デスゲーム5
夜18:00が過ぎる。外のあちこちから悲鳴が上がり、逃げ惑う人々の姿を私は眺めていた。
それだけではない。少しでも情報が欲しいのは全員同じなため居間のTVが付けられており、そこからはニュースキャスターが渋谷の街並みを映し出していた。
『ご覧ください! 今、首都圏はパニック状態になっております! あちらこちらでも死体が散乱しており、一部が暴徒と化しています!』
渋谷の上空から映し出されるのは地獄とも呼べるだろう人災だ。中には愉快犯もいるだろう。警察も鎮圧に向かっているため今日の暴走はすぐ終わるだろう。
だけど、これが明日、明後日も続けば警察内部からも不信が生まれるだろうし、このゲームを利用して無差別殺人を起こす奴も出てくるだろう。
勿論、ゲームが終わった後だって続くかもしれない。
「それはそうとして……」
チラリと後ろを振り返ると神代山が夕食を作ってくれていた。チェルシーが良く作ってくれる好物のパエリアを何回か練習して作れるようになったみたいだが、食べてもらうのは初めてらしい。
てきぱきと調理を進めており、不安に思えるようなところはない。
「で、出ました」
高杉がお風呂から上がったようだ。神代山が気を使って先に使わせてくれているが、念のためということで監視は交代で行う。
「じゃ、次は私ね。……覗かないでよ?」
「残念だけどパエリアは火加減とタイミングが命だから厨房を離れるわけにはいかないよ。高杉さんにも監視されていることだし」
私への興味はパエリア以下らしい。それはそれでちょっと腹立つ。
まあ、神代山にはチェルシーがいるしそういう色沙汰もないだろう。
ささっと風呂を済ませて出てくるとちょうど夕食が出来上がっていた。配膳を手伝って、パエリアを頂く。
見た目は良い。味も良い。概ねケチをつけるような箇所はない一品だ。
片付けは私と高杉が担当して神代山を風呂に入れる。出てくる合間に洗濯も済ませて客間の方にかけておく。神代山の家は結構広く、客間が二つあるので私たちは一つずつ使わせてもらうことになった。鍵も付いているしマスターキーは貸してもらっているので一応は安心だ。
……スペアキーくらいは用意しているだろうけど、神代山に部屋を開ける根性も甲斐性もないだろう。ないと思いたい。
やることもなくなったので居間で高杉と一緒にTVを眺める。どのチャンネルもやっていることは変わらない。内容も似たり寄ったりだ。
「……あ、あの、白坂さん」
高杉に呼ばれてそちらを向くと、彼女は不安げな表情で私を見ていた。
「どうしたの、高杉さん」
「え、えっとね。あの、あり得ないとは思うんだけど……」
と前置きして少し溜め、彼女は私の傍に寄って小さく耳打ちした。
「も、ももも、もし神代山君に襲われちゃったりしたらどうしようッ!?」
その声はかなり嬉しそうだった。
私はとても優しい視線で微笑みながら彼女の肩に両手を置いた。
「その時は私は黙って寝ているから。仮に私の方に来たら遠慮なくぶっ殺すから」
「ええっ!?」
彼女にしては大きな声で驚いていた。ちょうどそこでガチャリと居間のドアが開いて高杉さんの身体が跳ね上がる。
「ねぇ、白坂さん。今、ものすごく物騒なことが聞こえたんだけど、僕の気のせいかな?」
そこには湯上り優男が居た。高杉さんはそんな彼にキュンとして目をハートマークにしていた。
「私の部屋入ったらぶっ殺すから」
「……高杉さん、会話の前後を教えてくれるかな?」
「は、はい」
高杉さんが大人しく全部言っちゃったのでからかいようもなく、神代山もそれを聞いて苦笑いした。
「アハハ、そこまで心配しなくても僕はチェルシー一筋さ」
その言葉は本音以外の何物でもない。
「そ、そうですよね」
高杉さんはちょっと残念そうだったけど、それでよかったと私は思う。仮に神代山王国に連れていかれても困り果てるだけだ。
「僕は先に部屋に戻っているけれど、何かあったら扉を叩いてね。冷蔵庫も勝手に漁っていいから」
