29話 不穏な風【挿絵あり】
カイ達はフィオの瞬間移動により、元いた平野に再び戻った。
「タイカ!」
平野には不良が集まっており、中心には気絶したままのタイカと、タイカの弟であるシンの姿があった。
「タイカは大丈夫か!?」
「あっ、はい。兄さんは無事です」
眠るタイカの側で心配そうにしていたシンは、駆け寄りながら心配の声を掛けてきたたカイに顔を向けた。
「兄さんは気絶してるだけのようです。じきに救急車が来ます」
「良かった……あっ」
ここでカイはタイカの家庭事情を思い出す。
「シン……だったよな? タイカは両親に会わせるのか?」
「いえ、兄さんは家には帰らせません」
カイの心配する声に対し、シンは声色を変えず淡々と述べた。
「僕、祖父母に両親の行き過ぎた教育のことを話したんです。兄さんに無理をさせていたことも、何もかも話しました」
「そうだったのか……」
「そしたら、祖父母が責任を持って兄さんの面倒を見ると言ってくれたんです。なので今後、兄さんは家から離れて暮らすことになります」
「そうか……」
「僕、兄さんに祖父母の実家への連絡先を渡すつもりだったんです。これが兄さんの幸せに繋がるかは分かりませんが……少なくとも実家よりましだと思います」
一通り話を終えたシンは、少し言いづらそうにしながらも再びカイに向かって口を開いた。
「あの……スノーマンさん?」
「俺はカイ、シロヤマカイだよ」
「シロヤマさん、妖精に操られた兄さんを止めてくれてありがとうございました。お陰で兄さんは助かりました」
「マモルと番長も助けたんだ! 2人にもお礼言ってあげてくれ!」
「マモルさん、番長さん、ありがとうございました」
カイの言葉に素直に従い、シンは2人に礼を述べる。
「ふん、人として当然のことをしたまでだ」
「1番の功労者はヴィオさんだ。ヴィオさんにもお礼言ってあげてくれ」
「ヴィオさん、ありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして!」
シンは丁寧に礼を述べていき、改めて周りの不良達の方を向いた。
「兄さんが助かったのは皆さんのお陰でもあります、本当にありがとうございました」
「別にソイツの為じゃねーよ! でも、二度と兄貴を悲しませるんじゃねーぞ!」
「へっ、ライバルが減ってこっちとしては嬉しい限りだよ!」
「嘘つけ! お前さっきこっそり「達者でな」とか言ってたろーが!」
「バッ……! それ言うんじゃねーよ!」
シンの礼を真っ直ぐ受け止められない不良達によって、現場は騒々しくなる。
「……なあ、ちょっといいか?」
そんな中。カイは何かを心配したのか、シンに向かって質問を飛ばす。
「言い出しっぺのオレが言うのもアレかもだけど……流れとはいえ、タイカの事情をこんな大勢に話して大丈夫だったのか?」
「あっ……」
カイの問いに、シンの顔は青ざめる。思った通り、言いふらしていい話題ではなかったようだ。
「えっと……あの、皆さん……兄さんにはこのことは内緒に……」
「いや、内緒にしねーよ。お前がベラベラ喋ったのが悪い」
「一回怒られてこい。できれば殴られてこい」
「そんなぁ!」
不良による手のひら返しにより、場は再び賑やかになる。
「ほーほー、あれが青春ってやつかー」
そんな賑やかな光景を、フィオは遠くにある木の上から静かに眺める。
「さてと、お邪魔虫はさっさと退散しますか……」
一足先に帰るため、フィオは座り込んでいた木の枝から立ち上がった。
「……」
しかし、ふと何かに気付いたのかその場で動きを止める。
途端に不機嫌になったフィオは、表情を一切動かさないまま静かに口を開いた。
「リーシュ、わざわざこんな所に何しに来た」
何者かの名前を口にした途端、フィオのいる木の付近に何者かが一瞬で姿を表した。
「おや、隠れて静かに見守っていたつもりでしたが……気づかれましたか」
長い髪に切れ長の目が特徴的な、風を纏わせた1人の男性。
どことなく人外の気配を漂わせるリーシュは、木の幹にもたれかかったままフィオに話しかける。
「我々は同じ妖精同士、そう邪険になさらずとも良いではないですか。仲良くしましょう」
「誰がお前なんかと仲良くするか。しつこく付き纏いやがって」
「今回の目当ては貴方ではありませんよ、悪しからず」
「……杖の妖精か」
フィオはリーシュに目も向けず呟く。
「この様子を見るに、どうやら先を越されたようですね」
リーシュは遠くに見える不良の群れを眺める。
「あの妖精は人の世に関わりすぎました。妖精にとっても迷惑極まりない存在なので、妖精騎士団の長である私が直々に手を下そうとしたのですが……」
「白々しい」
リーシュに、フィオはたった一言吐き捨てた。
「お前、一部始終をずっとその目で見てたんだろ」
「私が暴れ回る妖精を前に、ただ傍観していたと? なんと人聞きの悪い……人間の邪魔にならないよう待機していただけです」
「それを傍観してたと言うんだろ。そもそも、妖精最優先の防衛隊みたいなお前達なら、人なんか気にせず自分の仕事を全うするだろ。わざわざ人様を覗き見して、お前は何を企んでる」
「そこまで邪推なさらずとも……とにかく」
リーシュはゴホンとひとつ咳払いをする。
「残念ながら、私の出る幕は無かったようです。私はこれにて失礼します」
「おー、とっとと立ち去れ」
「フィオさん」
リーシュは木の幹から離れ、フィオのいる方角に僅かに顔を向ける。
「妖精騎士団はいつでも貴方を歓迎します。お気軽に屯所までお越しください、では」
リーシュはそう言い残した途端、この場に一陣の風が吹き込んだ。
そして次の瞬間、リーシュは忽然と姿を消していた。
「しつこい男は嫌われるぞ」
何もないところに向かって言い捨てたところで、木の根元に別の人間が姿を現した。
「おや、ひょっとして彼が此処に来ていたのですか?」
「ヴィオか」
この場にヴィオが現れ、フィオはすぐさま地面に着地する。
「まあいつものやつだ。だが、今回は少し妙だった」
「妙、ですか?」
「……あいつ、わざわざ人を観察してやがったんだ」
「あの人間嫌いの彼が人間に興味を? それは少し気になりますね……」
「それよりヴィオ、アイツらの元にいなくていいのか?」
フィオは遠くに見えるカイとマモル、そして不良の群れを一瞥する。
「あ、大丈夫です。私の出る幕ではありませんから」
「そうか」
「それ以前に……あの光景は、わたくしには眩し過ぎて……」
「ほい」
フィオはヴィオにサングラスを差し出した。ヴィオは何も言わずサングラスを手に取り、そのまま装着する。
「……ヴィオ、家に帰るか」
「はい」
フィオもサングラスを装着すると、ヴィオとフィオはホウキに乗ってその場から静かに退散したのだった。




