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22話 不良の世界

 放課後、何もない平野にて。ほとんどの不良が戦闘不能に陥る中、ついに不良のリーダー格がカイとマモルと対峙した。


 猫耳不良のタイカをマモルが圧倒する中、カイは歴然の体格差を誇る巨躯の番長を相手に苦戦していた。


「ふんっ!」


「うわわっ!?」


 全身に魔力を漲らせた番長の剛腕から放たれる一撃を、カイは能力を交えて全力で避けていく。


 真正面から飛んできた正拳突きを躱し、正拳突きからのラリアットをしゃがんで避ける。


「そらあっ!」


 番長はラリアットの姿勢から肘打ちの構えを取り、真下にいるカイを目掛けて振り下ろす。


「危なっ!?」


 カイは手元から氷の盾を生み出して攻撃を真下に流した。


 番長が攻撃を外した隙に、カイは足元にも能力を発動させ、さながらスケートリンクのような氷の地面を生み出した。


「よしっ!」


「むっ……」


 カイは滑らかな氷の床を滑り、番長から距離を取った。


「おいスノーマン! あの時より動きがだいぶ良くなっている、が……何故避けてばかりいる!」


 番長の言う通り、カイは先程から攻撃を避けてばかりで、番長に対して目立った攻撃は一切していなかった。


「そこまで技を見切れるのなら反撃くらい容易に出来るだろうが!」


「俺は戦いたいわけじゃないんだって! ただ争いを止めたくて……!」


「綺麗事を! ヒーロー気取りが調子に乗るな!」


「オレはヒーローなんかじゃない!」


「黙れぇ!」


 番長は凄まじい脚力によりその場から飛び、カイを目掛けて恐ろしい速度の正拳突きをお見舞いした。


「おわあっ!?」


 カイは身体を捻り正拳突きを避け、番長の腕を目掛けて掌から輝く閃光を幾つも飛ばした。


「小賢しい!」


 番長は輝く閃光を腕の一振りで全て弾き飛ばした。閃光は全て番長の後方へと逸れて地面にぶつかり、そこから大きな氷の結晶が生み出されていく。


「嘘だろ!?」


「逃げるな卑怯者! 真っ向勝負で俺とぶつかれ!」


 カイは番長から再び距離を取ろうと、大地から幾つも氷の結晶を生み出していく。しかし……

 

