63話 不穏な空気【挿絵あり】
休日の朝。落ち込んだマモルを元気付けるためのお菓子を買いに、カイはオオガシラを連れてコンビニにやって来た。
「マモルが好きなお菓子が無い……!?」
「輸入品や、輸入品を使用した商品は軒並み姿を消したようだな」
普段より品揃えが少ないコンビニの棚にショックを受けるカイ。隣に立つオオガシラは冷静に棚を眺める。
「えーと……とりあえずマモルが好きそうなやつを幾つか買ってこうか」
「カイ、アイツはどんなのが好きなんだ」
「お笑い!」
「コンビニで売ってるやつで答えろや」
「基本的に辛いものとか好きだな! 後はおつまみ系の物とジュースと……」
「ツマミ類か……ビーフジャーキーはどうだ」
「美味しそうだな! それも入れよう!」
カイとオオガシラはあれこれ話し合いながら、マモルの好きそうな商品をカゴに入れていく。
「よし、こんな感じだな!」
「会計は2人で出すとするか」
「オオガシラ、いいのか!?」
「これくらいは出させろ」
「ありがとう!」
カイとオオガシラは互いに金を出し合って会計をして、2人並んでコンビニから退店した。
「……カイ」
「なんだ?」
「その妙な格好は何なんだ?」
オオガシラはカイの妙なファッションに目をやる。サングラスと帽子、やけに派手で大きなネックレスというカイらしくない格好だ。
「これか? 前にオオガシラが「一般人とは歩けん!」とか言ってたから……」
「まさか不良の格好したのか!? 下手に着飾るとかえって目立つ! 服全部脱げ!」
「服全部!? せめて変装道具だけぬがせてくれ!」
カイとオオガシラが一悶着起こしているその頃……
「ゴホッゴホッ……」
町の裏通り。チャラい若者ヴォルフは、壁に手をついて腰を曲げ、空いた手で口元を覆いながら苦しそうに呻いていた。
「ゔぇ……」
ヴォルフは何度も咳き込み、口から赤黒い液体を吐き出した。
「ついに俺も来たかぁ……無茶した分、早く来たかもなぁ……」
手に付着した血液を眺め、苦しそうにヴォルフは呟く。
「今、まともに動けるの俺くらいなのに……! 俺までくたばったらマジでヤバいかもしんない……」
ポケットから錠剤を取り出して服用すると、高そうな革ジャンのまま壁にもたれかかり、ズルズルと下がり地面に座り込んだ。
「……やだなぁ、折角自由になれたのに……マジで俺、このままだとマズイかも……」
悔しそうに吐き捨てたところで、表通りから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……?」
少し身体が楽になったのか、ヴォルフはその場からなんとか立ち上がり、笑い声のした方に目を向けた。
「…………」
ヴォルフの視界に入ったのは、楽しそうに語り合うカイとオオガシラの姿だった。
「マモル、喜んでくれるかな?」
「どう思うかはマモル次第だ」
「それもそうだな」
カイは大きく膨らんだビニール袋を手に持ち、町の中を早歩きで移動する。
「オオガシラ。一緒に選んでくれて、さらにお金まで出してくれてありがとうな!」
「これくらいはさせてくれ。あの時、アイツに騙されたとはいえ、俺はお前を襲い怪我をさせたのだからな」
「襲ったなんてそんな……!」
声の調子を落として思い詰めるオオガシラに、カイは脚を止めてすぐさま反論する。
「でもあの後! オオガシラは妖精を倒す手伝いもしてくれたし、この間なんか人工妖精を倒す手伝いもしてくれたし!」
「あれは当然のことをしたまでだ」
「あの時、すごく助かったし嬉しかった! オレ、オオガシラに頭上がらないよ!」
「……」
カイの発言を、オオガシラは真顔のまま受け止める。
「……オオガシラ、困ったことがあったらオレが助けるからな。オレのできる範囲でだけど……」
「尻すぼみになるな」
カイの何ともいえない宣言にオオガシラは半ば呆れる。
「そこはもっと力強く言うところだろうが」
