20話 2人の作戦【挿絵あり】
ヴィオの修行をすること数週間が経過したある日の放課後。
いつものように自宅に帰ろうとするカイとマモルの前に、かつて出会した不良が仕返しにやって来た。
マモルをカツアゲした猫耳不良に加え、カイが吹き飛ばした個性溢れる面々。
そしてファッション店で出会い、あの反射神経の良いカイを圧倒した、確実に戦闘の実力のある番長まで姿を現した。
「番長……! どうやらアイツ、カイに恨みのある奴らを軒並みかき集めて来たようだな……」
「……オレが原因なら、ここで蹴りをつけた方がいいよな。安全な場所で奴らを何とかしよう! マモル、飛ぶぞ!」
「分かった」
カイは鞄からホウキを取り出し、マモルを乗せてその場から急いで飛び去った。
不良をまとめて広い場所に誘導し、一気に蹴りをつける作戦だ。
「よし、ここなら大丈夫か……?」
カイがホウキで飛んだ先は、周りに何もない広々とした土地。
遠くには森が見え、地面には多少の雑草程度しか生えていない。
何もないこの土地なら、他人に迷惑をかけることなく暴れられるだろう。
「おっと、わざわざ人のいない土地まで飛んでくれるとはな。ご苦労さん」
「これなら心置きなく仕返しができるな……」
カイがわざわざ誘導したお陰で、不良はほぼ全てこの土地に集合できたようだ。
「久しぶりだな」
そんな中、一際背の高い番長がズンズンと大地を揺らしながらカイの前に立ちはだかった。
「ずっと会いたかったぜ、スノーマン」
「スノーマン?」
「雪だるまのスカジャン着てるからな。良かったなスノーマン、派手に暴れ回ったお陰でお前はそこそこ有名人だぜ」
「オレ、別に有名にはなりたくないんだけど……」
カイは渋い顔をするが、番長はお構いなしに話を続ける。
「今日はあのガキもいない……ここでお前を倒して、倒された仲間の恨みを晴らす。そして箔をつけて更に上に立つ……」
「番長さん、その辺にしてもらっていいですかねぇ?」
「む、分かった」
猫耳不良に指摘され、番長はあっさり後方へと引き下がった。
(何だ……? 番長よりあの猫の不良の方が立場は上なのか?)
マモルが思考を巡らせる中、猫耳不良は大股で歩いてマモルの前で停止した。
「よぉメガネ、俺のこと覚えてる?」
「……覚えてる」
「ははは……! ようやくお前にようやく仕返しができる! 俺さ、片時もお前のことを忘れた事はなかったんだよ……!」
「そうか……」
「あの時は大して気にも止めてなかったけど、あの時にお前に吐き捨てられた言葉が後々になって効いてきてさぁ……!」
「……」
「まともに魔法使いを目指せないからこそ、こんなチンピラ紛いのことしてる……とかだったかなぁ?」
猫耳不良はニヤケ面でマモルを見つめていたが、途端に険しい表情に変わった。
「まともに目指せるなら目指してるに決まってんだろーがバーカ!!」
猫耳不良は凄まじい声量の怒号を真正面にいるマモルに飛ばす。対するマモルは無言のまま微動だにしない。
「お前を殴り倒して徹底的にボロボロにしてやる! あの時やられた分を全部お前にぶつけてやる! 一生病院送りにしてやるからなぁ!」
猫耳不良の怒りは収まらない。周りの不良が僅かに引く中、マモルは表情1つ変えずに猫耳不良を見据える。
「……ひとつ、お前に伝えたいことがある」
「あ? 何だ? まさかカツアゲした分を返せってか? たった数マル程度の金を……」
猫耳不良が煽る中、なんとマモルは猫耳不良に向かって深々と頭を下げた。
「すまなかった」
「……あ?」
「あれから俺も色々と考えたんだ。あの時、俺はお前達の事情も何も知らず、一方的に決めつけた」
「…………」
「カツアゲは悪いことだ。だが、売り言葉に買い言葉のように、わざわざあそこまで言い返す真似はするべきではなかったと、今は恥じている」
