41話 厳しい修行
ヴィオの所有地にて。カイとマモルはリトを連れて修行前のウォーミングアップを済ませた。
しかしウォーミングアップでリトは脱落。リトは小さな休憩所に運ばれ、残ったカイとマモルで修行を開始した。
「よーし。まずはちょっとしたウォーミングアップから始めてもらうぞ」
「姉御、またウォーミングアップするんですか」
「今のはウォーミングアップのウォーミングアップだ」
フィオは適当に言葉を返しつつ説明を始める。
「これから魔力を全身に巡らせ、その上で魔力を外に一切出さずにランニングしてもらうぞ。魔法道具も魔法服も無しで、自力で魔力を体内に押しとどめろ」
「魔力を外に出さずに!?」
「しかも魔法道具無しで……かなり厳しそうですね」
「無駄なく力を使う為には、無駄な魔力を控えるのが大事だ。頑張れ」
フィオはそう告げつつ、どこからともなく小さなゴーレムを取り出した。石造りの、どことなく可愛らしいゴーレムだ。
「コイツはこの修行の為だけに作られたゴーレム、バチバチくんだ。魔力を感知すると、魔力源に向かって電撃を放つぞ」
「まさかランニング中ずっとそれを……!?」
「当然だ。少しでも魔力を放出してみろ、即座にコイツに撃ち抜かれるぞ。ほら、お前達が着ている魔法服の上着を脱げ」
カイとマモルはフィオに言われた通りに上着を脱ぐと、全身に魔力を巡らせながら広い敷地内を走り始めた。
少し遅れてゴーレムも走り始め、カイとマモルを追いかけ始めた。
「さてと……リト、大丈夫か」
フィオは休憩所に瞬間移動すると、背もたれのある椅子でぐったりしていたリトに声を掛けた。
「……大丈夫……」
「そう言う割には全く動いてないな。おい、本当のところはどうなんだ」
「…………もう動けません」
フィオに無表情のまま詰められ、リトは素直に本音を吐いた。
「分かったか。アイツらが何故、ここまで強いのか」
「……はい」
「随分と素直だな。リト、あの2人を見ろ」
フィオは遠くに目を向け、ゴーレムに時折電撃を浴びせられながらも必死に走るカイとマモルを指差す。
「あの2人はすごく真面目でな。ちょくちょく休憩時間は挟むが、寝る時間になるまでずっと修行を続けるぞ」
「えっ……」
「数週間前からこんな生活をずっと続けてる。そのせいか、あの2人はその辺の奴らとは比べ物にならないくらいには強くなった」
「そ、そうなんですか……」
リトはカイとマモルの話に驚き、力なく俯く。
「…………あの」
「ん?」
「ごめん……なさい……」
リトは俯いたまま、弱々しい謝罪を吐いた。
「私に言ってどーする。そのセリフは後で2人に言え」
「すいません……」
「言ったそばから謝罪するな」
フィオに指摘され、再び頭を下げて謝罪をする。
「お前、すごくネガティブだな。2人を襲った相手とは思えんな」
「薬で力を得た時は最強になった気がして……」
「気が強くなってたんだな」
フィオは腕を組んでうんうん頷く。
「……あの、僕……」
「ん?」
リトはフィオの方を見ず、ただ一点を見つめながら話を切り出した。
「……僕……力しか、取り柄がないんです……」
「そうか」
「なのに……力を強化しても、カイには全く歯が立たなかった……」
リトは顔を上げ、遠くで必死になって走るカイを見つめる。
カイは電撃を何度も喰らっているのか既にボロボロだ。
「あだだっ!?」
時折強い電撃を喰らうも、それでもめげずに魔力を体内に押し留めながら走り続ける。
「あの人は……なんであんなに苦しそうなのに、それでも必死になれるんですか……?」
「知りたいか」
「……はい」
フィオはリトに視線を向け、いつもの調子で口を開く。
「……アイツには、強くなりたい理由がある。それだけだ」
「強くなりたい理由……」
「アイツは他人の為に強くなろうとしているんだ。それはもう必死でな、私達の出す課題を頑張ってこなそうとするんだ」
「他人の為にそこまで……」
フィオの話に、リトは呆然とする。
「とにかくアイツは、そういう理由で強くなってるんだ。お前はまた別で強くなる理由を探せばいい」
