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修羅の国戦記  作者: 甘木智彬
【AggressiveWorld-黎明の器士-】
23/38

23.器士

=福岡県西部=牟那方(むなかた)市=市立図書館=


 津久井(つくい)町の門を破壊した翌日。


 牟那方市立図書館の片隅、会議室には十数名の少年少女が集まっていた。


 刀根が東奔西走し、探し出して協力を取り付けた十二名の器士。及びその親族や知り合いたちだ。


 長机をコの字に並べ、望月たちは黙って座っている。この三日の間に既に顔を合わせた者、望月建設の事務所で寝食を共にした者、今日初めて顔を出した者、と大まかに三種類に分けられるが、新顔の少年少女はやはりどこか気まずげだ。先ほどから、ちらちらと落ち着きなく視線を彷徨わせている。


 ――主に、部屋の隅で腕を組んだまま微動だにしない銀色の甲冑(ウリエル)のせいかも知れないが。


「皆、今日は集まってくれてありがとう。こんなに早い段階で器士が十二人揃ったのは僥倖と言うほかない」


 司会役ということで、ひとりホワイトボードを背に会議室の前面に立つ刀根が、おもむろに切り出した。十数人の視線を一身に浴びながら、ぐるりと部屋の中を見回す。


「……取り敢えず、本格的な話し合いに入る前に自己紹介をしようか。互いに顔も名前も知らない、という人は少なからずいるだろうからね」


 刀根の提案に、うんうんと頷く一同。


「では、まずは私から。まあ尤も、知らない人は居ないと思うが……」


 自身の胸に手を当てる刀根。


刀根(とね)怜一郎(れいいちろう)だ。出身は響ヶ丘(ひびきがおか)高校。……先日十九歳になった。器械はこの片眼鏡、神器【エリヤ】――位階Ⅶ、おおよそ半径十km圏内の器士の居場所を検知する権能を持つ。よろしく」

「わー」


 ぱちぱちぱち、と佐京が拍手をしたが、誰も続かなかったのですぐに止めた。


「……えーと、じゃあ次は僕ですかね」


 拍手のせいで視線が集中したのと、左手側で一番前の席に座っていたのとで、コホンと咳払いをして佐京が姿勢を正す。


「どうも、佐京悠介(さきょうゆうすけ)です。響ヶ丘高校三年、趣味は読書とアニメ鑑賞。器械はこちら、神器【ブリューナク】。位階Ⅲで強力なライトにもレーザー砲にもレーザーブレードにもなります。気合入れれば鉄を溶かして、自動車を焼き切るくらいの威力はありますかね。拒否反応は『高熱』で触ると大火傷するんで気をつけてください。あと電池が切れると使えなくなるんで、その点も注意です」


 淀みなく話す佐京、拒否反応から器械の弱点に至るまで詳細に、躊躇いなく開示したことに、部屋の何人かがぴくりと反応した。


「そこまで言わなきゃなんねーの? イロイロと」


 椅子にだらしなく腰掛けた、明るい茶髪の不良っぽい青年が気だるげに刀根を見やる。

「ふむ。別に、言いたくないことがあるなら、言わなくても構わないよ。――キミがそうしたいなら、だが」


 刀根は、どこか含みのある言葉で答えた。フン、と鼻を鳴らした不良青年は、ジャケットの胸ポケットから煙草の箱を取り出し、無造作に一本咥える。そのまま腰のポケットに手を伸ばそうとしたところで、


「あ、煙草ですか?」


 佐京の対面、一番端の席に大人しく座る目を閉じた少女が、首を傾げる。


「失礼ですが、煙が苦手ですので、室内ではご遠慮願えませんでしょうか?」

「……チッ」


 目を閉じたまま穏やかに言う少女に、舌打ちする不良青年。あけすけに言われ気分を害しているが、純朴な少女相手にムキになるのも大人気ない、と考えているのが見て取れるような不機嫌顔だった。


