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69話 マモル覚醒

「オレの目的は達成され、君達は用済みになった。となると今度は、オレ達のことを知ってる君達が邪魔になってくるんだよね」


 ルキは手に持った花を地面に落とし、淡々とした口調で言い放った。


「だから……君達とその関係者にはこの世から消えてもらおうと思ったんだ」


「お前……!」


 ルキの発言にマモルは瞠目し、感情の昂りにより声を振わせる。


「勝手に巻き込んでおいて! 終われば処分だと!? ふざけるなお前っ!!」


「必要な時に利用して、終わったら処分するのは当然でしょ?」


 空気を震わせるほどの怒声を発するマモルに対し、ルキは顔色を一切変えずさも当然かのように話を続ける。


「でも、すぐに処分するのは味気ないからね。最後に思い出としてマモルくんと遊ぼうと思ったんだ」


「ルキ! お前はまだまともだと思っていたが、やはりお前はあの会社の……!」


「おっと、あんな冷酷無比なトラペゾと同じにしてもらったら困るなぁ」


 ルキは笑みを浮かべてマモルを見つめる。


「まだ生きてる友達と会わせてあげたり、痛みなく優しく永眠させる……これ以上の慈悲はないでしょ」


「……!」


 ルキが言葉を発する度に、マモルの表情は険しくなっていく。


「君がのんびりしてる間にも、こっちは着々と準備を進めてるんだ。君にとって1番近しい人へサプライズを送ったり、とかね」


「サプライズだと……?」


「キミの両親にオトギネムリの花を送ったんだ」


「!?」


 ルキの発言にマモルは目に見えて動揺する。


「そろそろ家に届いてる頃じゃないかな? オレのプレゼント」


「何が、プレゼントだ……!」


 怒りの形相を露わにしたマモルは全身を震わせる。


「ははは! その反応を見たかったんだよね! わざわざキミを呼び出した甲斐があったよ」


 ルキは大笑いし、楽しそうに両手を叩く。


「オレの力が掛かった植物を無力化するには、まずオレを何とかするしか方法はないよ。もっとも、ここでオレの玩具に遊ばれているキミには不可能だろうけどね……アハハッ!」


「勝手に……」


「ん?」


「勝手に巻き込んで好き勝手弄びやがって!!」




 ルキの人を見下す態度に、マモルの感情はついに爆発した。



 感情の爆発と共にマモルの全身から炎が舞い、凄まじい熱気が溢れ出す。髪は真っ赤に輝きながら揺らめいている。



「何だ……?」


 空気の変化にルキは僅かに顔を強張らせる。そんな彼に、輝きを帯びたマモルは真っ直ぐ視線を向ける。


「ルキ……お前は……」


「ん?」


「お前だけは絶対に許さん!!」



 全身を貫かんほどの怒声を放つのと同時に、マモルは両腕から真っ赤に光り輝く炎を噴出した。



 マモルがいつも放出するものとは段違いの輝きを放つ炎の弾丸は、真正面にいた植物の胴体を呆気なく貫いた。


「何……!?」


 人型植物に焼けこげた大きな風穴が空き、植物は力なく地面に倒れ込んだ。


「まだまだぁ!」


 マモルは流れるように炎の弾を放出しては、目の前の人型植物に怒り任せにぶつけていく。


 腹部に穴が空き上半身が落ちる。頭、腕、脚が消し飛び、バランスを崩して倒れていく。


「次々に植物が消し飛んでいく……!」


「コイツらが終われば次はお前だ!」


「そうはさせないよ!」


 ルキはポケットから錠剤を取り出し、口に放り込んだ。


(あれは……能力を向上させる薬か……!)


