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こっち向けの魔法だよ!-君を好きになる魔法-  作者: パーシバル田中
中学生編

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27/29

27.運命の人

人間が嫌いだった。

勝手に期待されて、落胆されるから。

だから、顔を伏して閉じこもってたんだ。

外の世界を拒絶するかのように。


あの日、強引に私の世界に入ってきた人がいた。

一つの約束だけを携えて。

なんでその手を取ったのかは、今でもわからない。


◇◇◇


人が人生で出会う人数は約三万人らしい。

いつか見た本に書いてあった。

すれ違う人、教室にいる人、全部合わせた人数だ。

私はあまり外に行かないからもっと少ないと思うけど。


夜空に浮かぶ月を眺めながら、そんなことを考えた。

窓を開け、手を伸ばしてみたけど、近づいている気配さえ感じなかった。

私が月になれたら、あなたとずっと一緒にいられるのに。

昼は私で、夜は月になるんだ。

そうしたら、あなたも見つけやすいでしょ?

キラキラ光る星よりも。

新月の日は、私を思い出してほしい。

私もあなたを想って眠りにつくよ。


◇◇◇


胸が苦しいんだ。

あなたを——と、身体が言うことを聞かないの。

心臓の音が早くなって身体が熱くなる。

そして、何故か涙が出るんだ。

今もこうしてる間に——が零れてる。

でも、わからないんだ。

わかるなら、教えてほしい。


◇◇◇


向き合うことにした。

この名前のない感情と。

考えれば考えるほど、心臓が痛くなる。

呼吸が浅くなって、——が保てなくなる。

でも、あと一歩だと思うんだ。

喉の真ん中らへんまで来てるから。


いつからだろう。

きっと、——になった次の日だと思う。

あなたが他の子に優しくしてたのを見たとき。

なんで、私からじゃないの?って思ったんだ。

それから、また違う子と……手を……握ったり。

腕を……抱いて。

やめてほしかった。


あぁ、そうか。これが——なんだね。

フローラが言ってたのはこれか。

とっても、苦しい。


◇◇◇


私は止まらない涙を拭い、四ページしか書かれていないノートを読み直した。

所々涙で滲んでいて、読めなくなっていた。

パタンとノートを閉じ、目を瞑った。


……わかった。

——ようやくわかったよ。


私は、あなたの特別になりたいんだ。


理解すると、苦しみも痛みも何もかも軽くなった。

残るは、水瀬が受け入れてくれるかどうか。

でも、答えは知っていた。

受け入れてくれるに決まってる。

だって、約束もしたし、私をずっと受け入れてくれてるから。


三万人の内の、たった一人。

それがあなただったんだね。


私は、ノートを水色の箱にそっと入れ、

明日伝えようと決意した。


◇◇◇


翌朝、窓の外を眺めていた。

水瀬がいっつも手を振って立っているところだけを。


私はその場所に行くことにした。

雲一つない青空の下で、あなたを待つ。

頭の中で何度も反復し、練習した。

あとは、声に出すだけだ。


甘い香りが柔らかい風に乗り、漂ってきた。

その香りの元へと駆け寄り、全身で水瀬を抱きしめた。


「おはよ。」


水瀬の首元に顔を擦りながら言った。


そして、全身で水瀬の温もりを感じ取る。

胸が満たされていく。

もう少しで満杯になるところだったのに、水瀬に離されてしまった。


「ど、どうしたの?何かあった?」


そうなの!

私、伝えたいことが……


「えと……あの……」


あのね、気付いたんだ!

ずっと、苦しかったの。


「あ、あ……りり……」


いっぱい考えたよ。

私の気持ち、受け取って。


「……」


「変なの。早くいかないと、遅刻しちゃうよ!」


私は口を震わせていたが、それを水瀬が気付くことはなかった。

手を引かれ、教室までの時間は話すことができなかった。


◇◇◇


聞こえなかったのかな?


『口からは何も出ていませんでしたわ。』


あれ?そうだっけ?


『少なくとも、私はそう感じましたわ。』


そっか。でも、時間は無限にあるんだから大丈夫。

今は……誰かと話してるね。

また後にしよっか。


◇◇◇


全然私のところに来てくれない。

ずっと誰かと話してる。

こんなこと今まで一度もなかったのに。

今日に限ってこんなことある?

