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25話 恨みがましい妖精

 妖精の仕業により、カイとマモルは木造建ての工房を模した異空間に閉じ込められてしまった。

 不良と合流した2人は、マモルを中心に妖精を倒す為の作戦を立てた。


「……これが成功すれば、仮に妖精を倒せなくとも全員無事に逃走できる筈だ。どうだ、出来そうか」


 マモルは一通り作戦を伝え終え、改めて全員に顔を向ける。


「あ、ああ……これなら……」


「確かに俺達の命は助かる。だがよぉ……この作戦、お前達が助かる確率は限りなく低いだろ」


「スノーマンとお前が異空間に残って妖精を引きつけるだと? 何でそんな真似すんだよ……」


「番長から「妖精とは戦うな」って言われたけどよぉ、だからって何もせずお前達を見殺しにするなんでダサい真似できねーよ!」


 マモルとカイを囮にする作戦は、不良達からの評判は非常に悪かった。


「だが、あの妖精は恨み深い」


 対するマモルは不良に臆さず、冷静に説明を挟む。


「あの妖精をどうにかせず逃げ出したとしても、いつか妖精に探し出されて終わるぞ」


「だからってよ! 力あるからって、物凄く危ない役割引き受けやがって!」


「もしお前達がそれに失敗したら……!」


「成功させる、心配するな。俺としてはむしろ、お前達がしっかり役割を果たせるかどうかが心配だな」


「何言ってやがる! 俺達だけは絶対に成功させてやる!」


「俺達は絶対にやり遂げるから心配すんな! お前は自分の心配でもしてろ!」


「……分かった、ありがとう」


 不良の啖呵を切るような申し出に、マモルは素直にお礼を言った。




 作戦会議が終わり、カイとマモルは妖精の元へと向かうために、番長のいる部屋から退出した。


「おい! お前達!」


 出入り口で不良の1人に声をかけられ見送られる。


「スノーマンとサラマンダー! 気をつけろよ!」


「おう!」


「サラマンダー……」


「お前のことだよ燃焼野朗!」


 どうやらマモルはサラマンダーというあだ名がついたらしい。


「心配してくれてありがとな! そっちも気をつけろよ!」


「誰に言ってやがる! 俺達はキメラ連合の……! って言ってる場合じゃねぇ、じゃあな!」


 カイとマモルは不良と別れると、所持していた見習いの杖を構え、気配ダダ漏れの妖精の元へと移動を開始した。


 魔法使いの杖は全て不良に所持させたので、カイとマモルが持つのは魔法使い見習い専用の杖だ。

 そもそもの話、2人は杖を使用せずとも高威力の技を出せるので、魔法使いの杖は必要無い。


 カイとマモルはなるべく魔力を外に出さず、杖による妖精探知をしつつ慎重に部屋を進んでいき、やがて妖精のいる部屋を突き止めた。


「この奥にいるよな……」


 扉の前でカイとマモルは立ち止まる。


「よし、では手筈通りに……」


「ああっ! お前達! こんなところにいやがった!」


「!」


 作戦通りに動き出そうとしたその時。唐突に扉が開き、1人の不良が姿を現した。


「てめぇこの野郎! 俺をこんな変なところに連れて来やがって!」


