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修羅の国戦記  作者: 甘木智彬
【AggressiveWorld-黎明の器士-】
14/38

14.集結

「……なるほど。あれが『門』か」


 丘の上、緑色のセダンから降りた刀根が、感慨深げに呟いた。


 前方、700mほどの距離だろうか。田畑の真ん中に巨大な光の柱が――まるで渦を巻く炎のような『門』が、そびえ立っている。


「想像以上に不気味ですね」

「なんか怖い……」

「オンッ!」


 後部座席から降り立った佐京、マユ、ラッキーもそれぞれに感想を述べる。


「アレを壊すって、簡単には言うけど……ホントに壊せるんかな」


 助手席のドアをバタンと閉めて、顔を引きつらせる多賀。


「っつっても、やるしかないだろ」


 セダンの左横に、ギギィーッと重いブレーキ音を立てて中型トラックが停まる。運転席にはハンドルを握る望月、助手席には小牧が青ざめた顔で座っていた。小鬼(ゴブリン)との戦闘でボロボロになってしまった一台ではなく、事務所から乗り出した六人乗りの車両だ。後部座席には、鉢巻を締めた筋肉質の巨漢・剛田力丸(ごうだりきまる)と、窮屈そうに背中の翼を畳む白銀の甲冑・ウリエルの姿もある。


「このまま『アレ』を放っておいたら、もっと厄介なことになるからな……」


 エンジンを切り、望月は厳しい表情で呟いた。


「……また、戦いになるんですよね」


 右腰のホルスターを撫でながら、心配げな顔を崩さない小牧。


「いずれにせよ、最善を尽くすのみだな!」

「然り」


 後部座席から降り、剛田が皆を励ますように声を張り上げる。続いてのそのそと外に出たウリエルが、ばさりと翼を打ち広げ腕を組み、直立不動の姿勢を取った。



 望月、佐京、小牧、マユ、刀根、多賀、剛田、ウリエル、そしてラッキー。


 以上、八名と一匹は、『門』の破壊のため津久井(つくい)町西部に集結していた。



 事務所での再会と邂逅の後、自己紹介もそこそこに、急いで準備を整え移動してきたわけだが――実はこの面子(めんつ)に落ち着くまでに、ひと悶着あった。『一刻も早く門を破壊する』という基本方針は合致したものの、小牧とマユをどうするかで意見が割れたのだ。


 戦闘に特化した器械を持つ望月・佐京・多賀の三人はもちろんとして、男性陣は武器さえあればそれなりに戦うことができる。それに対しマユは戦闘能力皆無で、小牧も拳銃の使い方をレクチャーされたとはいえただの女子中学生だ。戦闘が起こる可能性のある場所に連れて行くのは危険すぎる、という反発があった。主にそう主張したのは望月と佐京だが。


「――しかし、置いていけば本当に安全なのかね?」


 意外なことに、真っ先に異を唱えたのは刀根で、彼は逆に『置いていくこと』の危険性を指摘した。


「話に聞けば、門は町内にあるそうじゃないか。門が出現したのは昨夜のことだ。ならば夜が明けるまでに、ゴブリンどもが町を横断してこちらに来ていないと誰が断言できる? それに望月くんの言った門に限らずとも、別の門から出てきた化け物がうろついている可能性もある。運悪く孤立した女子二人がそれに遭遇したら、結果は火を見るより明らかだよ」


 故に、連れて行く。その方が結果的に安全になる、というのが刀根の言だ。多賀が消極的にその意見に賛成し、剛田もそれを支持した。ウリエルは最後まで中立を貫いたものの賛同の意を匂わせ、他でもない小牧とマユも同行すると声高に主張。二人とも置いていかれるのは死ぬほどイヤだったらしい。最終的に望月も佐京も、刀根の意見に一理あると納得し決着がついた。


