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67話 激怒

 一方。屋敷に残るマモルは、自室の窓から外を眺めながら物思いに耽っていた。


(……俺、今まで戦えてなかったのか……)


 マモルは未だに実力を出せずにいる現状を憂いていた。


(指摘されるまで気付かなかった……いや、何となくだが戦いづらい状況は何度もあった。俺が見て見ぬフリをしていただけか……)


(このままでは俺は、2人にとって足手纏いになるな……どうしたものか……)


 マモルがあれこれ考え事をしていると、中庭の方角から騒がしい音が聞こえてきた。


「……」


 中庭に目を向けると、石畳の上を掃除機片手に掃除するフィオの姿が。

 掃除機は豪快な音を立てながら、石畳の上にあるありとあらゆるものを吸い込んでいるようだ。


(大変そうだな……)


 まともな指摘すら思い浮かばないのか、マモルは無謀な掃除を続けるフィオをじっと眺める。


 しばらく眺めていると、フィオは唐突に掃除機の電源を切り、携帯電話を取り出した。


 着信があったのか、フィオは携帯電話を耳に当てる。やがてやり取りを終えたフィオは、掃除機と共にその場から姿を消した。


(何かあったのか……?)


 マモルが部屋から身を乗り出したところで、屋敷の外を歩く1人の男性が目に留まる。


「ん?」


 マモルは不審に思い男性に視線を向ける。


 そんな中、黒服パーカーの男性は両手に持っていたそこそこ大きめの何かをその場で振り回し始めた。



 ハンマー投げの要領で何かを振り回していた男性は、やがて何かをマモル目掛けて放ってきた。



「えっ……?」



 マモルの部屋に向かって飛んできたのは、そこそこの大きさの石だった。



「はぁ!? うわっ!?」



 もはや岩と言っても差し支えのない物体の飛来にマモルは驚き頭を屈めた。石は窓を通り抜け、派手な音を立てて自室に転がった。


 幸いなのか、窓は全開にしていたのでガラスの破損は無し。マモル自身も警戒していたので怪我は無かった。しかし……


「な、何だ……!?」


 マモルの部屋に邪魔な物体が入り込んだ。よく見ると辺りにはマモルの身に覚えのないガラクタが多数散乱していた。


「なんだこのゴミ……って、これ手紙か!?」


 どのガラクタにも手紙が貼り付けられており、先程投げられた岩には、四つ折りにされた手紙がテープで貼り付けられていた。


「石の大きさに対して手紙があまりにも小さすぎる……! もっと手頃な石があっただろ……!」


 そもそも石は他人の家に投げ込むものではない。


「くそっ!」


 マモルは即座にメモを岩から剥ぎ取ると、自室に置かれていたホウキを手に取った。


(あの野朗、こんな危険な真似をしやがって……! 絶対に仕留めてやる!)


 力を使えない苛立ちが募っていた中で、無礼な真似をされたことがトドメとなったのか、マモルは我を忘れて激怒した。


 ホウキに跨り宙に浮かび上がったマモルは、大きく開け放たれた窓からホウキで飛び出し、岩を投げた犯人の追跡を開始した。



「待てーっ!!」


「うわっ!? 飛んできた!?」


「免許取得したからな!」


 ホウキの免許を取得したマモルは、身軽で足の速いカゲマル対策としてホウキの使用を検討していた。


 実際、ホウキは現在進行形で役に立っていた。


「というより犯人はお前か! カゲマルーッ!!」


「うわ怖っ!?」


 岩を投げた犯人はカゲマルだった。地味で目立たない服を身につけたカゲマルは、恐ろしい剣幕のマモルに驚き動揺する。


「マモルくんちょっと待って!」


「それはこっちのセリフだーっ!!」


「いやそういうことじゃなくって!」

 