 どうやら彼は猫耳不良の仲間らしく、さらに現状をよく理解していないらしい。彼は構えた杖に魔力を多量に込めながらカイとマモルに急接近してきた。


「テメェら! 一体どうい……!」


「「シーッ!」」


 マモルとカイはすぐさま静かにするよう促す。しかし、時すでに遅し。


「お前……叫んだ上に魔力使ったな……?」


「それがどうかしたか!? あぁ!? お前もこの杖の餌食に……!」


『ミツケタァ!』


 妖精のいた部屋からけたましい叫び声が響き、扉を蹴破って人型の何かが飛び出してきた。全身を木製の部品で覆い、妙な声色で叫び散らしている。


『ミツケタミツケタミツケタァ!』


「は……?」


 人型の何かは不良に狙いを定め、不良の顔面に飛び掛かった。


「うゎあああ!?」


「マズい!」


 カイは咄嗟に人型を目掛けて輝く閃光を放つ。閃光は人型をあっという間に凍らせ、氷により相手の動きを止めた。


 カイとマモルはすぐさま人型の何かに向けて構えの姿勢を取る。


「な……なっ……!?」


「逃げろっ! 妖精に殺されるぞ!」


「ひいっ……!」


 腰のひけた不良は、マモルの切羽詰まった怒声を浴びると大慌てで逃げ出した。


「よし、アイツは無事に逃げれたな……」


「カイ! 氷に閉じ込めてた奴が出てくるぞ! 構えろ!」


 2人が警戒する中、ついに氷の塊が大破。氷の中から人型の何かが姿を現した。


 木製の何かの部品で覆われた謎の人型。カイの先制攻撃により頭部を覆う部品が一部欠け、中身が露わになった。


『ミツケタ……! ミツケタ……!』


「猫耳の不良!?」


「タイカ……!」


 人型の正体は猫耳不良のタイカだった。しかし、タイカの様子がおかしい。


『卑怯者……! オマエサエ居ナケレバ……!』


「あいつ……! 一体どうしたんだ……!?」


「この声は妖精の……どうやらタイカは、妖精に魅入られたようだな……」


「みいられる?」


「奴らが共鳴したのか分からんが、タイカは妖精に取り込まれたんだ。しかも、よりによって魔法道具で奴を覆うとは……」


『貴様ァアア! 呪ッテヤル! 呪ッテヤル!』


 妖精に取り憑かれたタイカは悍ましい声色で叫び、2人を目掛けて魔法弾を幾つも放ってきた。


「!」


 2人はすぐさまその場から飛び跳ね、無数の魔法弾を避けた。


「それっ!」


 カイは駆け抜けながら、相手を目掛けて輝く光線を幾つも放つ。

 しかし相手は人並外れた速度で走り回り、カイの閃光をことごとく避けてしまった。


「速っ!?」


 高速で駆け抜けたタイカはカイの視界から消えた。


 かと思えば、瞬時にカイの目の前に姿を現した。


「!?」


 タイカはカイの顔面を目掛けて魔力を込めた回し蹴りを放った。


「はっ!」


『ギッ!?』


 しかしカイは優れた反射神経により回し蹴りを腕で防ぎ、その上で受け止めた脚をすぐさま凍らせた。


『クソッ!』


 タイカは腕を振り解きカイから離れる。


「甘いっ!」


 着地したところをすかさずマモルが炎で狙い撃つ。


『ガア゛ッ!?』


 マモルの炎はタイカに命中。タイカは凄まじい衝撃を受け、壁を打ち破り後方へと飛んでいった。


「よし」


(人に向けて力が使えた……! 体内の魔力も安定している……!)


