68話 キザな若者【挿絵あり】
休日の昼頃。マモルはルキを助ける為にホウキを飛ばし、自然公園へとやって来た。
そこそこの人で賑わう公園に一歩足を踏み入れれば、辺りの空気感は一変する。
人の賑わいは一斉に消え失せ、太陽はどこかへ姿を消す。にも関わらず、世界は変わらず明るいまま保たれている。
「異空間か……この先にルキが……」
(カイ、無事でいてくれ……!)
マモルはカイの無事を祈りながら、ホウキ片手に自然公園の奥へと足を踏み入れた。
木々で囲まれた道を抜け、やがて開けた場所へと到達する。すると目の前に、マモルの探していた相手が視界に映り込んだ。
「初めまして、マモルくん」
黄髪のキザな若者、ルキ。彼は大きな花束を背負い、笑みを浮かべながら前方のマモルを見やる。
「約束通りマモルくん1人で会いに来てくれたんだね。嬉しいよ」
「花束……お前がルキだな」
「その通り。遠くから見てもオレだって一目で分かるし、いい目印でしょ?」
「武器の間違いだろ」
「オレにとってはファッションの一部さ。それに、こうして常に持ち歩いていれば、ふと花を見かけた時にオレのことを思い出してもらえそうでしょ?」
ルキは気障ったらしいセリフをマモルに向ける。今の彼はとても余裕がありそうに見える。
「カイはどこだ」
マモルは手に持っていたホウキを遠くに放り投げ、すぐさまカイの安否を確認する。
「心配しないで、彼ならここで静かに眠ってるから」
ルキが軽く指を鳴らすと、木陰から大きなツタが姿を現した。
そのツタの先には、深い眠りに落ちているカイが縛りつけられていた。
「っ……!」
カイの姿を目の当たりにしたマモルは青筋を立て、全身に魔力を漲らせた。
「カイを離せ!」
怒声と共に全身から炎を噴出し、マモルの周囲に生い茂っていた草木を一瞬で焼き尽くした。
「怒りに燃え上がりながらも、オレの能力を考慮して予め周囲の植物を焼いたわけか。キミ、割と頭いいんだね」
「おい、聞こえなかったのか! カイをあの植物から解放しろ!」
「彼を助けたいのならまず、オレを倒して見せてほしいな」
そう言い放ったルキは、背負っていた花束を持ち上げてマモルに向け、花束にグッと力を込めた。
束にまとめられた花は突如として膨れ上がり、花束の奥から緑色の大きな手が現れた。
「……!」
衝撃的な光景にマモルが驚く中、花束から緑色の大柄な人型が次々と発生しては地面に降り立っていく。
「まずはウォーミングアップといこうか、マモルくん」
「さっきから態度が鼻につくな……キザったらしい喋り方してないと不安か?」
「君は随分と切羽詰まってる様子だね。急ぎの用事でもあるのかな?」
「あぁ!? 誰のせいでこうなったと……!」
「お喋りはここまで。じゃ、始めよっか。みんな行っておいで!」
怒りの滲むマモルの言葉を遮り、ルキは人型植物に合図を送った。
花を生やした奇妙な人型植物は一斉に動き出し、マモル目掛けて駆け出した。
「こんなもの……!」
マモルは両手に炎を纏わせ、目の前の人型植物を全力で殴りつけた。拳から吹き出した凄まじい炎は植物を覆い尽くす。
しかし、植物は仰け反るどころか微動だにしない。打撃も炎も全く効いていないようだ。
「びくともしない……!」
「オレの力で強化された植物だからね、半端な力じゃびくともしないよ」
ルキが解説する中、マモルに胴体を殴られた植物は胸元を瞬時に膨らませた。
「ぐっ……!」
マモルはバランスを崩して後方に吹き飛ぶも、咄嗟に体勢を立て直して立ち上がる。
「水分を多量に含んだ植物を燃やすなら、もっと力を上げないと。水を全て蒸発させ、燃やし尽くす勢いでね」
「そんなこと、分かってる……!」
「そっか。なら、もっと頑張ってほしいな」
「分かってる!」
ルキの言葉に強く言葉を返すと、マモルは両腕に全力を込め、両手から特大の炎を放出した。
凄まじい炎から広がった熱気は、周囲に残っていた枯れた草木を一瞬で焼き尽くした。
マモルの全力の炎はルキの人型植物に激しくぶつかった。弾けた炎は他の人型植物にも飛んでいった。
炎は植物の表面を焦がした。しかし、致命傷には今一歩届かない。
「効いていない……!?」
「キミの為に頑丈に作っておいたんだ、もっと頑張らないと焼き尽くせないよ」
「くそっ……!」
全力の一撃が不発に終わったものの、それでもマモルはめげずに戦いに身を投じた。
炎を纏った拳で同じ部位を何度も殴りつけてもすぐに傷を治され、植物からはしなる腕を勢いよく振るわれ、手痛い反撃を喰らった。
「ぐっ……!」
マモルは倒され転がりながらも起き上がる。防具が無ければ今頃マモルは大怪我を負っていたことだろう。
(駄目だ……! 今の俺ではまともに反撃できない……!)
ならばと人型植物を攻撃するフリをして、カイを縛るツタに向かって強い炎を飛ばす。
しかしルキに目的を悟られたらしく、別の巨大なツタ植物に炎を叩き落とされてしまった。
「マモルくん。カイくんの目を覚まそうと動いてるみたいだけど……無駄だよ」
「くっ……」
カイならば植物を凍らせて動きを止められるだろうと考えていたが、相手もそれを警戒していたようだ。
(まともに仲間を助けされてはくれないか……)
「…………はははっ!」
マモルがこの場をどう切り抜けようか考える中、ルキは唐突に笑い出した。
「何がおかしい」
「ああごめんね。いやぁ、君も素直で大助かりだよ。オレの言葉に素直に乗ってくれてさ……」
「何?」
「カイを眠らせるのに使用した植物はエルフの星に生えるオトギネムリという花なんだ」
ルキは手元から小さな花を生み出し、マモルに見せつけるかのように構えた。
「花の匂いを嗅いだ者は静かに眠りにつき、時間と共に最弱していき、やがて永眠する……王子様のキスでも絶対に目覚めることはないよ」
「!?」
ルキの説明にマモルは目を見開いた。
「お前、カイをどうするつもりだ……!」
「オレの目的は達成され、君達は用済みになった。となると今度は、オレ達のことを知ってる君達が邪魔になってくるんだよね」
ルキは手に持った花を地面に落とし、淡々とした口調で言い放った。
「だから……君達とその関係者には、この世から消えてもらおうと思ってるんだよ」




