デスゲーム4
一日目、昼。もうすぐ昼の時間が終わろうという間際。
私と神代山は教室に戻る最中にターゲットにしている他クラスの狼を一人に狙いを定めて縄をかけておく。教室に戻るとクラスの中は重々しい無言と後悔、罪悪感でいっぱいだった。
私と神代山が異常思考なだけでクラスメイトたちは至って正常だろう。
休み時間のチャイム間際に廊下に待機し、教師が教室から出てきたのを見送って私たちも教室の中へと入った。
「か、神代山……」
「神代山君……」
クラスメイトたちの不安そうな表情と声に神代山はニッコリと笑った。
「大丈夫、僕の言う通りにしていれば三日目も朝を迎えられるよ。そうだ、皆も気が重くなっているだろうと思って購買で飴を買って来たんだ。食べる?」
それを聞くと彼等はほっとしたような安堵の表情になった。そして袋の中から飴が配布され、昼食前にそれを食べた。
さっきの自白剤のくだりがあったため私は遠慮しておいた。どうにも非合法なやつにしか見えなかったというのもある。
その視線を察知したのか、神代山は微笑んだ。
「大丈夫だよ。これはただの飴だから」
あまりにも胡散臭いのでちょっと顔を寄せて耳打ちする。
「……それ、非合法なものじゃないの?」
「これ? これは本当に普通の飴だよ。レシートあるけど見る?」
……見たけど普通に飴だったし時間的にもおかしなところはない。
「どうやって、って顔してるよ?」
「後で参考までに聞くわ」
実際、あとで聞いたら人間の声の音量やトーン、周波数には人を安心させたり心身を掌握させられるすべがあるらしい。よく言えば催眠、悪く言えば洗脳だ。
これは実家で家族全員仕込まれていることらしく、同種相手には効果がないとか。
……このゲームが終わっても絶対神代山家だけは敵に回さないようにしよう。
「ぎゃあぁああああああぁあぁぁぁ…………!」
ゴキリ、と人の骨が折れるような音と悲痛な叫びが学校中に響いた。
「皆は不安そうにしつつもいつも通りに」
神代山はそう言って一人だけ吊った奴のクラスへと向かう。私も精神的には安定しているので自分がやらかした惨状を見ようと向かう。
そのクラスへと辿り着くと生徒も先生も外に出ており、野次馬の何人かが教室を覗き込んでいた。
私たちもその教室を覗くと、彼は何重もの縄に首を吊られて天井からぶら下がっていた。目は見開かれて虚空を彷徨ったまった固定され、目、鼻、口からは血と汚物を垂れ流していた。
「……」
それを見ても私はあまり驚かなかった。いや、現実を理解したくなくてその場に立ち尽くしてしまっていた。
これでもつまらない女とか冷徹だとか心が無いとか、そんな悪口を言われたことがあったから自分でもそうなのだろうと思っていたけれど……私の心はちゃんとビックリしていた。
「こら! 見るんじゃない!」
男性教師たちが数人がかりで入り口の扉を閉めて塞ぐ。
「こっち」
神代山に袖を引っ張られてもあまり実感がなく、手を掴まれて移動し始めてようやく感覚が戻ってきていた。
教室に戻ってくると神代山は午後の狼タイムの人たちに指示を出して一人だけを集中して狙っていた。私はまだ少しぼんやりとした中でキルスコアを見ていた。
キルスコア1。私と組んだ神代山も、吊ったクラスメイトたちもキルスコア1が追加されていた。
人殺しの勲章。神代山の作戦は上手くいっていた。
思考が戻ってくる。現実を視認し始めて、私は薄く嗤った。結局私は冷徹な外道だ。神代山のことを言えたもんじゃない。いや、それ以前にも私は前のクラスメイト全員を見殺しにしたんだった。
「やっぱり私はおかしいんだ」
小さく呟く。私は人殺しに忌避感が無いんだってことを知った。誰かを殺したって気持ち悪くもならない、悲しくもならない。涙すら出ない。
