33話 ジェムキング
夜。ゲームセンターの駐車場にて。
「能力使いの資格を取得しましょう! この資格を所持しているとなんと、お金が貰えるんですよ!」
「そんな資格あるんですか!?」
ヴィオから放たれた聞き慣れない資格に、カイとマモルはすぐさま反応する。
「ございます! 資格のランクによっては妖魔退治を依頼されるので……ランクが高ければ、更に貰える金額が上がります!」
「なるほど……その資格を所持すると、能力使いとして何か頼まれたりするんですね。だから給料が発生すると」
「すごい資格じゃないですか! ですが、妖魔退治って……」
「大丈夫です!」
妖魔退治という言葉にカイは不安がるも、ヴィオはカイを安心させるように妖魔退治について言及する。
「妖魔退治と言いましても、ゼウシで発生したネズミサイズくらいの、それも大したことのない妖魔が相手です。今のシロヤマさんとハルカワさんなら余裕で始末できます!」
「それなら大丈夫そうですね!」
「資格を得るには少し勉強をする必要はありますが、お2人ならきっとすぐにこなせます!」
ヴィオはカイとマモルを見つめて強く頷いた。
「ならオレ、絶対にその資格欲しいです!」
「俺も取得します。給料が入手できれば、ヴィオさんに気を遣わせることもなくなるでしょうから」
「決まりですね! では、資格の本を購入するために本屋さんに行きましょう!」
「書店は近くにありましたね」
3人は箒に乗ってゲーセンを後にし、近くにあった大きな書店へとやって来た。
「大きな本屋さんですね〜! 中も明るくて楽しそうです!」
「もしかしてヴィオさん、ゼウシの本屋さんも初めてですか?」
「いえ、何度か訪れてます」
「では初めてではないんですね……残念……」
「カイ、何を残念がっているんだ。別にいいだろ」
目に見えて落ち込むカイにマモルは言葉をかける。
「それよりもカイ、ヴィオさんに大事なことを聞き忘れてるぞ」
「えっ?」
マモルはそう言うと、ヴィオに真っ直ぐ顔を向けた。
「ヴィオさん、漫画はご存知ですか?」
「マンガ……?」
マモルの発した単語に、ヴィオは眉を顰めながら反応する。
「そうか! その手があった!」
それを見たカイはすかさず2人の間に割って入った。
「ヴィオさん! 漫画っていうのは、絵が多めに描かれた本みたいなやつです!」
「絵が沢山描かれた……それは絵本のようなものですか?」
「少し違います! ええと……マモル、後は任せた!」
「諦めるの早すぎるだろ。結局俺が説明するのか……」
カイからバトンタッチされたマモルは、半ば呆れながらも解説を変わる。
「ヴィオさん。漫画というのは……物語の場面を全て絵で書き記した本です」
「場面全てを!? それってとんでもない労力なのでは……!?」
「物語と絵を描ける人でないとこなせないので、漫画を描くことを生業とする漫画家はかなり凄い職業と捉えても大袈裟ではありません」
「おぉ……漫画を描く方は漫画家と呼ばれているのですね……!」
「まあ、絵を担当する人と物語を担当する人で分かれていたりもしますが、それでも漫画家は大変な職業だと思います」
「なんと素晴らしい……!」
マモルの解説にヴィオは目を輝かせる。
「台詞や語りなどの文も添えてあり、小説よりは読みやすい本です。若い人でも気軽に読める本です」
「若い人にも!」
ヴィオは「若い人」というワードに分かりやすく反応する。
「ゼウシリーアでは多くの名作が誕生しています。是非ともヴィオさんにも、名作漫画をひとつでも手に取っていただけると……」
「買います!!」
マモルの説明に心打たれたのか、ヴィオは即座に漫画の購入を決めたようだ。
「ヴィオさんが食い気味で反応した……! 流石はマモル!」
「カイ、少しは勉強を頑張れ。ヴィオさんに伝える努力は見せろ」
「努力する!」
そんなこんなで再びテンションが上がったヴィオと書店に入店。
