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こっち向けの魔法だよ!-君を好きになる魔法-  作者: パーシバル田中
3章

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32.りりへ

 夢を見た気がした。途切れ途切れで、誰かの記憶みたいなものに感じたが、それが誰のものなのかはわからなかった。

 最初の場面は、教室みたいなところだった。顔の見えない人が何かを話していた。次に、公園だと思われる場所で一緒に走ってた。また場面が飛び、教室で何かを受け取っていた。そして、どこかの部屋に切り替わり、それを嬉しそうにしまっていた。まだ続いていたような気がするが、思い出せるのはここまでだった。


 ◇◇◇


目を開けると、白瀬が背を向けて座っていた。背中にはいつもの柔らかい感触があり、天井にも見覚えがある。身体を起こすと、白瀬がゆっくりと振り向いた。


「……大丈夫か? 迷ったんだが、運ばせてもらった。先に言っておくが、この部屋以外開けていないし、何も見てはいない。細心の注意を払い、運んだ。ただそれだけだ」


 星月は、話の半分も聞いていなかった。いつものように白瀬が熱心に話している様をただただ見ていた。


「エリート君が、壁にだーってして……それから、りりもだーって……それで、えと……なにか、くれた?」


 五人は並んで寝ることが出来るであろうベッドの上で、星月が聞いた。目の前に座る真面目が擬人化したような見た目の男は、口を閉ざして何も教えてくれなさそうな雰囲気だった。

 無理矢理口をパクパクさせようかとも思ったが、何故か白瀬より先の光景を見たくないように感じた。


「黒いもくもくさん……おっきいよ……」


 星月はバタンと仰向けに寝転がり、顔だけを白瀬の方に向けた。何かが喉から出てきそうな感じがして、自分から発せられたとは思えないような音が部屋に響いた。


「おい! 大丈夫か!」


 白瀬が慌てて星月を起こし、彼の横にあったリュックを開けてから頭を突っ込むように入れた。しばらくその音だけが響き、やがてなくなった。


「やはり、やめておくべきだった。こうなる可能性は十分にあったんだ……」


 彼はぶつぶつと独り言のように呟いた。


「エリート君の……後ろ、何か……ある? もくもくしてる」


 まだ少しぐるぐると回っている天井を眺めながら、星月が言った。その直後、反射的に口を抑えた。


「星月、もうやめよう。俺が間違えていた」


 白瀬が星月の背中をさすりながら、懺悔するように語り掛けた。


「え、エリート君……間違える? しないよね?」


 前かがみになっていた星月は、姿勢を戻し両足を左右に開いてぺたんと座った。手を膝で挟み、顎を引いている。


「……脱水症状の危険がある。水は適していない。不幸にもこの家には調味料が何もないから、買ってこないといけない。だが……一人にするのは——」


 星月は、難しすぎるその説明をしっかりと聞いていたが、ほとんど理解できないでいた。


「りり、待ってる……いつまでも。窓から、じーって。するから」


 ニコッと星月が笑い、再び「待ってる」と、言った。


「わ……わかった。すぐ戻ってくる。無理せず寝てろ」


 白瀬が早足で部屋を出た。段々と足音が遠くなり、やがて消えた。白瀬がいた場所を眺めると、その先に何かがあることに気付いた。


「もくもくしてる……なんだろう」


 まるでこっちにこいと言われているような気がした。靄以外見えなくなり、四つん這いになりながら近づいた。頭の中で何かが響いたが、止まる理由にはならなかった。


「ハート……いっぱい。何か……入ってる?」


 その箱は、いとも簡単に開いた。ただの段ボールに色紙を貼り付け、手書きでハートの模様が所狭しと描かれている。その中から、なんとなく一つ取り出した。紙で紙を包み込んだものを。


「りりへ? りりなのに、変なの」


 表面に書かれた文字を読み、不思議に思った。裏面には、何も書かれていないように見えた。その代わり、ハートのシールが貼られている。


「……違うよ。これ、剥がしちゃ……だめなんだっけ?」


 剥がれそうになっていたシールを押し付けてみたが、綺麗にくっつくことは無かった。


「ねえ、どうなんだっけ。あぁ、いいのか」


 シールを剥がすと、一枚の紙が出てきた。トナカイとソリ、赤い服を纏った白髭のおじさんの絵が可愛らしく文字を囲っていた。


「また、りりへって書いてる……これ、誰のなんだろ。むずむずさんだ」


 一番上の行にそう書かれていた。読み進めていくと、『りり』という二文字が何度も出てきた。記憶にないことが、実際にあったように書かれていて、不思議に感じた。


「りり……ここにも、こっちにも書いてある……でも、こんなこと、したことない……」


 どこかで見た、パラレルワールドからの贈り物かもしれないと思った。星月は、その手紙をポイっと床に投げ、箱の中を改めて覗いた。そんなに大きい箱ではないが、びっしりと手紙が入っていた。別世界の自分はどれだけ暇だったのだろうと思った。一番上に置かれた、変な結び方をしたものを取り出して、まじまじと見つめた。何かが首に触れたような気がしたと思ったら、呼吸が荒くなり、視界が揺れる。変だと思い、手を回した。


「な……ぎ——」


 気付いたら目の前に白瀬がいた。息を切らし、汗をぽたぽたと垂らしていた。


「やっぱり、きて……くれた……」


 目の前にいる人は、慌てた様子で星月から何かを外していた。そして、ペットボトルの蓋を開けて星月に飲ませた。


「変な味」


 星月は「うえー」と、舌を出した。

 白瀬は床に置かれた手紙を拾い上げ、少し経ってから封筒に入れて箱に戻した。


「エリート君。ずっと……きき……たかった」


 じっと見つめ合い「なんだ」と、静かに白瀬が言った。


「えと……『トモダチ』って、なに?」


 風が窓を叩く音が聞こえた。それと、自分の心臓の音。彼の胸に手を当てたが、音は聞こえなかった。ゆっくりと耳を近づけて音を聞いた。次第に自分の音と重なっていくような気がした。

次話は19日に投稿されます

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