神代山は手慣れた様子で私たちにそう言い残し、去っていった。彼なりに気を使ってくれたのだろう。
私たちも今日は早めにベッドに横たわった。
……そういえば男の子の家に泊まるのってこれが初めてだったっけ。特に緊張もしていなかったから忘れていたけど。
こんな状況でなければ、例えばこれが恋人とかの家だったらもっとイチャイチャしたりしていたのだろうか。……あんまりイメージ出来ないな。
いっそ魔法的な力とか主人公補正くらいあれば、あるいは異世界転移くらいすれば私にもチャンスくらいはあるのだろうか。まぁ、どっちも現実的じゃない。
そんなくだらないことを考えつつ、私は眠りへと落ちていく。
ゲーム二日目。この日は7時に起床して居間で朝食を食べつつTVから情報を得ていた。
現状ではまだ殺人事件が多発する、という程度の放送だ。被害者の共通事項は全て首を縄らしきもので絞殺されていること。また、首筋の頸動脈を噛み千切られていることだ。
『東京の至るところで同様の殺人が起きているということですが、やはり昨日のデスゲームというものの影響なのでしょうか?』
TVの生中継スタジオでは女性アナウンサーがスーツを着込んだ男性たちに問う。
『あり得ない、と断ずることは出来ません。数年前なら笑い飛ばしているところですが、昨今では怪人騒動もありますからね。それに最近は魔物も出現しています。非日常の出来事だからと言って目を背けることは出来ないでしょう』
そう言ったのは若い男性のアナウンサーだ。対して四十、五十くらいの男性アナウンサーが鼻を鳴らした。
『ま、だからと言って我々が出来ることは精々身近に起こっているニュースを伝えることだけですよ。事実関係が分かるまでは警察の独壇場でしょう』
『飯島さん、言い方言い方。これ、ご遺族の方も聞いていらっしゃるんですよ』
『ハハハ、失敬失敬』
周囲の睨みつけるような視線が飯島を貫くが、彼は相変わらず笑い飛ばしてしまっている。アナウンサーの類でもぶっちぎり不人気だが別段間違ったことは言ってないのでクビに出来ない厄介な人だ。
「……あの人、人間か呪術師ね」
高杉さんがトーストを食べつつ呟いた。チラリと神代山を見ると、彼は彼で少し思案顔になった。
「ねぇ、白坂さん。飯島さんに対して宣言って出来るかな?」
神代山が真面目な顔でTVを視つつ答えるが、いや、いくら生中継とは言っても流石に無理じゃないかな。
「まあ、やるだけ。『吊るす』」
彼に向けて宣言をしてみると、なんと彼の首に縄が掛けられた。
『あん? なんだ、これは?』
「うっそぉ……」
そこまで効力があるのか。……念のため、神代山に視線を向ける。
ルール上、吊るすことが出来るのは一日一人まで。縄も一本までしか出ないため、もし神代山の首に縄が掛かれば飯島の縄は私のものではないことになる。
「『吊るす』」
果たして――縄は神代山の首に掛からなかった。
神代山は一瞬驚いたような顔したが、すぐに私の行いの意図を見抜いて頷いてくれた。そして画面に向かって指定を飛ばした。
「飯島、『鑑定』。――呪術師だね」
「私たちの勝ちは確定っぽいね」
『お、おい! 誰だ! 今すぐ縄を解除しろ!』
東京の人たちも同様のことを思ったのだろう。彼の首に次々と縄が掛けられていき、縄はどんどんと増えていく。誰がやったのかなんてわからないけれど、便乗するなら今しかないと考えたのだろう。
『カメラ! カメラ止めろ! 早く!』
『む、無茶言わないで下さーーあ、ちょ、壊れる! 壊れる!』
やがてプツリと音を立てて中継が切れた。放送事故だ。
「望遠鏡、必要なかったね」
ごちそうさま、と手を合わせて私は朝食を終える。
「こういう方法もあったのは驚きだね。生放送しているところを視れば高杉さんも噛みやすくなるんじゃないかな。まあ、昼過ぎから街中をうろうろしていた方が確率は高いんだけどね」
「が、頑張ります」
そう勇ましく答えた彼女の眼はやはり虚ろなままだった。




