18話 カイの事情
修行が開始してから約1週間が経過した。
「ようやく初心者卒業かぁ……」
「随分と長く感じたな」
「実際には数ヶ月くらいはみっちり修行した気がする……」
夢の中。カイとマモルは森の中でヴィオを待ちつつ、他愛のないやり取りをしていた。
「でもオレ達、かなり強くなってきたよな? 前より動きは格段に良くなったし、現実で本格的に実践も交えた修行始めたしさ!」
「だな……」
カイの元気な言葉に対し、マモルはオールバックにした髪をいじりつつ生半可な返事をする。心ここに在らずといった様子だ。
「マモル、どうした?」
「……この格好にどうにも慣れなくてな」
夢の中のマモルは、変装した時のオールバックと革ジャンの姿をしていた。
「ワイルドでカッコいいよマモル!」
「……まあ、普段の格好よりは動きやすいが、俺は不良みたいで気に入らん」
「不良かぁ……」
カイが静かに呟く中、マモルはカイに視線を向ける。
「不良とは前々からいい思い出が無いからな」
「あの時出会った不良は特に悪い奴らだったからな……」
「それ以前に不良には良くないイメージがあるな」
「……マモルが普段から真面目な見た目してるのって、そういう悪い奴を嫌ってるからだったりするのか?」
「……かもしれないな。悪い奴らには前々から迷惑をかけられてたんでな」
「そっか」
カイは一言だけ呟き、そのまま黙り込んだ。2人の間に気まずい空気が流れる。
「……カイ、お前は不良のことはどう思っているんだ」
「えっ、オレ?」
沈黙を破り、マモルはカイに質問を投げかける。
「先程のやり取りから察するに、カイは不良に少なからず温情があるように感じてな」
「えっと……あまり良くは思ってはないかな。でも、一部の不良は同情してるっていうか……」
「同情?」
「あっ、いや……同情してるのはオレの友達だけで……いや、これって同情って言うのかな」
「……同情してるのに、その不良に喧嘩売ってたのか?」
「喧嘩売ってたわけじゃないって!」
「ならなぜ不良ばかり狙ったんだ」
「狙ってたわけでもない! ええと……」
カイは言いづらそうにしながらも言葉を続ける。
「……オレの友達にさ、不良になった奴がいたんだよ」
カイは困り顔のまま、静かに話を始めた。
「その友達はある日から、見るからに不良って感じの悪い友達とつるむようになってさ。で、その友達も日に日に不良みたいになってってさ……」
「見た目も態度も悪くなって、危険なことにも手を出し始めて……だからオレ、これ以上悪いことしてほしくないから止めようとしたんだけど、アイツは聞く耳持ってくれなくて……」
「でもオレは諦めきれなくてさ、アイツと会うたびにずっと声をかけ続けたんだ。時にはうるせぇとか言われて突き飛ばされたりしたけど……」
「でも、危険なことして大怪我してほしくなかったから……オレ、ずっと声を掛け続けたよ……でも、無理だった。友達とはそのまま会えなくなって……」
「そうか……」
カイの話に静かに耳を傾けていたマモルは、ここで口を開く。
「つまりカイは、友達は止められなかったが、せめて他の不良だけでも止めたいと……そう思ったんだな」
「そんな感じかな」
「…………」
どことなく落ち込むカイを、マモルはじっと見つめる。
「……カイ、そんな奴らの為に心身を削る必要はない。不良の道を選んだのは、結局はそいつの意思だ」
「それは……そうだけども……」
「不良になった友達のことは忘れろ」
「……それだけは無理だ。忘れられないよ」
「だが、お前はその友達のせいで苦しんでるんだろ」
「……」
マモルの言葉に、カイの表情は暗く沈む。
「大丈夫だ。お前のような優しい奴を切り捨てられるような無神経な友人なら、どこへ行っても生きてられる」
「……アイツは死んだよ」
カイから告げられた一言に、マモルは表情を歪ませ口を閉ざした。
「アイツはある日の夜、乱暴にホウキ乗り回したせいで事故死したんだ」
カイの一言にマモルの表情は暗くなる。そんなマモルに目もくれず、カイは亡くなった友達の話を続ける。
