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28話 杖のたどり着いた先

 大穴が空いた異空間に、巨大な眩い光線が降り注いだ。

 タイカと分離した妖精はあっという間に光線に飲み込まれ、次の瞬間には、妖精がいた場所を中心に巨大な結晶が誕生していた。


「お、終わった……!?」


「どうやら、間に合ったようだな……」


「おーい! シロヤマさーん! ハルカワさーん!」


 カイとマモルが安心したあたりで、天井に空いた大穴から人を呼ぶ声が聞こえてきた。


「2人ともご無事ですかー!?」


「「ヴィオさん!」」


 3人が天井を見上げると、カイとマモルの師匠であるヴィオがホウキに乗って空から姿を現した。


「瞬間移動で来たぞ。遠くからすごいものが見えたが、やはりお前達だったか」


「フィオさん!」 「姉御!」


 ホウキの背にはメイドのフィオの姿もあった。


「お前達、大丈夫……じゃ、なさそうだな。そこでじっとしとけ」


 フィオは大怪我をしていたカイに近付くと、ポケットから魔法道具を取り出した。


 フィオは魔法道具を使用した治療魔法により、すぐさまカイの怪我を治した。


「一瞬で傷が消えた! フィオさんありがとうございます!」


「いいってことよ」


「そうだフィオさん! タイカも治療お願いします! 妖精に操られて無茶させられてたんです!」


「分かった」


 その後、地面に転がるタイカを治療し、番長とマモルの怪我も治した。この場にいる全員はフィオの手により完璧に治療されたのだった。


「よし元通りだな、さて……お前達、これはどういうことか説明しろ」


「一体、何が起こったのですか……?」


「あの、実は……」


 カイとマモルはこれまでの流れを大雑把に説明した。



「妖精が不良に取り憑いて復讐を……か。何とも迷惑な話だな」


 フィオは中央に鎮座する宝石の結晶を尻目にため息をつく。


「ハルカワさん、シロヤマさん。無理に妖精を倒そうとせず、私を呼び寄せる作戦を思いついたのは素晴らしいと思います」


 妖精との戦闘中。カイとマモルが妖精に向けて放った派手な合体技は、ヴィオを現場に呼び寄せるための合図だった。


 妖精には勝てないとヴィオに論されていた2人は、ヴィオの言葉に素直に従い真っ向勝負を避けた。


 結果、助けに入ったヴィオの手により妖精は無事に始末されたのだった。


「それにしても……こんな結晶を生み出すとは、とんでもない力だ……」


 カイが離れて元の色に戻った番長は、目の前に発生した巨大な結晶を前に呆然とする。


「……勝てないわけだ」


 番長は何か悟ったのか、微笑みながらそう呟いた。



「さてと……そろそろ外に出るとしましょうか」


「はい!」


 ヴィオは外に出る為に、異空間を消す準備を始める。


「……あれ?」


 そんな中。カイはふと巨大な宝石に目を向け、宝石の中に閉じ込められた何かを発見した。


「シロヤマさん、どうしました?」


「宝石の結晶の中に杖があるんですよ。ほら、あれです!」


「おや、これは……」


 ヴィオは巨大な宝石の結晶を拍手ひとつで分解する。巨大な宝石は砕け散り、破片は空中で霧散していく。


 やがて、砕けた無数の宝石の中から洒落た杖が姿を現した。


「これって……妖精が落としたやつか? 確か異空間に閉じ込められる前にコレを見たような……」


「確かこの杖から妖精の声がしたんだよな……」


「妖精の杖ですか……今はもう、何の力も残っていないようです」


「綺麗な杖ですね……」


 カイは杖を拾い上げ、じっと眺める。


「古いものですが、お洒落でとても出来のいい杖ですね。恐らく妖精は……」


 カイの持つ杖に目を向け、ヴィオが言葉を続けようとしたその時。カイ達のいる異空間が突如として歪み、一気に崩壊し始めた。


「うわわっ!?」


「全員伏せろっ!」


「大丈夫です、落ち着いてください」


 カイは慌て、番長が叫ぶ中、ヴィオは全員を優しく宥める。

 そうこうしているうちに異空間は一瞬で消え去り、やがて現実の空気が漂い始めた。


「どうやら異空間から現実に戻ってきたようです」


 この場にいた全員は、いつのまにか現実へと戻っていた。

 日時は異空間に入る前とほぼ同じのようだが、景色だけは何もかもが変わっていた。


「あれ……? オレ達がいたのは平野みたいな場所だよな……」


「こんな廃墟の中じゃなかったな……」


「異空間と似た室内……?」


 カイ達が出てきた場所は平野ではなく、古びた工房の広々とした室内だった。


「明らかに無人だよな……」


「だが、埃はあまり積もっていないな」


 カビ臭さ漂う室内には物はあまり置かれていないものの、僅かに残された物はどれも古い物ばかり。


「ここは……」


 ヴィオは辺りを見回し、ひとつの答えを導き出す。

 

「どうやら昔に閉鎖した、魔法の杖の工房のようですね」


「工房……もしかして、妖精がいた場所なのかな……」


 その場にいた全員は辺りを見回す。そんな中、室内の扉の向こうから足音が。


「あらあら、どちら様?」


 扉を開けて室内に入ってきたのは、長い白髪をシンプルにまとめた1人のお婆さん。


「なんだか騒がしいから入ってみれば……大勢でこんなところに入って、一体何してるの?」


「あ、えっと……オレ達は……」


 困惑するお婆さんを前に、カイは杖を片手に慌てる。そんな中マモルは、何食わぬ顔でカイの前に出た。


「失礼しました。俺達、内申点を上げるために周辺でゴミ拾いのボランティアしてました」


「マモル! 一言余計だって!」


(そもそもここって、誰がどう見ても他人の所有地じゃん! 流石にそんな話は誰も信じないって!)


