35話 能力使い試験【挿絵あり】
休日の昼間。試験の時間が迫り、カイとマモルは徒歩で駅の近くにあった試験会場へと移動し、能力使い試験の受付を済ませた。
しばらくして、ついに試験が始まった。筆記試験を受け、流れるように実技試験へと移行する。
「よっしゃー! 実技の時間だー!」
筆記の次は実技試験。筆記は不安しかなかったカイだが、実技は大得意。
能力の性能、制御、技術……カイは与えられた課題を難なく突破していった。
そして……
何もない白い部屋にカイとマモル、そして2人と同い年くらいの見知らぬ少女の計3名が佇んでいた。
「最後まで残ったのは3人だけか……」
実技は与えられた課題をこなせなくなった時点で脱落する仕組みだ。
最初はそこそこの人数がいたが、試験が進むにつれて数が減っていき、最後まで残ったのはカイとマモルを含むたった3名だった。
残った1人は、銀色の髪を長く伸ばした、見るからにお嬢様の身なりをした少女。
凛とした佇まいが印象に残る芯の強そうな子だ。
「そこそこの人数がいたのに、殆どいなくなっちゃったな……」
「逆よ」
カイの呟きに、銀髪の少女が反応する。
「能力使いの試験は最後まで残る人は非常に少ないそうよ。実技の厳しさはさることながら、資格の取得条件も厳しいから、資格取得者は中々現れないの」
「そうなのか?」
「ええ。3人も残るのは相当素晴らしいと思うわ」
「へぇ〜!」
カイは銀髪の少女の言葉に反応して頷き、改めて少女に向き合った。
「オレはカイ! シロヤマ・カイ! よろしく! オレの隣にいるのは友達のハルカワ・マモル!」
「よろしく」
紹介されたマモルは丁寧に頭を下げる。
「初めまして、ワタシの名前はシロガネ・レイカ。よろしく」
「シロガネさんよろしく!」
「ふふふ……よろしく。あんなに動き回ったのに、まだまだ元気そうね。私も負けてられないわ」
「そういうシロガネさんも余裕そうだな! マモル、オレ達も負けてられない残りの実技も頑張ろう!」
「カイ、実技はほぼ終わったぞ。最後は能力の確認と説明だけで、もう競うものは何もない」
「たったあれだけでもう終わりなのか!?」
「ふふふ……」
お互いに穏便に自己紹介を済ませ、室内に和やかな雰囲気が漂う。
「お2人とも温和そうな方で安心したわ。もし変に突っかかってくる方がいらしたら、鼻っ柱をへし折って差し上げようかと……」
「結構平和だったよな〜。もっと荒々しくて凶暴な奴とかいて、変な絡まれ方とかされるんじゃないかと思ってた!」
「いるわけないだろ。2人とも漫画の見過ぎじゃないのか?」
「あら、夢くらい見させてくれてもいいんじゃない?」
「シロガネさん、そんな物騒な夢持ってるんですか」
「ええ。ならず者を颯爽と片付けたら、とても格好いいでしょ?」
見目麗しいお嬢様の内面は割と武闘派なようだ。
「ところで……お2人は何のために能力使いの資格を取得するの? もし差し支えなければ教えてくださる?」
「目的?」
「資格を持つ方なら、妖魔退治に関わることができるでしょう? 他にも、特定の魔法防具の購入が可能になったりと、様々な恩恵が得られるのよ?」
(今、妖魔退治を恩恵として数えてなかったか……?)