そこそこの広さの書店には、雑誌から参考書までありとあらゆる本が揃っているようだ。
「広くて素敵な書店ですね。では早速漫画……よりまずは、能力使い試験の本を購入しなくては」
「あ、そうだった」
「カイ……完全に忘れてたな?」
「ヴィオさんにどんな漫画をオススメしようか考えてたからすっかり忘れてた!」
「えーと、検定の本は……あの辺でしょうか?」
ヴィオは勘を頼りに移動する。移動した先は……
「残念、漫画コーナーですね」
「あらら……でも、漫画コーナーの場所は分かりました。検定の本を見つけた後で此処に来ましょう」
「そうですね! ……あっ、これは!?」
この場から立ち去ろうとしたカイは、漫画コーナーの中から1冊の本を取り出した。
「ジェムキングの新刊出てたんだ!」
「ジェムキング?」
「オレのオススメ漫画です! 主人公がすっごくカッコよくて、物語も最高なんですよ! これです!」
「へぇ、ジェムキング…………あっ」
カイが手に取り見せてくれたジェムキングの表紙を一目見るや、どういうわけかヴィオはほんの僅かに動揺した。
「あれ? ヴィオさん大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です。その漫画に少し見覚えがあっただけです」
「えっ! ヴィオさんもジェムキング知ってたんですか!?」
「ええ、ほんの少しですが……えっと、どんな内容の本なんですか?」
ヴィオはすぐに平静を取り繕い、気を遣って言葉を返す。
「小説でも出てたって聞くからなぁ……分かりました、説明します! この漫画の主人公であるリオリシアは、結晶の能力を駆使して戦う最強の貴公子なんです」
「へぇ……」
カイの説明にヴィオは力のない返事をする。
「……ヴィオさん、大丈夫そうですか?」
「すいませんシロヤマさん、絵が綺麗で素敵で……思わず見惚れてました」
「ですよね! 綺麗なだけじゃなくて迫力もあって……! あっ! 実はオレ、ジェムキングを戦い方の参考にもしてたんですよ! でも、テンポが悪いって言われちゃって……」
「へ、へぇ……」
「おい……カイ……」
ヴィオの異変の元凶に気付いているマモルは、慌ててカイを止めようとする。
しかしカイは止まらない。
「リオリシアはすっごく強くてカッコいいんですけれど、どこか抜けてて……そうそう、真新しい冷蔵庫の扉を馬鹿力で破壊しておいて「壊れたぞ」っていうあのコマが特に面白くて……」
「!」
妙な小話にヴィオは更に反応する。
「ヴィオさん、なんか顔が赤くないですか? あ、そういえば……結晶で戦うリオリシアと、宝石で戦うヴィオさんってどことなく似て……」
「カイ止まれ!」
いよいよ見ていられなくなったマモルは、カイの肩を掴んで解説を強引に止めた。
ヴィオに背を向けさせ、マモルは声を潜めてカイに話しかける。
「(それ以上ヴィオさんを刺激するな!)」
「えっ? マモル、急にどうしたんだ……?」
「(あんなにヒントがあったのに全く分かってないのか!? その漫画の主人公はヴィオさんがモデルなんだぞ!)」
「えっ!?」
カイは目を丸くして驚き、そっとヴィオの方を見つめた。
「……」
ヴィオはパーカーのフードを深く被り、両手で顔を隠していた。
「つ、つまり……さっきから様子がおかしかったのは……そして、あの抜けたエピソードはヴィオさんの……」
「(そういうことだ……! それ以上ヴィオさんの前でジェムキングの話はするな! 新刊欲しいならこっそり買え!)」
「(わ、分かった……)」
この後、ヴィオをなんとか落ち着かせ、改めて資格の本探しを再開した。
「この辺に資格の本がありそうな気がします!」
「俺もそう思います。此処だけやけに気難しい気配が漂ってますし、間違いないと思います」
「何だその気配?」
マモルの妙な発言に疑問を抱きつつ、カイは本棚や棚の上の本をじっくり眺める。