 マモルの苦しい嘘にカイは慌てるも、そんなマモルに続くように次は番長が前に出た。


「おっ、俺に関しては! 進級できるかどうかも怪しい! だから少しでも点を稼ぐためにありとあらゆるボランティアをしている!」


(それもどうかと思うんだけど!? なんか2人ともテンパってないか!? 戦いの疲れなのか!?)


 心の中で激しく指摘するカイも2人と同様に疲労困憊だった。


「内申点をねぇ……」


 言い訳に無理があると思われていたが、対するお婆さんは心配そうにカイ達を見つめていた。


「今時の学生は大変ねぇ」


(信じた!?)


 お婆さんはマモルと番長の話を信じたらしい。むしろお婆さんはマモル達に同情してるようにも見えた。


「ボランティアに関しては何も言わないわ。でも、ここは私の所持する土地よ。今度からは許可を取ってから入ってね」


「「「「「申し訳ございませんでした」」」」」


 お婆さんからの注意を受け、この場にいる全員でお婆さんに謝罪した。


「ほら、これからお掃除するんだから、みんな出てってちょうだい」


「あっ、はい! 分かりました!」


「お婆さん、すいませんでした」


「いえいえ。素直ないい子達で本当に良かったわ」


 お婆さんに促され、カイ達は素直にその場から退散する。


「……あら?」


 だが、お婆さんは立ち去るカイに目を向けた瞬間、何かに気付いて声を上げた。


「そこの坊ちゃん、ちょっと待って」


「えっ、オレ……ですか? どうしました?」


 カイは素直に足を止める。


「その手に持ってる杖を見せてもらえるかしら? それはどこで見つけたものなの?」


「あ、この杖は……この部屋の周辺で見つけました」


 カイは杖を発見した経緯をぼかし、お婆さんに妖精の杖を手渡した。


「これは……!」


 お婆さんは杖を一目見るなり目を見開き、まじまじと杖を見つめる。


「お婆さん、もしかして……その杖に見覚えがあるんですか?」


「ええ……! 間違いないわ、これは主人の作品よ!」


「えっ!?」


 お婆さんの予想外の一言にカイをはじめといた一同は驚く。


「主人って……」


「私の夫、杖職人よ。私と夫はね、この工房で杖作りをしていたの」


 カイ達の前で、お婆さんは杖職人の夫のことを静かに語りはじめた。


「この杖を見たのは、夜も更けてきた頃だったわ。あの人、ある時から工房に1人で閉じこもっては熱心に何かを作ってたの……」


「私は主人が熱心に作る物にほんの少し興味を持って……途中で寝ちゃったあの人に毛布と差し入れのサンドイッチを持ってきた時に、こっそり見ちゃったのよ」


「主人が作ってたのは、綺麗な彫刻が彫られた杖だったの。私の好きな植物のモチーフがふんだんに取り込まれていて、杖の持ち手には私のイニシャルが彫られていたわ」


「それで気付いたの、私の誕生日はそろそろだって。夫はね、私の誕生日に杖をプレゼントするつもりだったみたいなの」


「私、杖には気付かないふりを続けたわ。あの人はこだわりがすごくて、妥協を許さない人だったから……」


「中途半端な状態の杖を私が見たって知られたら、あの人はきっと拗ねてしまうから」


「でも……私の誕生日の日、夫は帰らぬ人となったの……」


 お婆さんは悲しそうな表情を浮かべる。


「夫が亡くなった後、夫が作った杖を探し回ったのだけれど、全然見つからなくて……でも、こうして綺麗な状態で見つかるなんて……!」


「お婆さん、見つかって良かったですね!」


 杖を見つめ満面の笑みをこぼすお婆さんに、カイは嬉しそうに言葉をかける。


「ええ! これでもう思い残すことはないわ!」


「お婆さん! そんなこと言う物じゃないですよ!」


「あらあらごめんなさいね。あまりにも嬉しくって……!」


 嬉しそうに笑うお婆さんを、カイとヴィオは嬉しそうに見つめる。しかし、そんな中でマモルはどういうわけか難しい表情を浮かべていた。


「……あっ! タイカ!」


 ここでカイは、妖精に操られていたタイカのことを思い出した。


「タイカがこの場にいない!」


「もしかしてアイツだけ平野にいるんじゃないか?」


「かもしれない! フィオさん、平野まで飛べますか!?」


「場所は分かるから飛べるぞ。異空間があった場所だな?」


「そうです! ……あっ、お婆さん! オレ達はそろそろ行きます!」


「分かったわ。皆さん、ありがとう」


 カイ達はフィオの周りに集まり、番長もそれとなくフィオに近付く。


「お婆さん! お元気で!」


「ええ、皆さんも元気でね」


「はい! お婆さん、さようなら!」


 カイはお婆さんに手を振り挨拶をしたところで、カイ達はフィオの能力により瞬間移動し、この場から姿を消した。


「今時の魔法は凄いねぇ……あら?」


 全員は一瞬でその場から退散したが、どういうわけかフィオだけはこの場に残っていた。


「お嬢ちゃん、どうしたの? 忘れ物?」


「婆さん」


 優しく言葉をかけるお婆さんに、フィオはいつもの調子で語りかける。


「向こうでも、幸せにな」


「……ええ。ありがとう」


「じゃあな」


 最後に一言挨拶を述べると、フィオは瞬間移動でその場から姿を消したのだった。

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