ギャルゲー6
宴も程ほどに僕とチェルシーは一足先に用意してくれていた小さなコテージへと移動する。四谷さんが気を使ってくれたらしく、このコテージは僕たちで使っていいそうだ。
僕としてもチェルシーと二人っきりで話したいこともあったからありがたい。
ベッドは二つあるけれど僕とチェルシーは同じベッドに腰かけていた。今までこんなに離れていたことは無かったからか、何から話せば良いのかわからない。
チラリ、とチェルシーを見ると彼女も僕の方を見て、視線を逸らしてしまった。
また少し沈黙が訪れる。それでも心地よいと感じるのはチェルシーだからだろう。
でも、時間は有限だ。切り出さなくてはいけない。
「あのさ、チェルシー」
「は、はい」
少し上擦った声。怒られると思っているのかな。
僕は微笑みながら彼女へと向き直る。
「チェルシー、怒ったりしないからこっち向いて」
彼女は恐る恐るといった様子で僕の方を見てくれる。やはりそう思っていたらしい。
「て、天成様……」
手を握ってあげると少し震えていた。
「まずは無事で良かったよ。またこうして会えて凄く嬉しい」
「それは、私もです」
チェルシーの顔が赤い。恥ずかしいのか、それとも再会出来て照れているのだろうか。
良い雰囲気だけど言わなくちゃ。
「……チェルシー、お兄さんは見つかりそう?」
それを聞くとチェルシーは顔色を変えて俯いた。進捗はよろしくないみたいだ。
「申し訳ありません。兄さんの手がかりはまだ……」
「そっか。――これ、見てくれる?」
もしこれが正しいのならチェルシーには辛い決断をさせることになる。それでも、と思ってスマホを取り出して例の事件を見せる。
「これは……ギャラクシー・ガイの事件ですね」
「この敵の怪人、レスっていうんだけどさ。……もしかしたらアラインさんかもしれない」
ゴクリ、と隣から音がする。その表情は、困惑だった。
証拠とばかりに先ほど調べた照合データを彼女に見せる。
「こ、これは……」
「色々と変わってしまってはいるけれど97.3%、アラインさんだって」
困惑から恐怖へ変わる。チェルシーの手が震え、肩へ、全身へ伝わる。呼吸が乱れる。
僕は何も言わずに彼女を抱きかかえ、そのまま待つ。
「にい、さん……」
チェルシーが小さく嗚咽を漏らした。
「……多分、警察署や検察の保管庫に髪の毛とか証拠になりそうなものはまだ取ってあると思う。……でも、それはチェルシーに任せるよ。僕は無理強いしたくない」
僕の本音だった。同時にこれはまだ確証のないデータでもある。彼が偽物で、本当はまだ生きているのかもしれないという可能性も――あるかもしれない。
チェルシーは、そっと僕の腕から抜け出して住まいを正して僕に向き直った。
「……天成様、調べてくださってありがとうございます。これが真でも偽でも、私は知る必要があります。天成様のお力、無駄にはしません」
「うん。でも、これはもうチェルシーだけで抱え込まないで。僕も探すからさ」
決して気休めではない。僕もここまで関わってしまった以上はチェルシーの力になりたい。そう強く思う。
「……お願い、します。天成様」
そう言ってチェルシーは僕の胸へと飛び込んできた。
今まで溜め込んできていたものが溢れてしまったかのように彼女は泣いた。
僕はただ、泣いている彼女の背中を優しく撫でていた。
翌日、僕とチェルシーはキャラバンと共に東京を出た。
どうやってバリアを抜けたのか気になっていたけど、どうやら魔法でバリアに穴を作ってそこを行き来できるようにしていたらしい。
デスゲームが終わるまでは東京に戻れない。いや、終わってもしばらくは帰ることは出来ないだろう。もしかすれば、これが今生の別れになるのかもしれない。
「天成様? どうなされましたか」
チェルシーが購入した新車の車に荷物を詰め込む。
「ううん、行こう」
ドアを開けて助手席に乗り、チェルシーは運転席へ。
東京にはしばらく帰らないつもりなので日本をのんびりと回る旅に僕たちは出る。当てのない旅になるだろうけど、それで良い。
