ」
「不具合……転移魔法を阻害する不具合の正体、カゲマルさんは既に知ってたんですか?」
「うん。マモルくんは……いや、皆んなももう不具合の一部を見てると思うよ」
そう言うとカゲマルは真正面を指差した。
「大穴の向こう、異界で突如として大量発生した人工妖精……この人工妖精こそが、空間転移魔法を阻害する障害だったんだよ」




