22.回路
冬が、嫌いだった。
寒くて眠れないし、寒さに起こされるから。
外を眺めると、水瀬がこちらを見つめていた。
私は鞄を手に取り、急いで階段を駆け下りた。
鏡で自らの姿を確認し、外に出る。
滑りそうになりながらも、早足で水瀬の元に急いだ。
「おはよ!雪だねー!寒い!」
マフラーに顔を埋め、ふわふわの帽子をかぶった水瀬が手を振っていた。
私はそっと肩に寄りかかり、水瀬が着ていた上着のポケットに手を突っ込んだ。
「おはよ。」
水瀬は毎日迎えに来てくれた。
暑くて嫌いだった夏も、小さな扇風機を持ってきてくれたおかげで涼しかったし、
今もカイロが入っていて温かい。
「明日から冬休みだねー!」
なんで毎日が学校じゃないんだろう。
冬休みなんて、いらない。
今日は二学期最終日。
積もった雪を踏みしめながら、学校に向かった。
◇◇◇
終業式を終え、教室に戻る。
水瀬を探したが、他の子と話していたから置いてきた。
何を話していたのかは知らないが、笑っていた。
今の水瀬は冬休みのことしか頭にないから、それについて話していたんだろう。
そう思うことにした。
それにしても、水瀬がいなかったら暇だ。
私は水瀬と違って他の子と話さないし、話しかけにも来ない。
だから一人の時は足を地面から離し、ゆらゆら揺らしながら待っている。
でもあんまり長くはできないから早く戻って来てほしい。
お腹の筋肉が攣りそうになるから。
歯を食いしばりながら、震える足とお腹を眺めていた。
ひどく滑稽な顔をしていることだろう。
もうやめてもよかったし、そうしたかったが負けるわけにはいかなかった。
「りり?何してるの?」
急に声を掛けられたせいで机に膝をぶつけ、がたんと大きな音が響いた。
水瀬に見られた……
私は、ぶんぶんと首を振り、何もしていないことをアピールした。
「……りりって、たまに変な遊びしてるよね。」
遊んでいない。暇だから眺めているだけだ。
水瀬がずっと私といてくれたら、こんなこともしなくて済む。
「してない。」
身体が暑い。
暖房が効きすぎている気がする。
「そうなんだ……ねえ、明日予定あったりする?」
誤解が解けたようで良かった。
「ないよ。」
予定なんてあった試しがない。
「明日クリスマスでしょ?クラスの女の子で集まろーって誘われちゃって、りりもどう?だって。」
最近水瀬が話を持ってきてくれる。
クラスの子からだったり、先生の用事とか。
「りりは、行きたい?」
水瀬が行くなら、行きたい。
行かないなら、行きたくない。
そもそも、本当に私も誘われたのかも、わからない。
「私は行かないんだー。予定あるから。」
予定、あるんだ。
どこか行くのかな。
「りりも、行かない。」
そっかーと言いながら、水瀬から一枚の紙を差し出された。
そこには、「クリスマス会のおしらせ」と書かれていた。
「おしらせ……?」
しーっと私の唇の前に水瀬の人差し指がちょこんとあたる。
「内緒、だからね?」
内緒……?
おしらせの中身をよく見ると、参加者の欄には、「なぎさ、りり」と書かれていた。
つまり、私と水瀬でクリスマス会をする……ということだろうか。
「このあと、私の家、教えてあげる。」
これは、夢だ。
そうに違いない。
だって、私が?
嘘だ。
「楽しみだねっ!」
◇◇◇
翌日、私は教えてもらった家の前に立っている。
まだ現実味がなく、足元がふわふわ揺れているようだ。
「おしらせ」に書かれた時間は、11時00分。
今の時刻は10時30分くらいだろうか。
早すぎると思われるかもしれないが、ちゃんとした理由がある。
途中で犬に追われたり、道がわからなかったりするかもしれなかった。
『先生が言っていましたわ。5分前行動を意識しなさいって。』
家を出る前に教えてほしかった。
これじゃ、私が楽しみで仕方なかったって思われるじゃん。
『間違っていませんわ。りりは、楽しみで仕方がなかったのですわ。』
ふんっとそっぽを向いて、意識を目の前の家に向けた。
水色で塗装された二階建ての家。
イルミネーションがキラキラ輝いていて、夜だったらもっと綺麗なんだろうなと思った。
「りり!?まだ30分前だよ?」
ドアの方から水瀬が出てきて、駆け寄ってきた。
ふりふりの赤いワンピースのような服がよく似合っていた。
いつものポニーテールではないし、別人に見えて少しだけ緊張する。
「わかった!楽しみで仕方なかったんでしょ!」
初めてなんだから、仕方ないでしょ。
水瀬が悪いんじゃん。
「そ、そうだよ……悪い?」
これから水瀬の家に入って、クリスマス会をするんだ。
どこが水瀬の部屋なんだろう。
「私もだよっ!」
水瀬に手を引かれるが、何故だか身体が拒否する。
これから楽しいクリスマスが始まるのに。
「りり?どうした——」
寒くて震える。
カイロが欲しい。
「予定より少し早いけど、お昼ごはん食べに行こっか!ちょっと待ってて!」
気付いたら水瀬が目の前から消えていた。
もしかしたら、幻覚を見ていただけなのかもしれない。
きっとそうだ、少しだけ早く着いちゃったし。
今話していたのは、あなたたちだったんだよね?
『違いますわ。りり、大丈夫?』
うん、私は大丈夫だよ。
ずっと待ってるよ。
待ってるんだよね?
だって、水瀬はいっつも家の前に来てくれるもんね。
だったら私は家の中で待ってなきゃ。
水瀬を見つけたら急いで部屋を出て、階段を下りて、それから——
「お待たせ!……また、遊んでたの?」
丁度水瀬も来たんだ。
来ると思って待ってたんだよ。
すごく寒かったんだよ。
家の中も寒いんだから。
私はそっと肩に寄りかかり、水瀬のポケットに手を突っ込んだ。
その中には、カイロが入っていたがまだ温かくなっていなかった。
23話も明日19時に投稿されます。