「よし……集まれっ!」


 薬を服用したルキは、地面に倒れた植物の残骸に掌を向けた。

 すると、地面に散り散りになっていた植物はその場で根を張り急成長を始めた。


 焼けた植物を栄養分にして伸びた植物は周りの植物と組み合わさり、巨大な人型の上半身へと変貌した。


「一気に叩き潰せ!」


 ルキの指示に反応した巨人植物は、右腕を後方へと逸らしながら上半身を大きく捻り、マモルを目掛けて巨大な拳を大きく振り下ろした。


「コイツの養分になりな!」


 建物サイズの大きな拳がマモルに触れた、その瞬間。



 植物の拳は派手な轟音を立てて大爆発を起こした。



「!」


 巨人植物の右半分が消し飛び、バランスが崩れて大きく傾く。


「トドメだ!」


 そこをマモルはすかさず追撃。残った左半分、胴体、頭部を順に火の玉を叩き込んでいき、火の玉は巨人植物に含まれる魔力も焼却して更に炎上。


 やがて巨人植物は、輝く真っ赤な炎に焼かれて消滅した。


「あの巨人を呆気なく……!」


「そらっ!」


 相手が消えたところで、マモルはカイを縛るツタに炎を放った。


 ツタは一瞬で焼き切れ、植物から解放されたカイは力なく落下する。


「カイッ!」


 マモルは後方に伸ばした両手から凄まじい炎を噴出し、その場から物凄い速度で飛び立った。


 炎の勢いを利用して空を飛んだマモルはあっという間にカイの元へと到達し、落下中のカイの身体を両手でしっかり掴んだ。


「飛んだ!?」


 ルキが瞠目する中、マモルは片手を地面に向けて炎を噴射。炎の勢いにより速度を落とし、マモルは安全に地面に降り立った。


「カイ……無事で良かった……」


 腕の中で静かに眠るカイを優しく地面に下ろし、マモルは改めてルキと対面する。


「お前の仲間は消え、残すはお前1人……ルキ、覚悟はできてるだろうな……」


「そっちがそれ言う?」


 背景が歪むほどの熱を帯びるマモルを前に、ルキはまだ余裕があるのか不敵に微笑む。


「オレにはまだ力が残ってるんだよね」


 そう告げたルキは、途端に顔から笑みを消した。


 厳つい表情に変わったルキはマモルへと歩み寄り、道端に立っていた街灯を雑に殴りつける。


 殴られた街灯は音を立ててひしゃげ落ち、地面と激しく衝突した電灯部分はガラスを散らして粉々に砕けた。


(植物に施していた「異常なほどの身体強化」を自身に掛けたわけか……)


「おい火炎野朗、この程度で追い込んだと思うんじゃねえぞ」


 キザったらしさはなりを潜め、乱暴な態度に変わったルキは、瞳に闘志を宿しながらマモルを目掛けて駆け出した。


 ルキの攻撃を許したらまずいと瞬時に悟ったマモルは、前方に移動しながら炎を何発も放った。


「しゃらくせぇ!」


 ルキは飛んできた炎を片手で振り払い、マモルを目掛けてその場から飛び跳ねた。


「!?」


 勢いよく跳んだルキはあっという間にマモルの眼前へと移動し、その勢いのままマモルに拳を放った。


(まともに喰らったらまずい!)


