ギャルゲー3
「あと君が安全だって確信したのは君が直接言っているところを視たからだよ。読唇術でね」
「……チートか」
別にズルしているわけじゃないんだけど……。
「それと一番の確証は君を直接『鑑定』したことかな。それにもし君が人狼なら僕は別の人に行って吊ってもらっていたところだよ。デスゲーム経験者なんて真っ先に味方にするか吊るすかしないと危ないからね」
「……なるほどね」
白坂さんは少し沈黙した後、納得したような表情になった。
説得は上手くいきそうだ。もう一息と言ったところだろう。
「僕はチェルシーを残して死ぬわけにはいかない。協力してほしい。代わりと言っては何だけど、君の信用を確実に得るための方法もある」
ブレザーの内ポケットから白い液体の入った小瓶を取り出して机に置く。
「それは?」
「自白剤」
作り方はあまり人に言えたものじゃない。けど手段は選んでいられないのでこれで信用を得ようと思う。
「これを僕が飲んで君からの質問を全て答えよう。それで白黒はっきりする」
「自作自演もあり得る。それにあんたが飲まなくても他の適当な奴らに飲ませて白黒ハッキリさせる方法もある」
そういう考え方もあるか。とはいえ僕から提案できるのはここまでだ。あとは彼女が信用してくれるかどうかにかかっている。
「方法は君に任せるよ。なんなら作り方もあげるよ」
白坂さんはレシピを一読すると小瓶を手に取って蓋を開けた。
「うっ……おえっ」
臭いはきつく、めちゃくちゃ嫌そうな顔で涙目になりながら白坂さんはこちらを向いた。
「……こ、これ飲むの?」
「うん」
少し離れているくらいじゃ臭いが届く。臭過ぎてこっちも涙目になる。
白坂さんが少し躊躇しつつも小瓶を僕の方に向けてくる。
「……飲んで。本当に自白剤だって言うなら、確認できる必殺の問いがあるから」
「へぇ、それはとても興味あるなぁ」
強がっては見るけど……それすっごく不味いんだよね。作ったの僕だけど。
小瓶を受け取る。手が震え、生唾が喉を流れる。
息を止めてソレを一気に飲み干し――。
僕の意識はそこで途絶えた。
意識が戻ってくると白坂さんが凄く申し訳なさそうな表情で僕を見上げていた。その理由は語ってくれなかったけど信用はしてくれたようだ。
クラスに戻る途中で指定しておいた一人に縄をかけ、クラスへと戻る。
12時を回ると別のクラスから絶叫と断末魔が上がる。
……死んだ彼に恨みはなかった。何故、と問われれば”今後を考えた時、比較的死んでも僕に影響しなさそうな人物”を選んだ。
責任は僕にある。
でも責任を取ることはない。いや、取ることは出来ないんだ。
例えばこのゲームが終わってから警察に自白したところで一時的には逮捕されたりもするだろうけど、その情報が王国に知られたら外交問題になりかねない。それどころか証拠不十分で釈放されるかもしれない。
このゲームの死亡は黙っているだけで人を合法的に殺せてしまうのだ。
東京は日本の中ではトップクラスに栄えている。それだけに闇もまた濃い。特に人との関係性の闇は深く、冷たい。もし合法的に人を殺せることに気付いたら一体何人の人が死ぬのだろう。
白坂さんと高杉さんを連れて僕は帰宅した。
チェルシー以外の女性を家に招いたのは初めてだったから少し緊張したけれど、よくよく考えたら高杉さんは洗脳しているし、白坂さんは女性というよりは共犯者と言えるだろう。
そう思ったら興奮していた頭の中が冷めていった。
夕食を取り、夜を過ごす。クラスの方からも度々連絡が来るけれど、どれも差しさわりのない返答を返していく。洗脳自体も定期的にかけてないと解けちゃうから、明日辺りにはクラスメイトたちも正気に戻るだろう。
そうしている内に僕はベッドに横になり、しかしチェルシーからの着信が届いたことで意識が覚醒した。
チェルシー > 天成様、生きてますか?
