24.希望
三学期二日目、昼休みに私たちは話し合いをしていた。
昨日渡した、例のものについてだ。
浮かれ過ぎていたのかもしれない。
なんてものを、渡してしまったんだろう。
『全くその通りですわ。浮かれすぎです。』
仕方ないでしょ。夢みたいな時間だったんだから。
『仕方ないです!クリスマス、みんな浮かれます!』
うんうん、あなたはいい子だね。
私はもうあなたとしかお話ししないことにしたよ。
『ダメです!みんな、一緒です!』
だって、浮かれてたなんて言うんだよ。
『あなたが言ったのでしょう。』
そうかも、しれないね。
でも、あなたもだったよ?
拗ねていると、トントンと、私の肩を誰かが叩いている。
顔を上げると、水瀬がもじもじしながら立っていた。
フローラが何やら騒いでいたが、それを無視して意識を水瀬に向けた。
なんだか顔が赤いように見える。
「これあげる!恥ずかしいから家で読んでね!」
水瀬が紙に包まれた紙をくれた。
なんだ、これ。
「昨日お手紙さんくれたでしょ!お返し!」
これがお手紙?
なんでわざわざ包むんだろう。
……開ける場所、ないけど。
「ほんとに嬉しかったの!手紙くれると思ってなかったから。」
紙を裏返してみると、キラキラしたハートのシールが貼ってあった。
剥がしたら開きそうな感じがする。
でも、わざわざ貼ったんだから、剥がしたらダメなんだよね?
可愛いし。
「これ、開かないよ。」
水瀬がポカンと口を開けて固まっている。
間違った手紙を渡したのかもしれない。
私は持っている手紙を水瀬に手渡した。
「え?こうやって開けるんだよ。」
水瀬が躊躇うことなくシールを剥がしている。
貼ったのに、剥がすの?
意味がわからない。
中身だけくれればいいのに。
でも、開け方はわかった。
改めて水瀬から手紙を受け取り、シールを貼ったり剥がしたりを繰り返してみた。
「そう、なんだ。」
また一つ賢くなってしまった。
水瀬はどんなことを書いたんだろう。
やっぱり、くまさんについてかな。
こんなに可愛いし。
机の横に掛けている鞄には、くまのぬいぐるみが付いている。
水瀬の鞄にも、同じものが付いていた。
私はそれがたまらなく嬉しかった。
「あと、写真撮るやつはプリクラって言うんだよ!」
ぷりくら……なんか可愛いな。
それから水瀬が、くれーんげーむ、おむらいすを教えてくれた。
◇◇◇
水瀬がいない間、手紙を眺めていた。
これが、本当の手紙というものなんだ。
表面を見ると、「りりへ」と書かれていた。
りりへって何だろう。
後ろには、「凪沙より」とも書いてある。
水瀬凪沙っていう名前のはずなのに。
「星月さん、ちょっといい?」
ビクッと身体が震え、咄嗟に手紙を隠した。
声の方を見ると、見たことがあるような顔があった。
たしか……いや、わからない。
「前から気になってたことがあるんだけど。」
手紙なら、あげないよ。
これは私がもらったんだから。
「なぎちゃんに、頼りすぎじゃない?」
この人は何を言っているんだろう。
私が、水瀬を頼ってる?
「えと……ど、どう……して?」
たしかに水瀬は私を守ってくれている。
でも、なんでこの人に言われないといけないんだろう。
「どうして?わかんないの?」
わからない。
わかるなら、教えてほしい。
「なんで……なの?」
言ってくれないと、わかんないよ。
この人は、水瀬の何なの?
「なぎちゃん、無理してるんだよ。あなたが誰とも話さないから。」
水瀬が、無理してる?
この人は誰かと間違えている。
だって、いっつも水瀬はニコニコしてるよ。
約束だって、してるんだから。
「わ、わかん……ない。」
目の前の人は顔を真っ赤に染めている。
何故か目が離せない。
「なんにもわかってないんだ……なぎちゃんがやってること、わかってる?」
やってること……?
手紙を書いたこと?
どこかに行ってること?
「星月さんと、周りを繋いでるの。こんなことも、わかんない?」
水瀬は誰かの用事を私に教えてくれる。
でも、私は頼んでない。
水瀬が本当に嫌なんだったら、やめたらいいのに。
「……」
やめたらどうなる?