そんなことを考えながら、教師が教室に入ってくる。
先の出来事を簡単に説明され、警察や教師を交えて調査に移るそうだ。なので、今日は解散となるそうだ。明日は調査結果と進展を見てからメールがあるそうだ。
殺人が起こったというのにクラスメイトたちは至って普通であろうと帰宅の準備を始めた。
「……これで良かったのかな?」
誰かが小さく呟いた。
「神代山が言ってたろ。こういう状況は慣れているから指示に従ってほしいって」
「それに、俺たちだって好きでやってるわけじゃないしな」
「そうね。加藤さんだけ気に病む必要はないよ」
「とりあえず帰ろうぜ」
明日は学校休みになりそうだぜ、なんて話合いながら彼等は帰っていく。
――彼等は今、自分たちが何をしているのかちゃんと理解していないようだ。
――彼等はさっき何をしていたのか思考していないようだ。
今日は神代山のおかげで凌いだ。けど、明日はどうするつもりだろう? 何も行動しなければ待っているのは狼を吊るせるか、自分が吊るされるかの二択だというのに。
私はそんな馬鹿じゃない。クラス中を動き回っている神代山の元へ急ぐ。
「神代山」
「やぁ、白坂さん。ちょうど良かった。こっちから呼びに行こうと思っていたんだ」
この状況下においては不気味とも言えるほどの笑顔。でもそれは表裏ない彼の笑みであることは分かっている。
「か、神代山君? 白坂さんも誘うの?」
彼女は……確か高杉さんだったっけ? 大人しくて教室内でもあまり人とは関わろうとしないタイプの子だ。
「うん。白坂さんは相方になってもらっているからね。下手に動かれたら僕も死んじゃうんだ」
「そ、そっか。よろしくね、白坂さん」
「あ、うん……よろしく」
私に手を差し伸べて握手してくれる。けど……彼女の眼はもう正気じゃない。強く洗脳されたように虚ろで張り付いている笑みは自然体そのものだ。
「……あんたねぇ」
これ後でちゃんと戻せるのだろうか、とちょっときつめに睨むと神代山は苦笑いしていた。
「まぁまぁ。でもこれで手札は揃ったよ。……白坂さん、悪いけど今日は僕の家に泊まってくれない? 悪い狼に食べられちゃっても嫌だしね」
「言い方」
まるで僕の物だ、とばかりの言い草だ。彼はごめん、冗談だよ、と言って踵を返した。
私も高杉もその後に続いて廊下を歩いていく。
移動している間に私は両親に『友人の家に泊まるから』と連絡を入れ、神代山は勝利した後のことを考えてクラスLINEに私たちと同様の戦術を書き込んでいた。
さて、この辺りで神代山が考えているだろう攻略法を展開してみよう。
なぜ神代山はわざわざ敵である狼を引き込んだのか。その理由はルール上、『狼は狼同士を認識できる』ということを利用しようと考えているからだろう。
狼同士を認識できるということは逆に言えばそれ以外は人間か呪術師ということになる。それを人間と呪術師に教え、狩らせる。狼は人間といることで獲物を取らせまいという絵を作ることが出来、人間は狼を狩ろうとする図が出来上がる。しかしその内面で協力し合えば、何のリスクを背負う必要もなく狩りが出来るというわけだ。
そして神代山が私たちを家に招いたのは明日からの二日間を自宅待機して身を守るためだろう。狩る側も狩られる側も対象を認識しなければ宣言は行えないからだ。
唯一リスクがあるとすればそれらを準備するために初日は大きく動く必要があるということだ。
帰宅途中で神代山は望遠鏡三つを買い、スーパーに寄って三日分の食料を購入した。万が一足りなくても午後の狼ターンであれば高杉が買いに行ける。
初日ということもあってか私と神代山は殺されることなく帰宅出来ていた。明日には被害者が報道されて外を出歩くという行為が難しくなるだろう。




