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51話 妹とお出掛け

 異界。記憶や魂の残滓が漂うばかりで、生物の類は一切観測できない荒地。そんな荒地に、ボロ切れを纏った骸骨が1人。


「よっこいしょ」


 彼はその辺の岩に腰掛け、スープの入ったお椀を手に小休憩をしている様子だ。


「いただきま……おや?」


 そんな骸骨の視線の先に、奇妙な男が駆けていくのを発見した。

 手入れされたカイゼル髭に、これまた手入れされた髪型の見るからに貴族風な彼は、背中に大きなリュックを背負い全力で道を駆け抜けている。


 骸骨はお椀を置き、片手で扱える鎌を手に奇妙な男性を追いかける。


「ちょっと君、その道の先は地球方面だよ」


「分かってる!」


 高速で飛ぶ骸骨は奇妙な男に声を掛ける。大荷物を背負った奇妙な男性は負けず劣らずの速度で走行しながら切羽詰まったように返事をする。


「今は地球方面に行くのはやめた方がいいよ。向こうへの道のりがだいぶ伸びてるからね、地球に到着するのに何百年かかることか」


「別に構わないよ! 何年だろうが何百年かかろうがね!」


「必死だね。君は、そんな大荷物を抱えて何をするつもりなのかな?」


「これは……これはっ……!」


 奇妙な男は更に速度を上げ、骸骨を追い抜きながら全力で叫んだ。



「これはっ! 吾輩わがはいの沽券に関わるのだよぉ!!」



 奇妙な男性は人にあるまじきとんでもない速度で駆け抜け、骸骨の視界から姿を消したのだった。




 所変わってここはゼウシリーア。


 カイとマモルはフェアリーゴーレムを従えた相手を倒すべく、ヴィオの屋敷で合宿が始まった。


 目が覚めたら朝練が始まり、朝練が終わればヴィオと共に豪勢な食事を囲む。


 学園に通い、放課後になったら即帰宅。ヴィオの敷地内で地獄の修行が再開し、終われば夢の中でも修行三昧。


 そして目が覚めたら朝練が始まる。


「な、何とか魔力を体内に押し留められるようになった……」


「電撃を受ける頻度は減ったが、更におもりを増やされたな……」


 カイとマモルは大変そうだったが、弱音を吐くことは一切無かった。



 そんな修行漬けの日が始まって数日後……



「よし!」


 ヴィオの屋敷にあるカイの自室にて。朝早く目覚めたカイは、身支度を一通り整えて外出用の私服に着替えていた。


(今日の修行はお休み……そして、ヒョウと遊園地に行く日!)


 カイは数週間前から、妹のヒョウと遊園地に行く予定を立てていた。



 数週間前のこと……



「兄ちゃーん。今いい?」


「いいぞー。ヒョウ、どうした?」


 ある日、自宅の自室で寛いでいたカイの元にヒョウが尋ねて来た。


「実はさ、町内の福引でファンタジーランドのペアチケット当たっちゃったんだよね」


「ペアチケット?」


 カイはベッドから起き上がり、ヒョウの手元にあるチケットに目を向ける。


「それって、2人だけで遊園地に行けるチケットか?」


「そーそー。折角だから一緒に行かない?」


「友達誘わないのか?」


「いや、今回は純粋にファンタジーランドを楽しみたいんだよね。仲のいい友達と行くのも楽しいけど、友達同士だと遠慮しちゃうところとかあるから……」


「親しき仲にも礼儀ありってやつだな」


「そうそう。でも兄ちゃんと行けば、変な気を遣わずにファンタジーランドを全力で楽しめるじゃん。私、乗りたいアトラクションとか行きたいお店とか色々あるんだよね」


「そういえばヒョウってファンタジーランド大好きだったな」


 ヒョウの淡々としながらも熱のこもった弁論に、カイは素直に頷く。


「確かにオレ達なら、遠慮なしで楽しめるよな!」


「そうだよ! 兄ちゃん荷物持ったりしてくれるし、食べ切れない食事も食べてくれるし……」


「今回も何かあったら遠慮なく言えよな!」


「勿論! それに今、ファンタジーランドにあるウィザードギルド内のアトラクションで高得点出すと特別なピンズが貰えるんだよ!」


「確かウィザードギルドって、魔法使って遊ぶところだよな。そのピンズ、どうしても欲しいのか?」


「欲しい! だって今出てるピンズは限定デザインで、今逃すと二度と手に入らないかもしれないんだよ!? しかもデザインに好きなキャラがいるし……!」


 ピンバッジの話になった途端、ヒョウは更に熱を込めて語る。


「兄ちゃんは魔法の技術はあるから、ファンタジーランドのアトラクションは余裕でしょ?」


「勿論! 的当てとか得意だぞ!」


「ならお願い! 今週の休みに一緒にファンタジーランド行ってピンズ取って!」


「分かった! そういうことなら兄ちゃんが行こう!」


「やったー! 絶対にゲットしてよね!」


 そんなわけで、カイは妹と遊園地に行く約束を交わしたのだった。



 しかしカイは、数日前にフェアリーゴーレムを従えた相手と遭遇。



 相手に負け込んだカイは「流石に今は遊んでいる場合じゃない」と思い、前々から計画していた遊園地の計画を取り止めようとした。しかし……


「カイ、前々から計画してたなら行ったほうがいい」


「そんなことで家族との交流を中止しようとするな。私がなんとかするから、お前は絶対に遊園地に行け。遊園地のお土産楽しみにしてるからな」


「シロヤマさん! 家族との交流は大事にしてください!」


 と、マモル、フィオ、ヴィオに順に言われ、カイは大人しく遊園地に向かうことにしたのだった。



(遊園地が楽しみ過ぎて、予定より早く到着しちゃったな……)