「それにしても……」


 ゆっくりと回転する竜巻のような門を見て、露骨に気味悪がる佐京。


「どうやって壊すんですかね『(アレ)』。器械で殴るとか?」

「然り」


 その疑問に、重々しく頷いたのはウリエルだ。


「器械で攻撃すれば、門はその分体積を減じ、最終的には消滅する。……と、我の知識には在る」

「ほう。ということは、ブリューナクで遠距離から削ってもイケると?」

「然り。但し、直接的な打撃の方がより有効である」

「なるほど。……まあ物は試し、ちょっとやってみましょうかね」


 無造作に神器【ブリューナク】を構えた佐京は、門に狙いを定める。


「ポチッとな」


 気の抜けるような台詞とともに、起動。


 ジャッ、と鋭い音を立てて空気が()け、レンズから一直線に光が伸びる。巨大な赤い光の柱に青白い光線が突き刺さった。


 十秒ほどレーザーを照射した佐京は、スイッチを切って目の上に手をかざす。


「……何か、変わりました?」

「際立った効果は観測されない」


 無情に告げるウリエル。一同も揃って渋い顔だ。


「ゆーちゃんの器械って、ランク? だっけ? 低いもんね」

「位階Ⅲだね。それに加えて遠距離攻撃でマイナス補正も入ったりするのかな」


 ラッキーを撫でながらコメントするマユ、佐京も落胆の色を隠せない。


「遠くから削れるなら、それに越したことはなかったんだけどねぇ……」

「やっぱ直接殴りに行くしかない、か」


 神刀【鬼切丸】の柄に手を置き、望月。ブリューナクによる遠距離攻撃が現実的でないとわかった以上、突撃するほかない。


「……というか、ウリエルさんが一人で行くってのはナシですか?」


 ふと、思いついたように佐京がウリエルを見やる。


「ウリエルさん全身器械なんでいくら殴られても壊れませんし、位階Ⅶなんで門の破壊効率も最高のはずですし、疲れもしないから不眠不休で削れますし……」

「それは、……流石に、どうなんだ?」


 敵の只中にウリエルを単独で突っ込ませる、という身も蓋もない佐京の作戦に、剛田が首を傾げる。その有効性を認めつつも何処か釈然としない様子。


「理論上は、可能である」


 しかし当のウリエルは、淡々と頷いた。


「但し、ひとつ問題が予測される」

「ほう? 聞こうか」


 それでイケるか、と思い始めた矢先、ウリエルが懸念を示したことに興味深げな刀根。


「単純に、敵の妨害の可能性である。我は物理的攻撃により破壊されることはないが、敵が妨害や捕縛を試みた際、現時点では対抗手段を持たない。単独では効率的な破壊活動の遂行は難しいものと予測される」

「……ああ、そうか。殴れないから抵抗できないのか」


 佐京は思い出す、ウリエルが佐京(じぶん)を殴ってみせようとしたときのことを。

 ウリエルは『戒めの鎖』によりその行動を制限されているのだ。たとえ、敵から寄ってたかって殴られようとも、能動的に反撃することができない。


『炎の鞭』や『炎の剣』といった、執行力の権限を除いて――。


「じゃあ、『法制領域』を展開して、囲まれたり妨害されそうになったら転移すればいいんじゃないですか? 半径一キロの範囲なら、ここに『旗』を立てればあの門まで余裕で届くでしょう」


 佐京の切り返しに、刀根と剛田が「なるほど」と頷く。ウリエルの権能を十分に把握していない他の五名――特にロクな説明も受けていない望月は何のことやら、という顔だったが。


「汝の提案は有効である。しかし、現時点では実行不可能である」

「え、何か問題あるんですか?」

「然り。現時点では『法』が存在しないため、たとえ法制領域を展開しようとも、我が権能を十全に発揮することができない。具体的には法制領域内における転移、及び事象の詳細な把握は不可能である」

「えぇ……。まあそうか、あくまで()制領域なワケだし。なら逆に、法を定めればいいってことですよね。『何人たりとも、門の破壊を妨害すべからず』みたいな『法』を今決めてしまえば……」

「否」

「なんでやねん」


 しかし首を横に振るウリエルに、思わずツッコミを入れる佐京。


「法があればいいって言ったじゃないですかー!」

「然り。しかし現時点で法を定めることはできない。何故ならば、契約者たる刀根怜一郎の属するコミュニティが存在しないからである」

「なら、もう僕らでコミュニティ作ればいいじゃないですか! 今ここで建国しましょう! 望月帝国を築いちゃいましょうよ!」

「なんで俺の名前なんだよ」

「現時点での建国は不可能である。何故ならば、コミュニティの成立には十二名の器士の承認を必要とするからである。器士の立会いの下、コミュニティの結成が宣言されて、初めてその正統性が認められる」

