24話 異質な異空間
現場に異質な杖が現れたかと思うと、杖は唐突に光り輝いて何もかもを白で覆ってしまった。
「うわああっ! あ……あれ……?」
視界全てを光に覆われ、驚いて声上げていたカイだったが、すぐに光が収まるのを確認したのを見て呆気に取られる。
「カイ、無事か?」
「マモル! オレは大丈夫……っ!?」
カイは隣にいたマモルに視線を向け……目に入った周囲の光景に思わず言葉を失った。
「ここ何処だ!?」
先程までカイ達がいた殺風景な平野は何処にも無かった。
「何でオレ室内にいるんだ!?」
どうやらここは木造建ての建築物の中らしく、カイとマモルはやたら広い室内に2人きりで放置されていた。
「なんかこの室内、かなり変な感じがする……」
「恐らくここは、あの杖の主が作り出した異空間なのだろうな」
目の前に広がる室内はめちゃくちゃだった。
棚が床と同化していたり、ドアが天井に張り付いていたりと、全体的に異質な造りだ。
「一体どうなってるんだ……!?」
「あたりに見える物から推測するに、ここはどうやら杖の工房のようだな……」
様変わりした現場に目を白黒させるカイに対し、マモルは冷静に辺りを見回して分析し、やがて結論を口にした。
「恐らくこれは、ヴィオさんが前に説明していた小人の妖精の仕業だろうな」
「小人の……あっ! 最近この辺で迷惑をかけているっていうあの妖精!?」
数日前。夕暮れ時に行われた修行の合間の休み時間でのこと……
「実は最近、この地域に迷惑をかけて回る妖精がいるようなのです」
「どうしたんですか急に」
「何の前振りもなく唐突に話し始めましたね」
広々とした土地の片隅に造られた休憩スペース。カイとマモルに治療魔法を施していたヴィオは、脈絡無しに唐突に妖精の話題を切り出した。
「ほら、前にバイクに乗った不良達がいたでしょう?」
「ああ、いましたね。魔法使いの杖を持ってたあの……」
「そう、それです! その不良達が、魔法使いの杖をどこで入手したのか判明しました! 犯人は妖精です!」
「「妖精?」」
カイとマモルが揃えて声を上げる。
「はい。やたら恨み深い、小人の妖精による悪行のようです。他人に恨みを持つ人間を見つけては、手作りの魔法道具を配って回っているようです」
「そんな大規模な迷惑行為を働く妖精が、このゼウシリーアにいるんですか?」
「なんて迷惑な……」
「はっきり言って大迷惑です! なのでわたくしが、その妖精をこっそり討伐しておこうかと思ったのですが……」
「えっ? まさかその妖精、最強のヴィオさんでも倒せないんですか!?」
「その通り。わたくしでは倒せないのですよ……その妖精は強い相手を恐れているようで、わたくしが近付くと逃げてしまって……」
「卑怯者だな。妖精の風上にも置けない奴だ」
飲み物が乗せられたトレーを手にしたフィオは、ヴィオの会話に割り込みつつその場の全員に飲み物を配る。
「……人を見たら逃げる。妖精は基本そんなものでは?」
「まあ確かに。妖精はあまり姿を見せたがらないシャイで姑息な卑怯者が多いな」
「言い過ぎですよ姉御」
「とにかく!」
妖精雑談をするマモルとフィオ。ヴィオは横に逸れた話を戻すために、大きな声で一言発する。
「まだまだ初心者であるお2人は、例の妖精とはまともに戦えません! 妖精は魔力も素早さも桁違いなんです! 気配を察したらすぐに逃げてください!」
「夢の中で妖精と戦っている2人なら、妖精への立ち回りはある程度は分かるだろう。とにかく逃げ隠れして、そいつから離れろ。まあ……」
「その妖精は執念深いと聞く。目の前にその妖精が現れた時には既に、その妖精から恨みを買ってることになるだろうから……そうならならないよう、妖精から恨みは買うなよ」
「……って、言ってたな……」
ヴィオとフィオの話を思い返した2人は、改めて妖精らしき物体と出会った時のことを振り返る。
「……あの妖精、永遠に許さないとか言ってたな……」
「お前達全員と言っていたから、俺達も範囲に入ってるだろうな」
「何で急に……? オレ、妖精に恨まれることしたかなぁ……」
「……これは俺の推測だが」
カイの疑問に、辺りを見回していたマモルはカイに視線を向けた。
「恐らくあの妖精は、猫耳の不良に取り憑いていたんだと思う」
「取り憑いて……あっ! 確かアイツ、本来は杖は持てないとか言ってたよな。様子がおかしいとは思っていたけど……」
「俺達を恨んだ不良に同情した妖精が、妙な杖を不良に渡したんだろうな。で、俺達がその不良達を返り討ちにしたから……」
「……マモル、もしかして……オレ達、妖精から恨み買っちゃった?」
「かもしれんな」
「やばい……!」
勝ち目がない妖精に目をつけられてしまったと悟った2人は、お互い気まずそうに顔を見合わせる。
「……カイ。とりあえず不良達を探すぞ」
「分かった!」
少しでも味方を増やしたいマモルとカイは、人探しのために異空間の探索を開始した。
「番長、大丈夫かな……」
「1番大丈夫そうな奴を心配するのか……ん?」
妖精の気配を探りつつ歩くマモルの足元から、コンコンと何かノックする音が聞こえてきた。
「こんなところにドアがあるな……妖精の気配はない、恐らくノックしてきたのは人間だろうな」
