57話 再会
妖精騎士団の団長リーシュは自らが生み出した風に乗り、異空間から脱出した。
「……おや?」
遊園地の敷地内に降り立ったリーシュは、園内の景色に違和感を覚える。
「人がいない……」
人で賑わっていた園内は鳴りを潜め、辺りには妙な空気感が漂う。
「まさかここは……異空間の中?」
「正解」
リーシュの独り言に誰かが返事をしたかと思うと、リーシュの手足に銀製の枷が装着された。
「!?」
「よぉリーシュ、相変わらず呑気なものだな」
驚くリーシュの元に、メイドのフィオとマモルが姿を現した。
フィオの手には、布で覆われた銀製の魔法道具が握られている。
「貴方の仕業でしたか……」
「お前、園内に妨害魔法を生み出す装置をばら撒きやがったな。スタッフが困ってたぞ」
「私には関係ございません」
フィオは銀色に輝く輪を手にリーシュに近付く。リーシュは銀の拘束具による影響か、どことなく苦しそうにしている。
「相変わらず人間には冷たいな。自分と妖精さえ良ければ他はどうでもいいという考えは相変わらずだな」
「当然です。同族が最優先なのは人間も同じでしょう?」
「……人間は悪いやつばかりじゃない。それはお前だって分かってるだろ。少しはその情けを人間に向けてくれてもいいんじゃないか?」
フィオの言葉に、リーシュは嫌悪感を露わにする。
「……剣を握れなくなった騎士団長が偉そうに」
「まあそうだな。本来の役割を果たせなくなった老耄が偉そうに言ったところで、お前に響くわけがないな」
フィオは相変わらず飄々とした様子でリーシュに言葉を返すと、手に持っていた銀製の魔法道具をホウキに装着した。
「マモル。弱体化させたとはいえ、リーシュは妖精のみが所属する騎士団のメンバーだ。下手に動くと手痛い反撃を喰らうぞ」
「気をつけます」
フィオはマモルに注意を促し、改めてリーシュに目を向ける。
「とりあえず大人しくしてもらうからな。詳しい話は屋敷で聞かせてもらおうか」
「随分と手荒な真似をするのですね」
「これでも手加減してる方だ。身体中を銀の針で貫かれないだけマシだと思え」
フィオは手にしたホウキを構えると、一瞬にしてその場から姿を消した。
フィオはすぐさまリーシュの背後に現れ、銀の道具が装着されてホウキをリーシュ目掛けて全力で振り下ろした。
「ごめんあそばせ」
「あ?」
何処からともなく聞き馴染みのない女性の声が聞こえたかと思うと、リーシュの足元から巨大な銀の壁が出現。
フィオのホウキは呆気なく防がれてしまった。
「何だ?」
さらに銀の壁からフィオを目掛けて銀色の剣が飛び出した。フィオは即座に飛び退いて距離を取る。
「何だこれは」
「失礼します」
眉間に皺を寄せるフィオの前に現れたのは、お嬢様の身なりをした長い銀髪を持つ少女。
「貴方は……シロガネさん……?」
能力使い試験の会場で出会ったお嬢様がフィオとマモルの前に現れ、マモルは驚き動揺の色を見せる。
「マモル、知り合いか」
「前に能力使いの試験で顔を合わせた、やたら戦いたがる人です」
「武闘派お嬢か」
「何故、貴方がここに……?」
「ハルカワさん……だったかしら。久しぶり」
驚くマモルに対し、シロガネは上品に片手を振りながら挨拶をする。
その隙に、銀の壁に囲まれていたリーシュが姿を現し、シロガネに顔を向けて一言放った。
「何故、貴方がここに……?」
「なんでリーシュも想定外みたいな反応見せるんだ」
「あの、シロガネさん。何故その人と一緒に……?」
「彼の身勝手な作戦に巻き込まれることにしたの」
マモルの質問にシロガネは楽しそうに答える。楽しそうにするシロガネだが、彼女の手足や地面には銀色の輝きが見える。
どうやらフィオの瞬間移動を警戒しているらしく、いつでも反撃できるよう身構えているようだ。
そんなシロガネに対し、今度はフィオが口を開く。
「作戦か……お前はコイツについて何か知ってるのか? 知った上でコイツの仲間になってるのか?」
「……残念ながら、私は彼らの仲間ではないの」
「どういうことだ」
「こういうこと」
シロガネはフィオの質問に答えるようにリーシュの側に近付くと、シロガネはリーシュに静かに武器を突き立てた。
「「……?」」
目の前に繰り広げられた光景に、フィオとマモルは思わず停止する。
「おかしいな。こういうのは普通、銀髪があのロン毛に脅されて何かさせられているのが普通じゃないのか」
「あの……これってつまり、シロガネさんが無茶言ってリーシュの作戦に加担してるということでは……」
「いや、そんなまさか」
なんとも言えない空気が流れる中、リーシュは静かに口を開いた。
「助けてください……」
「姉御、気のせいでしょうか。敵側から助けを求める声が聞こえたのですが」
「銀の剣を突き立てられたらどんな妖精もこうなるだろ。にしても、途端にアイツが惨めに見えてきたな」
「さて、これで私が置かれている状況が理解できたかしら」
「えっと……なんとなく……」
マモルとフィオが見つめる中、シロガネは手に持ったハンコ型の魔法道具をリーシュの拘束具に押し当てた。
拘束具は音を立てて崩れ落ち、地面に転がる。
「さて、そろそろお暇しないと……ハルカワさん」
この場から去ろうとするシロガネは、何か伝えたいことがあるのかマモルに顔を向ける。
「私から言えることはひとつ、とにかく強くなりなさい」
「強く……?」
「お互い、悔いの残らないようにしましょう」
シロガネは最後にそう告げると、手元にある指輪の魔法道具を発動させた。
リーシュとシロガネはその場から姿を消し、この場にマモルとフィオの2人が残った。
「あの銀髪、事情を知ってる様子だったな」
「……とりあえず、ヴィオさんと合流しましょう」
「そうだな」
フィオは懐から大きな宝石型の魔法道具を取り出すと、魔法道具により遊園地に展開した異空間を消して現実に戻ったのだった。




