幕間
俺は一冊のノートに「高校三年間の軌跡」と表紙に書き、望月朔夜と名前を記した。日記何て少し恥ずかしかったが、どうしても書きたいことがあった。俺はノートを開き、二行使って大きく、『星月りり 俺の運命の女の子』と題名を書いた。顔が熱くなったが、一行開けて一文字ずつ丁寧に書き進めた。
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入学式で出会ったあの女の子に俺の心は奪われた。背が低くて、細めな子。顔がちっちゃくて、目が大きかった。柔らかそうなストレートの黒髪(でも、光が当たると茶色っぽくなってた)を胸辺りまで下ろした姿を見た瞬間「これは恋だ」と思った。
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勇気を振り絞り、声を掛けてみた。すると、彼女は「お……おはよ」とだけ言って、すぐ去ってしまった。その声は天使のように美しく、ガラスのように繊細だと思った。俺が守ってあげないと。俺の知らぬ間に庇護欲が上限突破したことは、言うまでもないだろう。
授業中や休み時間など、彼女を見られる時間は目が幸せだった。先生にあてられると、もごもごと口の中を動かし、可愛い声で小さく答えを呟いていた。先生は聞こえないと言い、少し怒り気味だったが、ぶん殴ってやろうかと思った。俺の星月さんに何を言ってやがるんだ。
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再度勇気を振り絞り、連絡先を聞いた。すると、りりちゃんはスマホを持っていないと言い出した。本当に持っていないのか。高校生になってもスマホを持っていないなんておかしい、どうしてもっていないのかと聞いた。もしかしたら虐待されているのかもと、心配になったからだ。彼女は「えへへ」と笑い「ありがとう」と言ってくれた。笑顔が可愛すぎて胸が苦しかった。それに、感謝までされてしまった。やはり余裕のある男の方に女の子は惹かれるのだろう。
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彼女は友達が多い。友達と言うか、誰にでも変わらず接している。少し声が詰まるときはあるが、あの可愛さがあるから問題視されていないのだろう。今度喋る練習台にでもなってやるか。
そうだ。忘れるところだった。彼女はお弁当を持ってきていない様子だったから、これまた勇気を振り絞って、購買で買ったパンを挙げた。女の子は大抵メロンパンが好きだということは統計学的にも正しいと判明している。……まあ、あげたんだ。すると、彼女はどういうわけかパンを投げ捨て、走って教室から出て行ってしまった。きっとメロンパンにトラウマでもあったのだろう。申し訳ないことをしてしまった。次はクリームパンにしよう。
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休み時間や空き時間はりりの席に行くことが多くなった。りりはよく笑ってくれるし、話も聞いてくれる。うんうんと小さい顔を縦に振ると、髪がゆらゆらと揺れ、良い匂いが鼻孔をくすぐった。自分で言うのもなんだが、きっとりりは俺のことを好きになり始めていると思う。
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文化祭で俺とりりは……あぁ、前に書くのを忘れてた。りりと呼び捨てにしているのは、ちゃんと許可をもらったんだ。俺はジェントルマンだから、ちゃんと許可を取る。「りりって呼んでも良い?」と聞いたら「す、好きに呼んで」って言ってくれたんだ。好きって言われた瞬間心臓が口から飛び出してくるかと思った。そういう意味ではないにせよ、まあ、なんだ。もういいだろ?(誰に言ってんだよ)
そうだ。文化祭を一緒に回る約束をしたんだ。まだ一ヶ月先だけど、こんな可愛い女の子をほっとく奴はいないだろ?(だから誰に言ってんだよ)先を見れる男なんだよ。俺ってやつは。
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今日は放課後にりりを喫茶店に連れて行ってやった。あいつは可愛い奴だ本当に。お金を持っていないって言ってたから「気にすんな。俺が全部出すよ」と言った。あんまり高いものを頼まれないように、目を光らせた。(心が狭いって? 違う違う。ここで遠慮なく高いものを頼む女だったら注意してやろうと思ったんだ。当然だろ?)でも、りりは水しか飲まなかった。おいおい、お前はお花でも咲かせるつもりなのか?(このギャグをあの時閃かなかったのが唯一の失敗だ)
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文化祭当日、俺は学校一、いや、日本一可愛いりりと一緒に歩いていた。メイド喫茶というものを出しているクラスに行き、俺はオムライスを食べた。別に、メイドを見たかったわけではない。俺が他の女を見ていたらりりが悲しんじゃうだろ?俺はそんなことをさせない男なのだ。メイド喫茶に言った理由はカップル割があった(ケチなわけではない。家庭的な男っぽくてなんかいいだろ?)のと、写真を撮ってもらえるからだ。その場で、写真を印刷してくれるんだ。希望したらメイド服のコスプレもできるって聞いたから、絶対に行きたかった。りりは顔を赤くして、もじもじしてたけど。その写真は今、俺の手元にある。写真立てに入れて、机の上に飾ってんだ。
そうそう。俺がオムライスを食べていると(りりは相変わらず水だけ飲んでたけど)珍しく「一口頂戴」って言われた。あの時は何も思わなかったけど、オムライス好きなのかな。母さんに作り方教えてもらおう。
明日は文化祭最終日。後夜祭で結ばれたカップルは永遠に幸せになるんだとよ。俺はこれっぽっちも信じてないけど。でも、りりはそういうの好きそうだから、希望は叶えてやらないとな。
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ふざけんな。もうあいつのことなんか知らん。絶対にもう話しかけてやらない。話しかけてきても無視してやる。ざけんな。顔が良いだけで、ちゃんと話すこともできないくせに。
◇◇◇
俺が教室に入ると、クラスの目立つ女子からあいつが詰められてるように見えた。何があったのかは知らないけど、いい気味だ。走って教室を出ようとするあいつに足を出して転ばしてやった。女子は笑ってたし、取り巻きの男たちも笑ってた。でも、りりは泣いていた。鼻血を垂らして、俺を見上げてた姿が忘れられない。
◇◇◇
長い間この日記を書いていなかったな。今日は卒業式だった。高校三年間、色んな事があった。それでも、やっぱり一番は星月のことが忘れられない。大学が違うから、今日が最後のチャンスだった。問題はここからだ。俺は、確かに、星月に話しかけたんだ。星月って呼んだし、間違いない。……なんて言えばいいか。わからない。
まあ、もう会うことはないんだ。高校三年間、全国で一番可愛い女子校生と同じクラスになれたんだ。悔いはない。
◇◆◇
社会人三年目。俺は二十五歳になっていた。一人暮らしをするために部屋を整理していた。押入れの奥底に懐かしい日記を見つけたから、十ページしかない高校の時の日記を見返した。
「そういえば、写真ってまだあるんだっけ」
独り言を呟き、更に押し入れを探した。
——あった!
引き攣った笑顔の俺と、可愛らしく微笑んでいる星月りりの姿が写っている。色褪せてしまってはいるが、顔はまだはっきりと見える。
しばらく写真を見つめた後、俺はその写真をあった場所に戻し、荷造りを再開した。