「おらっ!」


 番長は一際多量の魔力を漲らせ、目の前に発生した氷を拳で全て粉々に破壊。


「!?」


 その勢いのまま番長は、割れた氷の先にいたカイをまとめて殴りつけた。


「……!」


 胸を強打されたカイは無言のまま吹き飛び、全身を激しく地面に打ちつけた。


「どうだ! これで俺に反撃する大義名分のひとつはできただろう!」


「……」


 興奮し番長を前に、カイは何とか立ち上がる。


 その間に、番長の舎弟らしき不良達はカイの周りを囲うように立ちはだかる。カイの逃げ場をなくし、いつでも動けるよう拳を構える。


 敵に囲まれたカイだが、それでも反撃する素振りは見せない。


「……何故、ここまできてまともに反撃しない。俺に向かって拳のひとつでも振ってみろ」


「…………オレはみんなを止めたいだけだ。殴らない」


「理解できんな」


 攻撃の素振りすら見せないカイに、番長は不満の色を露わにする。


「わざわざ不良を襲うのは、持て余した力を振り回したいだけかと思っていた。正義ごっこのために丁度いい相手を襲ったのだと……」


「…………」


「だが実際、お前は攻撃してきた不良を前にまともに反撃すらしない。お前の目的はなんだ。何で不良ばかり襲った」


 番長の問いに対し、カイはようやく動きを見せた。


「不良ばかり襲ったって……そんなふうに思われてたんだな」


「実際そうだろ」


「そっか……」


 カイはそう呟いて俯くと、番長に向かって姿勢を正し、深々と頭を下げた。



「ごめんなさいっ!」



「…………あ?」


 カイからの突然の謝罪に、番長は思わず呆気に取られる。


「オレ、ただ悪いことする奴を止めようとしただけだったんだ。危険なことする奴とか、明らかに犯罪してるやつとか……人生が台無しにならないように……」


 頭を下げて話を続けるカイを前に、番長はゆっくりと構えを解く。

 しかし全身に巡らせた魔力はそのままで、仮に何か起こってもいつでも動けるようにしていた。


「でもオレ、不良のこと何も知らないから……不良の世界を勝手に踏み荒らすような真似したかもしれない……」


「……お前、さっき俺に殴られたんだぞ。何で謝罪してんだ」


「番長にとって大切なものを台無しにしたかもしれないから……」


「大切なもの……か」


 不良達が見守る中。番長は、完全に構えを解いたカイを真っ直ぐ見据える。


「スノーマン。せめて言い分くらいは聞いてやる。何故そんなヒーロー紛いの真似をした」


「……言わない」


「何だと?」


「オレが……オレが勝手にやったことだから言わないっ!」


「……」


 理由の説明を拒否して一際声を張り上げるカイに、番長は何かを察したのか視線を更に鋭くする。


「……そうか、お前は『誰か』の為にやったわけか」


「えっ!? 何で分かったんだ……!」


 番長の一言にカイは驚き顔を上げる。


「やはりか。分かりやすいなお前」


「やはりって……まさか、今のは引っ掛けか!?」


「引っ掛けではあるが、色々と心当たりもあってな……そうか、もしかすると……」


 何かを察したのか、番長は頭を傾げて黙り込む。


 程なくして、番長はカイに向けて真剣な面持ちのまま口を開いた。



「お前、シロヤマカイって名前だろ」



「!?」


 名前を苗字まで当てられ、カイは目に見えて驚く。


「なっ!? 番長! 何でオレの名前を!?」


「そうかお前がアイツの…………まさか、死んだアイツの友とここで会うことになるとはな」


「友……」


「お前のことは不可解だったが、これで全て納得いった」


 驚き慌てるカイを前に、全ての合点がいったのか番長は神妙な面持ちで何度も頷くと、カイを前に再び口を開いた。


「カイ、お前はユールという友をホウキの事故で亡くした」


 番長の言葉に、カイは僅かに反応を見せる。


「だがお前は、友を殺した不良を憎まず、むしろユールのような不幸な奴を再び生み出さないよう、不良を止めて回っていたわけだな?」


「……そんな綺麗な理由じゃない、ただの自己満足だよ」


「そうか。自己満足で人助けをするとはな」


「それに……あの時オレは、アイツを助けられなかった。だからアイツが死んだのは、オレの力不足で……」


「……」


 カイの言葉に番長は僅かに表情を暗くする。


「……お前はとことん優しいな」


 番長は暗い面持ちのまま表情を緩ませる。


「アイツの言っていた通り、どうしようもないお人好しのようだ」


 完全に戦意を失っているカイを前に番長は、身体中に巡らせていた魔力を完全に消し去った。


「番長……」


「カイ、聞いてほしい話がある」


 お互い無防備になったところで、番長はそのままひとつ話を切り出した。



「…………事故が起きたあの日、お前の友は不良をやめようとしていた」



「!」


 番長の一言に、カイは一際目を見開いた。


 そんなカイを前に番長は、当時のことをゆっくりと語り始めた。


「アイツは……ユールは、不良のグループから抜け出し、一度突き放してしまった友と再びやり直したい、と言っていたらしい」


「そ、それって、本当なのか……?」


「本当だ。だがリーダーを含む周りの不良達はユースの脱退を認めなかった。だがリーダーはここで、ユースが不良から足を洗う条件としてチキンレースを提案したそうだ」


「チキンレース……!」


「ホウキに乗り空から落下し、地面にぶつかるギリギリの距離でホウキを浮かばせるというものだ。高所から落下し、2メートル以内で止まれたら条件はクリア……」


 固唾を飲んで話に耳を傾けるカイに、番長は僅かの間黙り込む。


「…………だが奴は、ユールに不良をやめさせる気は一切無かったらしい」


 番長は奥歯を噛み締め、悔しそうにしながらも話を続ける。


「チキンレースに使用するホウキに細工を施したんだ。止めてもすぐに止まらないようにしたらしい。ユールを賭けに失敗させ、その上で大怪我して痛い目を見ればいいとでも思ったんだろう」


「だが、それは大間違いだった。ユールは周りが思っていた以上に、ギリギリの距離でホウキを止めようとしたんだ」


 話が進むにつれ、カイの表情は次第に険しくなっていく。目は潤み、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。


「……その結果、ホウキはその場で急に止まれず木っ端微塵。ホウキに乗っていたユースは大怪我以上の致命傷を負った」


「……アイツは、俺のいた付近に落下した。目の前でアイツが潰れるのを見た」


「見知った顔だった。俺は慌てて奴に駆け寄り抱き抱えた。その時アイツは僅かに意識があり、腕の中でしきりに友の名を呼んでいた」


「カイ、殴ってごめん。仲直りしたかったのに、素直に謝罪もできなかった……」


 番長は最後まで言葉を口にしてから俯き、カイの頬から静かに涙が伝う。


「あの時聞いた言葉は、ずっと頭から離れなかった。後で事情を知った俺は、死にものぐるいで特訓を重ねた」


「そして俺は番長となり、大勢の不良を束ねる道を選んだ。あのようなことが二度と起きないように……」


 周りの不良は黙り込む。もはや周りの不良からも戦意は感じられなかった。


「カイ。形は違えど、俺達の目的は同じだったわけだ」


 そう一言述べた番長からは、完全に敵意が消え失せていた。

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