「強くなる理由……強くなりたいだけじゃ駄目なんですね……」
「別にその理由でもいいんじゃないか? どんな理由があろうが、とりあえず必死に頑張れば強くはなるぞ」
「…………」
リトは強くなれる未来が見えないのか、再び視線を落として塞ぎ込む。
そんなリトに対し、フィオはさらに話を続ける。
「お前の能力は弱いかもしれん。だが、磨けばもっと光るぞ」
「確かに僕の力は光ですが……」
「そういうことじゃない」
フィオは頭を横に振る。
「光の力は色んなことに使えるだろ。ただ攻撃として使用するだけに留まらず、目眩しや視線誘導、他に色々と利用できると思う」
「でも……そもそも僕の力は、そんなに強くは……」
「能力は強くできるぞ。まあ、本人が頑張らなければそれっきりだがな」
そんなことを言いながら、フィオはメモを取り出して何かを書き記し始めた。
「……よし。リト、これをやる」
一通り描き終えると、フィオはメモの1枚を破って目の前のリトに手渡した。
「これは……」
「これくらいのトレーニングならお前でもできるだろ」
紙に書かれていたのは、簡単なトレーニング方法だった。リトでもギリギリこなせそうな内容だ。
「とにかくやることが大事だ。どんなにやる気が出なくても、このメモの中のひとつくらいはこなしてみろ」
「あ、ありがとうございます…………」
しばらくして。トレーニングを一通り終えたのか、カイとマモルが休憩所にやって来た。
「全然魔力を押しとどめられなかった……マモル、大丈夫か?」
「カイ、お前もすごいことになってるぞ」
「だよなぁ……オレ、マモルより撃たれてるかも」
2人はゴーレムの電撃に撃たれてボロボロになっていた。
「あ、あの……」
「あ、お前は……リト! どうしたんだ?」
何か言おうとしているリトにカイはすぐさま反応する。
「あの……さっきはごめんなさい……」
「リト……分かった、もう関係ない人を巻き込むようなことするなよ」
「はい……本当に申し訳ございませんでした……」
「謝ってくれたならもういいよ! 今後は仲良くできればいいな!」
「か、考えておきます……」
明るく声をかけてくるカイに、リトは困惑しながらも曖昧に答える。
「えっと……僕、そろそろかえりたいのですが……」
「分かった。私が送ってやろう」
家に帰りたがるリトに対し、フィオは返事をする。
「もう帰るのか?」
そんなリトにカイは声を掛ける。
「あ、はい……あの、何か……?」
「リト、さっきは凄かったな!」
「えっ?」
カイの一言にリトは驚く。
「ウォーミングアップの時のことだよ! リトはずっとキツそうだったのに、最後までこなそうとしてたじゃん! な、マモル!」
「そうだな。あんなに大変そうにしていたというのに、途中で投げ出さずに最後までこなすとは……根性があるな」
「あっ、えっと……ありがとう、ございます……」
カイとマモルに素直に褒められ、リトは戸惑いながらも礼を述べた。
「もしかしたら、リトもオレ達みたいに修行できるようになるんじゃないのか? なあ、リトが良ければオレ達の修行に付き合ってみるか?」
「すいません……2人のように修行はこなせそうにないので……これっきりにさせてください……お願いします……」
「そっか……」
リトに徹底的に拒否され、カイは残念そうに眉を下げる。
「……でも、フィオさんから教えてもらったトレーニング方法は試してみようと思います……あの、誘ってくれてありがとうございます……」
「ああ! リトのできる範囲で頑張ってな!」
「はい……」
「リト、たまにだが話くらいは聞いてやるからな。頑張れよ」
「あ、ありがとうございます……!」
カイとフィオに励まされ、リトは嬉しそうに礼を述べる。
「よし、そろそろ帰るぞ。リト、私に近付け」
「はっ、はい……」
フィオの瞬間移動により、フィオとリトはこの場から姿を消した。
「リト……また会えるかな……」
「リト次第だろうな」
リトとは友達にはなれなかったが、敵対せず和解できたことにカイは安堵した様子だった。