「……わぁーったよ。火ィ点けなきゃいいだろ」

「はい、ありがとうございます」


 無愛想に火を点けずに煙草を咥える青年、ふわりと微笑み頭を下げる少女。相変わらず目を閉じたままで、その手には白く細長い杖を握っている。あるいは盲目なのか。


 沈黙。険悪、とまではいかないが、気まずい空気が流れる。


「……それでは、次。守谷(もりや)くん」

「あっ、はい」


 刀根に促され、佐京の隣に座っていたマユが反射的に立ち上がり、「あっ立たなくていいんだった」とすぐに座り直す。


「ええっと、守谷(もりや)真由美(まゆみ)です。南筑(なんちく)高校の三年生ですけど、わたしは器士じゃないです。ゆーちゃ……佐京くんの付き添い? みたいな感じで。あと、こっちが、」


 床で寝そべっていたラッキーを持ち上げて、


「ラッキー二号です。『ラッキー』って呼んでますけど」

「ワンッ」


 マユに抱きかかえられ、ヘッヘッヘと舌を出して尻尾を振るラッキー。


 先ほどまでとは若干質の異なる、妙な空気が流れる。


「え、ええっと。以上です」


 助けを求めるように、マユが隣の望月を見やった。


「……俺は、望月だ。望月(もちづき)(のぞむ)。……乙幡(おとば)第一高校二年」


 所属を口に出すとき、思わず渋い顔になってしまう望月。


「器械は、この神刀【鬼切丸】だ。位階はⅥ、身体強化と、あと勘が鋭くなる……みたいな効果がある。それと、ゴブリンとか、『鬼種』を相手にすると、ちょっとテンションが高くなってさらに身体能力が上がる」

「ちょっと、ね」


 数席隣に座る多賀が含み笑いする。


「……あと、その関係で、『鬼種』が近くに居ると目が光る。俺の目が金色に光りだしたら、近くに敵が居る証拠だから気をつけてくれ。以上だ」


 じろりと多賀を見やりながら、望月は言い切った。


「なんだそりゃ」

「便利だな……」

(さえ)、やっぱり帰ろうよこの人たち頭おかしいよ……」

「黙ってろ殺すぞ真人間(まにんげん)


 望月の自己紹介に、聞いていた初対面の面子の反応は様々だった。面白がる者、感心する者。一部、不穏なやり取りもあったが。


「それじゃあ、次」

「は、はいっ。わたしは、小牧怜奈(こまきれな)です。水守中学校の、二年生です。器士じゃありません、よろしくお願いします」


 座ったまま、ぺこりと頭を下げる小牧。皆、どこか微笑ましげにそれを見ていたが、何人かは小牧が腰に吊り下げる拳銃のホルスターに気付いて興味深げにしていた。


「次はおれかな。多賀英雄(たがひでお)だ」

「ダセェ」


 多賀が名乗ると、対面の煙草を咥えた不良青年が思わずといった様子で笑う。


「……ああ?」

「いや、今時『ひでお』とか……」


 ないない、と手を振る不良青年に、多賀は流石にムッとしたようだ。しかしフンと鼻を鳴らしたほかは何も言わず、代わりに立ち上がって、すらりと剣を抜いた。


 鞘から解き放たれた刀身が燃え上がり、ほわりと室内の空気が(にわか)かに暖められる。おお、と初見の面子が感嘆の声を上げ、不良青年がぴくりと眉を跳ねさせた。


「魔剣【スルト】。位階はⅤ、『炎と熱を司る剣』――だ、そうだ。見ての通り、鞘から抜くと刀身が燃え上がる。効果は身体強化と炎・熱の無効化。あと火炎放射器みたいな使い方もできる」


 以上、とスルトを鞘に納め、どっかとパイプ椅子に座り直す多賀。本人としてはまだ気分を害している様子だったが、スルトのインパクトで険悪な空気を押し流した形だ。一方、不良青年は煙草を咥えたまま、少しばかり難しい顔をしている。


