30話 杖職人の真相【挿絵あり】
不良を無力化させ、妖精との激しい戦いを終えた数日後……
「今日はお出掛けの日! やったー!」
「カイ、朝からずっと騒がしいな。いいことあったのか?」
「オレはっきりとお出掛けの日って言ってんだけどな」
放課後。カイと真面目な格好のマモルは、いつもの帰り道を並んで歩く。
マモルは普段通りだが、カイは普段よりテンションが高めだ。
「今日はついにお出掛け解禁の日! テンション上がらずにはいられないって!」
不良と無事に和解した後。カイとマモルは番長から「不良の危険行為を止める為ならば力を使役しても構わない」と、直々にお墨付きを貰った。
これによりカイとマモルは不良から一目置かれることとなり、番長と関わりのある不良グループからは敵として認識されなくなった。
「オレとマモルは夜も自由に出歩けるようになったし! ヴィオさんとのお出掛けは解禁! しかも行き先はゲーセン!」
「そういえばお前、修行中もずっとゲーセン行きたがってたな」
「当然!」
「何が当然なんだ」
「あー早くキーマスとポコマジと再会したい……!」
「そんなに会いたいのか……」
カイのテンションの上がりように、マモルは普段のボケを忘れて呆然としている。
「それにしても……今日のお出掛け、オオガシラ番長も来れば良かったのに……」
「お出掛けに気軽に番長を呼ぼうとするな。そもそもアイツは一般市民から一目置かれているとんでもない不良なんだぞ」
「マモルも番長と同じこと言うのか。やっぱ駄目かな?」
カイは残念そうにぼやく。
「オレは番長とは友達になりたかったんだけど、番長は「そもそも一般市民は不良とは関わるんじゃない!」って言われて拒否されてさ、あれ以降ずっと会えてないんだよ」
「あの番長、そういうところは律儀だな」
「折角仲良くなれたのに……ま、いつかどっかで会えるよな!」
「……そうだな」
カイは落ち込むものの、すぐさまいつもの調子を取り戻す。
「……あ! そういえば、杖のお婆さんはあの後どうなったのかな? あのお婆さんともあれ以降会えてないよな」
「俺達の知らないところで元気にしてるだろ」
「だといいんだけどなぁ……あのお婆さん、かなり高齢だったから心配で……」
「心配、か……もしカイが知りたいのならば、お婆さんの詳しい話はするぞ」
「えっ!? マモル、お婆さんのこと知ってるのか!?」
「まあ色々とな。そこそこ有名な話だからな……で、聞くのか?」
「聞く!」
「分かった。だが、あまりいい話ではないと先に伝えておくぞ、それでも聞くか?」
「えっ?」
マモルの忠告に、カイは一瞬戸惑う。しかしカイはすぐに気を取り直すと、マモルに真っ直ぐ視線を向けた。
「……いや、聞く!!」
「分かった。なら話そう……これは昔、この地域で起こった事件の話だ」
カイの返事に頷いたマモルは、とある事件について話を始めた。
とある日。杖工房に魔法の杖を所持した男が侵入した。
当時、工房には杖職人と妻の2人のみで、妻は男の手により人質に取られた。
「もし下手なことしたらコイツの命はない」と脅され、杖職人は仕方なく男の指示に従い金品を差し出した。
男の指示に全て従った。しかし男は最後に「お前の作ったこの杖のせいで俺は落ちこぼれになった」と宣い、妻と杖職人を杖で襲撃。
妻は一命を取り留めた。しかし夫は魔法の一撃が致命傷となり命を落としたのだった。
「……これが事件の簡単な概要だ」
「そんなことが……」
話を聞き終えたカイは、表情を暗くしてマモルを見つめる。
「ってことはあのお婆さん、誕生日の日に夫を……」
「ああ。犯人は杖職人への逆恨み……かと思われたが、犯人の持つ杖は襲った工房の杖とは何ひとつ一致しなかった」
「えっ!? それって……!」
「犯人の勘違いだったんだ。杖職人もさぞ、悔しかっただろうな」
マモルも杖職人の話に表情を暗くする。
「……だとすると、やっぱりあの妖精って杖職人本人だったのかな。許さないってずっと言ってたし……」
「或いは、犯人と杖職人の怨念が混じり合って生まれた妖精かもな」
「……ならあの異空間でのことは、お婆さんには黙っていた方がいいよな」
「まあそうだが……それ以前に、あの出来事をお婆さんに伝える手段はもうないぞ」
「えっ?」
「……杖職人の妻も、一昨年に亡くなっていたそうだ」
「!」
マモルの一言にカイは目を見開いて驚く。
「俺もお婆さんのことは気になっていた。事件についても知っていたから尚更な。だが、調べたら……」
「でも、あの時確かに目の前にいたよな!?」
「ああ。確かにあの時、俺達は杖職人の妻と遭遇した」
「でも、あの時出会った時には既に……?」
「……これは俺の憶測だが、あのお婆さんは妖精だったのかもしれん」
「妖精……」
マモルは眼鏡越しに遠くの空を見やる。
「あの時訪れた廃墟は荒れてはいたが、埃は全く積もっていなかった」
「あ、うん……なんか綺麗だったような……」
「これは推測になるが……お婆さんは亡くなった後、シルキーとなって廃墟に居座り、夫の杖を探し回っていたのかもしれん」
「……そっか」
カイもマモルを真似して、空の向こうに目をやる。
「……マモル」
「なんだ」
「お婆さんに杖、渡せて良かったよな」
「そうだな。お婆さんも杖を発見できて喜んでいたからな」
先程まで賑やかだったのが嘘のように、2人は静かに道を歩く。
「……オレ、いつか危険な妖精を止められるくらいに強くなりたいな」
「俺もだ。まだまだ未熟だが、せめて誰かを守れるくらいにはなりたいな」
「だな」
2人は強い信念を掲げ、静かにやり取りを交わす。
そんな2人に歩み寄る、小さな人影が1人。
「わっ!」
「うわっ!? ……って、ヴィオさん!?」
「えへへ……」
しんみりしていたカイとマモルに声を掛けてきたのはヴィオだった。
「道を歩いていたら落ち込む2人を見かけたのでつい……それにしても、そんなに落ち込んでどうしたんですか?」
「あ、ちょっと色々と……」
「それより、ヴィオさんは外に何のご用で?」
カイは口ごもり、マモルは質問を誤魔化すかのように質問を返す。
「わたくしは此処から少し離れたスーパーに行ってみようかと……そうだ! 折角ここで出会ったんですし、気晴らしに少し遠くのスーパーに一緒に行きませんか? お菓子奢りますよ?」
「いいんですか!? 行きます!」
「ヴィオさんいいタイミングですね。丁度荷物を持ちたかったんですよ」
「ハルカワさん、せめて菓子の方に釣られてください」
ヴィオの誘いにカイとマモルはいつもの調子で快諾する。
「ではホウキに乗って遠いスーパーに行きましょう! 10万丸以内なら好きなもの買っていいですからね!」
「そんなにいいんですか!?」
「家購入できるじゃないですか」
「10万で家は買えません! ほら、ホウキの準備をしてください! 行きますよ!」
「「はい!」」
ヴィオに元気よく返事をした2人はホウキに乗って空を飛び、スーパーを目指して飛び始めた。
「そうだ! スーパーに売られているオススメ商品はありますか? もしあるのなら是非とも教えてください!」
「スーパーのオススメですね! それならば大きなペットボトル飲料がオススメです!」
「俺としましては箱アイスをオススメしたいですね」
3人は仲睦まじく会話をしながら空を飛んでいく。ゼウシリーアは今日も平和だ。




