19話 不良のお礼参り
カイとマモルが夢の中で修行する一方、現実世界では……
「くそっ!」
人気のない路地裏に現れた猫耳不良は、怒りをぶつけるかのようにその辺の壁を殴った。
「あの万代のメガネの野朗……! ずっとあのスノーマンの野朗と行動しやがって! ろくに仕返しもできやしねぇ!」
「まあまあ、落ち着けよタイカ」
猫耳不良ことタイカは仲間の猿耳不良に目をやる。
「スノーマンの被害者を集めて仕返ししようにも、他の奴らもあのスノーマンのこと恐れてるみたいで集まり悪いし……もう諦めたら?」
「そもそも、あんな金持ってないメガネに執着する意味とか無いって……」
「あるに決まってんだろ!」
仕返しを諦めるよう促す仲間に対し、タイカは大声でキレ散らかす。
「あのメガネ、俺のこと何も知らねぇくせに……! 事情もろくに知らねえくせに、俺をとことん馬鹿にしやがった……!」
「タイカ、相当根に持ってんな……」
「当たり前だ! 俺はなぁ! アイツを徹底的に追い込んで! 徹底的に痛めつけて! 心から謝罪させてやるって決めたんだ!」
タイカは怒りに任せてその辺のゴミを蹴り飛ばす。
「……くそっ! あんなズルする奴が近くにいたら、何もできねぇ……! アイツをどうにかできる徹底的な「何か」があれば……!」
「…………」
悔しがるタイカに仲間は何も言えず立ち往生していると、ふと、路地裏の奥からカランと何かが落ちる音が聞こえてきた。
「何だ……?」
「何か転がったんじゃね?」
「誰か盗み聞きしてやがったか……?」
「あ、もしたしたら妖精とかじゃね」
「妖精?」
「聞いたんだよ。最近この辺に小人の妖精? みたいなのが出るとか……」
「物作りが得意なあの? うっそだぁー!」
「ホントだって! なんか周りで話題になってて、壊れたモノを小人の住処とかに放置すると次の日に直ってるんだって!」
そう言うと猿耳の不良は、物音のした方に向かって掛けていった。
「おいやめとけ! もし本当だったとしても、無闇に姿を見ようとするのは……」
「大丈夫だって!」
タイカの言葉に返事をしつつ、猿耳不良は路地裏の奥へと入っていった。その間も奥からはカラン、カランと何かが落ちる音が続いた。
「うわっ!?」
「どうした」
猿耳不良の短い叫び声が耳に入る。仲間の不良は声を掛けつつ路地裏の奥へと進む。
「すげぇー!」
しかしその前に、戻ってきた猿耳不良と鉢合わせした。
「みんな、これ見ろよ! 向こうに沢山落ちてた!」
猿耳不良は手に持った棒を仲間に見せた。
「はぁ!?」
「これって……!」
「魔法の杖じゃん! しかもかなり凄そうなやつ!」
「魔法使いの使う奴だ! すげー!」
杖に対する不良達の反応は様々だった。やけに興奮して喜ぶ不良もいれば、驚き慌てる不良もいた。
「いや、何持ってんだお前! 早く捨てろって!」
「こっち向けんな! お前なんかおかしいって!」
一部は杖を持つ不良から離れる。そんな中、猿耳不良は大喜びでタイカに顔を向ける。
「なあタイカ、これがあればもしかしたら……!」
「ああ……! ついに俺に運が巡ってきやがった……!」
修行が開始してから数週間が経過した。
「えー、ゼウシリーアの名の由来は、地球の神話に登場するゼウス神と、いにしえのエルフ語で星を意味する「リーア」を組み合わせた……」
「…………」
今は授業中、マモルは無言のまま目の前の教師をじっと見つめ続けている。
「えー、まあ基本中の基本ですが、こればかりはしっかり触れておかないと、と思いまして。えー……」
地球人の男性教師は教室内を見回し、目と目が合ったカイに視線を向けた。
「ではシロヤマさん、ゼウシリーアに住む主な人種、答えられますか?」
「ゼウシ人です」
「いや、ゼウシリーアに移住したら全員ゼウシ民にはなるけども……あの、シロヤマさん大丈夫ですかね? なんか疲れているように見えますけれども……」
「大丈夫です」
時は流れて放課後……
「いつにも増して授業に集中できてない気がする……」
「カイ、お前はいつも通りだろ。気のせいだ」
カイとマモルはいつものように無駄話をしながら学校を後にする。
「だって……ここんとこずっとハードな修行が続いてるし……」