 カゲマルは大慌てで塀から屋根へと飛び移りながら叫ぶも、マモルは止まる気配は微塵も見せない。


「ちょっとだけでいいから俺の話を聞いて!」


「岩を投げ込んだ奴の話なぞ誰が聞くかっ!!」


「なんか今日のマモル聞き分け悪っ!」


 普段は聞き分けがいい方だが、度を過ぎた悪さを働く相手を前にすると途端にブチ切れるのがマモルである。


 前にマモルは、カツアゲしてきた不良達の発言にキレてしまい、大人しくカツアゲされる作戦をかなぐり捨てて言い返してしまったほどだ。


「一旦冷静になって! って、岩投げた俺が言えることじゃないけど!」


「なら大人しくしろっ!」


 マモルは逃げ回るカゲマルを全速力で追いかけながら、右手に渾身の力を込めた。


「は……?」


 マモルの右手が眩しいほどに輝き、それを見たカゲマルは目を丸くして驚く。


「それって……!」


「止まれーっ!!」


 カゲマルの言葉を待つことなく、マモルは右手に込めた炎をカゲマル目掛けて解き放った。


 マモルから放たれた炎はとんでもない速度で飛んでいき、油断していたカゲマルの背中に命中。


「があっ!?」


 輝く炎はカゲマルをその場から思い切り吹き飛ばした。飛ばされたカゲマルは屋根から地面に落下する。


「あだだ……」


 地面に落下したカゲマルにマモルは急接近。ホウキをその辺に投げ出し、相手の手を捻り上げて捕獲した。


「おいお前……! 俺の部屋に岩投げ入れやがったな……!」


「だって気付かなかったじゃん!」


 怒り心頭のマモルに対してカゲマルは慌てて反論する。


「俺、ずーっと君の部屋に何度も何度も手紙を投げ入れたのに! 頭にも命中したのに、君はアホみたいに気付かないしさ!」


「だからって岩を投げ入れるな!」


「君なら受け止められると思ってたけど、それは本当にその通りだと思う! ごめんなさい!」


「二度とこんなことするな!」


「しないって! それに俺、もう君には敵わないだろうし……それより、手紙見たの?」


「見てない」


「なら急いで見てよ」

 

 マモルはカゲマルを捕縛したまま手紙を開く。


「!?」


 小さな手紙に書かれていたのは、マモルにとって想定外の内容だった。


[シロヤマカイは預かった。返してほしければ、自然公園に1人で来い ルキ]


「これは……」


「見ての通りだよ。ルキは君の友達を捕らえ、自然公園で君を待っているんだ。因みに、誰かに助けを求めようだなんて考えない方がいいよ」


 手紙の内容に目を丸くして驚くマモルに、カゲマルは手の内に忍ばせていた物をそっと見せた。


「なっ……!?」



 カゲマルの手から出てきたのは、ヴィオがいつも身につけていたリボンだった。



「そんな馬鹿な……!?」


「少なくとも、君の師匠は仲間を助けに向かえる状況じゃない。それに……」


 カゲマルは拘束されたままマモルを見上げる。


「ルキの様子がおかしい気がして……」


 曖昧な表現をするカゲマルに、マモルは僅かに顔を顰める。


「時間がないから切羽詰まってるのかな……ルキが次に何をするか分からない。下手したら俺でも想像つかないことをしでかしそうで……」


「時間……?」


「友達を早く助けに行ってあげて。お願い」


「…………」


 カゲマルの真剣な眼差しを見たマモルは、無言のままカゲマルから手を離す。


 その辺に放置していたホウキを手に取ると即座に跨って空を飛び、自然公園を目指してその場から飛び去った。


「行ったみたいだね……」


 飛び去ったマモルを見上げ、カゲマルは静かに立ち上がる。

 流れるようにポケットから携帯電話を取り出すと、ルキと通話を開始した。


「ルキ、マモルくんはそっちに向かったよ。そっちはどう?」


『ヴィオさんは異空間に閉じ込めたよ。あと、偶然カイと激突していたヴォルフのお陰で、カイを捕獲できた』


「分かった。あっ、そうそう……さっきマモルくんが……」


 カゲマルは先程起こった出来事を簡単に伝えた。


『そうか……その情報はすごくありがたいね、もっとやりやすくなったよ』


「それは良かった……あのさ、ルキ」


『何?』


「時間が足りないからって、危ない真似は絶対にしないでね」


『……分かってるよ。3人で自由になるんだって、あの時誓ったでしょ』


「うん……」


『さて、そろそろ準備しないと。カゲマル、じゃあね』


「分かった、じゃあね」


『うん』


 最後に軽く挨拶を入れ、カゲマルは通話を終了した。


 通話を終えた後も、カゲマルは手元の携帯電話をじっと見つめていた。


「……大丈夫、だよね?」

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