「次は、俺か」


 すくっと立ち上がって剛田。本来は起立する必要はないのだが。


「俺の名前は、剛田力丸(ごうだりきまる)ッ! 牟那方高校出身だ! 卒業後は実家で漁師をやっていた」


 腕を組んだまま、威圧するように、不良青年をじろりと見やる剛田。変な名前だと思うなら言ってみろ、とでも言わんばかりだった。そっぽを向いて何も言わない不良青年。


「えっ剛田さんって漁師だったんですか」


 そんな二人の無言のやり取りには構わず、口を挟む佐京。


「言ってなかったか?」

「聞いてませんよ。でもそれいいですね、魚介類とか船の操縦とか、そこらへんは期待していいってことですか?」

「任せろ。まあ一人でやれることは限られるがな」


 うむ、と頷いた剛田は、ビシィッと親指で額の鉢巻を示す。


「器械はこの鉢巻、神器【一徹(いってつ)】! 位階Ⅱ、微力だが身体を強化し、自身と周囲の味方の士気を向上する効果がある。……あとお守り的な権能もあるらしいが、そっちはよくわからん」


 それだけを言って、再び腰を下ろす剛田。


 ここまで、刀根、佐京、マユ、望月、小牧、多賀、剛田と、事務所で寝泊りした七人が自己紹介を終えた。


「――次は、我か?」


 壁際で腕組みをしたまま立っていたウリエルが、蒼い双眸を瞬かせる。


「ああ、頼む」

「心得た。我は、ウリエル。位階Ⅶ、神器【熾天使(してんし)】ウリエル。時の流れより逸脱せし者。法の守護者、かつ執行者にして、公正なる裁定者なり」


 相変わらず人間味のない声で、淡々と話すウリエル。初見組の数人は、その異様な雰囲気に圧倒されているようにも見える。


「我は、端的に言えば、器械と器士が融合した存在である。主に四つの権能を持つが、長くなるためこの場においては説明を割愛する」

「『彼』に関しては、事情がかなり特殊なので資料をまとめておいた」


 手元にまとめたA4のコピー用紙を示して、刀根。ここ数日で事務所の発電機とパソコンを使い、ウリエルの権能をまとめた概説書を作成していたのだ。


「後で配るので、良ければ目を通して欲しい。一応簡単に説明すると、器士が十二人集まって共同体を結成したとき、これを承認し、共同体の中で定められた法律を遵守する警察のような役割を果たすことができる」

「警察ゥ? かったりィな」


 不良青年が、口に咥えた煙草をヒョコヒョコと動かした。刀根はそちらを見やって、真意の捉えづらい笑みを浮かべる。


「そうでもない。『殺人の禁止』と『器械の奪い合いの禁止』、この二つの法を定めるだけでも、我々は自身の身の安全をある程度担保できることになるよ」

「…………」


 刀根の言葉に、不良青年はわかったような、わかっていないような、曖昧な顔をした。望月は黙って見守っていたが、不良青年(コイツ)はあまり頭は良くなさそうだな、という印象を抱く。


「まあ、今日集まってもらったのは、そのためでもあるんだ。法律などに関してはおいおい話し合うとして、取り敢えず今は自己紹介を進めよう。次の人」


 刀根に視線を向けられ、一人の少女がすっくと立ち上がった。


 すらりとスタイルのいい、大人びた雰囲気の少女だ。暖かそうなロングコートを羽織り、ジーパンを履いた動きやすそうな格好をしている。長く伸ばした茶色の髪を無造作に側頭部でまとめたヘアスタイル。南方系のはっきりとした顔立ちで、かなりの美人と言えるだろう。若干、その表情がキツいという一点を除いて。


鬼塚(おにづか)杏奈(あんな)よ。アタシも響ヶ丘高校出身、看護科だけど」


 ハキハキとした声で、少女――鬼塚は名乗った。つん、とした態度はいかにも気が強そうだ。


 実は望月たちは、彼女とは既に顔を合わせている。刀根が一度、事務所まで連れてきたのだ。


 ――主に、ゴブリンに引っかかれた佐京の傷跡の手当てのために。


「器械はコレ、位階Ⅶの神器【アスクレピオス】」


 鬼塚は腰のベルトから、その『杖』を引き抜いた。形状としては特殊警棒のそれに近い。しかし真っ白な本体はまるで象牙のような質感で、全体に美しい金色の装飾が入っている。