生存確認だった。嬉しいような悲しいような気持ちになる。
ふと、僕の脳裏にあくどい事柄が過ぎった。普段なら差しさわりのない内容を送るのだけど、今日に限っては何故か悪いことの方に偏った。
天成 > 不安で死にそう。
チェルシー > 死なないでください。天成様が死んだら私も死にますので。
天成 > チェルシー、帰ってきて。
チェルシー > 申し訳ありません。既に東京に侵入しようとは試みたのですが、東京全体にバリアが貼られており、バズーカ砲でも破壊できませんでした。
一瞬ユーモアに富んだジョークだと思ったが、チェルシーはあまりそういうことは言わない方だ。書かれていることは事実だろう。
チェルシー > どうか生き延びてください。もし生きておられたらどんなことでも一つ、天成様の願いを叶えて差し上げます。
……チェルシーは僕のことをまだ子供か何かだと思っているのだろうか。いや、ただただ心配で勇気づけようとしてくれているのかもしれない。
天成 > 分かった。頑張る。
チェルシー > また明日ご連絡致します。おやすみなさいませ。
天成 > おやすみ。
スマホの電源を落として電気を落とす。そして大きく息を吐いて、ふと手が震えていることに気付く。さっきのやり取りのせいかな?
……どんなことでも一つ。
どんなことでも。
その魅惑のキーワードの内容を考えたせいで就寝時間がいつもより3時間も遅れた。
次の日。三人で朝食を食べていると白坂さんが生中継のアナウンサーに吊り指定を飛ばした。
結果的に一人吊ることが出来たので午前中は暇になってしまった。
家事も終わり、昼食もメニューを決めてあるからすぐ出来る。
ぼんやりとTVの中継を眺める。ニュースは同じことを繰り返し報道しており、やはり飽きる。
暇だなぁ、と思いつつ横目で白坂さんと高杉さんを見てみる。彼女たちも同様に退屈しており、白坂さんに至っては大きめのソファーに横になっている。
服はチェルシーのを借りているためか少しぶかぶかだ。白い太ももが動くたびに見え隠れして心臓に悪い。……ちょっと無防備すぎじゃないかな?
昨日のメールのせいかまだ少し思考がおかしい。頭を数度振って邪念を振り払う。
お昼を食べ終わると頭の中に声が響いてきた。
『おめでとうございます。白坂紬、神代山天成、条件をクリアしました。ゲーム終了まで殺されなければゲームクリアとなります』
不可思議な現象だ。一体どうやっているのか気になるが、ルール上はこれでクリアになったみたいだ。
午後は高杉さんの番になり、彼女は望遠鏡から階下を見下ろしてターゲットを探している。肉眼でも駅の通りや商店街は人通りがまだあるため餌には困らない。
そうなると必然的に居間には僕と白坂さんが残るわけだけど……。
「あっ、そうだ。神代山、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
どうしたものかと悩んでいると彼女の方から声をかけてきてくれた。
「うん? なんだい?」
彼女は口を開き、ポケットからメモ用紙を取り出してニンマリと悪い笑みを浮かべた。
「前に自白剤の作り方のメモ貰ったでしょ。あれの他にも色々ヤバい物の作り方知っているんじゃないの? どうせ暇だし教えてくれない?」
悪い顔だ。よからぬことに使おうとしている人の顔を彼女はしていた。
「悪いけどそれは教えられないよ。変なことに使われたらたまらないからね」
「ふーん? そう?」
白坂さんは食い下がるわけでもなく、ただただニヤリと笑っている。不気味過ぎて冷や汗が背筋を伝った。
「じゃあ仕方ないなぁ。うん、本当に仕方ない。神代山が隠している例の本を全部ここへ持って来ようか」
ハッタリだ。そう言えば僕が弱みを見せるか失言するとでも思っているのだろう。
「何を言っているのかよくわからないな」
「じゃあ部屋漁っていい? みつけたら教えてくれる?」
見つけられるわけがない。あの場所はチェルシーですらわからないようにしてあるんだ。
それにここで嫌だと答えてもやましいことがあると言っているようなものだ。それなら潔白を示したほうが良いか。
「別に構わないけど、僕も付いていくよ。流石に漁られて終わりじゃ困るからね」
「それなら大丈夫。ちゃんと片付けはするから」
……彼女の確信的な態度は気になるが、カマかけには引っかからないぞ。




