53話 ヴィザードギルド【挿絵あり】
昼間、ファンタジーランドにて。
目当てのピンズを手に入れるために的当てゲームの列に並ぼうとしたカイとヒョウの前に、ヒョウの後輩であるトモが姿を現した。
そんな後輩トモの後に付き添いの兄が駆けつける。そんなトモの兄は、かつてカイと戦った不良のトップ、オオガシラ番長だった。
「おおっ奇遇だな! オオガシラば……」
「久しぶりだなカイッ!!」
「ぐえっ!?」
オオガシラ番長は馬鹿力でカイの肩を掴んで強引に引っ張り込みながら、ヒョウとトモから少し距離を取った。
オオガシラ番長は妹達に聞こえないよう、肩を組んだカイに小声で話しかける。
「お前、なんでこんなところにいるんだ……!」
「い、妹が気晴らしにって……」
「いい妹を持ったな……それより、私服の俺を番長と呼ぶな……!」
「でも、オオガシラはいい番長……」
「不良をよく思う奴はごく少数だ! お前は良くても、不良というだけで周りは不快に思うんだ! 気をつけろ!」
「ご、ごめん……! でも、そろそろこれやめた方が……」
カイは妹のヒョウのいる方角に目を向ける。
「妹のヒョウ、そういうの鋭いからさ……あまり下手なことしてるとバレるかも……」
「妹はカイと違い、切れ者ということか……」
カイの話を聞いたオオガシラ番長は、カイを腕から解放する。
「あたた……」
「兄ちゃん大丈夫?」
カイがオオガシラ番長から離れたところでヒョウはカイに駆け寄る。
「大丈夫! ちょっと痛かったけど……」
「……なんかトモの兄さん、カイ兄ちゃんの言おうとした言葉を遮るように動いてなかった?」
「えっ」
ヒョウの一言にカイは僅かに動揺する。
「兄ちゃん……もしかして、トモの兄さんになんか失礼なこと言おうとしてたんじゃないの?」
「あの……ええと……オオガシラのこと、あだ名で呼ぼうとしたら止められて……」
「本当に……?」
「本当だ!」
訝しむヒョウにオオガシラ番長が割り込む。
「コイツ、俺のことを番長と呼ぼうとしてな……俺はそのあだ名は好きじゃない」
「あー、オオガシラお兄ちゃん不良って呼ばれるの嫌そうにしてるもんね」
「なるほど……」
オオガシラ番長と妹のトモの発言により、ヒョウはようやく納得したらしい。
「兄ちゃん、相手が嫌がることはしないようにね」
「そうだな……オオガシラ、ごめん」
「素直だな……いや、分かってくれたならいい。俺も強引に掴んで悪かった」
「いいよ! 元はといえば俺が原因だし……」
お互いに謝罪し合い、この場はなんとか収まった。
「……カイ」
「なんだ?」
オオガシラはカイに近付き、こっそり耳打ちする。
「俺のことは普通にオオガシラと呼んでくれていい。外でも番長を付けずに呼んでも構わないからな」
「……! 分かった、よろしくなオオガシラ!」
オオガシラにほんの少し認められたような気がしたカイは、元気な笑みを浮かべながら改めてオオガシラに挨拶をした。
「そうだヒョウ先輩! 折角ここで出会えたんですし、途中まで一緒に回りませんか?」
「アドベンチャーエリア内ならいいよ。私、ここのピンズがどうしても欲しくてさ」
「なるほど! だからこの建物の前にいたんですね!」
トモは真正面にあるヴィザードギルドに視線を向ける。
「確か的当てとかパンチングマシーンとかあるんですよね! 私達も並びますよ! ねえお兄ちゃん、いいでしょ?」
「構わない」
こうしてシロヤマ兄妹とオオガシラ兄妹の2組は、的当ての列に並ぶことになった。
「ねえトモちゃん、オシャレな方の兄さんは元気?」
「最近あまり見ないなぁ……」
先輩と後輩の立場であるヒョウとトモは仲が良く、2人で楽しそうにお喋りをしている。
「なあオオガシラ、普段はどんなことしてるんだ?」