「……自分でも舌噛みそうな名前なのよねぇ、コレ。まあいいわ、効果は『対象の傷を癒し、抵抗力を高める』こと。拒否反応は『硬直』で、コレに触ると動けなくなる」


 くるくると手の中でアスクレピオスを回す鬼塚。軽く振ると、ビシュッと音を立てて杖の本体が伸びた。


「……警棒にしか見えねェんだが?」

「ご明察。元は護身用の特殊警棒よ。……なんで『癒しの力』になんて目覚めたのかしら。意味わかんない」


 不良青年のツッコミに、小さく肩をすくめる鬼塚。


 しかし、少なくとも、神器【アスクレピオス】の癒しの力は本物だ。門の破壊を開始した翌日の夕方、刀根が「念のため」ということで鬼塚を連れてきて、佐京の手当てを依頼したのだが――鬼塚がアスクレピオスを軽くかざしただけで、佐京の痛々しい引っかき傷はたちどころに完治してしまった。もちろんその後、発熱や感染症などの症状も出ていない。


 ちなみに、望月も右膝の痛みを治してもらおうとしたのだが、こちらは上手くいかなかった。傷そのものはとっくの昔に完治しているため、内部にまで力が届かなかったのだ。あるいは足を叩き切って繋ぎ直せばイケるかも知れない――とは鬼塚も言っていたが、流石にその場で膝を切り落とす踏ん切りはつかなかったので、またの機会にすることとした。


「でもコレ、対象の生命力、っていうか……『活きの良さ』みたいなのに治癒力が比例するから、弱りきった病人とか、瀕死になって時間が経ち過ぎたらすぐには治せないから、気をつけてね。あと死んだらもう治せないわ」


 当たり前だけど、と付け足した鬼塚は、アスクレピオスをベルトに差してさっさと席に座り直す。


「ありがとう。それでは……次の人」

「えっ。ええと、ボク、ですかねえ……」


 刀根に目で促され、おどおどと一人の少年が立ち上がる。


 こちらは、新顔だ。大人しそうな顔つきで、ひょろりと背が高く浅黒い肌の少年だった。身長は百九十センチには届きそうだが、少しばかり姿勢が悪い――端的に言えば猫背気味で、ぱっと見はそれほど大柄には見えなかった。


 何より、線が細い。モコモコとしたダウンジャケットを着ているが、それでもパッと見でわかるほどに痩せている。もう少し肉を食べろ、と思わず望月が言いたくなるほどだ。自信なげな態度も相まって、どこかなよなよとした印象を受ける。


「えっと……その、ボクの名前は宮口(みやぐち)俊太郎(しゅんたろう)です……はい。牟那方高校の二年生で、それで、えっと……」


 もじもじとしながら、緊張しているのか、はたまた何か恥ずかしいのか、顔を赤くする宮口。


「あの……言わなきゃ、ダメ、ですかね。器械……」

「恥ずかしがるようなものでもないだろう。私と剛田はもう知ってるじゃないか」

「そう、ですけど……」


 宮口と会ったことがあるのは、勧誘(スカウト)に向かった刀根と剛田の二人だけだ。他の面子は、宮口があまりに『勿体ぶる』ので、どんな器械を持つのかとますます興味津々になっていた。


「……早くしろよ、メンドクセェな!」


 いつまで経ってももじもじとしたままの宮口に、不良青年が苛立ちを露にする。


「あっ。えっ、す、すいません……」


 ビクッと体を震わせた宮口は、観念したように、ぶかぶかのダウンジャケットを捲り上げた。


 そこには――宮口の腰には、ゴテゴテとしたデザインのベルト。


 材質は、金属のそれに似ている。色は銀色で、腹の中心部分には鮮やかなエメラルドグリーンの、大粒の宝石のようなものが埋め込まれていた。そしてその周囲を取り囲むようにして、いくつかスイッチや羽をモチーフにした装飾なども散りばめられている。


「えっ、それって……」


 佐京が声を上げる。望月も目を丸くし、多賀も身を乗り出していた。苛立っていた不良青年も呆気に取られたような顔をしている。


 室内の女子は一様にきょとんとしていたが、男子にとって、『そのベルト』は見知ったものだったのだ。


「はい……これが、その、ボクの器械で……」


 恥ずかしさここに極まれり、といった顔で、宮口は肩をすくめた。


「位階Ⅶ、神器【仮面騎士ハヤテ変身ベルト】……です」



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