02.再発見
講堂での出来事から一夜明け、星月は髪を揺らしながら、歩いていた。廊下の窓ガラスの向こう側に広がる教室の風景に、星月はふと足を止め、中を眺めた。
『再発見です! エリート君、教室にいます!』
人がまばらにいる教室を眺め、小さく首を傾げる。
「……?」
教壇から整然と並ぶ机へと視線を走らせる。
『エリート君、難しい顔してます! むずむず顔です!』
彷徨っていた視線が、教壇の前で不意に止まる。
「……あの人? エリート君?」
少しの沈黙の後、足を前に進めた。次第に駆け足になり、白瀬の目の前にたどり着く。
「エリート君、みーつけたっ! むずむず顔だね!」
ぴょんと白瀬の目の前へ飛び出し、覗き込んだ。
「っ! 近い! 少し離れろ」
白瀬はビクンと肩を震わせ、目を見開きながら星月を見つめた。
「エリート君、むずむずしてたのしそー!」
星月は口元が緩み、えへへと笑いかけた。窓から入る陽の光がキラキラと、星月を照らしていた
「楽しくは、無いな。その、むずむずというのが、難しいという意味であるならば、俺が今やっている作業は特段難しくはない」
白瀬はトントンと、資料を整えながら、顔を少しこちらに向けた。
「そして、俺はエリート君ではない。白瀬怜央だ。君の名前は?」
星月はわずかに口を開け、白瀬の目を見つめ返した。
「しらせ……? エリート君、違う?」
白瀬の顔をじっと眺め、確認を求めるように首を傾げる。
「そうだ。違う。昨日も伝えたが、まあいい。あと、いつまでも君というのも気が引ける。名前を教えてくれないか」
白瀬の問いかけに、星月は瞬きを数回繰り返す。一瞬視線が合ったが、すぐ逸れた。
「星月……りり」
資料を整理していた両手がピタリと止まった。白瀬は瞬きもせず、細めた目で正面からじっと見据えた。
「星月……か。もしかして……」
言葉を低く落とすように言った。
「昨日のこと……覚えて、ないのか?」
白瀬をまっすぐ見つめ返したが、瞳の焦点は、どこか彼を素通りしているようだった。
『昨日は、おっきい箱さんキラキラしてて楽しかったね!』
「おっきい箱さん、きらきら楽しかったなー! また行きたい!」
白瀬は一拍置いてから、口をゆっくりと開く。
「講堂、だな? 俺と話した内容はわかるか?」
『白い鳥さんです! エリート君、持ってます!』
星月の視線が、白瀬の顔から手元にある資料へとすっと落ちた。
「白い鳥さん、パタパタしたそう!」
両手を大きく広げ、満面の笑みを向けた。
「そうだ。その話もした。意味は分からないが、確かにした」
右手で顎を触り、視線を下に向ける。そして、再度星月を見る。
「最後に一つだけ聞かせてくれ。君は、俺を認識できているのか?」
白瀬は手に持っていた資料を机に置き、星月の顔を真っすぐ見据えた。
「.……? エリート君、かくれんぼ……したいの?」
白瀬は何かを考えるように、顎に指を添えている。
「いや、いい。で、何しに来たんだ?」
口を半開きにしたまま動きを止め、宙を見つめて首を傾げた。
「なんだっけ……かくれんぼ、する?」
一歩近づき、上目遣いで白瀬を覗き込む。星月の視線は白瀬の瞳を捉えかけたが、交わることはなかった。
「そんな顔をしても、かくれんぼはしない。用が無いなら、俺は行くぞ」
白瀬は一歩下がり、書類をファイルに入れ、その場を去ろうとする。
「うん! エリート君、またね!」
星月は、満面の笑みを浮かべ、白瀬に手を振る。
「不思議な奴だな。君は」
白瀬の背中を見て、少し引っかかるような感覚を覚えた。
「りり、不思議さん?」
『いいえ。あなたは魅力的な人よ』
「きらきらさん? えへへ。うれしい!」
星月は、白瀬がいた場所を見つめ、少し手を伸ばす。次に、教室のドアに視線を向け、教壇に戻す。少しの沈黙のあと、えへへと微笑んだ。
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