探索者2
グラたん「物足りないのでもう一話投稿です!」
暗い廊下。明かりは壊れた電灯のみ。
「ひぃ! ひぃい! や、止めてくれ! 俺はまだ死にたくな――」
銃声が響く。脆いものだ、人間はたった一発の銃弾で死んでしまうのだから。
「……お前が先に始めたことだ。そして我々から出てしまった錆でもある」
酷く悲しい結末だけがそこにあった。
彼は魔法使いとしての規律を破り、東京を混乱に陥れた元凶だ。その報いは受けなくてはならない。彼のせいで大勢の人が死んでしまう。
魔法使い。それは太古の昔から存在する秘匿された人々のことだ。
現世とあの世を繋ぐ霊術師。未来を読み解く星占師。周囲の霊を鎮め、払う除霊師。吉凶を占う占術師。それらも我々は魔法使いと呼んでいる。
しかし現代においてそれらのほとんどは力を持たぬ只人だ。
魔法というものは魔力や龍脈を媒介としており、その使い方を知らぬ者はほとんど使えないと言っても良い。
――しかし近年、異世界との門が開かれてしまい、地球にはほぼ無かったはずの魔力が満ち溢れ、生態系に影響を及ぼしてしまった。
『超能力者』の覚醒。我々に類似する特異的能力者の覚醒が起こったのだ。
これは地球においてはあり得てはいけない事象だ。人類という枠組みから外れてしまい、人類の生態系を破壊しかねない現象なのだ。
だが、門を閉じるにはあまりにも遅すぎた。人類は変わってしまったのだ。
私たちは門を閉じなくてはいけない。せめて、この地球における最低限の生態系は守らなくてはならない。
しかし巨大な魔力を得たことで身内から何人も規律を破る者が現れた。
魔法使いの鉄の掟。『人類に害を成してはならない』。
我々は彼等を処分した。
だが……彼等の組んだ術式は術者の死後も動き続ける呪われたシステムだった。我々に止めるすべはなく、せめて東京人たちが己が境遇を受け入れ、生き残ってくれることだけを祈る。
門を閉じることが出来た。
神代山王国には大きな借りを作ってしまった。確かあの国の王もまた異世界の旅人だったな。
彼と彼女は良い人だった。彼らとは入れ違いに入団した少女がいたが……正直なところ早まったかもしれない。
彼女はデスゲームを二度もクリアした狂人だと思っていたが、それは私の飛んだ思い違いだった。
一体彼女は何時に目を付けられてしまっていたのだろう。乗っ取られてはいないみたいだったが、どちらにせよ巫女というのは笑えない。
もしかすると一回目の時、彼女だけが生き残ったからだろうか。
……今となっては詮索のしようもない。
門を閉じてから地球は少しだけ落ち着きを取り戻した。
魔物は大きく数を減らし、山の奥へ、海底の隅へと住処を移していった。しかし怪人は増える一方でヒーローという役職もまた世界規模で増えていった。
この星の行く末は決まった。彼らは永劫戦い続け、終わりなき闘争を強いられるだろう。
「分かっているかい。君がこの世界を歪めたんだ、勇者」
私は彼に問いかける。
「おいおい、この歪みは俺じゃない。確かに最初の一回目の責任は俺にあるだろうけど、戻ってきた時の門は俺じゃないぜ。なあ、紬」
彼は隣にいる少女に笑みを向ける。
「……私じゃなくて無貌の王だから。私のせいにしないでくれる?」
彼女は迷惑そうに肩を竦め、コーヒー牛乳を呷った。
結局のところ、元凶たる元凶は神の仕業なのだ。そんなもの誰が追求できよう。
「そういえば彼には合わなくていいのか? もう随分と会ってないんだろ?」
勇者が視線を向けた先にいるのは神代山天成だ。彼の隣にはチェルシーがおり、その腕には子供を抱えていた。
「式典が終わったら会いに行くよ」
どことなく彼女は嬉しそうに告げる。
長いようで短い物語の終わり。誰かの話が誰かへと繋がり、良くも悪くも影響を及ぼした。
「もう7年かぁ……」
彼女は少し遠い眼をしながら呟き、勇者は意地の悪い笑みを浮かべた。
「どうした? お前がそんな面していると隕石でも降ってきそうだ」
「……ふん」
彼がいうとジョークにしても質が悪い。彼女も機嫌を損ねてしまったようだ。
式典が終わる。神代山君も場から退場して隣の会場へと移るようだ。
「さて、我々も行こうか」
私たちも歩きだす。せめて、この安らかなる日々が続いていくように私は祈る。
今日は晴天だ。曇り一つない良い天気。
季節は冬から春になろうとする中間。少し肌寒いくらいだ。
もうすぐ新しい春がやってくる。
それが吉となるか凶となるかはわからないけれど、良い方向へと進んでほしいものだ。
「ふむ」
そう思いながら空を見上げると、緑色の流星が落ちてきていた。
「リーダー? ってマジか。本当に隕石が落ちてきたのか?」
彼は苦笑いしながら同じ空を見上げる。つられて周囲の何人かも同じように空を見上げるが、彼等は首を傾げるだけで不思議そうに私たちを一瞥するとその場を去っていった。
「流星ねぇ」
彼女も空を見上げながら呟き、その行く末を眺める。
――徐々に地球に落ちてきているように見えるのは気のせいだろうか?
やがてそれは音もなくそう遠くない場所へと落ち、ズシンと全てを揺らす振動を引き起こした。
隕石にしてはあまりにも規模が小さすぎると私は思う。
あんな近くに落ちたのなら私たちとて無事では済まないだろう。
「また、何か新しいことの始まりか?」
「行ってみるか? リーダー」
「あとでな」
次の進路は決まった。門のことも気になるが、寄り道は人生の醍醐味だ。
隕石は逃げも隠れもしない。今、私たちがやるべきことは別にある。一つ一つこなしていけば良いのだ。道はまだまだ長い。
――旅人は進む。