「ヴィオさんが回復魔法で完璧に治療してくれてるだろ。お前はただ魔法以外の勉強が苦手なだけだ」
渋る回に対してマモルは淡々と事実を突きつける。
「にしてもさぁ、まだ数週間なのに数年くらいぶっ通しで修行したような感覚なんだけど……」
「俺もだ。夢の中にいる時間がやたら長いんだよな」
ヴィオの夢の中での特訓は過酷だった。
何千回も練習を続けて基礎を学び、ようやく実践が始まったと思いきや、妖精を相手に何十時間も戦い続けた。
「ゴブリンの群れに襲われた時は大変だったよな……」
カイはそう呟き、夢の中で初めてゴブリンと遭遇した時のことを思い出す。
「最初はゴブリンを最後まで倒しきれず、途中で脱落してしまったな……」
「でも何度も続けていくうちに、戦闘の動きも良くなったよな!」
「そうだな。今は……」
「やべっ!」
野球部のグラウンドから叫び声が聞こえたかと思うと、カイを目掛けて鋭いボールが飛んできた。
「よっ!」
カイはすぐさま手を伸ばし、飛んできたボールを余裕でキャッチした。
修行前ならギリギリ反応して避けていただろうが、修行により何もかも成長したカイは、唐突の豪速球をキャッチできるようになっていた。
「それっ!」
カイは手にした野球ボールを飛んできた方角を目掛けて軽く放り投げた。
ボールは相手の構えるグローブに収まり、野球部から歓声が上がる。
「よしっ! 初めてにしては上出来! 特訓の成果が出たな!」
「果たしてあれは特訓の成果なのか?」
「個人特訓の成果だよ! オレは能力で作った氷を投げたりするだろ? だから個人特訓の時にコントロールも鍛えてたんだ!」
「そうか……」
「それより、修行でマモルの魔力が復活したのは1番でかいよな! 日を跨ぐごとに髪の色が真っ赤に染まってってさ!」
「……これも特訓のお陰だ。いずれ人工魔石も必要なくなると思う」
「すごいじゃんか! じゃあさ、マモルの人工魔石が取れた時は皆んなでパーティーしようよ!」
「はは、大袈裟だな……」
カイの提案にマモルは照れ臭そうにするも、満更でもない様子。
「スーパーでお菓子沢山買ってさ! パーティー会場は……」
「いたぞーっ!」
「「?」」
和気藹々と会話をしながら帰路を歩いていたカイとマモルの耳に、一際大きな怒号が響いた。
「あっ!?」
「あれは……!」
怒号のした方に視線を向けるとそこには、かつてマモルを襲いカツアゲをした猫耳不良の姿が。
「ようやく見つけたぞメガネコラァ!」
「そうだ、アイツらには学園を特定されてたんだった……」
「そうじゃん!」
カイとマモルが呑気に会話してる間に、遠くにいた猫耳不良はカイを目掛けてズンズン進んで来る。
「だとすると、今まで遭遇しなかった方がおかしいのか?」
「いや、完膚なきまでに負け込んだ相手に再び会おうとは思わないだろ……」
「そっか。でも何で今になってオレ達に会いに来たんだ?」
「恐らく、仲間を増やして仕返しに来たんだろうな」
「あ、ホントだ。数が多い」
猫耳不良に他の不良が合流していく。中にはカイが吹き飛ばした人物の見た目と類似する、やたら派手な不良も混じっていた。
「いた! あの顔は間違いない!」
「あのハネッ毛野朗……! 俺を凍らせやがって! 覚悟しろ!」
不良はカイの顔や髪型で認識している様子。
「能力者以外はオレの白髪を認識できないんだよな。もし髪色を知られてたらもっと早く見つかってただろうな〜」
「そんなことより、ここは一旦退散した方がいいんじゃないか? こんな場所じゃまともに戦えないぞ」
「それもそうだな……あっ!」
「どうした」
「あれ! あの時駐車場で会ったやつもいる!」
その場から走り出そうとしたカイは、遠くに見えた一際大きな人物を発見し、思わず声を上げる。
「番長まで……! どうやらアイツ、カイに恨みのある奴らを軒並みかき集めて来たようだな……」
「……オレが原因なら、ここで蹴りをつけた方がいいよな。安全な場所で奴らを何とかしよう! マモル、飛ぶぞ!」
「分かった」
カイは鞄からホウキを取り出し、マモルを乗せると急いでその場から飛び上がった。
不良をまとめて広い場所に誘導し、一気に蹴りをつける作戦だ。