「そんな無責任なこと言えないって……いや、よく考えたらオオガシラが困るような事態をオレが助けられるのか……!?」
「急に不安になるな! 何としても助けるとか言え!」
「そうだな……! オオガシラ、何か困ったことがあったら絶対に助けるからな!」
「何が来るかも分からんのにそんな見栄を張るな!! もっと自分を大切にしろ大馬鹿が!!」
「ごめんなさい!」
「素直に謝罪してどうする!!」
オオガシラに理不尽に怒鳴られ、カイは素直に謝罪する。
「理不尽に怒られたんなら少しは言い返せ!!」
「理不尽に怒ってる自覚あったんだ……」
「…………まあ、お前の覚悟はしかと受け取った」
オオガシラはなんとか落ち着き、ぶっきらぼうにそう呟くと、ポケットを探り携帯電話を取り出した。
オオガシラは携帯電話を操作し、カイに携帯電話の画面を見せる。
「カイ、これを見ろ」
「これは……妹の写真か?」
画面に写っていたのは、オオガシラの妹トモと、見知らぬ男子学生のツーショット写真だった。
男子生徒は洒落た髪型をしており、爽やかな笑みを湛えている。
「オオガシラの妹の隣にいるのは……」
「俺の兄弟だ」
「この人とオオガシラが兄弟ぃ!?」
「驚きすぎだ」
「あっごめん! なんかオオガシラとタイプがまるっきり違ってたから……」
カイはすぐさま謝罪し、改めて携帯電話の画面を見つめる。
「でも確かに目元とか似てるよな! 妹ともそっくりだし……」
「コイツはずっと、俺達の前に姿を見せないんだ」
「……家出したのか?」
「そんなところかもな……」
オオガシラはいつになく力のない声で呟く。
「俺はずっとこの兄弟を探しているんだ。お前なら笑わずに、素直に聞いてくれると思ってこの話をしたんだ」
「笑わないよ! 大事な兄弟が行方不明なんだろ!? オレも探すの手伝うよ!」
「……ありがとう」
カイはオオガシラに向かって力強く言い放ち、オオガシラは素直に礼を述べる。
「だが、そこまで力まなくていい。俺がいるうちはコイツは見つからないだろうからな。コイツが現れるのは恐らく、俺が居ない時だ」
「居ない時って……もしかして、喧嘩したのか?」
「そんな悲しそうな顔するな。少しすれ違いが起きただけだ」
「そっか……」
「カイ、もし奴を見かけたら俺に教えてくれ」
「分かった!」
オオガシラの言葉に、カイは力強く頷いた。
「さて、急いでマモルの元へと戻るとするか」
「そうだな!」
カイは元気よく頷くとその場から走り出した。
「あっ、そうだ! なあ、オオガシラは……」
カイはオオガシラの好物を聞き出そうと、その場で立ち止まってオオガシラの方を振り返った。
「……あれ?」
オオガシラの姿が見当たらない。
「オオガシラ……?」
カイは辺りを見回すが、オオガシラはおろか周囲に人の気配すらない。
「これってまさか……」
「久しぶりぃ」
異空間に閉じ込められたことを察したカイの元に、フェアリーゴーレムを引き連れた1人の若者が姿を現した。
チャラい若者ヴォルフだ。
「あっ! お前はあの時の……!」
「なあ、こんなところで何してんの?」
「えっ?」
前に会った時は陽気でノリの良さそうなチャラ男という印象だったが、今のヴォルフは妙に殺気立っていた。
「俺達がいつ襲ってくるか分かんない状況で、よくそんな呑気に買い物できるよねーって。馬鹿じゃねーの?」
「えっと……」
「呑気に語らう君達見て? ちょーっとカチンと来たっていうか? 俺を前に随分とのほほんとしてんなーって……」
「ど、どうしたんだ……?」
様子のおかしいヴォルフに、カイは困惑しながら声を掛ける。
「もしかして、そっちで何か困ったことでも起きたのか? オレに手伝えることとかあるか?」
「だったら」
ヴォルフは目の前のカイを睨みつけ、怒りの滲んだ低い声で一言言い放った。
「俺と本気の潰し合いしてよ」




