61話 本気未満
ヴィオの所有する敷地内にて。
遠くに見える休憩所以外には何もない荒地で、オオガシラとマモルは模擬戦と称した本気のぶつかり合いをしていた。
「そらっ!」
「甘いっ!」
マモルは炎を乗せた拳をオオガシラに放つが、オオガシラは余裕で躱し、カウンターでマモルに全力の拳をお見舞いした。
「ぐっ……!」
腹部に強烈な一撃を受けたマモルは後方へと吹き飛び、背中から地面へと倒れ込んだ。背中と地面が擦れ、僅かに砂煙が上がる。
「マモル! 真面目にやれ! 本気なのは見た目だけか!?」
オオガシラは眉間にシワを寄せ、倒れたマモルに全力で叫ぶ。
「……俺は、本気だ……!」
「なら遠慮なく全力をぶつけてこい! 何を遠慮している!」
「遠慮なんか、してない……!」
「……」
マモルは何とか立ち上がり構え直すも、オオガシラは不満があるのか渋い顔をしている。
「……オオガシラ」
そんなオオガシラに、マモルはいつになく真剣な面持ちで声を掛ける。
「今の俺は、本気で戦えてないのか」
「……」
マモルのただならぬ様子を見たオオガシラは、渋い顔を緩めてマモルを真っ直ぐ見やる。
「俺は本気で戦っているつもりだった。だが……」
「……マモル、お前はずっと手加減して戦っているぞ。力のない俺に対する嫌味かと思うほどにな」
「そうか……」
オオガシラの言葉に耳を傾けたマモルは、その場で構えを解いた。
「オオガシラの実力は、今この場で戦ってよく分かった。オオガシラは今の俺が手加減して戦える相手ではない」
「お前……」
「オオガシラ、本当に申し訳ない」
頭を深々と下げて謝罪するマモルの前で、オオガシラは静かに構えを解く。
「オオガシラ、今日はもうやめにしよう。今の俺の実力では、オオガシラを不快にさせるだけだ。それと、少し考える時間が欲しい」
「……分かった」
マモルの提言にオオガシラは素直に頷き、2人の模擬戦は静かに幕を閉じた。
次の日……
「……」
朝練。動きやすい服装でヴィオの敷地内に移動し、ランニングを始めた3人だが、マモルの様子がどこかぎこちない。
いつもと違うマモルに違和感を覚えたカイは、ランニングしながら声を掛けた。
「なあマモル、なんか……」
「そんなことないぞ」
「マモル、オレまだ本題に入ってないんだけど……」
「カイ、心配するな。俺はいつも通りだ」
「なんか違うよ! 今のマモル、なんか落ち込んでるように見えるっていうか……」
「カイ」
マモルと話を続けようとするカイに、オオガシラが即座に割り込む。
「オオガシラ、どうした?」
「……勝負するぞ」
「えっ?」
「俺とお前……! このグラウンドを全力で駆け抜け、どちらが先に100周するか勝負しろと言ったんだ……!」
「ええっ!? 広いグラウンドを100周も!? 流石に朝練の運動量じゃ……!」
「問答無用!!」
「うわあっ!?」
オオガシラの大きな腕に掴まれ、カイは半ば強引にグラウンドを走らされた。
「オオガシラ……すまない」
オオガシラとカイを申し訳なさそうに見つめるマモルは、そっとその場から離脱。フィオの力で先に屋敷へと戻った。
「マモル……大丈夫なのかアイツは……」
「オオガシラ……は、離して……」
オオガシラはカイを抱えて走りつつ、遠くからマモルを見つめ独り言を呟く。
「……あっ、カイすまん!」
「だ、大丈夫……」
「強引に掴まれたんだぞお前! 少しは怒れ!」
なんやかんやあってカイとオオガシラも朝練を終え、2人は屋敷へと戻った。
「大変な目に遭った……」
「カイ、悪いな……あの場ではああするしかなかったんだ」
「オレ、意識失いかけたんだけど……」
カイとオオガシラは屋敷内を移動しながら話をする。
「なあオオガシラ、マモルは……」
「今は放っておけ。1人で考える時間も必要だろう」
「分かった……なあオオガシラ」
「なんだ」
「せめてお菓子の差し入れくらいはしてもいいかな……」
「……菓子は許可する」
「やった! そうと決まれば今から一緒にコンビニ行こうぜ!」
「断る! ……と、言いたいところだが、今は単独行動は控えるように言われてたな……仕方ない」
「ありがとう! じゃあ支度したら玄関に集合な!」
「分かった分かった。無駄にはしゃぐな」
カイとオオガシラは約束を取り付け、自室へと移動する。
そんな微笑ましい様子を、屋敷の窓に張り付きながら眺める不審なメイドが1人。
「しくじったかもしれん」
「何してるんですかフィオさん」
窓ガラスに張り付くフィオを、中庭にいたヴィオが発見して声を掛ける。
「ヴィオか。昨日、力が伸び悩んでいるマモルをどうにかしようと、マモルをオオガシラと戦わせたんだ」
フィオは窓から中庭へと着地し、昨日起きた出来事を話始めた。
「同年代の相手と戦えば、何か掴めるかと……マモルとオオガシラがお互いにライバル心を燃やし、2人で切磋琢磨し合うんじゃないかと期待したんだが……作戦は失敗した」
「ハルヤマさん、元気がないご様子でしたね」
「アイツは変に素直なところもあるからな……マモルの熱い心に火をつけようとしたが不発したな。マモル自身、手加減してることに気付いていなかったらしい」
修行の成果により、マモルは人前で力を使えるようにはなった。
しかし、完全復活とまではいかなかったらしい。
「力を完璧に使い切れてないと気付いたマモルは落ち込み悩み、結果的にカイやオオガシラに気を遣わせる事態となってしまった」
「誰かを介入させず、わたくし達の手でハルカワさんの力を強引に引き出した方が良かったのかもしれませんね……」
「……とりあえず聞くが、ヴィオはどうやってマモルの力を引き出すつもりなんだ」
「わたくしとフィオさん2人がかりでハルカワさんと戦うんです」
「仮にその作戦が成功してもマモルはほぼ確実に半殺しになるだろ。下手したらトラウマになるからやめろ」
ヴィオの作戦にフィオはすぐさま苦言を呈す。
「……私達はこの手のトラブルは不得手だ。今のマモルとどう接したらいいか分からん」
「ならば、私にお任せください」
「おいヴィオ、お前も人間関係のトラブルはあまり得意じゃないだろ」
「大丈夫、今のわたくしは昔のわたくしとは大違いですから」
フィオは半ば呆れながら指摘するも、ヴィオは心配ご無用とばかりに胸を張る。
「ヴィオ、何する気だ」
「珍しいお菓子を沢山買ってきます! 全員でお菓子パーティーを開くんです!」
「…………」
ヴィオは楽しそうに言い放ち、それを聞いたフィオは渋い顔をして口を閉ざした。
「……ガキじゃあるまいし」
「でも、悩んでいる時は甘いお菓子が1番ですよ? と、いうわけでわたくし、街に繰り出してきます!」
「あっ、おい……」
ヴィオは紫のパーカーを羽織ると、その場に残像を残して屋敷から姿を消した。
目の前から主人が消え去り、取り残されたフィオはボソリと呟く。
「……アイツ、どさくさに紛れてデパート行く気だな」