「なんじゃその条件は……」


 佐京は呻いた。


「……その、十二名の中に『契約者』は入っててもいいんですか?」

「構わない」

「ウリエルさんは?」

「我は除く」


 ウリエルの言葉に、一同は顔を見合わせる。


 この場にいる器士は、望月、佐京、多賀、刀根、剛田の五人。


「……あと七人も必要だと?」

「今すぐには無理だね」


 呆然と呟く佐京に、刀根が小さく肩をすくめた。


「今から七人か……刀根、全員勧誘できるとして、どれほど時間がかかる?」


 剛田から問われ、刀根はぐるりと周囲を360度に渡って見渡す。


片眼鏡(エリヤ)の感知圏内には、そもそも三人しかいないな」

「……たしか、半径十kmだったか? その器械の有効範囲は」

「大体そのくらいだ。あと四人ほど、誰かが器械を見つけて器士になるのを待つしかないな。圏外にもいるかもしれないが……探すのは骨だぞ」

「……何日かかるかわからん」


 頭痛を堪えるように、額を押さえる剛田。


「っていうか、飛べないのか? その背中の翼で」


 魔剣【スルト】の柄をいじっていた多賀が、不意に核心的な問いを放つ。


「空中から削れば、化け物が飛んでこない限り邪魔されないだろ」


 確かに、その通りだった。全員の視線がウリエルに集中する。


「…………」


 無言で、背中の翼を打ち広げるウリエル。


 ばさっ、ばさっ、と。


 その場で腕組みをしたまま、何度か羽撃(はばた)きを試みる。


「……翼による飛行は困難である」


 やがて、何処か憮然とした口調で、ウリエルは結論付けた。その顔は若干俯いており、心なしかショックを受けているようにも見える。


「その見かけで飛べないのか……」

「法制領域内ならば一点に転移し続けることにより擬似的な飛行が可能である」

「いや、それは……、うん。そうか……」


 少しムキになって答えるウリエルに、多賀はもはや何も言わず引き下がった。


 その場に、何とも言えない沈黙が落ちる。


「ウリエルさんが転移を使えず、翼をもがれた天使(エンジェル)状態となると、取れる選択肢は限られてきますね」


 気まずい空気を十分に堪能したところで、佐京が何事もなかったかのように話し出した。


「と、言っても、このまま突っ込むか、それとも器士をかき集めて後日ベストコンディションのウリエルさんと共に挑むか、の二択ですが」

「ふむ……後者の方が堅実だが、その代わりここら一帯がゴブリンに占拠されかねない、ということか」


 唸るようにして顎を撫でた剛田が、忌々しげに門を睨む。


「……実際、我々の中でゴブリンとの『戦闘』を経験したのは望月くんだけだ」


 刀根が、真剣な眼差しを望月に向ける。


「望月くん。率直な意見を聞かせて欲しいんだが……ゴブリンは、手強いかね?」

「……そう、だな」


 問われて、望月は考える。


 望月は、器械がある状況とない状況で、それぞれ戦闘を経験した。故に、器士にとってのゴブリンの脅威と、一般人にとってのそれを両方知っている。


「……はっきり言って、鬼切丸さえあれば二、三十匹いても負ける気はしない。今なら一人でも五十匹は捌けると思う。向こうが逃げなければ、だが」


 頭の中の知識と相談しながら、そう結論を出す。しかし、ほう、と感心するような周囲の反応をよそに、「ただし――」と続ける。


「――鬼切丸がなければ、十中八九、殺されてた」


 実感の篭った重い言葉。ひやりと、気温が僅かに下がったような感覚すらある。小牧を除く一同は、ごくりと生唾を飲み込んだ。


「器械抜きで人間がゴブリンと戦うなら、一度に二匹を相手するのが限界だ。三匹以上で囲まれたら、多分、もう……ダメだろ。銃でもありゃ話は別だろうが」

「つまり、ゴブリンは危険だと」

「ああ、危険だ。一般人にとってはな。だからこそ今のうちに何とかしたい」


 口元を引き結んだ望月は、改めて遠方の門を見やる。


「俺が見た限りでは、門の周辺にまだ四、五十匹のゴブリンがいる。……あいつら食欲が凄いんだよな。このままだとあっという間にあの辺の食料を食べ尽くして、もっと遠くに()()()を探しに行くはずだ」