「……あっ、もしかしてこの本か!?」
「能力使いの資格……! はい、それで間違いないです!」
「やったー!」
カイは棚に並べられた本の中からお目当ての本を発見し、その場で小躍りした。
「えーっと、お値段は……」
「その本はわたくしのお金で購入します! 今時の検定がどうなっているのか興味があるので……」
「えっ、でも……」
ヴィオのいつもの気遣いにカイは戸惑う。しかし、そこにマモルがそっと割り込む。
「……カイ、ここはヴィオさんに購入してもらおう。検定で金を得たら、その金でヴィオさんに何か奢ろう」
「あ、それいいな! ヴィオさんどうですか?」
「素晴らしい案です! お2人の優しさが身に沁みます……! もしお2人が検定に受かったら、その時は3人でプレゼント交換しましょう!」
「結局ヴィオさんもお金出してるじゃないですか! まあ、それもヴィオさんらしいけど……ヴィオさん、ありがとうございます!」
カイはお礼を述べ、意気揚々と資格の本に触ろうとしたその時。
「あっ」
カイの隣にやって来た人が、カイと同じ本を手に取ろうと手が伸ばした。お互いの手が軽く触れ合った。
「!」
カイは手を引っ込め、手を伸ばして来た人の顔を見た。
(この人、髪の色が……)
相手は黒髪の若い男性。見た目からしてカイより年上で、彼の毛先は明るい茶色に染まっていた。
「あ、もしかして……君も力を?」
若い男性は棚から離れてカイに手短に尋ねる。
「あっ、はい! ひょっとして、お兄さんも能力使いですか?」
「うん、力は弱いけどね。君は……髪色からして強そうだね」
男性は平然としながらそう話をすると、改めて検定の本を見つめた。
「そっかー、お互いに同じ本を求めているということは……この本、どうする?」
「見た感じだと1冊しかなさそうですよね……よし! ここは平等にジャンケンにしましょう!」
「いいね。俺、そういうの得意なんだよね」
「オレもジャンケンには自信ありですよ!」
カイと男性はお互いにその場で構えを取った。ジャンケンにしては気合いが入りすぎである。
「待て」
しかし、そこをマモルに止められる。
「その本の下をよく見ろ。もう1冊あるぞ」
マモルが検定の本を持ち上げると、下から同じ検定の本が姿を現した。
「あ、ホントだ。良かった〜」
男性は一安心し、下に置かれていた検定の本を手に取った。
「良かった……お兄さんと争わずに済んだ……」
「こっちも一安心〜、俺も無駄に血を流すのは好みじゃないからね」
「ジャンケンってそんな物騒なものだったんですか?」
男性の妙な物言いにヴィオは思わず口を挟んだ。
「何はともあれ、無事に本ゲットできて良かった〜。じゃあね〜」
「さようなら!」
男性はカイ達に軽く手を振ると、ゆっくり歩いてその場から退散した。
「ふんふ〜ん」
本の入った紙袋を小脇に抱えながら、男性は書店を後にする。
男性は鼻歌交じりで上機嫌にしながら、街灯に照らされた夜道をゆっくり歩く。
「カゲマル」
「ん〜?」
名前を呼ばれ、資格の本を抱えていたカゲマルは声のした方を向いた。
「やけに上機嫌じゃん。なんかいいことあった?」
声を掛けてきたのは、黄髪に毛先がオレンジのキザな見た目をした若者だった。
大きな花束を背負い、楽しそうにカゲマルを見つめている。
「ルキじゃん。うん、なんかいい感じの人と遭遇してね」
カゲマルは花束の男性をルキと呼び、ゆっくり歩み寄る。
「そっか、それは良かった」
「うん、あの子達は本当に良くてさ。きっとあの子達なら、アレをどうにかできると思うんだよね」
「へぇ……」
カゲマルの含みのある物言いに、花束を背負ったルキは興味深そうにカゲマルを見つめる。
そんなカゲマルは、星々が瞬く夜空を見上げながらそっと呟いた。
「あの子達には申し訳ないけど……これも世界の為だからね」