 マモルは過去のトラブルが原因で、今まで人に向けて能力を使えなかった。それにより体内の魔力も制限されていた。


 マモルはこれらの弱点を克服する為に、修行でとにかく対人戦などを徹底的に行った。


 死にものぐるいで修行を続けた結果、マモルは弱点を克服。それに伴い、体内の魔力もある程度復活したのだった。


「マモル!」


 相手が奥に吹き飛んだタイミングで、カイはマモルの元へと駆けつけた。


「人前で完璧に能力を使えるようになったんだな! 相手が少し心配だけども……」


「相手は全身に魔法道具を装備している。これくらいしないと攻撃は通用しないぞ」


「そうだよな……」


 カイは表情を暗くしながらも、マモルの言葉に同意する。


「そんなことより、今は目の前の相手に集中……いや、アイツ……」


 マモルは懐から杖を取り出して構え、辺りを見回す。


「……アイツ逃げたな」


「マジかよ!?」


「どうやらターゲットを変えたらしい。急いで奴を追いかけるぞ」


「分かった!」


 カイとマモルは妖精の気配に向かってその場から駆け出した。


「アイツ、もしかしてさっき逃げた奴追いかけてるんじゃ……」


「アイツは杖を所持していた。丸腰よりはマシだが、なるべく早く駆けつけないとな」


「だな!」


「相手は妖精だが、所詮は素人……さらに奴は人間に憑依している。まだ俺達が生き残れる確率は高いな」


「そうなのか?」


「ああ」


 マモルは全速力で走りながら話を続ける。


「人間に憑依した妖精は、人間が耐えられるギリギリの速度でしか動けない」


「なのに妖精は人に乗り移ったのか?」


「妖精は人前に出るのが苦手だ。だからタイカを乗っ取り、俺達の前に現れたのだろう」


「そういうことか……あっ!」


 全速力で駆け抜けた先は荒れた大部屋。妖精に取り憑かれたタイカは、杖を所持する不良に襲いかかっていた。


『クタバレッ! クタバレッ!』


「ひぃいい!」


 不良はガラクタで壁を作り、壁に魔力を流して防御していた。

 杖のお陰で壁はかなり頑丈になっているが、魔法道具で覆われたタイカの凄まじい力により壁は決壊寸前だ。


「やっぱり! さっきのやつだ!」


「今助ける!」


 カイは壁への攻撃に夢中になっているタイカを目掛けて輝く結晶を放った。


『アアッ!?』


 結晶はタイカに激突し、巨大な氷の結晶へと変化。タイカは身動きできず停止した。


「お前、今のうちに逃げろ! 誰か見かけたらそいつにくっついとけ!」


「ひぃ……!」


 マモルに再び怒鳴られ、不良は小さく悲鳴を上げながらすぐさま大部屋から姿を消した。


 その間にカイはタイカの周りを頑丈な氷で囲い、身動きを完全に封じた。


「捕まえたっ!」


『ゥヴヴヴ……!』


 氷に閉じ込められ、タイカは顔を歪ませる。


「相手の動きが止まった……カイ、あの技やるぞ!」


「えっ!? まさかアレやるのか!? アレ人間相手にやって大丈夫か!?」


「作戦会議の際にこの技を使うと言っただろ。それに、ここで相手をある程度痛めつけておかないと、後で体力の差で俺達が追い込まれるぞ。それに……」


 マモルはタイカを睨みつける。


「相手を見ろ、とんでもない技が来ると分かって魔法道具を駆使し、全力で防御している。強力な技を放ったところで相手に大打撃は与えられない」


「そうか……分かった!」


 カイは頷き、カイとマモルはタイカの前で力を貯め始める。カイの周りは凍てつき、マモルの周りは熱気により景色が歪んでいく。


『ギギッ……!?』


 妖精に乗っ取られているタイカは見るからに慌てており、必死になって自身の周りに魔力の壁を作り出している。


「よし……行くぞっ!」


「おう!」


 最大まで力を溜めた2人は息を合わせ、タイカを目掛けてお互いの強力な技を放った。その時。



「たす……助け……て……」



「!」


 妖精ではなく、タイカ本人から声が漏れた。


 そんなタイカの眼前でカイとマモルの力がぶつかり、タイカを中心に輝く柱が上がった。


 水蒸気爆発に似た現象のようだが、魔力により発生したからなのか実際の現象とはだいぶ異なるようだ。


 氷は炎に照らされ光り輝き、やがて柱は大爆発。周囲に結晶を伴う熱気と冷風を放出した。


 マモルはその場で防御に徹し、柱から放出される余波から身を守った。


「よし……」


 水蒸気の柱は大部屋の天井、つまり異空間に大穴を開けた。


「上手く行ったな」


 大技によりタイカは自由になる。タイカを覆う木製の魔法道具ボロボロだが、まだ力でみなぎっている様子だ。


「後はアイツを惹きつけておくだけだ。カイ……っ!?」


 マモルは隣のカイに顔を向けるも、目の前の光景にカイは思わず声を失った。


「マモル……ごめん……!」


 カイはどういうわけか全身ボロボロになっていた。

 氷の壁を展開しようとした名残だろうか、辺りに分厚い氷が散らばっている。


「カイ! まさか余波をもろに喰らったのか!? 防御はどうした!?」


「力が……」


 大怪我を負ったカイは何とか声を振り絞る。


「力が……力が上手く使えないんだ……!」

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