54話 不穏な音
ヴィザードギルドにて。ヒョウはオオガシラ番長の闘志に火をつけ、入手難易度の高いピンズを見事ゲットした。
「まさかピンズが全部揃うなんて……最高……!」
ヒョウは満面の笑みを浮かべながら手元のピンズを眺める。
「じゃあ、私達はこれで! ヒョウ先輩、また学校で会いましょう!」
「トモちゃんじゃあね〜」
オオガシラ兄妹とはここでお別れ。トモとヒョウは互いに手を振り合ってお別れした。
「じゃあな」
「オオガシラ、また遊ぼうな!」
「……マトモになったら遊んでやる」
カオルとカイも短い別れの挨拶を述べ、2組の兄妹は別行動を開始する。
「さて、行きたい箇所は一通り巡れたし……ここからは、帰りの時間が来るまでパーク内をのんびり歩こっか」
「そうだな!」
2人はファンタジーランドをほぼ計画通りに回れて満足したらしく、ここからは散歩に切り替えるつもりのようだ。
「兄ちゃん、なんか乗りたいアトラクションとか、食べたいものとかある?」
「チョコドーナツ食べたい!」
「確かそのドーナツってグリーンエリアにあったよね。じゃあ行こっか」
「よっしゃー!」
カイは元気よく声を上げ、意気揚々と歩き出した。
そんなカイの耳に、何かが割れたような奇妙な音が入る。
「……ん?」
「兄ちゃんどうしたの? 急に立ち止まって」
「向こうでガシャンって、なんか割れる音が……」
「えっ? まさか設備の不調とか?」
「何だろう……」
「うーん……とりあえず見に行ってみる? なんかあったらまずいし……見つけてスタッフの人に報告しようよ」
「そうだな……ヒョウ、兄ちゃんの後をついて来てくれ」
「分かった」
カイは耳を澄ませながら移動を開始。奇妙な音のする方角に向かって早歩きで進む。
「どうしたんだアイツ」
カイの護衛をしていたフィオとマモルは、妙な方角へと走り出したカイを即座に追いかける。
ヴィオはカイの妙な動きを事前に察知し、真っ先にカイ達の元へと移動済みだ。
「……風の動きが妙だな」
「風?」
カイの後を追うフィオは、空気の変化に気付き辺りを見回す。
(十中八九、アイツの仕業だろうな……あの野朗、カイにだけ何か妙な音でも聞かせて誘導しやがったな)
フィオは妖精騎士団の団長を思い出し、僅かに顔を歪める。フィオはこの地にいるであろう団長を探そうと、魔力探知で辺りを探る。
「……駄目だ、風を出した相手を察知できん。この遊園地内に妨害魔法を敷いているのか分からんが、魔法探知が全くできない」
「妨害魔法……?」
「あれ? おかしいな……」
フィオの話に耳を傾けていると、遠くから見知らぬ男性の不思議がる声が聞こえてくる。
マモルは気になり、声のした方角に視線を向ける。視線の先には装置に集まるスタッフの姿が。
「装置が動かないな」
「別に故障してるわけでもないのに……」
どうやら園内で使用していた、魔法で作動する装置が故障したらしい。
「あれは……」
「恐らく、妨害魔法の影響だろうな」
園内で妙な妨害が起きていることに2人が訝しむ中、さらにトラブルが起こる。
「行き止まりか」
「カイ達は確かにこの先に向かったはずでは……」
「まずいな、妨害魔法で痕跡も辿れない。2人を完全に見失ったらしい」
フィオとマモルは行き止まりで立ち止まる。
「見失ったというより、この場から消えたのでは……?」
「それで合ってるかもな。多分カイと妹は此処から異空間に飛ばされたかもしれん」
フィオは何か言いかけるも口を閉ざし、その場で何かを探るように両手を突き出して魔力操作をする。
「……やはり駄目か。妨害の影響なのか、異空間に繋がる入り口が見つからない。入り口が見つからない以上は入りようがないぞ」
フィオは両手を下ろすと、マモルに顔を向ける。
「カイ達のことはヴィオに任せるしかない。私達は妨害魔法の元を探るぞ」
「分かりました、姉御」
一方、先頭を走るカイは、妙な音のする方角に向かって真っ直ぐ進んでいた。
「向こうからなんかおかしい音がする!」
「本当だ! 何の音かな……」
「聞いたことのない音だな……何かが割れて裂けてるような、気味の悪い音だ……」
全身に響くような奇妙な音に、カイとヒョウは不快感を露わにする。
「……ねえ、兄ちゃん」
「ヒョウ、どうした」
ヒョウはその場に立ち止まり、カイはやや遅れて停止してヒョウに駆け寄る。
「私達、地図にないところ走ってない?」
「えっ?」
ヒョウに指摘され、カイは慌てて辺りに視線を向ける。
「あ、あれ……? ここ何処だ?」
2人にとっては見慣れた筈のパーク内。
隅から隅まで園内を把握しているつもりの2人なら、どのエリアの何処を走っているのかすぐに判別がつく。
しかし2人の視界に広がるのは、パーク内の建築物に似た建物が不揃いに並ぶ、奇妙な世界だった。
「ここ、ファンタジーランドじゃないよね……」
「まさかここ、異空間か……?」
異質な空間にヒョウは不気味がり、カイはそんなヒョウを守るように立ちながら辺りを見回す。
「何ここ……なんか嫌な気配がするんだけど……兄ちゃん、此処から出た方がいいよ」
「そうだな。ヒョウ、元来た道を戻……」
「キャアッ!?」
2人が引き返そうとしたその時。ヒョウはカイの後方に何かを発見したらしく、大きな悲鳴を上げた。
「!?」
カイはヒョウの視線の先に目を向けた。
視線の先には、今まで見たこともない奇妙な生物の姿があった。
「何だあれ!?」
妙な髪型に特徴的な髭を生やした、見るからに普通ではない謎の生き物の群れ。
「……兄ちゃん。多分だけどアレ。人工妖精だと思う」
「人工妖精……?」
ヒョウの言葉に耳を傾けつつ、カイはその場で身構える。
「魔力の多い妖精特有のおかしな重力を持ってる。風も無いのに服とか揺れてるし、身の回りに金属が見当たらない。そして、みんなほとんど同じ顔をしている……図鑑に書かれてた人工妖精と一致してると思う」
「あの変な奴ら、人為的に作られた妖精ってことか?」
「多分……あっ!」
カイとヒョウが会話をしてる間に、目の前の人工妖精らしき生物の1体はカイを目掛けて走り出してきた。
『キャキャキャキャーッ!!』
妖精の手には木製のナイフを所持しており、奇妙な笑い声と共に襲い掛かってきた。
「キャッ!?」
「危ない!」
カイは目の前の妖精に向かって即座に結晶を放つ。結晶は妖精を貫き、胴体に穴が空いた妖精は即座にその場から姿を消した。
「よし、倒せた……!」
「な、何でこっちを敵視してんの……!?」
「何だかよく分からないけど、こっちに危害を加えるつもりならこっちだって容赦しないからな!」
カイはヒョウの前に立つと、その場で力強く身構えた。