「読書とトレーニング」
「へぇ〜! どんな本読んでるんだ?」
「色々だ」
「そっか! 前から思ってたけど、やっぱオオガシラって賢いんだな!」
対するカイとオオガシラの兄同士は、あまり会話は弾んでいない様子だ。
口下手なのかほぼ単語しか発しないオオガシラだが、カイは相手の単語にも楽しそうに反応する。
そんなこんなで時間が経ち、やがてカイ達に的当ての番が回って来た。
「ヴィザードギルドにようこそ! ギルドの課題に挑戦するのは2名様でよろしいでしょうか?」
「「はい!」」
元気よく返事をしたカイとヒョウは、スタッフに的当てのお金を支払い、スタッフに案内されて的当ての場についた。
妹は杖を手に取ち、カイに視線を向ける。
「私から先にやるね」
「ヒョウ、頑張れ!」
「準備は整いましたか? では……的当て試験、スタート!」
スタッフの掛け声と共に、カウンターの向こうの空間に沢山の的が浮かび上がった。
「それっ!」
ヒョウは杖のボタンを押して光線を放ち、的に光線を次々と当てていく。そして……
「32点! おめでとうございます! 景品のピンバッジをどうぞ!」
「よっしゃ!」
ゲームが終わり、ヒョウはなんと目当てのピンズをゲット。スタッフから渡されたピンズを手に、ヒョウは大喜びする。
「ヒョウすごいな!」
「ピンズはゲットできたけど、兄ちゃんも頑張れ!」
「まかせろ!」
ヒョウに応援されたカイは力強く頷くと、杖を手にゲームを開始した。
「それーっ!」
修行の成果か、カイは宙に浮かぶ的の中央を次々と狙い撃ち。
「終了ー!」
やがてゲームが終わり、カイは自信満々に杖を下ろす。
「なんと満点! 素晴らしい! ピンバッジと特別なシールを獲得です、おめでとうございます!」
「やったー!」
結果。カイは的当てで満点を取り、スタッフからピンズと可愛らしいシールを受け取った。
「ヒョウ、はい!」
「ありがとう兄ちゃん! シールまで取れるとか最高!」
カイの成果を受け取りヒョウは大満足だ。
「さて、トモちゃんの方はどんな結果に……」
「お兄ちゃんすごーい!」
ヒョウがトモに意識を向けようとしたその時、隣からトモの歓声が響いた。
「なんと満点です! 素晴らしい!」
賑やかな歓声が聞こえ、カイとヒョウは揃って隣のカウンターに目をやる。そこには、景品を手に得意げになっているオオガシラの姿があった。
「あっヒョウ先輩!」
出口付近で、シロヤマ兄妹はオオガシラ兄妹と合流。
笑顔のトモは戦利品を手にヒョウに駆け寄り、兄のオオガシラは得意げな表情でカイを見つめている。
「ヒョウ先輩! お兄ちゃんが満点取りました! ピンズとシールゲットしたんですよ!」
「オオガシラもすごいな!」
「トモの兄さん凄いね! そうそう、カイも満点取ったよ!」
「凄っ!」
ヒョウの報告にトモは驚き、オオガシラはどことなく不服そうな表情を浮かべる。
「……」
ヒョウは不満げなオオガシラを一瞥すると、隣にいたカイにすぐさま声を掛けた。
「兄ちゃん! 次は力の試験行こ!」
「えっ? 欲しいのはここのピンズだけじゃ……」
「力の試験でも別の柄のピンズが貰えるんだよね〜。ね、お願い!」
「ヒョウ……?」
明らかに思惑がありそうなヒョウに、カイは困惑する。
そんな兄のカイを前に、ヒョウはさらに言葉を続ける。
「兄ちゃんならさ、ヴィザードギルドの試験は全部満点取れるでしょ?」
「!」
ヒョウの一言に、オオガシラは分かりやすいほどに反応した。
「ほう……カイ、相当腕に自信があるようだな……!」
「オオガシラ……?」
様子のおかしいオオガシラに気付いたカイは、困惑した表情をオオガシラに向ける。
「カイ! 勝負だ!」
対するオオガシラは、カイに向かって声高らかに勝負を言い渡した。
