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違法の健康

「会長、9月17日は××大病院で検査入院の予定となっております」齢70になろうかという御仁が、秘書Sに予定の確認したら、こう告げられた。「特別室をご用意いたしましたので、頭の先から足の先まで検査していただきます」「その日は、大洗で……」「駄目です。そう言って先月も定期健診をフイにされました。第一線を退かれたとはいえ会長はO企業の大黒柱であり、心臓なのですから」「わかった、わかった。そのようにする」こうして、会長は健康診断を受けたのだが、「心臓が肥大化しています。肥大化を抑えるオペはこれ以上は無理です」移植しか方法がない。医師が告げたその言葉に、会長はやはりという諦めにも似た感情と同時に、Sと交わした密約のはじまりが頭を過った。会長がSと出会ったのは、ある宴会でSはコンパニオンの一人で、一目で気に入った彼女と「一夜限り」の関係を結んだ。「……ですが、そうは言っていられない状況になってしまいました」Sは9つになる娘に腎臓移植しなければならない。けれども、その費用がない。頼れるのは、会長しかいないと懇願しにきたのだ。会長はSの提案どおり孫の家庭教師として雇い、その費用を工面した。「……会長」「ああ、すまん。心臓移植でしか方法はないと言われたのだな」「……はい」Sは、家庭教師という役目を終える頃には、会長の秘書いう肩書が相応しい人物へと、自らの力で登り詰めた。「どうやら、わしの後継者を決めなければならない刻がきたようだな」……それも一刻も早く。だが、長男は名前だけの社長で、次男に至っては女遊びが激しく、隠し子の一人や二人いてもおかしくない。そして孫は……会長は眉をひそめた。


「ごめんなさい、うちの娘と貴方とは結婚できないのよ」妹のようなSの娘。お互いに大人の領域へ成長していく中、お互いに強く心惹かれ恋人という関係へとなりつつあった。だが、青年の祖父の秘書へと成り上がったSから、そう告げられたのだ。Sは己が墓場まで持っていく話。と、詳しく話さなかったが、青年はその返答で察してしまった。青年は、明るい声が溢れるショッピングセンターを彷徨い歩く。恋する娘がアルバイトする、そのショッピングセンターを彷徨い歩く。「ごめんなさい、うちの娘と貴方とは結婚できないのよ」無、無、無、空、空、空、消、消、消…………青年はふらふらと歩き、ショッピングセンターの人気のない方へ、ふらふらと彷徨い……


どこでどう人生が狂ってしまったのだろう。Yは仕事をしながらつい考えてしまう。――ことのはじまりは、嫌でもわかりきっている。ある日、Sと言ったか。そのSと共にコンパニオンとしてある宴会に派遣された。その宴会でYは、羽振りのよい若者と付き合うことになった。だが、その若者はYを監禁し、複数人の相手と乱交され、身籠もったのをきっかけに捨てられてしまった。Yはその相手が誰なのか突き止められず、そのうえ金がなくて途方に暮れ、結果として、産まれた男の子はSの手配で、子どものない夫婦に託された。そうして今日もYは、顔も名前も知らない我が子の幸せを願いながら、ショッピングセンターの清掃をする。そして、その日、Yは我が子と同じくらいの青年を非常階段で発見した。


――また、娘の腎臓の調子が悪くなってしまった。だけど、もう自分の腎臓を分けてあげることはできない。ああ、健康な体で産んであげられなくてごめんなさい。ああ、あなたを好きでいてくれる方と、一緒にさせてあげることができなくてごめんなさい。眠る娘の顔を眺めながら、Sは密やかに涙を流す。


――もう何も考えなくてすむはずだった。「気がついたようだね」――だが、そうはならなかった。「若く健康な体、大事にしないと」――そんな体などいらないのに。そんな心の呟きを嗅ぎとったかのように、その医者は耳元で囁く。「……今なら表向きには合法的に、君に死の望みを叶えられるがどうだ?」――死にたいという願いを叶えてくれるのか?「ああ、ドナーカードに全部○をつけてくれれるだけでいい」――ああ、そんなことか。臓器の一つ二つ持っていくがいい。「契約成立だな」青年の脊髄に冷たいものが流れ込み、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、意識が遠のき……


会長に、心臓移植の適合者が見つかったとの連絡が入った。(主治医に大金を積んだかいがあった)会長はその胸の内をなで下ろした。「Sよ、どうした? そなたにしては覇気がない」「会長、実は……」後継者と考えていた孫の自殺未遂、それからSの娘の容体の悪化……会長はSを下がらせ、主治医を呼び寄せ、ある提案をもちかけた。そして、


会長の心臓移植が行われる。同時にSの娘の腎臓移植が行われる。だが、会長もSも主治医さえも知らぬことがある。脳死状態にされた臓器提供者が会長の次男の隠し子で、同時にSの娘とも血縁上の関係者であるという事実に。


ただただ、淡々と移植手術が行われ……


おそろしく拒否反応が少ない状態で回復していく様に主治医が首をかしげ、二人が健康な身体を得ることになるのは、もう少し後の話。

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