私は、ちゃんと話せるのかな。
クラスの人や先生たちと。
無理だ。
出来なかったんだから。
水瀬が現れるまで、ずっと。
「わかんないよね。なぎちゃんは、優しいから。嫌な顔なんて、見せないし。」
水瀬が、私から離れる?
いやいや、あり得ないよ。
だって、約束……した……
——人は、変わるもの——
違うよ。違うって言ったでしょ?
あれ、違うか。
変わらないよ。って言ったんだ。
水瀬が言ったんだよね?
絶対私から離れないよって。
言ってたよね?
『あなたを守る。いつまでも。絶対に。と、言っていましたわ。』
ほら、言ってるじゃん。教えてあげなよ。この人に。
水瀬は、私から離れるわけないんだから。
「ねえ、星月さんは、私のこと覚えてる?」
私から奪おうとしてるんだ。
水瀬に近づかないでって。
「わかんないでしょ?あなたは知ろうとしないから。」
ダメだよ。
水瀬は私と一緒にいないと。
クリスマスだって、一緒に過ごしたんだから。
知らないでしょ?内緒だもん。
「なんで、笑ってるの?あなた、おかしいよ。」
楽しかったな。ぷりくらって、言うんだっけ。
さっき、教えてくれたんだから。
「たの、し……いね?」
くれーんげーむで何にも取れなくて。
あと、なんだっけ。
おむ……思い出せないけど、変な味だった。
水瀬は不思議な味のものが好きことも知っている。
そして、水瀬が迎えに来てくれたんだ。
教えて、あげたの。前の日に。
「どうしたの!?」
あれ、水瀬だ。
「明日香!?大丈夫?」
何してるの?
どうして、そっちにいるの?
「な、なぎちゃん……ごめん。ごめんね。」
ハンカチ、他の人にも使うんだね。
「何があったのか、教えてほしいな?」
頭だって、撫でてるし。
でも、知ってる?
それ、何も感じないんだよ。
「私、なぎちゃんが大変だと……思って。」
大変だよ。
よくわからない人と話さないといけないんだもん。
「それで、星月さんが——」
ねえ、聞こえないよ。
二人でこそこそ話さないでよ。
私に聞かれたくないこと、話してる顔してる。
◇◇◇
『——!』
声が、聞こえる。
いつもの、安心する。
『りり!』
何を、そんなに慌ててるの?
『心配しましたわ。本当に。』
心配……
『いいですか?目の前の光景は、見えますわね?』
目の前……
あぁ。あれは梅田さんだ。
たしか、入学したばっかりの時……
『そうです。よく覚えていました。えらいですわ。』
えへへ……
あれ、泣いてるね。
どうしたんだろう。
『それは……今は、考えなくてもいいですわ。』
そっか。
『これは、不本意なのですが。いいですわね?』
うん。わかった。
再確認するように目の前の光景に意識を向けた。
目の前には梅田が私を見て泣いている。
水瀬は梅田の話を聞いている。
「梅田……さん。ごめん、ね。」
梅田の震えが少し和らいだ気がした。
「わ、わた……えと、りり、緊張……しちゃって。」
真っ青だった梅田の顔も、少しずつ元に戻ってきている。
「りり、大丈夫!私が何とかするから。」
水瀬が言うなら、多分大丈夫だ。
声、出てよかった。
「明日香。私は、無理してないよ。やりたいから、やってるだけ。」
肩の力が抜けたような気がした。
もう、大丈夫。
「だから、私は大丈夫。心配しないで!好きでやってるだけなの。本当に。」
今まで気付かなかったが、いつも騒がしい教室が静まり返っていた。
水瀬と梅田の話し声だけが、静かに響いていた。
「ごめんなさい。なぎちゃん。余計なこと、しちゃった。」
最後に水瀬が何かを言って、梅田が窓際の席に歩いて行った。
小さい声だったから、聞こえなかった。
「りり、大丈夫?怖くなかった?」
怖くなかったよ。水瀬が来てくれたから。
少し驚いたけど。大丈夫。
私一人だったら、こうはならなかった。
水瀬が来ただけで、全て上手くいった。
私も水瀬のようになりたいって、そう思ったんだ。
お読みいただきありがとうございます。
中学編も残り少なくなってきました。




