↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こっち向けの魔法だよ!-君を好きになる魔法-  作者: パーシバル田中
番外編:水瀬

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/46

6.永遠の形

 白瀬くんに私のしたことを話した。りりに聞かせる前に、彼に聞いてもらった方がいいと思ったから。りりに黙って男の人と会うのはダメだと思ったけど、私の罪を誰かに聞いてほしかった。そして、お前はダメな人間だ。罪を償えと、言ってほしかった。

 

「私は、最後の最後で怖くなったんだ。りりを壊し続けて喜んでたのに、自分が壊れることが怖かったの。りりのことなんて、何も考えてなかったんだ」

 

 俯きながら私は言った。喫茶店の中には学生が多く、がやがやと喧騒に満ちていた。私が最低最悪の話をしていても、誰も聞いてないだろう。目の前の、男の子を除いては。

 

「……急に呼び出されて何事かと思ったら、胸糞悪い話を聞かせるためだったとは」

 

 この男は私が欲しくない言葉を淡々と言ってくる。普通の男の子は、私とお近づきになりたいと、甘やかしてくれるのに。

 ……そんなことは、もう長いことなかったか。

 

「こんなこと、あなたしか言えないんだから仕方ないでしょ。りりに言ったら失望されちゃうし、また壊れちゃうかもしれないもん」

 

 彼は少し考える素振りを見せてから、白いカップを持ち上げてコーヒーを啜った。砂糖もミルクも入れてないブラックコーヒーを。

 

「たしかに、そうなる可能性はある。大いにある。それが分かってるうちは、お前は大丈夫だろ。それより、こんなところ星月に見られたら――」

 

 白瀬くんの目が丸くなった。口もぽかんと開いている。こんな間抜け面もできるのかと感心していると、彼はガラス張りの窓の外を指さした。

 

「いる……星月が……」

 

 抹茶ラテを飲んでいた私は、その声を聞いた瞬間、吹き出しそうになった。急いで外を見ると、なんとも言えない表情をしたりりが、私たちを見ていた。

 

「ど、どどどうしたらいいのかな!?」

 

 慌てて立ち上がり、喫茶店を出た。そして、りりの手を取って喫茶店の中に入った。彼女はキョトンとした表情で、状況を飲み込めていないようだった。

 

「なぎさとエリート君……もしかして……!」

 

 りりが凪沙と名前で呼ぶ度に、私はまだ慣れていない。こんな状況でも、胸がキュンとするんだから。

 

「るんるんさんなったんだ! ……っ!」

 

 何かに気付いたように、りりは体を震わせた。もしかしたら、嫌な想像をしたのかも知れないと思い、りりの手を強く握りしめた。

 

 ――今、白瀬くんの隣に座って手を繋いだらどうなるんだろう……

 

 隣をチラリと見ると、満面の笑みを返してくれる彼女がいた。手を繋いでいる少し冷たい彼女の指が、背中を押すように私の手の甲をトントンと優しく叩いている。

 

 ――私だけを見てくれるようになるかも。

 

 抹茶ラテのように甘い誘惑が、私の理性を侵食していく。口の中に溢れる液体を零さないように注意しつつ、立ち上がろうとした。

 

 ……りりは喜ぶの?

 

 足に力を入れた時、りりが壊れたときの顔を思い出した。私に縋り、何でもすると言ったときの顔を。吐き出したものを口に入れている光景を。その後に、りりの中で何かが失われたんだ。

 

 ――喜ぶに決まってるじゃん。壊して、再構築されるのが好きなんだから。それさえも、幸福に変えるんだから。

 

 呑気に座っている白瀬くんを視界に入れると、相変わらず警戒するように私を見ている。きっと、私が変なことをしないように見張ってるんだ。りりの彼氏でもない癖に。

 

 ――りりの耳元で白瀬が好きって言ってみなよ。

 

 どうして私のココロはこんなに惹かれることを思いつくのだろう。

 あぁ、ダメなのに。絶対にこんなことしちゃいけないのに。もうやめようって決めたのに……。

 どうして私はこんなに弱いんだろう。

 

「帰る」

 

 浮かれてたんだ。勘違いしてた。りりが大好きって言ってくれたから、何でもできるって思っちゃったんだ。大好きなりりを今度こそちゃんと愛してみせるなんて、私ができるわけなかったんだ。

 

 ◇◇◇

 

 私は持ってた小銭をテーブルに置いて席を立った。繋いでいた手を振りほどき、喫茶店から出た。カランカランと耳障りの音が聞こえなくなった後に、聞きたくない声が背後から聞こえた。

 

「ど……どうして……」

 

 一生懸命言葉を紡ごうとするりりを見ることもなく、先を歩き続けた。少しでも口を開けたら、溢れてしまいそうだから。

 

 ……これ以上ココロを刺激しないで。悲しそうな顔を見せないで。

 

 何度も手を取られては、無言で振りほどいた。周りの目を気にすることもなかった。りりが泣いている。また私が、そうさせてしまった。あの時再会しなければ、こんな思いをさせることはなかったのに。私がすぐあの場から離れていれば、りりの笑顔は守られたのに。

 

 ……私の存在が、りりの毒なんだ。

 

 私が急に歩くのをやめると、りりの細い身体がドシンと私の背中にぶつかった。

 

 ――違うよ。それで完成するんだ。

 

 チラリと高速で走るものを見た。

 

 ――今度は一生消えないよ。もう忘れられることもないんだ。

 

「おい、何をする気だ」

 

 邪魔しないでよ。私はりりの永遠になるんだから。

 気付いたら縁石の上にいた。りりは泣いたままその場にへたり込んでいる。そして、異常に気付いた人たちが、私たちをジロジロと見つめていた。

 

「さようなら。りり、愛してるよ」

 

 泣き叫ぶ声と慌てる声に押されながら、私は嬉々として飛び込んだ。

 

 ◇◇◇

 

 体中が痛い。誰かの泣き声が聞こえる。

 

 ……あぁ、私はしくじったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。