「ウィザードギルド内の全てのゲームを巡り、先に満点を叩き出した方が勝利とする!」
「ええっ!?」
「いいじゃんそれ!」
オオガシラの宣言に対してカイは目を丸くして驚き、オオガシラの妹は兄の宣言に楽しそうに同意した。
「兄ちゃん、そうと決まればすぐに別のゲームに並ぶよ! 打倒、シロヤマキョウダイ!」
「おう!!」
オオガシラ兄妹はやる気一杯で、カイの返事を聞かずにすぐさま別のゲームへと急いだ。
「ええと……」
「兄ちゃん、とりあえず別のゲーム行こ。後で教えるから」
この後カイは、ヒョウに言われるがままにゲームに身を投じた。
力の試験では、手加減した身体強化によりパンチングマシーンを殴りつけ、文句なしの満点を獲得。
他にも球を宙に浮かべて台座まで運ぶ「技術の試験」など、様々なジャンルのゲームを突破していく。
「満点! おめでとうございます!」
カイは元から魔法が得意だったお陰で、ゲームは次々と満点を叩き出していく。しかし……
「オレ、パズルとか頭使うやつあまり得意じゃないんだけど……」
「うん、知ってた」
パズルを操作する「頭脳の試験」と、歴史の問題を解いて進む「知識の試験」はあえなく撃沈、クリアラインすら突破できなかった。
「ハハハハハ!」
そんなカイの前にオオガシラ番長ことオオガシラが姿を現した。彼の手には、頭脳と知識の試練で獲得できるピンズが収まっていた。
「どうやらお前は全て満点を叩き出せなかったようだな!」
「オオガシラ! もしかして全部満点出せたのか!?」
「当然だ!」
「すげー! さすがオオガシラ! ゲームで満点取るなら、オオガシラみたいに頭も良くないとダメかぁ……」
「悔しかったら少しは勉強して知識をつけろ!」
「そうだな! オレ、勉強苦手だけど頑張ってみるよ!」
オオガシラに満点を自慢され、カイは素直な感想を口にする。何を言われても悔しがる様子はない。
「お前、少しは悔しがったらどうだ……」
対するオオガシラは、カイの反応にどう返事すればいいか分からないらしく、僅かに困惑の色が見える。
「はいはいお兄ちゃんごめんねー」
そんな困惑するオオガシラにトモが駆け寄り、オオガシラの手から頭脳と知識のピンズを奪い取る。
「ヒョウ先輩、はいどうぞ!」
「ありがと!」
「「!?」」
そしてトモはピンズを手にヒョウに駆け寄ると、なんと兄が獲得したピンズ2つをヒョウに手渡してしまった。
驚く兄2人を前に、ヒョウとトモはやり取りを続ける。
「トモちゃん、これゲームの代金とアイスの無料券!」
「やったー! ゴチになりまーす!」
「お、おいトモ……これはどういうことだ……」
「あ、トモの兄さん! 難しいゲームをクリアしてくださりありがとうございます!」
困惑するオオガシラに、ヒョウは満面の笑みで礼を述べる。
「テストで高得点を取れるトモの兄さんなら、兄ちゃんが突破できない試練をクリアできると思ってました!」
「ヒョウ先輩からメールで作戦を聞いたから、私も作戦にほんの少し加担したんだ! お兄ちゃんにもっと熱を入れるために焚きつけるようなこと言ったりね!」
「折角ならピンズコンプしたくて……あの、本当にありがとうございました!」
「お兄ちゃん、ありがとう! 後でお金渡すね!」
「あ、ああ……どう、いたしまして……あと、金はトモが持っておけ……」
ヒョウとトモは楽しそうに作戦を口にしてオオガシラに再びお礼を述べ、オオガシラはなんとも言えない複雑な表情のまま返事をする。
「まさか……俺は2人に焚き付けられたということか……! 見事にしてやられた……!」
「オオガシラ……」
妹の作戦に巻き込まれたオオガシラに、カイは何も言わず寄り添うことしかできなかった。