もう少しで昼休み。

そこで話をしよう。


◇◇◇


やっと昼休み。

水瀬は一人座っている。

急げ。水瀬が私を待ってるはずだ。


「なぎ——」


「あ、ごめん!これから用事あるんだ。ほんとごめんね!」


そう言い残し、足早に教室から出て行ってしまった。

そっか。用事があるなら仕方ないか。

取り残された私は、水瀬が座っていた椅子に腰を下ろした。

ここで、待っててやる。


しばらくすると、水瀬が帰ってきた。

私は勢いよく立ち上がると、ガタン!と、後ろの席に椅子がぶつかってしまった。

ごめんなさいと、謝っていたら水瀬がいなくなっていた。

自分の席に、戻ろう。


腕を枕にして目を瞑っていると、ツンっとわき腹を突かれた。

来た!


「さっき、私の席で座ってたでしょ!」


待ってたの。

水瀬が忘れないように。


「りりって、意外と積極的だよね!」


水瀬が来てくれないからじゃん。


「そんなこと、ない。」


もうどこにも行かないようにしないと。

そう思って、水瀬の手を取ろうとした。


「あ!私行かないと!またね!」


伸ばした手は空を切り、寂しさだけが残った。

水瀬の後ろ姿を追っていくと、教室のドアの方で男の子と話していた。

私より、そっちを選んだってこと?

嫌だよ。

私はゆっくりと立ち上がり、ふらふらと歩き出していた。


何度か机にぶつかった。

そのたびに、ごめんなさいと、謝った。

今、私の前には水瀬と男の子が楽しそうに話している。

なにを話しているのかはわからない。

水瀬が私に気付く前に、水瀬の制服の袖をぎゅっと握りしめた。

水瀬が、ちょっと待っててと、言った。

ちょっとって、どれくらい?いつまで待てばいいの?

聞きたかったけど、喉が閉まってて言えなかった。

流れる涙をそのままにして、自分の席に戻った。


その日は、水瀬が私の元に来ることはなかった。

きっと、今日は忙しくて忘れちゃっただけなんだ。

そう思うことにした。


◇◇◇


翌朝、いつものように窓から外を眺めていた。

雲が空を覆い、窓がガタガタと揺れている。

いつもの時間はとうに過ぎていた。

少し遅れているのかもしれない。

20分経った。

まだ来ない。


30分経った。

まだ来ない。


1時間経った。

もう、来ないだろう。


学校に着くと、2時間目が始まろうとしていた。

先生に何か聞かれた気がしたが、ごめんなさいと伝え、席に着いた。

右斜め前には、水瀬が座っていた。

どうして来なかったの。

一人で先に行っちゃったの?

……昨日の男の子と、待ち合わせしたの?


私のこと、いらなくなったの?


◇◇◇


水瀬が迎えに来なくなってから、何日経ったのかもうわからない。

朝の支度が終わったら、学校に行く。

授業中は教科書に集中し、それ以外の時間は顔を伏して外界を絶った。


放課後、窓を叩きつけるような雨が降っていた。

誰もいなくなった教室を出て、廊下を歩いた。

忘れかけていた声が、どこからか聞こえてきた。

必死に辺りを探し回ったが、その姿は何処にもいなかった。

気のせいかと思い、再び歩き出す。

靴を履き替え、外に出た。

雨に打たれたが、気にすることなく歩き続けた。


あなたは、約束してくれた。

私を傷つけない。私を守ってくれる。いつまでも。


ねえ、私は今傷付いてるよ。

今、何を考えているの。

私のこと、考えてくれているの。

今、誰と何処にいるの……


ずっと側にいてほしいだけなのに。

約束を一つ、足してほしいだけなのに。


私があげられるものなら、なんでもあげる。

嫌なことがあるのなら、直すから。

なんでもするから、側にいて……


——一生のお願いだから、私を側に置かせて。


気付いたら水瀬の家の前にいた。

ずぶ濡れになりながら、ずっと待っていた。

嗚咽を漏らしながら、その姿が見えるまで。


街灯が辺りを照らし、肌寒くなってきたとき、

足音が一つ、近づいてきた。

頭頂部を打っていた雨粒が消えた。


遠くから声が聞こえた気がした。

何処からかはわからなかったけど、確かに聞こえた。


見上げると、そこには水瀬が立っていた。

28話で中学編最終話です。

※28話は精神的に強い負荷を伴う描写があります。苦手な方は絶対に読まないようお願いいたします。

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