「……あっ! ドアからなんか聞こえる!」
カイはドア越しに聞こえる声を聞くためにしゃがみ込んだ。
「カイ、向こうはなんて言ってる?」
「山! 山! って言ってる!」
「……川って答えとけ」
「分かった! 川!」
カイが「川」と一言発したその瞬間、ドアはガチャリと音を立てて開いた。ドアの向こうからそこそこガタイのいい不良が姿を現した。
「あっ! 番長の近くにいた不良!」
「静かに……! 早く入れ……!」
不良に促され、カイとマモルはすぐにドアの向こう側へと降り立った。
「カイ、無事だったか」
「番長!」
扉の向こうには、机に座り込む番長と不良達の姿があった。番長の前には、魔法使いの杖が幾つか転がっている。
「大変なことになったな」
「妖精の仕業だよ! この辺で魔法道具ばら撒いてた迷惑な奴!」
カイは慌てて番長の前へと駆け寄りつつ簡単に説明をする。
「魔法道具か……なるほど、あの猫耳が所持していた道具はその妖精の仕業だったか……」
「妖精はすごく強いから、1人で立ち向かうのは難しいって聞いた……でも、番長と一緒にあの妖精と立ち向かったらもしかしたら……!」
「……カイ、残念だがそれはできない」
戦いに誘おうとするカイに対し、番長は申し訳なさそうな様子で提案を断る。
「先程、ケジメのために己の身に大打撃を与えてしまったせいで、今は本調子で動けん……!」
「そんな!」
「何してんだこんな時に……」
「こんなことになるなら、ケジメは後にするべきだった……!」
「そもそもするな、そんなこと。怪我を治療する身にもなれ」
「うぐぐ……返す言葉もない……」
半ば呆れるマモルに対し、番長は悔しそうに告げる。そんな中、カイ達が出入りしてきた扉とは別の扉から不良が姿を現した。
「番長!」
「どうした」
「仲間を探していたところ、知らない一般人を発見しました!」
「一般人……?」
不良の背後には、明らかに不良ではない真面目そうな男子学生の姿があった。
「あ、あの……」
頭部に獣耳を生やし、眼鏡をかけた見知らぬ男子学生はおずおずと言葉を発する。
「あの、僕はリリ、シンと言います……えっと、僕と同じ耳を生やした不良を知りませんか……? リリ、タイカって言うんですけど……」
「タイカ……?」
全員は男子学生の頭を注視する。男子学生の頭部には、先程まで戦っていた猫耳不良と似た猫耳が生えていた。
「……もしかして、猫耳不良のことか?」
「知ってるんですね。あの、その人は僕の兄さんなんです……」
「そうなのか!? あいつタイカって言うんだ……!」
男子学生の発言にカイは驚く。一方、マモルはタイカの弟をじっと見つめている。
「弟は不良じゃないんだな……」
「兄さんも昔は普通でした。むしろ僕よりすごく優秀でした」
「そうだったのか?」
「はい。魔力が高くて成績が優秀で……でも、両親が勉強の管理をするようになってから、成績が下がってしまって……」
猫耳学生の言葉にマモルは僅かに眉を下げる。
「僕や周りの人がその勉強方法を止めるよう告げても聞かなくて……やがて兄さんはグレてしまいました……」
「そうか……」
タイカの事情を知り、マモルはどこか悲しげな表情をする。
「そういえば弟さん、ここに何しに来てんだ?」
「あの、兄さんに渡したいものがあって……街中で走る兄さんを追いかけたんです。そしたらこんなことに巻き込まれて……」
「巻き込まれたのか……分かった! とりあえず皆んなとここで待機していてくれ!」
「魔力がある奴は妖精の気配を杖で探れる。恐らくここにいる奴らも、それで妖精から逃げてる筈だ。魔法を使える奴から離れるなよ」
「分かりました」
カイとマモルの言葉に猫耳学生は素直に返事をする。
「さて……マモル、あの妖精はオレ達で何とかするか?」
「出来るのならそうしたいところだが……不安しかないな。あのヴィオさんは、俺達には太刀打ちできないと判断しているのだからな」
「だよな……」
「かと言って、なんとかしてこの異空間から逃げたとしても、逃げてる最中に何人かは犠牲になりそうだ。下手したらまた異空間に閉じ込められるぞ」
「逃げるのも無理そうか……」
マモルの説明に、カイは目に見えて落胆する。
「……だが、俺に考えがある。確かカイは杖を凍らせただけで、氷を溶かせば杖は使えるよな?」
「あっ、氷漬けの杖なら拾ってきてるぜ!」
「俺も! その辺に落ちてた!」
マモルの言葉に、周りにいた不良が氷を手に返事をする。
「分厚い氷くらい俺がどうにかできる」
番長は氷漬けの杖を手に取ると、魔力を込めた手で思い切り握り潰した。握った手を開くと、そこには氷ひとつない綺麗な杖が。
「妙なまじないがかかっているようだが、それもどうにかできる」
「ならば、もしかしたらどうにかなるかもしれん。番長達にもやってほしいことがある、頼めるか」
「全員が助かるのなら引き受けよう」
「ありがとう」
番長は承諾し、マモルは素直に礼を述べる。
「妖精は俺達が引きつける、その間に……」
カイは不良達を前に作戦の説明し、不良達はマモルの説明を真面目に聞く。
やがてマモルは説明を終え、改めて不良達を見回した。
「……作戦は大方こんなものだ。これが成功すれば、仮に妖精を倒せなくとも全員無事に脱出できる筈だ」