「へぇ〜! じゃあシロガネさんも何か目当てがあって資格を取りに来たのか?」
「勿論」
言葉に詰まるマモルに反し、カイは無邪気にシロガネに資格の話を振る。
「私は魔法防具のドレスを購入するため」
「ドレスのためだけに資格取ったのか!?」
「カイ、俺達も人のこと言えないだろ」
シロガネのまさかの資格取得理由にカイは驚くも、すぐさまマモルから指摘が入る。
「あらそうなの。では、貴方達は何のために資格を取得したの?」
「お小遣いのため!」
「お小遣い……?」
「うん! 資格を持ってるだけでお金が貰えるって聞いてさ! オレ達、訳あって遊ぶ為の金が欲しくて……」
「遊ぶ金欲しさに……?」
カイの発言に今度はシロガネが困惑する。
「カイ、その発言は誤解を生むぞ。もう少し考えて発言した方がいい」
「あ、ゴメン!」
「全く……すいません、シロガネさん。本当の理由をお話します」
マモルはシロガネに顔を向ける。
「俺達は遊ぶ金欲しさに資格を取得しに来たんです」
「はっきり言った!?」
マモルの発言にカイは目を丸くして驚いた。
「それ言うのは良くないんじゃなかったのか!?」
「よくよく考えたらそこまで深い理由は無かった。カイ、すまない」
「いや! 謝る相手はオレじゃなくてシロガネさん……!」
「ふふふ……!」
カイは戸惑い慌てるも、対するシロガネは口を手で覆いながら楽しそうに笑い始めた。
「うふふふ……! まさかお金の為だけに、あんな難しい実技試験を突破してくるなんて……!」
「あ、あはは……」
目の前で大笑いするシロガネに、カイは愛想笑いしながらも戸惑う。
対するマモルは、目の前の光景を冷静に眺めつつも心の中で安堵していた。
(相手もドレスが目当てで試験を受けに来ていたのならば、俺達の事情も許されると踏んでいたが……まさかここまで受け入れられるとは……)
「あはは……それにしても、能力使いの資格の他に「能力検定」とかあったんだな。資格の本で紹介されてて、初めて知ったよ」
何となく話しづらそうにしていたカイは強引に話題を変える。
「検定は資格より取得条件が緩いものよ。能力の強さに応じて10段階に分けられていて、10が最大値。基本的に4以上から誇れる数字になるそうね」
「へぇ……じゃあ、普通の人は2とか3とか取れるのか?」
「いいえ。例え能力を所持していたとしても、0がつくことが殆どだそうよ」
「0!?」
「大多数の能力使いに付く数字は0、良くて1かしら。でも、0も1も変わらない」
シロガネはつまらなそうに淡々と述べる。
「序盤の基礎技術で脱落した能力使いは、おおよそ0でしょうね」
能力使い試験が終わった後。
「くそっ! くそっ!」
夕暮れ時。誰もいない橋下の通路にて。黒パーカーの少年のリトは、見るからに苛立った様子でその辺の壁にに当たり散らしていた。
「実技であの白髪を凌駕するつもりだったのに……!」
彼は実技試験に参加したものの、序盤で脱落していた。
「あの試験官……! 僕の得意技を碌に見ずに落とすなんて……! 性能まで確認しろよっ! くそっ!」
黒パーカーのリトは手のひらから光の球を生み出し、道端に落ちていた空き缶に投げつけた。
光球は凄まじい速度で飛んでいく。しかし、光球は空き缶から逸れて地面にぶつかった。
「あっ!」
光球は地面を抉ることもなければ跡すら付けられず、その場で呆気なく消滅した。
「当たれよバカッ!」
リトは空き缶を蹴り上げて八つ当たりする。仮に今の光球が空き缶に命中したとしても、空き缶を転がす程度の威力しかなかっただろう。
「くそっ! そもそも、あの白髪に認識すらされなかった……! あの野郎……!」
周辺に当たり散らしたリトはやがて地面にしゃがみ込む。
「……この日のためにずっと頑張ってきたのに……!」
リトは途端に落ち込み、資格取得までの日々を思い返す。
「能力を強化する特訓を毎日頑張った! 魔力を増やす特訓もして、徹底的に鍛え上げたのに……!」
リトはこれまでの特訓を思い出し、目に涙を溜める。
「実技試験の対策も徹底的にした! 完璧にこなして、堂々と資格を取得する筈だったのに……! この日の為だけに頑張った……! なのに……なのに……! まともに評価されずに……うぅ……!」
その場に崩れ落ち、地面に両腕をついて涙を溢した。
「僕には……これしかないのに……!」
リトの喉の奥から、悲痛に満ちた声が絞り出された。
「キミ、大丈夫?」
「……っ!?」
地面に蹲るリトの眼前に、綺麗なハンカチが差し出された。
リトは唐突に現れたハンカチに驚いて顔を上げ、ハンカチを差し出した相手を見つめた。
「お前……!」
「流石に可哀想になってさ」
リトの前に現れたのは、昼間出会った黄髪のキザな若者だった。
「……何しに来たんだ。僕のこと、笑いに来たのか……?」
「違うって。むしろキミの力に興味が湧いたんだよね。可能性があるっていうかさ」
「僕の力……?」
「そーそー。どんなものよりも速い光の能力の可能性を、キミに見出したんだ」
「可能性……さっきは無理だとか言ってたくせに……!」
「今のキミだと無理なのは確かかな。でも、もしその能力を向上させることが出来たら……その時はどうなると思う?」
「……?」
花束を背負う彼は、リトに真っ直ぐな眼差しを向けながら妙な一言を告げた。
「キミの埋もれた才能、開花させてあげるよ」




