ギャルゲー5
間に合わせる方法。僕が思いつく限りではもうこれくらいしかない。
「――最大速度で八王子へ行け」
「は、はひっ!!」
特急のハイジャック。最速最短による新幹線を超えるスピードによる命の保証がない移動。
全ての駅を通過してJR線を爆走する。景色が流れるように変わっていき、ちょっと楽しい。
今の僕の服装は真っ黒のライダースーツに黒ヘルメットをかぶり、声も変えている。車掌さんの背中には銃口を突きつけ、脅している。
八王子駅が見えてくるとパトカーや警官が駅で待機しており、シールドを持って電車の突入を待っている。仕方ないので僕は途中で飛び降り下車して近くの屋根を伝って走る。
途中の道路で車を拝借し、ガソリンが満タン近くまで入っていることを確認して予定の山へと走り抜ける。時間が無いのでアクセルをフルで踏み込んで山へと入り、木々をへし折って最短距離を進む。
「シャレにならないことしてるなぁ……」
なんて小さく呟きながら山を上がっていく。
予定地付近まで上がってくると車のタイヤがパンクしてしまったので乗り捨てる。送られてきた地図と位置情報を照らし合わせながら山頂へと上がっていく。
開けた場所へと出た。そこは草原以外何もなく、空には月だけが浮いている神秘的とすら思える場所だ。その草原の中央付近に八人の影があった。
慎重に近づいていく。暗くてよくは見えないが全員フードを被っているようだ。
その奥では更に十数人が膝を付いて何かを唱えており、その上空は少し歪んでいるようにも見えた。
「誰だ!」
フードの内の一人が僕に気付いて声を荒げた。数人が臨戦態勢になり、僕も腰を落としつつ接近して声を発する。
「ここにチェルシーはいるか」
「なに?」
そう答えるとフードの連中の中から一人が僕の方へ駆け寄ってきた。そして月明かりが照らす中、フードを取って顔を見せてくれた。
「天成様!」
「チェルシー!」
久しぶりに見る彼女は少しやつれているようにも見えたが、その瞳には強い意志が灯っていた。
「ああ、チェルシーが言っていた奴か」
「おい、感動の再会中に悪いがこっちが先だ。早く来てくれ」
数人が僕たちを手招きして急がせる。彼らに向かって駆けよりつつ、僕は荷物をチェルシーに渡す。
「この二つで良かったよね?」
小瓶を渡すとチェルシーは大きく頷いた。
「はい、間違いなく」
チェルシーはそれを確認すると小瓶を別のフードの男性に渡した。
「良くやってくれた。すぐに儀式を始めるぞ。各自、周囲を警戒。魔物が出てきたら対処してくれ」
彼は手早く命令を下すと詠唱している人たちの中心へと入っていき、小瓶を蓋を開けて中身を合わせるように地面へと注いでいく。
そして彼も一緒に良くわからない言語を使って詠唱を始めた。
「何をやっているんだい?」
隣にいるチェルシーに問うと、彼女は僕の手を握った。
「門の封印です。詳しいことは後程説明致しますが、簡潔に申し上げると、あの儀式を行うことで魔物や魔力が溢れ出ている異世界の門を閉じることが出来るのです」
「門……魔物?」
チェルシーはそれ以上答えてくれなかった。僕もそれっきり沈黙し、儀式を眺める。
やがて地面に描かれていた紋様が光り輝きだし、強い力のようなものを纏って上空へと上がっていく。僕はこの力や感触に覚えがあった。
「これは……父さんが使っていた魔法……?」
神代山家は他国が知らないような技術を持っており、それを父さんや母さんは魔法と呼んでいた。
光が柱となって歪んでいる空間へと吸い込まれていく。
歪みは少しずつ小さくなり、やがてそこには何も無くなってしまった。
「はぁ……はぁ……」
中央に居た彼がその場に膝を付いて肩で息をし、周囲の人たちも荒い呼吸を整えている。
「ど、どうなんだ、リーダー? やったのか?」