カイが静かに見守る中、マモルは猫耳不良に向かって丁寧に詫びを入れた。
「そこだけは謝罪しておく。改めて言おう、申し訳……」
「おせーんだよ」
しかし、マモルの謝罪が全て終わる前に猫耳不良は言葉を挟んだ。
「何……?」
「今更……謝罪したところでおせーんだよクソが!!」
猫耳不良は今まで以上に怒りを露わにすると、懐から即座に棒状の物を取り出し、マモルの顔面目掛けて魔法弾を放った。
「!」
マモルはすぐさま顔を逸らして魔法弾を避けた。
「チッ、避けられたか……」
猫耳不良が手にしたのは、魔法使いの杖だった。
「それ魔法使いの杖じゃん!?」
カイは思わず叫び即座に身構える。猫耳不良以外の一部不良も杖を取り出して構えているのが見えた。
「何してんだよ! さっきの魔法弾が顔面に当たったら大変なことに……!」
「おいおい……避けたらダメじゃん。さっきメガネは悪かったって謝罪してくれたでしょ」
猫耳不良はカイの言葉を碌に聞かず、マモルに向けて話を続ける。
「メガネお前さ、悪いと思ってんのなら大人しくサンドバッグに徹しててくれない? それでチャラにしてあげるからさ」
「駄目だって! そんなもの向けたら大変なことになるから! というより、さっきからお前なんかおかしくないか……!?」
「大丈夫大丈夫、そう騒がないでよ。後でお前もメガネとお揃いにしてやるから。そこで待ってなって」
猫耳不良はまともな返事をせず、じっとマモルを睨み続ける。
「さて、スノーマンは他の奴に譲るとして……メガネ、そこで大人しくしてろよ?」
「無理だ」
「は?」
ずっと聞きに徹していたマモルは、猫耳不良を前に静かに身構えた。
「お前が武器を手に持つのならば、俺は全力でお前を止める」
「は? まさか抵抗するわけ?」
猫耳不良はヘラヘラ笑いながらマモルを眺める。
「人工魔法使いのお前じゃ無理でしょ! メガネが……調子乗ってんじゃねぇぞゴラァ!!」
猫耳不良は再び怒りの形相に変わり、杖から一際大きな魔法弾を発生させた。
しかし魔法弾を打ち出す寸前、マモルの全身から凄まじい量の炎が吹き上がった。
「うわっ!?」
目の前から凄まじい炎が発生し、猫耳不良は思わず仰け反る。
周りにいた不良も、目の前に発生した炎の柱に思わず食い入るように見つめている様子だ。
「一体何が……!?」
「ぎゃあっ!?」
「うわああっ!?」
「は!? 何!?」
呆然とする猫耳不良の後方から、突如として悲鳴が発生。
「うっ、動けねぇ……!」
「!」
後方に大勢いた不良の殆どが氷漬けになっていた。
「さ、寒い……!」
「冷てぇ!?」
「な、何が起こって……うわっ!?」
不良は氷の結晶により次々と拘束されていく中、どこからともなく飛んできた氷の結晶が猫耳不良に命中。
「ああクソッ!」
ついに猫耳不良も氷の結晶に閉じ込められてしまった。
「よし! 視線誘導作戦は大成功!」
そんな中、マモルの炎に隠れていたカイがその場に姿を現した。
(意表を突き、その隙に相手を止める……これなら、相手が大きく動き出す前に先制できる!)
カイはマモルの炎を囮に、周りの不良を凍らせて回っていた。
因みにこの作戦は、大量のゴブリンを相手に戦う際に身につけたものだ。
「とりあえず全員凍らせたけど……」
「どうやら氷では拘束しきれないようだな」
杖を持つ不良は杖を用いて何とか氷から脱出したようだ。
「ふんっ!」
番長は全身に魔力を漲らせ、自力で氷から脱出。
「だいぶ数は減らせたけど……残りは自分の手で止めないと無理そうだな。マモル、いけるか?」
「ああ」
カイが炎の柱に向かって声を飛ばすと、炎の柱は吹き飛び、中からオールバックのマモルが姿を現した。
「こうなったのも元を辿れば俺達も原因のひとつだ。カイ、責任を持ってアイツらを止めるぞ」




