7. 気がかり
ゆっくりだけど、少しずつ動きます。
ぜひご一読ください。
「……どうしたんだよ」
いつものように窓枠に腰掛けた真也が薫をじっと見て尋ねた。
「元気ねぇじゃん」
薫はスケッチブックから視線を逸らさなかった。
黒木の言葉が頭をよぎり、そんなつもりはなかったのにぶっきらぼうな返事になってしまった。
「別に」
真也はまじまじと薫を観察し、フッと口元を緩めた。
「やっぱり何かあったんじゃねぇか」
「そんなんじゃない。ただ……」
「ただ?」
薫はコンテを置き、ぽつり、ぽつりと話した。
「俺、人物画苦手なんだ」
「……ふぅん」
「その人の、隠してるところも見えてくる感じがして」
「……そうか」
「でも今期の課題で」
「へぇ」
「俺特待だからさ、評価とか、あって、先生にも、言われて」
「まぁ、そうだろうな」
真也の淡々とした態度に、薫は無性に腹が立って気づいた時には声を荒らげていた。
「なんなんだよ!さっきから!俺が悩んでるのがそんなにおかしいかよ!お前には分かんないよな!俺の気持ちなんて!」
言い終えたところで薫はハッとし、手で口を塞いだ。
(こんなのただの八つ当たりだ)
「でも課題なんだろ?」
真也のいつもとは違う落ち着いた声が薫を冷静にさせた。
「うん……」
「じゃ、やらないとな」
「ん……」
子どもっぽい八つ当たりをしたことが恥ずかしくなって俯いていた薫の頭に、
真也はポン、と手をのせ、いつものカラッとした笑顔と明るい声で言った。
「だーいじょうぶだって!お前、上手いし、心配することねぇって」
なんとなく子ども扱いが気に障った薫はムッとした顔で少しだけ毒づいた。
「そうだね。心配なのはモデルが真也っていうことくらいだ」
薫の言葉に今度は真也が、なんだと!?と言い返し、2人は顔を見合わせて声を出して笑った。
すると真也が唐突にある提案をした。
ーー無事、俺を描き終えたら、何か願いを聞いてやるーー
薫は何を言われたのか把握できず、一瞬キョトンとした。
「え……なんでも?」
「ああ、なんでも」
薫には少し前からずっとモヤモヤと胸に引っかかっていることがある。
(……ずっと、気になってた)
庭の咲かない梅の木。真也の表情。そして何よりーー。
「あの梅の木を描きたい」
今度は真也が驚く番だった。声を詰まらせ、一瞬の沈黙の後、声を出して笑った。
「ハハッ、また絵かよ」
「ダメだった?」
不安な目で見上げてくる薫に真也はニッと笑い言った。
「いいよ。でも、できれば花つけてくれな」
薫は思いもよらぬ言葉に目を見開いた。
「満開にするよ」
真也は、頼む、と静かに笑った。薫は赤くなった顔を隠すように少しだけ俯いた。
またしばらく空くかもしれません。
すみません