 何せ、死んだ直後の仲間の死体をも喰らうほどだ。共食いで数を減らす、という希望がないでもなかったが、そうなる前に『外』に意識を向けるだろう。


「仮に、運悪く器士じゃないヤツが群れに遭遇したら――さっき刀根さんが言ってたことじゃないが、多分助からない。だからそんなことになる前に、潰す」


 少なくとも、そうしろと神刀【鬼切丸】は告げている。今のお前ならば、それができると。あの場に居合わせた全ての鬼を斬り捨てよと。

 望月に自覚はなかったがその口の端は歪に釣り上がっていた。

 異様な気迫を滲ませる望月に、皆が気圧されたような、あるいは気味悪げな目を向ける。


「……ふむ。なるほど」


 表情を変えない刀根は、片眼鏡の位置を調整しながら頷いた。


「実は、私も同意見でね。現時点で多少のリスクがあっても、やはり早めにあの門は壊すべきだと思う」


 つかつかとトラックに近づいた刀根が、その荷台に積んであった錆付いた槍を手に取る。ゴブリンたちとの戦闘の後、望月が回収したものだ。


「望月くん。ゴブリンなんだが、知能はどうだった?」

「知能、か……猿よりは少し賢い、って程度だった。道具は猿よりもずっと上手く使いこなしてたが」

「そうか。いやね、私はこの武器を見て気になっていたんだよ」


 錆の浮いた穂先を、指先で弾く。きんっ、と澄んだ音が響いた。


「この槍。どう見ても鉄製なわけだが、」


 槍を手に、皆を見回す。


「――果たして()()ゴブリンに、鉄の槍を製造する技術があるのかな?」


 その言葉に、望月はハッとした。同時に皆も顔を強張らせる。


「そうか、よく考えればその通りだ……!」


 頭を金槌で殴られたような衝撃に、佐京は呻いた。あの『門』はゲームのような敵がひたすら出現(ポップ)するワープポイントではなく、『別の世界に繋がる』文字通りの門なのだ。つまり、あの向こう側には『世界』が広がっている。そしておそらく、その世界に根付く者たちは、それぞれに『社会』を形成しているはず。


「少なくとも鉄製の武具を生産できるだけ技術力と社会性を持った種族が……門の向こう側の、ゴブリンの生息域周辺にいるってことですよね。そしてこれ以上、あの門を放置し続けたら……」


 その種族が――門を通って、こちらにやってくるかも知れない。


 いや、むしろそれは時間の問題と言えた。


「そうなるね。正直言って、現状で社会性のある敵が出現するのはまずい。統制の取れていない怪物の『群れ』ならまだしも……怪物の『軍』が現れたら、今の我々では到底太刀打ちできない」


 刀根の言葉に望月は唸った。思い出すのは神社での戦闘だ。鬼切丸の恩恵で圧倒的な優位を保って戦えた――と思っていたが、冷静に考えればあれはゴブリンの側に戦術らしい戦術がなかったことも大きかったのだ。仮に組織立って反撃されていれば、望月もあそこまで楽には戦えなかったかも知れない。


 社会性のある敵とはどのような種族なのか、その生産能力は如何ほどか、興味のままに様々な疑問が湧いて出るが、望月はそれらを一旦脇に置いておく。


 それよりも、確かな事実は、ひとつだけ。


「……いずれにせよ、早い方がいいってことだろ」


 ぐっ、と鬼切丸の柄を握る。今すぐにでも抜刀しそうなおっかない気配に、真横にいた佐京が思わず一歩距離を取った。


「やたらモチベーション高くない? 望月くん」

「あれの根元、俺ん家だしな」

「……まあ、そうか。怪物に荒らされるのは気に食わないよね」


 たとえ複製品(コピー)に過ぎないとしても――限りなく本物に近いそれを。


「まあいずれにせよ、ゴブリンを排除しなきゃならないのは変わらないしね。それが遅いか早いかの違いで……」


 くるくると手の中でブリューナクを回しながら、若干の緊張の色を滲ませて佐京も遠くの門を見やる。


 多賀が無言でスルトの柄に手を置き、剛田も厳しい顔で額の鉢巻・神器【一徹】を撫でた。小牧は顔を強張らせつつも無意識に腰のホルスターに手をやっており、ただひとり、戦闘手段を持たないマユが不安そうにラッキーを抱きかかえている。


「よし、」


 全員の顔を見回し、各自の意思が概ね統一されたことを確認した刀根が、にやりと不敵な笑みを浮かべた。


「それじゃあ、作戦会議と行こうか」


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