いずれ戻ってきた時に真実は分かるだろう。
出発して僕たちは海岸沿いを進んでいく。途中のパーキングエリアでおにぎりを買って海辺で食べつつさざ波を眺める。
食べ終わって立ち上がると、そこでふと思い出す。
「そういえば約束忘れてないよね、チェルシー?」
「約束、ですか?」
「どんなことでも一つ願いを叶えてくれるっていう約束」
それを聞くとチェルシーは顔を真っ赤にして視線を逸らした。
「げ、限度はありますからね! キスまではセーフです!」
意外とセーフゾーンが広くて驚いた。でも、僕が望むのはそれじゃない。
……いやある意味キスも惜しいけど、今だけは違う願いがある。
「じゃあ、お願い。――もう僕の元から離れないで、チェルシー。君が行きたい場所があるなら僕はどこまででも一緒にいくからさ」
ずっと一緒に居たいこの気持ちに偽りはない。傍に居てほしい。
「従者とか主とかそんなんじゃなくて、一人の女性として僕の傍に居てほしいんだ」
伝わってほしい。そう願いながら想いを紡いでいく。
「僕はチェルシーの事が好きでたまらないんだ」
もう後戻りなんて出来ない。後戻りなんてしない。
「これから先、ずっと一緒に居よう。チェル――」
言葉は最後まで言う事は無かった。その前にチェルシーに唇を塞がれてしまったから。
勿論、僕はパニックになった。頭が沸騰しそうなくらい熱くなって、真っ白になる。
どれくらいそうしていたかわからないけど、チェルシーから離れてくれるまで僕はそのままだった。
「私の言いたいこと、先に言われてしまいましたね」
そう言うチェルシーの顔も真っ赤だった。
「何時か、そうなったらいいなって思っていました。でも私と天成様は身分が違い過ぎました。天成様から言っていただかないと私は了承することさえ出来ません」
その表情はとても幸せそうで、とろけてしまいそうなくらい幸福に満ち溢れていた。
「ふふっ、実は私の方がずっと前から大好きだったんですよ」
それはズルいと思う。
「ずっと貴方の御側に居させてください。この生を終えるまで」
「――うん」
もうそれ以上の言葉は要らなかった。
僕たちは、もう一度キスして笑いあった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
デスゲームが終わると共に東京は血の海に沈んだ。
死者は5000万人を超え、クリアした人たちは何らかの精神障害を残した。世界で見てもこれは史上初とも言える大虐殺であり歴史に名を遺すことになる。
日本政府は東京から大阪へと移り、今は片付けが行われている。
その隙を縫って僕たちはアラインさんの真偽を突き止めた。やはりレスはアラインさんであり、その日はチェルシーと二人で泣いて、一緒に夜を過ごした。
このことは王国にも届いてしまい、僕たちは帰国を余儀なくされた。
それと白坂さんはキャラバンの四谷さんにスカウトされて世界を見て回る旅に出るそうだ。いずれ神代山王国にも立ち寄るらしいので、その時は盛大に彼らを歓迎しようと思う。
時は流れ、僕たちが復興した東京へと戻ってこられたのはそれから七年後のことだった。
街並みはまだ復興中で綺麗とは言い難いけれど、神代山王国からの資金援助もあって比較的早く東京は復興出来る見込みが立っていた。
「兄さん……」
「アラインさん」
大田区合同病院跡地。僕たちはそこであの時の犠牲者たちを黙祷していた。
七年。その間に僕は日本を治める王となり、チェルシーは王妃となって僕を支えてくれている。単純に日本のことを良く知っているのが僕たちだけというのもある。
「あう、あう」
「ハイン、お手て合わせて」
「あう」
小さな赤ん坊。僕とチェルシーの子供も出来た。名前はハイン。男の子だ。
次の世代の子。それまでにはこの町を復興させたいと僕は考えている。
もう二度と悲しい思いなんてさせない世界を作って見せる。
それが僕とチェルシーの夢、向かう先だ。




