表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こっち向けの魔法だよ!-君を好きになる魔法-  作者: パーシバル田中
大学編序盤

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/28

06.余韻

 数日が経ち、広々とした自室には、有名なアイドルの楽曲が鳴り響いていた。壁一面に広がる鏡の前に立ち、鏡に映る自分の姿を確認する。星月の足音がリズミカルに響いた。


「ここで、こう! ふわってして、つん!」

『相変わらず、覚えるのだけは、とても早いですわね』


 荒い呼吸を整えようと、胸元に手を当て深呼吸をする。生まれたばかりの小鹿のように、膝がプルプル震えていた。そんな中、”覚えるのだけは”という言葉が脳内に引っ掛かり続けていた。


「りり……るんるんさん……できてた?」


 酷使した太ももが、小刻みな痙攣を繰り返す。膝に手を当てるが、もはや己の体重を支えることは不可能だと悟った。


『うーうー! だめです! 立ってられません!』


 とうとうその時が訪れ、膝からガクンと崩れ落ちた。はぁはぁと息を切らし、しばらくの間、広い空間の中でただ一人、座り込んだ。


  ——ねえ、さっき、だけって言ったよね?


『……気のせい——』


『言いました! でも、私ではありません! 違います!』


 自然に笑みが零れる。正直者でいい子だね、と膝をさすりながら思った。


 着ていたTシャツの袖で鬱陶しい汗を拭い、髪をポニーテールに結び直す。その後、喉が水分を求めるための信号を受け取った。


「お水さん……こっち、きて……」


 無駄に大きい鏡には、立ち上がることができずに震えている無様な星月の姿が映っていた。


 ——まったく…るんるんさんだぜっ。

 

……と、前髪をさっと流して格好付けてみるものの、誰からも反応をもらうことはできなかった。


「……ふっ」


「あはははは!」


 しばらく星月の笑い声が部屋中を包み込んだ。お腹がつりそうで辛かったが、代わりに疲れがどこかに飛んで逃げて行ったようだった。さっと立ち上がり、冷蔵庫のあるキッチンへ足を進めた。


 重厚な銀色のドアを開くと、冷気が星月の顔をなぞる。それを数回繰り返し、ペットボトルの水を一本取り出した。その勢いのまま、中身が空になるまで一気に飲み干す。


 再度鏡の前に移動し、プロ野球選手さながらのフォームで空の容器を投げつけた。しかし、審判の腕は上がらなかった。


「.……これが、うわさに聞く、はんこーき.……ってやつだ!」


『誰が、反抗期ですって?』


『私です! 完全に、ボールでした! 入ってません!』


 判定は覆らなさそうだった。



 元気を取り戻した星月は、ポージングをしていた。


「お水さんごくごくしたから、むきむきさん!」


 腕を力いっぱい曲げ、上腕に力を込める。ボコッと盛り上がり、カチカチな筋肉がそこにある。


 ……はずだった。


 どや顔で触ってみるも、手の平から伝わる感触は、愛らしく柔らかな肉感だけだった。


『りり、残念ですが……ぷにぷに、ですわ』


 しばらくさすっていたが、現実を受け入れるほかなかった。次に、歯を食いしばり腹筋に力を入れた。服をまくると、そこには見事に割れた腹筋が今度こそ目に入る。


 ……わけがなかった。


『りり、あなたは何をされているんですか?』


 いつもは味方してくれるはずだが、今回ばかりは違ったようだ。スマホを手に取り、”カチカチさん”と検索するが、期待したページは出てこなかった。



「りり、運動、できるようになったんだよ?」


 お腹をさすりながら、独り言を漏らす。スマホを操作し、ダンス配信でリクエストされた音楽を流した。


 一曲を通して踊り、完璧に再現して見せた。


「いつまでも、だめだめさんじゃ、ないからね!」


『完璧だよ! かわいー!』


「りり、るんるんさんに!なろう、かな!」


 細い指でハートを作り、片足立ちになり、決めポーズをして見せた。密かに練習していた、ウィンクも忘れなかった。汗が顔の輪郭に沿って流れ落ちた。


「どう.……かな!」


『りり。いけないわ。破壊的な可愛さですわ...』

『だめです! 絶対にダメです! とんでもない可愛さです!』

『破壊的アイドル誕生だね! 可愛すぎて世に出せないよ!』


「えへへー。ありがと……です!」


 両手を握って顎の下に運び、キュッと顎を引く。自分でもやりすぎたと感じたが、割れんばかりの拍手喝采が鳴り響いたように感じた。


『りり。それは、人の前ではやってはいけませんわ。失神してしまいます。』


 えへへと笑い、その場に足を延ばしながら座り込む。


「りり、今ならビューってできるかも……!」


 腕を一生懸命振ってみせた。


「だー! って足、動かせるかも!」


『あらあら、この前走ったのが、本気ではないというのね?』


 合わせてあげてたんだよ、と、思ったが、口には出さなかった。目を閉じると、一緒に走った光景がぼんやりと浮かび上がる。広い場所で、密着し、駆けていた。


「……トン、トンって、するのを速くすれば、ビューン! って、できるよ!」


 目を瞑ったまま、指で床をトントンと、リズムを取る。


「あの時も、だーってなって、りり、ぐでっした」


『……』


「手が、おっきくて、りり、びゃー! ってしたの」


 足を指で流れるように触り、優しく撫でた。


「あそこで、何回もだーして、ぐでってしたけど、ルンルンだった!」


 足首をクルクル回しながら、小さく微笑む。


「ここ。暖かかった」


『りり、まだまだ覚える歌は、たくさんよ?』


 何かを思い出したかのように、小さな歩幅でパソコンの前に足を運ぶ。ふと手の平を見つめ、もう片方の手で握りしめる。


『りり、それは、あなたの手ですわ。違います』


 えへへと笑みが零れ、口角を愛らしく持ち上がる。そして、目の前にある、モニターへ視線を走らせた。SNSを開き、「#るんるんさん大集合」と検索する。


「わー! こんなにいっぱい! りり、歌えるかなー」


 静かな部屋に、アイドルの歌が響き渡る。2回、3回と流れた後、星月が口を開ける。4回目。完璧に歌い上げ、次の歌を探した。


 静かな部屋に響く音楽。何度も、何度も繰り返した。


 明日の配信で踊る曲と歌う曲を確認し、電源を落とした。


 冷蔵庫の中の水が少なくなっていたことに気付き、ペタペタと水の入った箱を確認すると、最後の一本だった。


「ずーんだから、いやいやなんだよなー」


 箱を眺めながら、小さく囁いた。

ありがとうございました!

7話は明日投稿されます!

次回で毎日投稿はラストになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