フードの一人が聞くと、リーダーと呼ばれた中央の彼は何とか立ち上がってフードを取り、大きく頷いた。
「ああ。元凶となっていた門は閉じた」
『おおっ!』
歓喜の声が溢れかえる。彼が何をしていたのか、何を成し遂げたのか僕にはわからないが、何かをしたということだけは伝わってきた。
「だが、諸君。小さな門はまだ多く存在する。全てを閉じ終わるまでは終わりではない」
「そりゃそうだが、とりあえず大きな山場は超えたんだ! もっと喜べよ、リーダー!」
彼はやれやれと微笑みながら皆を労っていく。森の茂みに隠れていた人もいたみたいで、彼ら彼女らも混ざっていく。ある程度すると山岳を走ってきたらしいキャンピングカーや軽トラが広場へと駐車して、何やらバーベキューが始まろうとしていた。
テントやコテージを立てていることから今日はここでキャンプするようだ。
「おーい、チェルシー! それと世界の救世主もこっち来いよ!」
「ヒューヒュー! 聞いてるぜ! あんたチェルシーの主様なんだってな!」
宴が始まると同時に僕たちも腕を引かれて輪の中に無理やり入らされていく。肉と野菜を取り分けられ、ジュースを飲まされて、どんちゃん騒ぎ。
……。
…………。
……いやちょっと待って。この流れだと説明がうやむやにされかねない。
「あの、チェルシー? そろそろ色々と説明してほしいんだけど?」
「ふふっ。天成様、ちゃんとしますのでご安心くだしゃい」
チェルシーがお酒飲むなんて珍しい。既に呂律が怪しいので話半分に聞いた方が良いかもしれない。
「ああ、それについては私から説明しよう」
先ほどのリーダーの人が僕たちの方へ寄ってきて対面の席に座った。
「神代山天成君だね。私は四谷小太郎。このキャラバンのリーダーをしているんだ」
「は、はぁ」
何とも曖昧な返事なってしまったが、彼は気さくに笑った。
「まずは私たちの活動目的とチェルシーさんをお借りしていたことについて話そうか」
彼の口から語られたのは僕が思っているよりもスケールが大きい話だった。
勇者の召喚。それに伴って開かれた時空の門。
門が召喚されたことによって魔物が地球に出現し、地球にはほぼ無いと言っても過言では無かった魔力という物質が出現したこと。
そして異世界にて送られた勇者が魔王を倒し、現在帰還していること。
勇者の帰還と同時に先ほど閉じた門が完全に開放されてしまい、世界中に魔物が溢れかえり、魔力が無尽蔵に等しいほど地球に流れてきてしまったということ。
その魔力に魅入られてしまった彼の仲間の数人が今東京で起きているデスゲームを引き起こしていることを告げられた。
その他にも超能力者のこと、ヒーロー誕生と怪人のこと、魔術師と呼ばれる者たちがいること、全くの異世界から来ている化物のことを僕は知った。
「私から説明できるのは以上だ。本来これは国家秘匿クラスの情報なんだけど、君に聞かせたのはチェルシーさんを借りていた謝罪と神代山家へのお礼を込めてのことだと思ってほしい」
そういうことか。確かにこの情報は一般的には知られちゃいけない内容だろう。
「分かりました。ありがとうございます、四谷さん」
「うん。……ああ、そうそう。チェルシーさんは今日を持ってキャラバンを離脱して君の元へ帰る予定らしいから安心してほしい」
「っつっても明日には血の海だからしばらくはこの辺か他の県に居た方が良いと思うけどな!」
ナハハハハ、と猫獣人の男性がジョッギを片手に笑いながらそう言う。
確かに帰っても白坂さんと高杉さんがいるわけだし、警察にも追われる身になってしまったわけだから、しばらくは他の県を旅行するのもいいかもしれない。
白坂さんには連絡入れておかないとね。
「それじゃ、今夜は楽しんでくれ」
四谷さんはそう言い残して他のグループを労いに行った。