「オレ、すごく後悔した。もっと必死になって、人前で二度と使わないって決めた能力を使ってでもアイツを止めてればって……」
「でも、アイツの母さんはもっと後悔してた。必死に止めようとしたけど、結局止めてあげられなかった、って」
「仕事よりもあの子を優先すれば良かった、あの子と過ごす時間を増やしていたら、あの子はグレなかったかもって……家にずっと1人にしてごめんって、ずっと悔やんでた……」
「それで思ったんだよ。人がグレるのにも色々と理由あるのかなってさ。友達が特殊なケースだったって可能性はあるけれども……」
カイはここでマモルと向き合う。
「だからオレ、もうあんなことが起こらないように、危ない真似をする不良を止めて回ってたんだよ」
「…… 不良との接触が多かったわけだ」
カイの事情を知ったマモルは、静かにそう呟いた。
「これが正解かは分からないけれど……オレの力で、できる限りで不良の危険な行為を止めようと思ったんだ」
「結果は出たのか?」
「分からない……でも、オレみたいなやつが止めて回れば、とりあえず危ない真似はしなくなるかなって思って」
「カイなりに頑張ってたんだな」
「うん……あ、止めるのは犯罪や危険行為くらいだよ。周りに迷惑かけない奴は見逃してた」
「そうか……」
ここで2人はお互いに口を閉ざす。
気まずい空気が流れる中、どこか申し訳なさそうなマモルが真っ先に口を開いた。
「カイ、すまなかった」
カイは静かにマモルの方に視線を向ける。
「事情を知らずに随分と無神経なことを口にしてしまった」
「いや、オレも変にぼかして喋ったから勘違いされるところとかあっただろうし……マモル、オレのほうこそごめん」
「カイ、お前は悪くない」
「……マモル、ありがとな」
カイはマモルに礼を述べ、そこから再び沈黙が訪れる。2人は立ち尽くしたまま、何か考え込んでいる様子だった。
しばらくして……
「失礼します!」
突然、カイとマモルの間にヴィオが姿を現した。
「うわっ!?」
「ヴィオさん!?」
「突然ですが修行開始です!」
「急ですね!?」
「本日は夢の中で本格的な実践をしていただこうかと思い、模擬戦の相手に妖精を選びました!」
「妖精!?」
「なぜ対戦相手に妖精を?」
「詳しいことは後で説明します! それでは修行開始です!」
ヴィオが話し終えたその瞬間、周囲に広がる森が一瞬で別の森へと変化した。世界が変化したのと同時にヴィオの姿も消えた。
「あれ? いつもの森とは違う……何だここ?」
「ここは……エルフの森か?」
「エルフの森? それって……」
カイが何かを尋ねようとしたその時、茂みから1体の人影が姿を現した。
「うわっ!? 何だこの生き物!?」
背の低い1匹の生物が姿を現し、カイとマモルはすぐさま身構えた。
相手は背が小さく、それでいて全体的に深い緑色。手には木製の武器を構えている。
「落ち着けカイ、ヴィオは妖精との模擬戦だと言っていただろ」
「これが妖精!? 妖精ってもっと可愛らしいやつだろ!? ちっちゃくて羽が生えてて……」
「妖精というのは、俺達の世界で言うところの妖怪だぞ」
「そうなのか!?」
「ああ」
そんなやり取りをしつつマモルは、目の前に現れたゴブリンに燃え盛る炎をぶつけて相手を軽く一掃する。
「……できた」
「おぉ! すごいなマモル!」
無事に攻撃が命中したからか、マモルは僅かに安心の色を見せる。
「因みにこいつはゴブリンだ。エルフの世界では、強い邪念を持ったまま亡くなったエルフはゴブリンなどの悪い妖精に生まれ変わるとか聞いたな」
「エルフが……?」
「ああ、耳とかそっくりだろ」
「確かに……」
「……なんて、そんな会話をしてる場合じゃ無さそうだな。来るぞ」
「おう!」
周囲に漂う気配が濃くなり、カイとマモルは互いに背中を合わせて身構える。
「ギャー!」
「キェー!」
程なくしてゴブリンが姿を現した。その数ざっと50体。
「やばい! いっぱい出て来た!!」
「冷静に対処するんだ! カイ!」
「おう!」
マモルの言葉にカイは元気よく返事をすると、2人揃ってゴブリンの群れの討伐を開始したのだった。




