65話 投げっぱなし
異空間の中。オオガシラは魔力を込めた体術のみでフェアリーゴーレムを相手に戦っていた。
「はあっ!!」
オオガシラは大柄な体躯を使いこなし、目の前のゴーレムを剛腕により次々と砕き散らしていく。
頑丈なゴーレムを太い腕で薙ぎ倒し、長く逞しい脚で腹部を蹴り壊す。オオガシラはゴーレムに情けも容赦もかける様子がない。
一方、ゴーレムをオオガシラに仕向けたリーシュは上空で満足そうに微笑んでいた。
「素晴らしい力ですね。この力さえあれば……」
「うるさい! これでもくらえっ!!」
オオガシラは付近に落ちていた頭サイズのコンクリート片を片手で持ち上げ、リーシュに向かって全力で投げ飛ばした。
しかしコンクリート片はリーシュの目の前で呆気なく弾き飛ばされた。
「風で掻き消されたか……!」
「私に触れようとするとは、愚かな……」
オオガシラの行動に呆れたのか、リーシュはため息混じりに苦言を呈する。
「愚かで結構! お前を引き摺り下ろして徹底的に反省させてやるからな!」
「出来もしないことを容易に口にするとは……できるものならやってみなさい。彼らをまともに相手にした後でね!」
リーシュは板のような物体を幾つも地面に投げ飛ばす。
板は割れ、そこからフェアリーゴーレムが集団で姿を現してはオオガシラ目掛けて走り出す。
「雑魚ばかり寄越すな!」
オオガシラはゴーレムが振り下ろしてきた拳を掴むと、腕をゴーレムごと振り回して他のゴーレムを襲い始めた。
「!」
スイングにより振り回されたゴーレムは他のゴーレムを破壊していき、最後はゴーレムの群れの中へと投げ飛ばされて破壊された。
オオガシラはすぐに次のゴーレムを掴み、今度はハンマーのように豪快に持ち上げて振り下ろす。
凄まじい威力にゴーレム達は一網打尽、全て破片と化して消滅した。
「まさかゴーレムを武器にするとは……とんでもない男だ……」
「まだまだぁ!!」
リーシュが戦慄しながら呟く中、オオガシラは近くにいたゴーレムの片足を強く掴んだ。
オオガシラはその場で回転し、ゴーレムを豪快に振り回していく。
遠心力によりゴーレムは地面から浮かび上がり、周りにいたゴーレムは即座にオオガシラから距離を取って次の動きを警戒する。
「でりゃあああああああ!!」
オオガシラは辺りに響くほどの物凄い声量で叫び、なんとゴーレムをリーシュ目掛けて勢いよく投げ飛ばした。
「は……?」
ガタイのいいゴーレム1体はとんでもない速度で空を飛び、あっという間にリーシュの元に到達。
「ふん!」
とんでもない速度で飛んできたゴーレムに驚きつつも、リーシュは風の勢いを上げてゴーレムを迎え撃つ。
「この程度……はあっ!」
ゴーレムはリーシュの生み出す凄まじい暴風により進行方向が変化し、リーシュの横を凄まじい速度で横切った。
「フフ、空に浮かぶ相手には手も足も出な……い?」
ゴーレムが飛び去った後、オオガシラのいる地面に目を向けたリーシュは思わず自身の目を疑った。
(私より遥かにデカいコンクリート片を……振り回している!?)
ゴーレムを投げ飛ばした後、オオガシラはその辺のコンクリート建ての建築物に急いで駆け寄り、正拳突きの一撃で建物を破壊した。
大破して地面に落ちた大きめのコンクリートを剛腕で拾い上げると、ハンマー投げの要領で振り回し始めた。
遠心力により重いコンクリート塊は持ち上がり、リーシュのいる方角まで浮かび上がった。
「まさか……いや、幾ら奴でも流石にあれだけのコンクリート片をここまで投げ飛ばすのは不可能……」
「どりゃああああああ!!」
リーシュは不可能だと断定する中、オオガシラはリーシュ目掛けてコンクリート片を全力で投げ飛ばした。
「は?」
オオガシラにより投げ飛ばされたコンクリート塊が空を飛んだ。
凄まじい腕力と遠心力により空を飛んだコンクリートはリーシュ目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。
リーシュの眼前を、今度はコンクリートの塊が迫る。
「馬鹿な!?」
リーシュは慢心していた。
相手はこの世で最も見下している種族であり、能力使いでもない。番長として地上で喧嘩に明け暮れていた野蛮人以外の何者でもない。そう思っていた。
しかし、そんな野蛮人は妖精リーシュに対して想定外の反撃を繰り出した。
慢心した上に格下と見ていた相手からの思わぬ反撃に焦ったリーシュは、土壇場で間違った判断を下してしまった。
(風で急いで進路を……!)
その場から飛んで逃げず、風で立ち向かう方針に舵を切ってしまったのだ。
即座に暴風で迎え撃つも、何もかもが手遅れだった。
勢いを完全に殺し切れず、コンクリート片は風の壁を容易に突破。巨大なコンクリートの塊はリーシュと激しく衝突した。
「……!?」
コンクリートの塊と激突したリーシュは気絶。リーシュの周りから風が消え、そのまま重力に引かれて地面に向かって落下し始めた。
「!」
オオガシラはリーシュを目掛けて全速力で走りだす。
目の前のゴーレムをタックルで破壊し、跳躍でゴーレムの頭上を飛び越えた。
飛び石のようにゴーレムの頭を踏んづけながら大股で駆け抜けていく。
落下するリーシュに向かってただひたすら一目散に駆けるが、リーシュの落下速度はとても早く、リーシュと地面との距離はあと僅かとなった。
「うぉおおおおおおおおお!!」
オオガシラは即座にスライディングで飛び込んだ。
背中を豪快に擦ったオオガシラはリーシュを着地スレスレで強引にキャッチ。無事にリーシュを保護したのだった。
「よっしゃああ!!」
多少強引だったがリーシュをキャッチできたオオガシラはその場で雄叫びを上げる。
周囲にいるゴーレム達は、主人が気絶した影響なのかその場で硬直したまま全く動かない。
(終わったか……)
ゴーレムが停止したのを確認したオオガシラは、改めて手の中のリーシュに目を向ける。
(コイツ、妖精なのにやけに重いな……)
「……にしてもコイツ、中々起きんな。おいリーシュ、平気か!」
多少は心配しているのか、オオガシラはリーシュに声を飛ばして容態を確認する。
「うぅ……」
リーシュは僅かに呻き声を発するのみで、起きる気配はない。ただ衝撃を受けて気絶したにしては様子がおかしい。
「おい、大丈夫か! くそっ、流石にやりすぎたか……!」
明らかに容態の悪いリーシュの前でオオガシラは悪態をつきながらも携帯電話を取り出した。
携帯電話には謎の装置がストラップのごとくぶら下がっている。
これさえあれば、浅い異空間の中だろうが携帯電話の通信が途切れない。
事実、オオガシラの携帯はすぐにフィオの携帯に繋がったようだ。
「フィオ! リーシュの様子がおかしい!」




