66話 素直
一方。異空間に閉じ込められたカイは、いつになくイラついているチャラ男のヴォルフと戦っていた。
「おらっ!」
ヴォルフは電撃を込めた重い蹴りをカイ目掛けて放つ。
カイは即座にバックラーで受け流し、漏れ出る電撃もまとめて流す。
「そこだっ!」
防御によりカイの動きが僅かに止まったところを見計らい、ヴォルフは更に追撃を仕掛けに出た。
ヴォルフはバックラーを避けてカイの側面に立つと、背中を目掛けて勢いの乗った回転蹴りを放った。
「!」
電撃の乗った凄まじい回転蹴りを、カイはもう片方の手で受け流した。
ヴォルフは体勢を崩しつつも強引に立ち上がり、カイを睨みつける。
(夢の中で散々戦ったから相手の動きが読める……!)
ヴォルフの攻撃に対する対策は十分取れている。
それと、ヴォルフは怒りからか隙の大きい技ばかり仕掛けてくる。これはカイにとって絶好のチャンスだった。
「ダセェ真似ばっかしてんじゃねー!!」
ヴォルフは怒声を飛ばしながら両足による飛び蹴りを放った。
隙だらけの攻撃が飛んできた。反撃のチャンス到来だ。
「はっ!」
カイは蹴りを受け止め、バックラーに力を込めて相手を即座に跳ね除けた。
相手が僅かに浮いた隙にカイは足元に力を込め、ヴォルフ周りの地面を綺麗に凍らせた。
通常より遥かに頑丈に作られた氷の地面は、スパイクを履いた足で降り立ったとしてもまともに歩けないだろう。
「うおっ!?」
滑らかな地面に着地したヴォルフは見事に足を滑らせた。ヴォルフの身体は地面を背にして浮かび上がる。
「今だっ!」
カイはすかさず動き、ヴォルフの胴体をバックラーの側面で勢いよく殴りつけた。
「ぐうっ!?」
バックラーは真下まで振り下ろされ、ヴォルフは固く凍った地面に全身を激しく打ちつけた。
「まだまだぁ!」
カイは振り下ろしたバックラーを即座に拡大させてシールドに変化させた。
「それーっ!!」
カイは振り下ろしていた大きなシールドを勢いよく振り上げ、地面に倒れるヴォルフの胴体を全力で殴りつけた。
「がはっ……!」
大きなシールドに殴られたヴォルフは勢いよく吹き飛び、コンクリートの壁に派手に激突。頑丈な壁が砕け、ヴォルフはその場に倒れ込んだ。
「勢いのままやっちゃった……! だ、大丈夫かな……」
カイはシールドをバックラーに戻しつつ、静かにヴォルフににじり寄る。
「あの、ヴォルフさん。大丈夫ですか……?」
一方的に敵意を向けられた相手に気を遣うお人好しのカイ。
「うぅ……おぇ……ゴホッ……」
対するヴォルフは苦しそうに呻き、なんと口から血を吐き出した。
「えっ……!? ヴォルフ! 大丈夫か!?」
「ゴホッゴホッ……!」
ヴォルフはカイの前でもがき苦しみ、口から何度も血を吐き続ける。
「やばい! やり過ぎたかもしれない! ヴォルフさん、しっかりしてくれ!」
「い、いや……違う……殴られたから、血が出たわけじゃ……ない……」
「えっ? じゃあ何で……?」
カイが戸惑う中、ヴォルフはポケットから携帯電話を取り出して操作し、画面を眺める。
「…………」
「だ、大丈夫か……?」
「心配してくれて、ありがと……ねえ、ちょっとだけ、カイくんにやってほしいことあるんだけど……いい……?」
「勿論! オレにできることなら何でもやるから!」
カイは力強く頷き、倒れるヴォルフの側に駆け寄る。
「カイくん……右手出して……」
「わ、分かった!」
ヴォルフは苦しそうに指示を出し、カイは素直に指示に従い急いで右手を差し出した。
「ありがと……あんなことしたのに、ホントいい子ちゃんだね……」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 早くしないとヴォルフさんが……!」
「……ありがと」
ヴォルフは優しい声色でそう呟くと、カイの指に指輪を装着した。
「えっ?」
ヴォルフはすかさず指輪を操作する。カイの目の前の景色が一瞬で変化し、薄暗い景色へと変化する。
「場所が……変わった……?」
芝の地面、程よく手入れされた木々に囲まれたカイは静かに辺りを見回す。
「ここって自然公園……だよな……?」
「やあ、よく来たね」
「!?」
声と共に唐突に気配を感じ取ったカイは、両手のバックラーを構えながら気配のした方を振り向いた。
「おっと! 急にごめんね!」
「あっ、お前は……!」
カイの前に現れたのは、花束を背負った黄髪の若者。
直接目で見たことはないが、カイは前々から彼のことは話で聞いていた。
「花束の男……お前、ルキだな……?」
「驚かせてごめん! それに、今日は戦いに来たわけじゃないんだ。信じて!」
ルキは慌てて花束を落として両手を上げ、カイに対して敵意が無いことを伝える。
「……お前の仲間、倒れて血を吐いたぞ」
「……ついにアイツにも来たか……」
カイの報告に、ルキは視線を下げて悲しそうに呟く。
「分かった、すぐに仲間を向かわせて対応する。カイ、ありがとう」
「……何があったのか、オレにも聞かせてもらえるか?」
「教えるよ。もう時間も迫ってるし……」
警戒しつつも優しく声を掛けるカイに、ルキは観念したかのように言葉を返す。
「時間……? 迫ってるってことは、もう時間が無いのか?」
「うん……でも、その前に渡したいものがあるんだ。大事なものだけど、何も言わずに受け取ってほしい」
「……?」
「ここにある。離れるからちょっと待ってて」
ルキは足元に置いていた紙袋に目配せし、その場から離れてカイと距離を取った。
「……」
構えを取らない無抵抗のルキに、カイはバックラーをそのまま残しつつ、構えを解いて荷物に近付く。
最低限の警戒心は残しつつも、カイは素直に荷物の前までやって来た。
「これは?」
「魔法道具。開けずにそのままヴィオさんの元まで持ち帰ってくれ」
「……分かった」
カイはルキの指示に従い、紙袋の持ち手を掴んで拾い上げた。
刹那。紙袋の隙間から植物のツタが幾つも飛び出した。
「!?」
カイの右腕はすぐさま頑丈なツタで覆われ、思うように動かせなくなってしまった。
「何だよコレ!?」
「プレゼントだよ。素直に受け取ってくれてオレは嬉しいよ」
ルキが楽しそうにそう伝える中、カイの腕を覆うツタは成長していき、やがて巨大で派手な花を咲かせた。
「花……?」
「エルフの星に生息するオトギネムリの花だよ。知ってる? この花は名前通り、人を眠らせる香りを放つんだ」
カイの前で幾つも咲いた花は凄まじい香りを放ち、カイの周囲を香りで満たした。
「ぐっ……!」
香りに包まれたカイは凄まじい眠気に襲われ、地面に膝をつく。
「植物を操る相手がいると知っているなら、防御面以外の対策もしておかないと」
ルキはカイの側に近付き、今にも倒れそうなカイに言葉をかける。
「君にはちょっとしたサプライズに参加してもらうよ。カイ、おやすみ」
「サプライ……ズ……?」
楽しそうに語るルキを前に、カイはあっという間に意識を手放したのだった。