 ルキの拳がぶつかる寸前、マモルはすぐさま後方へと飛んで背中から地面に倒れ込んだ。


 倒れたマモルは即座に両手を後方に回し、掌を地面に向ける。


 そして接地させた掌から爆炎を発生させ、ルキを目掛けて勢いよく飛び出した。


「なっ!?」


 炎の推進力により跳んだマモルは両脚を頭にして吹き飛び、ルキの腹部にドロップキックを捩じ込んだ。


「おらあっ!!」


「ぐっ……!?」


 さながら弾丸のように飛んだマモルの両足はルキの腹部に命中。捻り込んだ足は腹にめり込み、ルキは表情を歪める。


 しかし、異常なほどに強化されたルキの肉体はまだ耐えられるようだ。


「まだまだぁ!!」


「!」


 マモルは間髪を入れず、ルキに押し込んだ脚に多量の魔力を込め、両足から全力の爆炎を発生させた。


 凄まじいエネルギーを持つ炎の塊がルキを襲う。


「があっ!?」


 マモルの足元でけたたましい叫び声が上がる。肺から空気が一気に吐き出されたルキは、呻く間もなく後方へと勢いよく吹き飛んだ。


 マモルはその場に転がりつつも立ち上がり、体勢を立て直す。


 一方、吹き飛んだルキは遠くに立つ街灯に後頭部からぶつかり停止。街灯は破損し、ルキは激痛により顔を歪める。


「……っ」


 呻きながらも何とか目を開けてマモルのいる方角を睨みつけるも、前方がやけに眩しい。


「……!?」



 マモルは全身に力を漲らせ、頭上に巨大な炎の塊を生み出していた。



 宙に浮かび輝きを放つ球体はさながら、真っ赤な太陽のようだった。


「ついに……ここまで……!」


 ルキは攻撃された衝撃により身動きが取れない様子だ。


「この力なら……」


 窮地に追い込まれたにも関わらず、ルキは表情を和らげる。

 どこか満足げに目の前の火球を眺める彼は、逃げようと足掻く様子すら見せない。


「覚悟はできてるだろうな……!」


 対するマモルは、怒りのままに頭上の火球を構え、地べたに座り込むルキを睨みつける。


「これで最後だ!」


 マモルはそう一言叫ぶと、ルキに向かって巨大炎球を投げつけた。


 火球は凄まじい熱気を放ちながらルキへと迫る。


「……」


 ルキは動じない。マモルが鋭い目つきで見守る中、火球は高速でルキへと迫る。



 しかし火球はルキに命中することはなかった。



「……?」


 投げる際に角度調整を間違えたのだろうか、火球は上へ上へと進路を変えていき、ルキの遥か頭上を通り過ぎた。


「攻撃が逸れた……」


「アレを人間にぶつけるわけないだろ」


 戸惑うルキに対しマモルは語り出す。


「お前の仲間が心配してたぞ。『ルキの様子がおかしい気がして……』とな」


「…………」


 マモルはルキを見つめながら、不安そうに告げるカゲマルの姿を思い出す。


『時間がないから切羽詰まってるのかな……ルキが次に何をするか分からない。下手したら俺でも想像つかないことをしでかしそうで……』


 マモルは一通り思い返すと、ルキに向かって改めて口を開いた。



「お前、嘘ついたな」



 ルキは何も言わず、話をするマモルに目を向ける。


「もしお前が、お役御免になった人間を処分するような非道な奴なら、リトは真っ先に潰されていた筈だ」


「……」


「それともうひとつ。お前は戦闘中、カイを人質に取らなかった。何度も人質にするチャンスはあった筈だが、一度もそれをすることはなかった」


「そうか……」


「つまりお前は、俺を怒らせて力を引き出させるためにわざとあんな挑発行為をしたと、俺はそう解釈した」


 マモルは身なりを軽く整えつつ話を続ける。


「恐らく、カイを眠らせたであろう植物に人を殺す作用はない。家族に毒を送ったという話も嘘だ。そうだろ」


「……キミはそれなりに頭が回るようだね」


 マモルの返答を一通り聞いたルキは僅かに微笑む。


「カイも家族にも危害は加えてないんだな?」


「してないよ。そんな危険な植物をこの平和なゼウシリーアに持ち込めるわけないでしょ?」


「まあその通りだな。俺達がお役御免になったというのも嘘だったわけか……」


「勿論。むしろお役御免になったのは、オレの方だ……」


「何?」


 引っかかる一言にマモルが反応したその時。


「ガッ……! ゴホッ! ゴホッ!」


 目の前のルキは突如として咳き込み、マモルの目の前で大量の血を吐き出した。

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