 予定時刻より30分前に駅前に到着したカイ。


(それに、ヒョウは遊園地となると早起きして早めに待ち合わせ場所に来るからな……)


 妹も既に来ているだろうと予想したカイは、急いで待ち合わせ場所に走った。


「あ、兄ちゃんおはよ〜」


「やっぱりいた! ヒョウ、おはよう!」


 カイの予想通り、妹のヒョウは早めに待ち合わせ場所に到着していたらしい。


 コンビニで購入したと思われるペットボトル飲料を手にしていたヒョウは、兄のカイがやって来たのを見ると元気よく挨拶をした。


「ヒョウ、何分前に来てたんだ……?」


「20分くらい前かな。まあ誤差だよ誤差」


「予定より50分も前じゃん!」


 ヒョウの到着時間にカイは驚く。


「だって楽しみだったんだもん。それより、お兄ちゃん朝食まだでしょ。いつものやつ食べ行こうよ」


 兄妹の2人は駅内を歩き、朝から開いていたファストフード店へと移動。


「「いただきまーす!」」


 2人は軽食を購入し、店内にある大きなテーブルについてすぐに食べ始めた。


「それにしても……」


「兄ちゃんどうしたの?」


「ヒョウは予定より早めに来ると思ってたから、オレも早く来たのになぁ……今日は随分と気合い入ってるな」


「勿論! まあでも、今回はパーク内でのんびりするのが目的だからさ、そんな力まなくて大丈夫だよ」


「もう回る場所は決めてるのか?」


「そりゃもう完璧! 兄ちゃんの希望する場所もちゃんと入ってるからね」


「ありがたいな! 流石はヒョウ!」


「当然でしょ。それに……今日は兄ちゃんを労うためのお出かけでもあるしね」


「そうなのか?」


 ヒョウの発言に、カイはサラダを食べる手を止める。


「オレの為かぁ、それはすごく嬉しいな!」


「まだパーク入ってないのに喜び過ぎでしょ」


 ヒョウはカイの顔を見つめながらフフフと笑う。


「兄ちゃんは最近ずっと修行ばっかじゃん。しかも合宿まで始めてさ……」


「そうだな……」


「だからこのお出かけで、少しでも息抜きさせられたらなあってさ。兄ちゃんもファンタジーランド好きでしょ?」


「ヒョウ……!」


「兄ちゃん! 今日はとことん楽しもうね!」


 ヒョウは満面の笑みをカイに向けながら元気よく言い放った。


「ヒョウ、ありがとう! 兄ちゃん嬉しいよ!」


「お礼ならお出掛けが終わってから言いなよ〜。あと、限定ピンズは絶対に取ってもらうからね」


「分かってる! 任せとけ!」


「頑張ってね。それだけは絶対に譲れないから」


 ヒョウはそんなことを言いながら、ジュースを飲み終えた空のカップに力を込める。

 氷しか入ってなかったカップに水が満ち、くるくると渦を巻き始めた。


 ヒョウもカイと同じ能力者であり、魔力から生み出した水を自由に操れる。



(それにしても……)


 妹がカップの水遊びで暇を持て余している中、カイはとある考え事をする。


(今日はフィオさんが見張っててくれるとは言ってたけど……どんな風に見ていてくれるんだろ。道具とか使ったりするのかな?)


 フィオの見張りが気になったカイは辺りを見回す。


(いや、流石にオレにバレるような真似はしないよな……フィオさん妖精だから、もっと上手く隠れ……)


 さりげなく店内に目を向けたところで、店の奥のテーブル席に座る3人グループが目に留まる。


 グループの中に、妙に見覚えのある髪型の人物がいた。


(……あれ?)


 室内で帽子にサングラスをつけた、クルクルにカールした髪を持つ少女がカイを見つめている。


(あれって……フィオさん?)


「あっやべっ」


 カイが視線を向けると、フィオらしき相手は声を漏らし、カイから視線を逸らして帽子を深く被った。


(間違いない、あれフィオさんだ……!)


 あまりにも粗末な隠れ方にカイは戦慄する。


(というか、フィオさんと一緒の席にいる2人って、マモルとヴィオさんじゃないか……!?)


 フィオと同様に帽子を深く被りサングラスをした私服姿のマモルは、大袈裟に広げた雑誌越しにカイ達を見つめる。


(マモル! それはさすがに目立ちすぎるって! そんな直角に雑誌持ち上げてたら不自然だろ!)


 帽子とパーカーを深く被りサングラスを掛けたヴィオは、楽しそうにハンバーガーを頬張っている。


(なんて目立つサングラス集団なんだ……! 頼む! せめて上手く隠れてくれ!)

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